まりっぺのお気楽読書

読書感想文と家系図のブログ。
ゆる~い気持ちでお読み下さい。

『ワインズバーグ・オハイオ』若者は都会を夢見る

2008-12-27 07:36:46 | アメリカの作家
WINESBURG,OHIO 
1919年 シャーウッド・アンダスン

スタインベックを続けて読んだら、アンダスンを思い出してしまって
『ワインズバーグ・オハイオ』を再読してみました。
訳者(橋本福夫氏)も一緒だったせいか、同じ本を読んでるのかと思ってしまいましたが
どちらかというとこちらの方が暗いですね・・・
あたかもワインズバーグという町が
夢破れた人たちの吹きだまりのように思えてしまいます。

25の短い物語には、切実な思いと孤独を抱いた様々な人たちが描かれていますが
全篇通して読むと1冊の物語に思えるのは、ジョージ・ウィラードという
ひとりの若者の存在によるものです。

ジョージ・ウィラードはワインズバーグ・イーグル紙という新聞社で
記者をしている十代の少年です。
老人も、変わり者も、なぜかジョージに打ち明け話をしたくなってしまい
彼は随所に顔を出します。
ジョージ自身も作家になりたいという希望と、思春期なりの悩みを持ち
また、父親と母親も人生に憎しみと不満を抱えています。

物語はジョージ・ウィラードの青春と家庭内の問題に
町の住人の奇異な行動をリンクさせて進んでいくわけですが
大きく分けると2パターンあるようです。

まず、人生の晩年にさしかかった人たちの後悔と絶望があります。
うまくいかなかった自分の人生、取り返しのつかない年月を哀れんで
あきらめとともに日々を送る人たち。

それから若者の焦燥感と満たされない欲望があります。
彼らが辿り着く答えは “ 都会 ” です。
都会へ行きたいという思いが叶わない人、出ていく人、帰って来た人、
などなどが登場します。
都会に行けばどうにか道が開けるだろうという思いに駆られるのは、今も昔も同じですね。
当時の都会と田舎にどれほどのギャップがあったのかは分かりませんが
やはり憧れの都で花開く自分の姿って、若者なら一度は夢見るものですよね。

物語はジョージ・ウィラードが都会に出発するところで幕を閉じます。
彼は作家になるため、都会の新聞社で働こうという目標を持っています。

ジョージの父親は旅立ちにあたって息子に
「 抜け目のない人間になれ 」という言葉を贈ると同時に
「 財布を無くすな 、ぼやぼやするな、世間知らずだと思われるな 」という
簡潔かつ完璧なアドバイスを与えています。
都会って恐ろしそうですものね。
ジョージは都会で成功できたのかしら?
けっこうぼんやりしてる子に見えるんですけど。

この物語がアンダスンの自伝的要素を含んでいるのだとすれば
(アンダスンもオハイオ出身です)
ジョージもひとかどの人物になれたのかもしれないですね。
       
                 
            こちらアメリカでの初版です。やっぱり暗そう・・・
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『フランス短篇傑作選』現実と幻想の狭間に

2008-12-26 00:55:10 | フランスの作家


わりと短めの物語が19篇収められています。

愛について語る時、同じ年代のイギリスの小説などと比べると
やはりあけすけな感じがするフランスの小説ですが、それは短篇でも同じです。
ただ、この短篇集は、そんな “ ジュ・テーム ” な物語ばかりではなく
少し現実離れしたものや、まったく幻想的なものも含まれています。
透明人間とか、声がヴァイオリンになっちゃった少女とかね。

平凡な想像力の私は、どうしても現実的なものに偏ってしまうのですが
好きな話しをあげてみます。

『アリス(Alice)/1898年 シャルル・ルイ・フィリップ』
小さなアリスは、ママンが誰よりも自分を可愛がってくれなければ我慢できません。
生まれたばかりの弟にママンがかまうのを見て、大きな嫉妬心を抱いた彼女は
食事を食べずに死ぬ決心をします。

“ 愛のために死ぬ ” のは、大人だけではないのですね。
確かに、子供の嫉妬心や自己主張の強さには時々ハッとさせられます。

『ジャスミンの香り(Un Parfum de Jasmin)/1967年 ミッシェル・デオン』
海辺のホテルで執筆中の作家が、友達になった少女の母親に恋をします。
しかしどうにも報われなさそうなので、よその海辺に移動するのですが・・・

作家の控えめな愛情表現や、母親の素っ気ない対応に
ちょっとフランスっぽくないかなぁ・・・なんて思っていましたが
ラストでやっぱフランスだったわ!と納得しました。

『タナトス・パレス・ホテル
    (Thanatos Palace Hotel)/1960年 アンドレ・モーロワ』
株の大暴落で全てを無くしたジャン・モニエのもとに
気持ち良く死を迎えられるというホテルからの招待状が届きます。
ジャンはそのホテルで美しい婦人と出会い、二人で生きる決心をします。

しかし、しかし、そうは問屋が卸さないんですよぉ。
近頃の世界同時大不況ぶりを見聞きしていると
この物語もあながち絵空事と言っていられないようで背筋が寒くなります。

フランスの大家と呼ばれる方々は、わりと壮大で華美で大げさな
言い回しや展開が多いように感じられますが
この短篇集に収められている物語はこじんまりしてて良いですね。
遊び心なんかもあって、クスっと笑える作品もありましたし
あまり持論を展開しすぎる人が登場しないのも Good!でした。

私の偏見に満ちたフランス作家感が、この本によって少し矯正されたようです。
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『悪魔のような女たち』19世紀のレディースコミックか?

