ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

太陽の黄金の林檎

2010-08-29 03:15:40 | フリーフォーク女子部
 ”Golden Apples of The Sun”by Caroline Herring

 何しろこのCD、タイトルが「太陽の黄金の林檎」なのだから、子供時代を熱狂的SFファンとして過ごした者としては、内容なんかどうでもいい、買わずに置く訳には行かないだろう。まあ、ブラッドベリの有名な短編を、どこまで意識したタイトルか知らないが。
 アメリカの女性シンガー・ソングライター(というより、”フォークシンガー”という古い呼び名のほうが彼女には似合う気がする)であるCaroline Herringの本年度作品。もちろん、上のような事情でタイトル買いをしたくらいで、私にとってははじめて聴く人だ。

 簡単な伴奏が入っている曲もあるが、基本的に自身のギター弾き語りをメインに聴かせる人のようだ。シンプルなコード弾きに乗せて、知性的な女性の落ち着いた、血から強い歌声が、ゆったりと渡って行く。
 ”サボテンの花”のカバーが入っているのを見ても明らかだが、最初期のジョニ・ミッチェルあたりの影響下で歌い始めた人のようだ。歌い方や曲作りの個性など、随所にその影響を見て取ることが出来る。

 が、この人のミュージシャンとしての個性にはジョニほどヒステリックというかテンション高いところは無く、かわりに独特のメランコリィを秘めた歌声で、彼女の日常を通り過ぎて行く現実と幻想を激することなくそっと捉まえ、静かに見つめ直すようなところがある。 女性に対して変なたとえだが、”上手く行かないことはあるが、へこたれない男の子”みんたいなイメージのある人だ。
 そして彼女は歌う、この、いつかどこかでボタンの掛け違ってしまった世界と、そこに降り注ぐ昔と変わらぬ陽光と、人々の物語を。

 「失われたものは失われてしまった、過ぎた時間は還って来ない。だから我々はこの土を一歩一歩踏みしめて歩き出すより仕方ないではないか」そんな覚悟が、彼女の歌声に、天からの日差しの暖かさを孕ませているのではないか、などと思ったりもした。




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