ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

風の向こうのハワイ王国

2009-04-13 05:17:30 | 太平洋地域

 ”ハワイ王国時代のハワイ音楽”by 山内雄喜

 もはや改めて紹介の必要もないであろう、ハワイ音楽研究家にして演奏家である山内雄喜。これは山内によるハワイ音楽の歴史を辿る7部作シリーズ、その第2集です。ハワイ王室の音楽四天王なんだそうですね、カラ-カウア王、リリウオカラニ女王、リケリケ王女、レレイオーホク王子などの作品を中心に収められています。

 ハワイ王朝のアメリカ合衆国による併呑とその滅亡の悲劇、そしてそれに関わる音楽の物語については以前、パオアカラニの花束という文章を書いているんだけれど、ハワイ王朝とその音楽を思う時、やはりその悲劇的結末が意識に昇ってしまうのですな。

 このアルバムにしてもともかく美しいメロディの連発であり、その儚げな美しさが、楽園であるかに見えるハワイの地を吹き抜ける風の向こうに、失われた王国の記憶が蜃気楼のように一瞬だけ蘇る、そんな幻想を呼びます。

 アコースティック音楽の演奏家というイメージの強い山内はここで、珍しくと言っていいと思いますが電気を通したギターを使っています。最初に聞いたとき、ドン、と響く低音弦にちょっと驚かされたんだけれど、何度か聴き返す内、アルバムのテーマにはむしろ電気楽器の使用はふさわしかったのだろうな、なんて気がしてきます。

 いつものリアルな生ギターの響きはハワイの土と人々の暮らしの香りを運んでくるのだけれど、ここではエレクトリック・ギターの人工的増幅感(?)を伴う音の伸びの良さが織りなすちょっぴり非現実的な手触りが、ここに提示された美はもうこの世のものではないのだぞ、という現実との境界を改めて確認させる効果を作り出している。それゆえ滅びの美学がさらにまた悲しく美しく浮き彫りになる、みたいなね。

 まあ、山内氏ご本人がそういうつもりでエレクトリック・ギターを使ったのかどうかは知らないけれど。美しいアルバムです。



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