2008-12-26 00:54:42 | フランスの作家
LES DIABOLIQUES 
1874年 ジュール・バルベー・ドールヴィイ

この作家の名前はまったく知らなかったのですが、本屋さんでパラパラと立ち読みをしたら
面白そうだったので購入しました。
でも、お勧めするほど面白くないかしら。

6篇の男と女の物語が収められているのですが、感動的でもなく、官能的でもなく
中途半端な仕上がりになっているような気がします。

行為中に陶酔のあまり死亡してしまった娘
母親の愛人に恋するあまり子供を宿したと思ってしまう娘
小間使に扮して愛する男の妻に毒を飲ませた誇り高き女剣士
自分の愛人に憧れを抱く実の娘を殺した母親
相手の男が属する騎兵連隊の全ての兵士と関係を持った情婦
夫への復習のために娼婦に身をやつした公爵夫人

などなど、内容はセンセーショナルなものをちりばめてあるのですが
なんていうんでしょう・・・
深みがないのかなぁ?(生意気ですか?

クドいぐらいに人物描写がされているわりに
男と女がどのようにし愛し合うようになったか、とか
二人の葛藤や懊悩などの心理的な部分はかなりあっさり仕上がってます。

特に男性の風貌や伊達ぶりは微に入り細に入り描かれています。
みな美貌の持ち主らしく、ダンディで、モテモテの女たらしです。
目の前にいたら・・・と想像するだけでポッとしてしまうかも?

発売禁止騒ぎになったという内容の艶っぽさやセックスの描写は
もちろん、今から見れば控えめで、かなりもってまわった書き方ですが
ロマンティックではなく “ 肉と肉 ” というエグさがあります。
その頃の良家の女性にしてみれば、魅力的でもあり恐ろしくもある期待と妄想がふくらみ
頬を赤らめてしまうものだったかもしれませんね

ハンサムな男性と、禁断の愛と、セックス・・・
無垢な女性たちの高揚感と忍び笑いを誘う内容・・・
こ、これはレディースコミックじゃないのかね?
20年ぐらい読んでないけど、今ってけっこうすごいんでしょ?

とはいえ、19世紀だって、酸いも甘いも知り尽くしたベテラン女性陣なら
眉ひとつ動かさなかったでしょうけれどもね

悪魔のような女たち 筑摩書房


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『クリスマス・カロル』さすが!伝統の一冊

2008-12-23 01:05:29 | イギリス・アイルランドの作家
A CHRISTMAS CAROL 
1843年 チャールズ・ディケンズ

ケチで偏屈な人物の代名詞スクルージ爺さんが
クリスマスイブの一夜にして、心優しく愛される老人に変わってしまうという
夢のようなお話し

この、世にも有名な物語を、私は何回か読んでるんですけど
バチあたりなことに細かいところを忘れてしまうんですよね。
そんなわけで今回は真剣に読み、こうして書き残しておこうと思い立ちました。

死んでしまった同僚の幽霊、過去の霊、現在の霊、未来の霊に導かれて
夜の町をさまようスクルージ爺さんは、自分を愛してくれた人や
自分に(イヤイヤながら)感謝の祈りをあげてくれる人
自分のことを考えてくれる人や、考えてくれない人を目の当りにしていくうちに
人に優しくなろうと心を入れかえます。

おとぎ話じゃないか、 って思うでしょう?
もちろん、おとぎ話です。
でもクリスマスにこんな奇跡がおこるっていうのは素敵ですよね。
やはりキリスト教の祝日ですから、心あたたまるお話で飾りたいものです。

日本のテレビもさぁ、“ まだ間に合う、クリスマスのレストラン ” とか
“ 彼氏からもらいたいプレゼントベスト3 ” とかばっかりやってないで
こんないい話しのひとつでも放送しろ っていうの

詳細は読んでのお楽しみですけど、とにかく神様に感謝する日なんですから
こういう心温まるお話を読んで、善行のひとつぐらいしようじゃないの!
って気になってみるのもいいんじゃないでしょうか?

何年経っても読み継がれる宝物のような1冊
大切に伝えていきたいものですね。

良いクリスマスを!!

クリスマス・カロル 新潮社


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『クリスマスの食卓』クリスマスはこうでなくっちゃ!!

2008-12-23 00:53:27 | イギリス・アイルランドの作家
THIS YEAR IT WILL BE DEFFERENT 
1998年 メイヴ・ビンチー

プレゼントを買ったり、パーティーの準備をしたりと誰もがハッピーに見える
クリスマス間近の街で、なぜか浮かない心を抱えた人々を描いた
15編が収められている短編集です。

クリスマスは愛する人たちと過ごすものなのね、と思い出させてくれる1冊ですが
物語の主人公たちは、なかなかそうはいかない事情を抱えている人たちばかり。
果たして彼らは幸せなクリスマスが迎えられるのでしょうか?

