ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

砂漠とロミオとジュリエット

2009-06-12 04:47:10 | イスラム世界


 ”ROMEO ET JULIETTE ”by FATI RHIOUIA

 さて、毎度すみません、北アフリカはモロッコのレッガーダ周辺の音楽など。この種の音楽をシャアビ系と呼べばいいのだろうか。
 しかしこのシャアビって言葉も、意味としては”歌謡”とか、そんな意味しかないらしいし、この辺の、つまりマグレブ方面で今、盛り上がっている一連の音楽の上手い呼び名を誰か思いついてくれないものかと思う。
 この地方の音楽に入れ込むことになったのは、モロッコのベルベル人によるレッガーダなる音楽に惹かれての事だったわけだが、たとえば今回取り上げる音楽をジャンル的にそれに含めていいのかどうかが分からない。似たようなものとはいえ、よりライ・ミュージックに近い構造を持ってもいるようだし。

 と言うわけで、まあそれは誰か考えておいてくれ。今回は、この人もモロッコのベルベル人なのかなあ、FATI RHIOUIA 姐さんの歌う”ロミオとジュリエット”物語である。ともかくジャケにはそのような表題があり、確かに冒頭の曲ではロミオとジュリエットがどうのこうのと歌っているのが聴こえる。しかし。
 こんなにイスラム色濃厚な音楽であの悲恋物語をテーマに歌われても、なんか納得できない気分が残る。そもそも昔の英国においてシェイクスピアの書いたあのストーリーは、イスラムの教えと照らし合わせて、なんか問題は出てこないのか?出てきそうな気がするんだが。
 なんてことはどうでもいい、面白おかしい恋物語ならそれでいいのさ、ってのが庶民の立ち場であるのはもちろんだ。

 変な表現だが、このアルバムで聴ける音は一連のレッガーダ周辺の音の中ではかなり瀟洒な出来上がりと言って良さそうな気がする。結構抑制の利いた音作りで決して狂騒状態にはならないし、サウンドの構造がよく見渡せ、なにしろ聴いていて疲れないのである。いつもは素っ頓狂な旋律を吹き鳴らしてこちらの頭を痛くする民俗管楽器セクションも今日はきれいなハーモニーを形成している。電子楽器によるベース音の処理も面白い。

 そりゃこのアルバムでも、もはや北アフリカの裏通り名物って感じになって来た、前のめりにせわしなく突っ込むハチロクのリズムはドクドクと終始、熱く脈打っているし、姐さんの妖艶にコブシを利かしてイスラムのメロディを歌い上げるその声には、しっかりボコーダーがかかり、ロボ声化されて、妖しげで、しかも怪しげなレッガーダ気分をいやがうえにも高めている。
 サウンドのど真ん中で鳴り続ける、なんか日本の夏祭りの太鼓みたいな代物が打ち鳴らすリズムは、決して飼い馴らせない野生がこの音楽に潜んでいる事を、高らかに宣言してはいるのである。にもかかわらず狂騒状態にはならないこのアルバムのありようは、ちょっと心に留めておきたい。まあ、永遠に馬鹿騒ぎを続けるのも大いに意義あることなんだが。

 ところでこのアルバム、最後の曲がバサッと切り捨てるように突然の中断で終わるのだが、これは故障じゃなく、はじめからそうなっているのだろうか。ま、アバウトな音楽世界の事だからこんなものと言われればすぐに納得するようにこちらも鍛えられているし、大して気にもしていないんだが、しかし理由を知りたい好奇心はある。
 それにしても、これに収められている”イスラム風・ロミオとジュリエット”の歌詞内容、どんなんだろうなあ。知りたいものだなあ。

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