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1892~1912年 トオマス・マン
物語の中にも頻繁に “ アンピィル様式 ” の家具が登場するんですけど
この短篇集の文章もまさにそんな感じ…堅牢で重厚で壮厳で装飾過多気味。
それに 「 われわれ 」「 ◯◯してみたまえ 」「 ◯◯となるであろう 」 という調子に
まるで偉い方の難しい講義でも聞いているような気になり
最後まで読み通せないんじゃないかしら? と思いましたが
読み進むうちにそんな堅苦しさと勿体ぶった感が心地よくなってきました。
内容が好きとか表現が興味深いとかいう問題でなく
文学しております… という気になってきます。
“ 芸術とは ” “ 芸術家たる者は ” という命題のもと創作活動を続けた作家ですが
物語に醸し出される作家の意図の奥深さは解説を読んでいただくとして
そんなことに関係なく読み物として楽しめたものをあげてみます。
『道化者(Der Bajazzo)/1896年』
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裕福な両親のもとで、安穏な将来を約束されたような気になり
怠けがちに過ごした主人公が、遺産を手にして故郷を後にします。
一生何もせず暮らせますが贅沢はできません。
居場所のない街で日がな一日が終わるという生活の中、上流の娘に恋をします。
何もしないで暮らすって、結構つらいことなんですよね。
特に(昔の)男性の方は、家事をするわけでもなかったようですし。
浮き草のような自分を嘆く前に働いてみたらどうなんだろうか? と言いたくなりました。
『ある幸福(Ein Gluck)』
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田舎町の将校たちが、流れの合唱団の女性たちを招いた宴会の夜
ハリイ男爵は、夫人アンナを伴っていながら一番美しい娘にべったり寄り添います。
穏やかに社交の場を乗り切っていたアンナ夫人でしたが
男爵の行き過ぎた戯れに突然席を立ち…
女性にモテモテの夫を誇る一方、浮気の心配もしなきゃならないという…
ハンサムなだんなさんを持つと何かと面倒よね。
ラストをどうとらえようか迷いました。
スーッとしましたけど、もし当事者だったら相手の女をどう思うかしら?
『神童(Das Wunderkind)』
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8歳なのに7歳のふれこみの作曲家ビビイのピアノ演奏会が開かれます。
年相応の無邪気な様子も見せるビビイでしたが
演奏も構成も、そして即興も見事としか言いようがありません。
批評家はビビイのことを「いっぱしの芸術家にでき上がっている」と考えます。
ある部分で完全に大人と張り合える、あるいは上をいくお子供の心境は
凡人には理解しかねます。
さらに如才なさがあるとか、場の空気が読めるなんてなったら… ちょっと怖いですね。
でも、幼いことが売りだった人たちの厳しいその後もかなり見たような気がします。
大人は彼らとどういうふうに向き合えばいいんでしょうね?
初期に書かれた17篇が収められています。
若い頃から、断固とした信念のもとに作品を書き上げているような印象を受けます。
時の流れとともに多少の心境の変化はあったとしても
筋が一本通っているような清々しさを感じました。