『いつもと違うクリスマス(This Year It Will Be Different)』
家事をまったく手伝わない夫や子供にうんざりしたエセルは
クリスマスの準備を放棄します。
異変に気がついた家族は何やら話し合い、「遅く帰って来るように」とエセルに言います。
エセルの期待は膨らみますが・・・

『クリスマスの空騒ぎ(Season of Fuss)』
毎年クリスマスの準備に大わらわのドイル夫人のおかげで疲れ果てる3人の子供たちは
「 今年は何もかも自分たちでやってしまおう! 」 と決めて
母親に指一本触れさせないようにします。
クリスマスは平和に過ぎたのですが・・・

『町で一番のホテル(The Best Inn in Town)』
いつもお互いの母親同士のいがみあいで刺々しいクリスマスを送らされる子供が不憫で
ノエルとエイプリルの気分は沈みがちです。
でも、子供たちはおばあちゃまたちを迎える準備に余念がありません。

ハッピーエンドの “ 家族のクリスマス ” が描かれたものを3編あげてみました。

他にも家族の物語はありますが、夫の連れ子に悩む妻、
父親の浮気相手から逃げるために旅行に出た一家、幸せそうな家族に隠された数々の秘密
など、問題を抱えたクリスマスもあります。

それから、婚約を破棄された男性と新婚旅行に行くはずだった場所に一人で出かけた女性や
妻を亡くした男性が初めて過ごすクリスマスのお話もあります。

そして、不倫!!
一番一緒に過ごしたい人と、どうしても一緒に過ごせないなんて
ある意味、誰も過ごしたい人がいないことより悲しいかもしれません。
勇気を持ってクリスマスに会いに来る男性には乾杯を
女性をひとりぼっちにさせて、家族とケーキなんか食べちゃう男性には肘鉄を

どの物語もおおむねハッピーエンドになっています。
やはりクリスマスですもの、ってことでしょうか?

しかしクリスマスの準備をしている模様は読んでいて楽しいですね
うちは今週末から年越しの大掃除です・・・グッタリ

Merry X'mas

クリスマスの食卓 アーティストハウス


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『クリスマスの休暇』休暇も人それぞれ

2008-12-22 00:01:26 | イギリス・アイルランドの作家
CHRISTMAS HOLIDAY 
1944年 ウィリアム・サマセット・モーム

うーむ
これが休暇とよべるのか・・・という疑問が残りますが
人によっては、最も意義深い休暇を過ごせたということかもしれません。

裕福な中産階級の青年チャーリー・メースンは
父親の会社での見習い期間を終えた就職前のクリスマス休暇を
初めて独りで過ごしてもいいというお許しを得てパリへ向かいます。

パリでは過激な思想を持つ同級生シモンが働いていて
夕食後チャーリーをある場所へ連れて行きます。
チャーリーはそこで踊り子リディアと出会い、驚愕の身の上話を聞かされ
結局その後7日間を彼女と過ごすことになります。
彼女の夫はフランス中を騒がせた殺人犯ロベール・ベルジュだというのです。

チャーリーはリディアと過ごすうち、ロベールの驚くべき性格や
彼女の結婚生活などを聞き、自分の代わり映えのしない生活を振り返ります。
休暇を終えたチャーリーは、家族が待つ平凡な毎日の中へ帰っていきます。
ていう物語なのです。

なにが驚くって!
チャーリーとリディアは1週間ホテルの同じ部屋で寝泊まりしながら
なにもなかったってことですか?
もちろんリチャーリーも最初はその気でした。
リディアはそういう職業の女性だったし、最初の晩も
自分からチャーリーと一緒にいたいと言ってついてきたし・・・

しかしリディアの特異な経歴と、まるで人をないがしろにするような態度に
チャーリーのそんな気持ちも萎んでしまい
あとは好奇心と憐憫で彼女と一緒にいるようになってしまったみたいです。

そんな休暇が果たして楽しいのでしょうかね?
私ならご免こうむる!
1、2日ならまだしも、暗い顔をした女と始終歩き回るだけの毎日なんて。
せっかくの休暇が台無しじゃない?

しかもリディア、話したくない時はひたすら無口になってしまい
話したくなるといきなり場所も時間もお構いなしにしゃべりまくるという
ものすごく扱いにくいタイプの女性です。
私だったら「 もうついて来んな!」 と言ってサヨナラしますね。
チャーリーって、なんて人がいいのでしょう? ということが
もっとも印象に残った感想でしょうか・・・

 余談です
私はモームの『巴里の女』という本も、題名に惹かれてネットで買ったんですけど
(高かった )これが『クリスマスの休暇』だったんですよね~。
訳者(中村能三氏)まで一緒だっていうじゃんか!
邦題はできるだけ統一してほしいと、切に願います。
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『ポアロのクリスマス』クリスマスでも事件はおこる!

2008-12-20 22:44:00 | アガサ・クリスティ
HERCULE POIROT'S CHRISTMAS 
1938年 アガサ・クリスティ

都会的な設備が大好きなポアロが、ロンドンから呼び出され
田舎の旧家で過ごしたクリスマス。
果たして古き良き英国のクリスマスが味わえたのでしょうか?
そんなわけないじゃないの!

