ITSを疑う

ITS(高度道路交通システム)やカーマルチメディア、スマホ、中国関連を中心に書き綴っています。

自動運転の展望

2016年01月03日 | ITS
新年明けましておめでとうございます。今年も東京で正月を過ごし、4日に上海に戻ります。

新年の新聞報道などでは16年は自動運転への舵が切られる年というような論調が目立ちましたが、新聞記者の見方はどうも浅く、実際にはまだまだその道のりは遠いと思っています。
とくに、昨年安倍首相が「東京オリンピックでは自動運転のタクシーが東京を走り回る」というコメントをしたことからかなり楽観的なイメージができているようですが、2020年に「走り回る」ことはありえないでしょう。

半自動運転と完全自動運転の間には相当大きな壁があります。
その大きな壁として一般紙が指摘するのは「法整備」と「ハッキング」ですが、実際はそれらより大きな問題があるのです。

法は実態に即して変えればいいこと。
ハッキングに関しても、通信が車両のCAN通信に関与し制御系まで介入する状況になれば可能性は有りますが、それで闇ビジネスができるわけではなく、愉快犯や特定の殺人にしか用途はない。まあ、街を歩いていて包丁で刺されるのと同じようなリスクであり、これは心配しても仕方がない。

それらより大きな障害は大別すると2つ。
一つは、完全自動運転の場合は制御を安全に振らなくてはならない。
人間が運転する場合は、多かれ少なかれ「だろう」運転をします。「だろう運転は事故の元」と教習所では習いますが、実際はそれがないと交通はスムースにはいかない。この状況から考えてあの車が止まってくれるだろう、あの歩行者は飛び出さないだろう、ということで交通は成り立っています。しかし完全自動運転車両は止まらないかもしれない、飛び出すかもしれないという制御をしなければならない。
その理由は、万に一つのリスクでもカーメーカーとしては回避する必要があるからです。
つまり、人間ドライバーは万に一つのリスクは状況判断で背負って運転しているということ。

結果として、車車間通信、人車間通信でお互いの動きを制御できるようになるまでは自動運転車両はあまりに慎重な運転により渋滞を引き起こす事になります。実際GOOGLEカーは交差点で後続車の予想に反して止まってしまい追突される、という事故が多く発生しているようです。

もう一つは、前の理由でも若干触れていますが、カーメーカーは万に一つのリスクも回避する必要があるということ。
人間より優れた自動運転車であっても、60キロで走行している時に目の前に飛び出しがあったら衝突は回避できません。その場合の訴訟問題は完全自動運転車の場合はカーメーカーが被告になります。このリスクは取らないでしょう。
したがって、自動車専用道路等のインフラが整備できない限りカーメーカーは完全自動運転には手を出せない。半自動運転にしておいて、あくまで最終の事故の責任は運転者にあるようにするしかない。

以上の状況から、当面は高速道路での運転支援とか、自動車庫入れいった形のものが徐々に導入されてくることになります。今年はそれらを装備した車が市場に投入されるでしょう。これはどちらかと言うと安全装備というより快適装備であり高級車からの導入になると思います。

自動運転のゴールは交通事故の完全撲滅と老人や障害をもつ方へのモビリティの提供ですが、その実現はまだまだ先ということになります。

現在の半自動運転のテクノロジーはすべて完全自動運転への途上にあるもので、無駄なことは一つもありません。
しかし完全自動運転の社会が実現するためには道路インフラの根本的な整備が必要であり、その実現は相当先の事になると私は考えています。