”Hard Rock From The Middle East”by The Devil's Anvil
70年代、クリームやマウンテンといった印象的なロックバンドを世に出した、ミュージシャン&プロデューサーのフェリックス・パッパラルディが1967年、ニューヨークはグリニッッジビレッジあたりでたむろしていた在合衆国の中東系の人々によるロックバンドと繰り広げた音楽的冒険の記録。あるいはバカ騒ぎの記録。これは血が騒ぎますな。
冒頭、エレクトリック・ギター&ベースのゴツゴツした”ロック”なリフに導かれ、武骨なアラビア語のボーカルが呪文の如きコブシ付きで呻き出される。バックのサウンドはアラブ方面の民族楽器各種とロックバンドの標準装備との混交だが、あくまでロック志向なのが嬉しい。そりゃそうだ、まだワールドミュージックなんて概念のない時代のセッションなのだから。
ともかく、アラブの旋律や伝統楽器の音が、いかにもこの時代らしいサイケなロック音、ファズギターの轟音と絡み合いながら進行して行く様は痛快の一言。ガツガツと刻まれるロックのリズムの上をイスラミックなメリスマをくねらせながらボーカルが渡って行くカッコ良さといったらない。
いや、実は「ワハハ、来てるぜ、アラブ・ロックが」とか言って、その出来上がりのうさんくささをせせら笑うつもりでいたのだが、実際を聴いてみたら。「いや、これで正しいんじゃないのか」と思わされてしまったのだった。アラブ音楽の臭味とロックのケレンは、結構相性がいいのではないか、なんて思われてくる。
アナログ盤で言えばA面がすべてアラビア語のボーカルによるアラブ・ネタであり、B面に行くとさらにトルコ語やギリシャ語も飛び出し、それぞれの国のサウンドが導入されて、彼らの音世界はさらに多岐に渡ることとなる。ギリシャ語のバラードの哀切さが心に残る。
このバンド、というかこの”中東風ハードロック”なる音楽上の試み、この一枚で終わってしまったようだけど、もったいなかったね。もっと続ける道はなかったものか。とか思うが、1960年代という時代を思えば、ゲテモノとして一瞬受けて忘れられるという結末しか、いずれにせよなかったのかも知れない。やはり、つかの間の夢で終わるしかなかったのか。
それにしてもパッパラルディって、日本に来た時もクリエーションの連中と遊んで行ったし、なんか”異文化社会におけるロックバンド”なんてテーマに興味があるんだろうか?その興味、何らかの結果は出たんだろうか、彼の内では?どこかで語ってはいないものかと思う。