ポアロは友人のジョンスン大佐の家でクリスマス・イヴを過ごしている最中
ダイヤモンドで巨万の富を築いたシメオン・リーの殺人事件を知り
大佐とともにゴーストン館を訪れます。

館にはシメオンから呼び出された家族が勢揃いしていましたが
彼らはその日の夕方、シメオンから「遺書を書き直す」と聞かされていました。

また、シメオンは死ぬ前に警察のザグデン警視をこっそり呼び出し
「ダイヤモンドが盗まれた」と言っていました。

それからそれから、シメオンの死亡した娘の娘にあたるピラールが
頭を殴られて怪我をします。
彼女は新たに遺産相続に加えられるはずでした。

いったい誰が・・・?

長男アルフレッドは唯一シメオンと同居していて、父親の言いなりです。
妻リディアはそんな夫を見るに耐えず、館を出る決心をします。

次男ジョージは国会議員で、父親に援助してもらっていますが最近金詰まりです。
若い妻マグダリーンは金遣いが荒い贅沢な女性です。

三男デヴィッドは父親の横暴に耐えかねて家を飛び出して以来の帰省です。
妻ヒルダはマザコンの夫を母のように愛する意志の強そうな人です。

四男ハリーは放蕩息子で、さんざん家族に迷惑をかけアフリカに行っていました。

他にもシメオンの娘とスペイン人男性の間に生まれたピラール
アフリカでシメオンのパートナーだった男性の息子スティーヴン・ファー
何かを隠していそうな使用人ホーベリーがいます。

お得意の誰もが怪しい、そして何もかも怪しい成り行きでしたが
さすがポアロ! 事件は4日で解決です。
意外や意外! な結末でしたが、よく読んでたらそうだったね、という
満足のいく1冊でした。

イギリスの館での伝統的なクリスマス 行ってみたいなぁ。
殺人事件は抜きにして・・・ですけど。

ページをめくる毎にドキドキ度が増していきます
読んでみたいな!という方は下の画像をクリックしてね

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『クリスマス・ソング』不器用ですから・・・

2008-12-20 22:36:22 | イギリス・アイルランドの作家
A CHRISTMAS SONG 
1945年 - ハーバート・アーネスト・ベイツ

ベイツという作家は、わたくし知らなかったのですが
この短編集はがっつり大好物ラインにはまりました
古くさくて、田舎っぽくて、生き方の不器用さが漂っているところが。

表題『クリスマス・ソング』はくだらないパーティーを断って
ひとりで過ごすつもりだった楽器屋の娘クララのクリスマス・イヴのお話です。
クリスマスらしいハッピーでハートフルな物語ではありませんが
クリスマスだからといって、皆が幸せな日をすごすわけではないですもんね。

クリスマスには関係ないけど、好きだった物語をあげてみます。

『豊穣の麦』
農場を営みながら幸せに暮らしていたモーティマー夫妻の悩みは子供がいないこと。
25年目に夫妻は転地し、そこで雇った少女をとても可愛がりますが
彼女はモーティマーの子供を身ごもってしまいます。

田舎の少女のおおらかさというのかだらしなさというのか・・・
悪意がないだけに弱りものです。

『田舎の社交界』
なんとか都会的なパーティーにしようと余念がないクレイヴァリング夫人。
しかし交際範囲がせまいだけに、いがみあう人同士を招かなければなりません。
そんな妻の頑張りをよそに、夫は若いミス・ドフレーヌの世話ばかりやいています。

招きたくなくてもそうはいかない客と、行きたくないけど行かずにはいられない田舎の集まり
小さな社会のわずらわしさが垣間見えます。
でも夫は若い娘に夢中・・・楽しかったみたいです。

『セルマ』
14歳から死ぬまで、一生をロンドン郊外の安ホテルの女中として過ごした
行商人たちの “ 愛すべき女性 ” セルマは、若い頃一度だけ会った男性を思いながら
歳をかさねていきました。

常識的に見れば自堕落なっ! ということになるのでしょうが
なんの見返りも求めず、ひと時の安らぎをもたらしてくれる彼女のような人は
男性にとってみたら、さながら天使のようでしょうね?

付け加えですが『かわいい女』
これは完全にチェーホフのリメイクでしょうね?
ただこちらの主人公バーサには、オーレンカのような可愛げが欠けているような
気がしまして、あまり好感が持てないんですけどね・・・

なんだか100年ぐらい前の話しのようですが、第二次大戦後に書かれています。
ベイツは従軍記者だったそうです。

軍について各地を見て歩いたのでしょうね? 田舎が舞台になったものが多いのですが
大戦中に士気を鼓舞する記事を書き続けていた反動か、戦後の虚脱感か
この一冊には「しかたないじゃない・・・」という雰囲気が漂ってます。
こういうの、けっこう嫌いじゃないです。
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『天の牧場』この世に天国は見つかりますか?

2008-12-19 21:58:38 | アメリカの作家
PASTURES OF HEAVEN 
1932年 ジョン・スタインベック

この『 天の牧場 』は、『スタインベック短篇集』の中に2編収められているのを読んで
どうしても読みたくなり、ネットで探してけっこう高値で購入しましたが・・・
いやぁ! 買って良かったです。
なぜ絶版になってしまったのか、まったく理解できない。
私にとってはとても読み心地よい作品でした。

20世帯あまりの人々が暮らす “ 天の牧場 ” と呼ばれる肥沃な谷があります。
その中で起こった印象的なエピソードが12の章によって紹介されていますが
各章に題名はなく、1~12のナンバリングがされています。

ひとつひとつが短篇小説としても成立していますが
全てを集めるとひとつの村の姿が浮かび上がり、さらに印象深いものになります。
『キャナリー・ロウ』 もこういう形式がとられていましたが
あちらはもう少し各章に繋がりがあって、長編小説ともいえるものでした。

スタインベックが、アンダスンの『ワインズバーグ・オハイオ』にインスパイアされたと
『 キャナリー・ロウ 』の解説で読みましたが
こちらの方がより影響をうけているのではないかと思います。

少しいびつな誠実さや、笑うに笑えない虚栄心、異なる正義感、人を縛りつける理想、
純粋な心の病などが、住民の姿を通して描き出されています。
時代や環境はまったく違っても、人が抱える闇はあまり変化がないということを
感じることができました。
“ 天の牧場 ” などという平和そうで牧歌的な土地においても同じことです。

どれもが心に何かを投げかけてくるお話なのですが
特に印象に残ったものをささっとあげてみますと

5. 
ヘレンは、不幸を背負うことが自分の人生だと思っていました。
不幸な病を持つ娘ヒルダを、頑なに自分の手で育てようとするヘレンは
病がひどくなる娘をつれて “ 天の牧場 ” に移り住んできます。

7. 
家以外は何も残さず父が死んでしまい、残されたローサとマリアは
自慢のスペイン料理の店を開きますが、客があまり訪れません。
しかし、ローサがとったある行動で店は繁盛し始めます。

10. 
意地悪な両親の言いなりになって働いてきたパット・ランバートは
隣人マンロー家の娘メエのひと言で、両親の死後開かずの間になっていた居間を改装し
美しい部屋にして、彼女を迎えにいきます。

みなハッピーエンドではありません。
「 これから頑張って!! 」と言うのもなにか違う・・・
彼らは励ましの言葉や救いの手が欲しいのではないような気がします。
与えられた人生を受け入れて生きる潔さ・・・というのかな?
だからハッピーエンドじゃないけど、ど~んより気が沈むというのとも
少し違った読後感があります。

12. では遊覧客が谷の上から “ 天の牧場 ” を見ている場面なのですが
“ 天の牧場 ” が開発され、大きな農場が切り売りされ
家が増えて都会に変わっていくのでは? という今後を感じさせます。
それが一番寂しい印象をうけました。

今のアメリカを見れば、“ 天の牧場 ” のような村々がどうなっていったかは
言わずもがな・・・時は流れる・・・です。

“ 天の牧場 ” とはもちろん、その土地の景観の美しさもあるのでしょうが
なんだか、羊ならぬ人間が、神が造りたもうた地上の放牧場に解き放たれた様子を
指しているのかしら・・・? などと考えた1冊でした。

               
            こちら、アメリカ版1964年エディションだそうです
                       雰囲気がありますね


スタインベック全集 (1)
スタインベック
大阪教育図書


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スコットランド王マルカム3世妃 聖マーガレット

2008-12-14 23:01:32 | スコットランド王妃・王女
スコットランド王室唯一の聖人
マルカム3世妃 聖マーガレット・オブ・スコットランド


1045~1093/在位 1067~1093

マルカム3世の二人目の妃マーガレットは
サクソン王エドマンド・アイアンサイドの孫娘にあたり
兄はサクソン人のイングランド王継承者として一身に期待を集めていた
エドガー・アジリングでした。

       

ノルマン公ギョーム(ウィリアム1世)によるイングランド征服は拡大する一方で
マーガレットの母で、ハンガリー王イシュトヴァーン1世の娘アガサは子供たちを連れ
一旦故国へ亡命する決心をします。
ところが船が難破しスコットランド沖へ漂着してしまいます。
マルカム3世は王自らその救助にあたっていたのでした。
なんだか Destiny な感じです。

美しく知的で、しかもサクソン王の血を引く女性とあっては
見過ごすわけにはいきません。
イーンガボーグの死からはすでに3年たっています。
マルカム3世は即求婚し、即結婚しました。

一説によるとマーガレットはとてもシリアスな性格で
誰も彼女を笑わせることができなかったと言われています。
でも慈善心には富んでいたらしく、病院や施療院への見舞いにもでかけ
孤児たちや貧しい人への施しは毎日欠かさなかったといいます。
また、古い教会を修復し、王宮にはチャペルを建設、夜中のミサにも出席し
日曜日に教会へ通う習慣を広めました。

これらの慈愛に満ちた行いや教会への忠誠から
1250年、ローマ教皇によって聖人の列に加えられています。
スコットランド王室で聖人の列に加えられたのは彼女だけです。

              
               聖人のイメージのマーガレット

少女時代までをハンガリーですごしたマーガレットは、衣服、マナー、式典などに
大陸スタイルを取り入れ、公用語にラテン語を使用するように変えていきます。
王との間には8人の子供が生まれていますが、全てイングランド系の名前で
スコットランド名をつけませんでした。
王にはかなり影響力があったみたいですね( 密かにカカア天下か? )

              
                大陸スタイルの王と王妃

1093年11月3日、マルカム3世と長男エドワードが
イングランド侵攻の途上で殺害されました。
病床についていたマーガレットは、このことを息子エドマンドから聞かされると
重体に陥り、3日後の11月6日、息を引き取りました。

なお、マルカム3世の死後勝手に王位を宣言した弟ドナルド3世は
マルカム3世がイングランドかぶれになったのも王妃の仕業だとして
マーガレットの遺体を奪い、公開処刑(死んでるのに?)にしようとしますが
王妃の遺体は側近たちによって匿われ無事でした。
おちおち横たわってもいられないですね

(参考文献 森譲氏『スコットランド王室史話』 Wikipedia英語版
      HISTORIC-UK.com)
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スコットランド王マルカム3世妃 イーンガボーグ

2008-12-14 23:01:21 | スコットランド王妃・王女
海賊対策の結婚?
マルカム3世妃 イーンガボーグ・アネッソン


~1065/在位 1059~1065

イングランドは現女王エリザベス2世の母君、エリザベス王太后で一区切りつきましたので
スコットランドにいってみたいと思います。

839年、ケニス1世によって(一応)統一された国となった時から17代王マクベスまで
スコットランドには “ タニストリー ” という独特の母系継承のシステムがあって
王位継承は混乱を極めていました。
親兄弟親族一同入り乱れての抗争や暗殺が絶えず、王はめまぐるしく変わりました。
(だって200年くらいの間に17人ですからね!!)
そのためかどうか、王妃がいたのかいないのか? 王妃はだれなのか?
資料が無いので省きます。

やっと女性陣が顔を出すのは
ケニス3世の娘ベレデ(マクベスの妻になったグロッホの母)
マルカム2世の長女ベソック(ダンカン1世の母)
マルカム2世の次女ドナウダあたりからです。

そしてそのドナウダの息子ソーフィンの妃が
後にマルカム3世と再婚するイーンガボーグでした。

       

父王ダンカン1世が殺害された時、9歳だったマルカムはイングランドへ逃れ
23歳の時王位奪回を志してスコットランドに入ります。
彼はマクベスと、継子ルーラッハを殺害して即位しました。

即位から1年、マルカム3世はソーフィンの未亡人イーンガボーグと結婚します。

ノルウェー王家の血を引くハーランド伯フィン・アネッソンを父に持っており
スコットランド北端を治めるオークニ伯シーガードの息子ソーフィンの妃だった
イーンガボーグとの結婚は、海賊対策と思われます。
当時ブリテン島には、北欧からのヴァイキングが頻繁にやってきていました。
一時はイングランド王にデーン人(デンマーク)が君臨したほどです。

イーンガボーグは3人の男の子を残し、6年ほどの結婚生活の後亡くなりました。

 お詫びです
マルカム3世の肖像画の隣にいるのは、二人目の妻、聖マーガレットです。
どうしても肖像画が見つからなかったものですから・・・

(参考文献 森譲氏『スコットランド王室史話』)
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イギリス王ジョージ6世妃 エリザベス

2008-12-14 01:17:25 | イングランド王妃・王女
果敢に世界大戦を闘った王妃
ジョージ6世妃 エリザベス・バウズ・ライアン


1900~2002/在位 1936~1952

亡くなったのは2002年、101歳の大往生です。
2004年に102歳で亡くなった義理の妹グロスター公爵夫人アリスに続き
イギリス王室で歴代2位の長生きです。

生まれも育ちもロンドンですが、14世紀まで遡るスコットランドの旧家の出です。

      

21歳の時にジョージ5世の次男アルバート・フレデリック(後のジョージ6世)に
プロポーズをされますが、彼女は断ります。
しかし、「 他の誰とも結婚しない 」という息子の宣言を聞いた母メアリー
自ら彼女を訪問し説得したことから、ついにエリザベスも結婚を承諾します。
王妃は「息子を幸せにしてくれるたった一人の女性だから 」と言ったそうです。

              
         25歳当時のエリザベス妃、エリザベス(2世)が生まれる1年前です

エリザベスは王室の一員になることに不安を抱いていましたが
アルバートは次男で王の弟として少し楽な立場であるというのも承諾の理由だったかも。
しかし! なんということでしょう
ジョージ5世の後を継いだエドワード8世は、シンプソン夫人との恋愛で
王位を投げだしてしまったっていうじゃありませんかっ!

アルバート自身も自分が王になることを嫌がっていましたが
エリザベスは夫以上に即位を拒んでいました。
控えめで極度のどもり癖があった夫が王になると、心労でまいってしまうのではと
心配したからでした。
しかし議会の決定によってアルバートがジョージ6世として即位することになります。

エリザベスは兄エドワードに怒りを覚える以上に、シンプソン夫人を許すまじ!!
と思ったようで、死ぬまで彼女に会おうとはしませんでした。
孫であるチャールズとカミラの再婚をなかなか許そうとしなかったのは
この時の苦々しい思いがあったのでは? と言われています。

アルバートがジョージ6世として即位してから3年、第二次世界大戦が開戦し
ほどなく英国も参戦します。

エリザベスは英国が参戦すると、赤十字の援助のための書籍を出版しました。
セシル・ビートンによる王妃のポートレイトが表紙になった本には
50人の作家や芸術家が寄稿しました。

また、国王一家は議会によるロンドンからの避難や
王女たち(後のエリザベス2世も含まれています)のカナダへの疎開を正式に拒みます。
王妃はこの時「娘たちは私がいなければ行かないし、私は王を残しては行かない。
そして王は決してここから離れない」と言っています。

王と王妃は戦時中、ロンドンの各地を、とりわけドイツの爆撃がひどい地域にも
足繁く訪れ国民を励ましました。
(もっとも、最初の頃は豪華な装いで出向き、困窮した市民たちに
 罵声を浴びたりもしたみたいです。その後落ち着いた色合いの服装に変えました)

エリザベスの存在は英国民や兵士の士気に大きく影響したようで
ヒトラーをして「ヨーロッパで最も警戒すべき女性」と言わしめています。

ジョージ6世の逝去後は、エリザベス2世の母后として
スコットランドの古城の復旧を監督したり、式典に参加したりと精力的に活動します。
(チャールズ皇太子とダイアナ妃の結婚式で、二人がバルコニーでキスした時の
 ビックリ顔が可愛かったですよね
競馬にもご執心だったようで「だいたい500レースぐらい勝った」と打ち明けています。
    
              
         100歳の誕生日にエリザベス2世からの電報を読み上げる母后です

チャールズと婚約したダイアナが、マスコミに追われて困っていた時も自宅によんでかくまい
二人にデートをさせてあげたというおちゃめなおばあちゃまは
2002年3月30日 午後3時15分、エリザベス2世に看取られて息を引き取りました。
眠っている間の、安らかな最期だったそうです。

(参考文献 森譲氏『英国王室史話』 Wikipedia英語版)

これさえあれば、あなたも英国王室通
読んでみたいな!という方は下の画像をクリックしてね

  
コメント (6)
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『感情教育』棚ボタ男のウダウダな青春

2008-12-13 02:32:05 | フランスの作家
K'EDUCATION SENTIMENTALE 
1864年 - 1869年 ギュスターブ・フローベール

育児本ではないんですよぉ
恋愛小説なのかな?

とにかくずーっと一人の女性を思い続ける青年の物語なんですが
美しい恋だろうが、儚い恋だろうがどうでもいいけど、あきれてものが言えないね!!

大学受験に合格した18歳のフレデリックは
一時帰郷する途上で見かけたアルヌー夫人に惹かれてしまい
大学に入ってパリで暮らし始めると彼女のことばかりを考えて日々を送るようになります。

以下、すごくはしょるけど
アルヌー夫人に会うためには・・・ってことに
金も時間も浪費するフレデリックなのですが、どうにも報われない腹いせに
夫アルヌーの情婦ロザネットを(これまた追いかけ回して)手に入れてみたり
政界への思いや上流階級への憧れから、ダンブルーズ夫人を落とそうと
(またまた足しげく通って)とうとう再婚相手にまでなったりします。
その間、故郷の裕福な隣人の娘ルイズとも結婚の約束をしたりします。
しかし結局はアルヌー夫人への想いが断ち切れず、皆手放すことになります。

けっしてただの女好きってわけではなく、誰に対してもそれなりに誠実だし
ロザネットもダンブルーズ夫人もルイズも、ちゃんと恋愛感情を持っているようです。

ただ、そればっかりっていうのがどうなのさ? ということなんです。
フレデリックは叔父から遺産をもらって、まとまった年金をもらうようになりますが
(当時の2万7千リーブルってどのくらいの価値かわかりませんけど)
仕事をしないわ、学校も行かないわ、国をゆるがす革命にも特に参加することなく
女性と会うための部屋とかインテリアとか食事とか雰囲気とか
そんなことばっかり考えてるわけ!

もちろん、ロマンチックなことを考えてくれる男性は素敵だけど
そればっかり考えてる人ってどうですか?
親友デローリエは、フレデリックがそんなことにかまけていることに怒って
一時期フレデリックを裏切ったりしますがその気持ちは分かります。
自分はなんとか地位をつかもうと必死にやってるんだから。

アルヌー夫人とうまくいっていれば、一途に愛して、穏やかに過ごせて
仕事や社会活動にせいをだしたかもしれませんね。
(でも人妻なんだけど・・・)

フランスの小説を読んでて思うのは、人妻ってことをまったく気にかけないという
男性陣の不思議さなんですけど・・・
恋人にしようと決心したりいつ打ち明けようかと悩んだりする前に
「人妻だ」って考えないのかな?
それから自分になびかない人妻を見て「彼女の恋人はどいつだ?」って考えるのはなぜ?
夫がいるっていってるでしょー!

それなのに、自分の妻は貞淑で浮気なんかしない! という
その自信はいったいなんだろう?

ラテンな恋の七不思議でございます。

感情教育〈上〉岩波書店


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まずは上巻から…
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『牝猫』こんな女がいちばん怖い・・・

2008-12-13 00:23:55 | フランスの作家
LA CHATTE 
1933年 シドニー・ガブリエル・コレット

よく浮気相手の女性に「この、泥棒猫っ!」なんて言ったり
危険そうな女性を「女豹」なんて形容したりしますけど
猫ってそんなイメージなんでしょうかね? 可愛いのに・・・

『牝猫』は、そんなふうに擬人化された猫ではなくて
正真正銘の牝の猫を愛する男性と、その妻の物語です。

若く、美しく、裕福な娘カミーユと結婚したアランという青年が
生家から都会のアパートに連れてきた牝の猫サアに愛情を注ぐのを見て
妻が嫉妬するというお話しです。

そんなバカな! って思いますが、夫が女性以外のものに熱中して
ほっぽらかしにされるって、妻としてはやっぱりちょっと哀しいかも。
ブリキのおもちゃでも、永ちゃんでもなんでもいいけど
「お前よりこいつだろ」とか「どっちかなんて選べない」って言われたら
カチーン ときますよね?

特にカミーユは19歳の一人娘ですから、大事に育てられてきたのだし
美しいから人気者だったわけだし、そりゃ怒るでしょ。

カミーユはアランが居ない間に、サアを10階のバルコニーから落としますが
奇跡的に助かったサアの様子を見ていたアランは真相に気がつきます。

アランは即家を出て、結婚前にサアと住んでいた郊外の母の家に帰ります。
翌日カミーユが訪ねて来ますが、どうやら二人の仲はもとに戻りそうもありません。
結婚からわずか3ヶ月でした。

でも、サアが居ても居なくても二人はうまくいかなかったんじゃないかしら?
一言多くて愛情深くて、じっとしていられないカミーユと
冷徹なほどクールで寡黙で、すぐ一人になりたがるアランでは・・・
お互いが見目麗しいってことだけではねぇ、歳もとるんだし。

しかし、サアみたいなタイプの女性がいたら強敵です。
媚びないし、はしゃがないんだけど、愛らしくて愛らしくて
かまわずにはいられない女性なんて!!
じーっと座ってて自分からは来ないわけ、でも男は寄っていってしまうの。
ヒェ~! 夫や恋人の半径200キロぐらいにはいてほしくないですね。
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『ソルジェニーツィン短篇集』◯◯主義なんてくそくらえ!

2008-12-09 01:52:28 | ロシアの作家

アレクサンドル・ソルジェニーツィン

本棚を見ていたら、ソルジェニーツィンの短篇集と
『イワン・デニーソヴィチの一日』があったんだけど、例によって読んだ覚えが・・・
というわけで短篇集から手をつけてみました。

いい本だったわ。

旧ソ連時代の物語が4篇収載されていますが、とにかく全篇通して思うのは
「お役所ってやつは・・・ 」ってことです。
これがソ連だから特にそうなのか?
いえいえ、現代の日本だってそんなに変わらないんじゃないですか?
人情 VS お役所仕事だったら、必ずと言っていいほどお役所が勝つってことです。

4篇しかないので、全篇をサクっと紹介します。

『マトリョーナの家(Матрёнин Двор)/1963年)
人のためばかりを考えて暮らしている老女マトリョーナと下宿人の若い数学教師の
貧しくも穏やかな日々は、哀しい出来事で突然終わりを告げます。
国のため、人のために働き通しの一生を送ったマトリョーナ。
どんな世の中も、こういう名もない人々が国を支えているのです。

『クレチェトフカ駅の出来事
   (Случаи На Станции Кречетовка)/1963年』
眼が悪いせいで前線に出られず、後方支援で引け目を感じているゾートフ中尉が
クレチェトフカ駅に当直したある夜の出来事。
どこへ行くかも知らされず移動する兵士たち、食糧もなく戦時品を運ぶ老兵がいます。
気心が通じ合えたと思った兵士はスパイでした。

『公共のためには(Для Пользьl Дела)/1963年』
生徒たちが手伝って建てた新校舎に引っ越す日が迫っているというのに
州は引き渡しの許可を出してくれません。
新校舎が科学研究所として国に引き渡されることを知った校長のミヘーエヴィチは
州の書記などにかけあいますが、一度決まったことはくつがえらないのです。

『胴巻きのザハール(Захар-Калита)/1965年』
夏の自転車旅行で訪れたクリコヴォの古戦場で出会った番人のザハールは
まるで戦いに参加した兵士の生き残りのような容姿をした男でしたが
古戦場を愛して止まず、政府の援助を待ちながら孤軍奮闘していました。

この当時、ソ連はバリバリの社会主義国家ですが、社会主義だろうが
共産主義だろうが、民主主義、資本主義、よく分からんが共和制、
絶対王政だってなんだって、富める者はさらに富み、貧しき者は一生慎ましく
暮らすようになってんのよぉ・・・
私腹を肥やす人っていうのは、どんな世の中でもちゃんとうまい汁が吸えるように
なってるんだわよ

私は政治・経済の仕組みは皆目分からないですけれど
上に立つ人が強慾な人だったら、どんな主義だって一緒だと思いません?
清貧の政治家や役人を期待する方が間違ってるんでしょうか?

ソルジェニーツィン短篇集 岩波書店


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