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絵本の話を中心に、好きなもの、想うことなど。

神田日勝 大地への筆触@東京ステーションギャラリー

2020-06-24 17:34:38 | 好きなもの・美術館や展覧会

少し前から美術館などが再開され始めました。
2月中に前売り券を買っていたものが2つあるのですが、
自粛開け最初の展覧会は(なぜか)こちらになりました。



神田日勝さん。

昨年の朝ドラ『なつぞら』で、吉沢亮さんが演じた山田天陽くんの
モデルとなった画家で、もしも、そのドラマを観ていなければ
知ることがなかったかもしれません。

熱心な『なつぞら』ファンだった私と娘、一緒に観ていた夫の
3人で久しぶりに出かけた美術館‥東京ステーションギャラリー
私は3度目でしたが、他の二人は初めてで、ね、いい美術館だよねーと
いう紹介の気持ちも含めて(ちょうどいい規模だし、レンガの壁も
私はとても気に入っているので)、楽しいお出かけになりました。


日勝さんは、ドラマで描かれていたように、7歳の時に東京の練馬から
家族とともに北海道へ入植者としてわたってきます。
後に東京芸大へ進む兄の影響で(ここもドラマ通り)、絵を描き始め
農業を続けながら絵を描く道を選びます。
道内の展覧会や独立展で入賞、入選を重ねるも、1970年に体調を壊し、
未完の作品を残したまま亡くなってしまいます。32歳の若さでした。

ドラマの中で天陽くんも描いていたように、農耕馬の絵とか、
十勝平野の絵とかを思っていたのですが、会場に入ってわりとすぐに、
日勝さんが、昭和12年生まれだということに気が付いてからは、
その時代や年齢と、描かれた作品を意識して観るようになりました。
というのも、私の母が昭和11年生まれでして、昨年お亡くなりになった
和田誠さんもそうだったと思うのです。
ということは、日勝さんも、まだご存命でしたら、ずっとずっと
絵を描き続けていたかもしれないのだと思ったり。
この絵を描いた年に、私が生まれたんだなーとか思ったり。
60年代のポップアートのこととか、大阪万博の太陽の塔のこととか、
気になっただろうなあとかも思いました。

会場は、プロローグ、エピローグのあいだを、

壁と人 牛馬を見つめる 室内/室内風景 アンフォルメルの試み
十勝の風景  の5つに分けていました。

ベニヤ板にパレットナイフやこて等を使って毛並みの1本1本まで、
丹念に描いた馬や牛。
あふれんばかりの食べものを並べた「静物画」や、画家の室内。
壁、天井、床すべて新聞紙で埋め尽くされた部屋に、正面向いて
座る男‥。どこからが家の壁でどこからが空なのか大地なのか
わからないほどにセピア色で塗りつくされた「家」という作品‥。

どの作品にも作者の情熱が感じられるのはもちろんのことですが、
自分の中の「葛藤」を、絵の中で「作品」に昇華させているように
私には思え、絵を描く喜びや楽しさとともに、描かずには生きて
いかれない己のサガを、誰よりも自分自身がわかっている方
だったのでは、と感じました。


そして。
チラシにも使われ、もはやシンボルとなっているような、印象的な
絶筆で未完の作品ですが。(こちらで見ることができます)

ドラマを観ていなかったら日勝さんを知ることはなかったかも、と
冒頭で書きましたが、この未完の作品をどこかで目にしたら、まったく
知らなかったとしてもとても興味を惹かれ展覧会に足を運んだだろうな
と思っています。

一頭の馬を描こうとするときに、すくなくとも全体の下描きをしてから、
(あるいは背景をまず塗ってから)塗り始めると思うのです。
でも、日勝さんの馬は半分だけが仕上がっていて、特に顔や目は丁寧に
描かれているのに、腰のあたりから後ろ足は鉛筆の下描きすらないのです。

彼の描き方がそれによってわかった的な注釈が加えられていましたが、
どの馬もそんなふうな描き方だったのでしょうか。
作者には、もう自分には時間がないことがわかり、あえて半分だけを
力をこめて描いたのでは、という見方もできると思うのです。

もしもこの絵が鉛筆の下描きの段階で絶筆となっていたら、それはそれで
大変貴重な作品だったでしょうが、でも、これほどのインパクトを
観る側に与えることはなかったかもしれません。
真実はご本人のみ知ることだし、作品から受ける感銘だけを私たちは
胸に抱けばよいのでしょうが、それでも私は、あえて謎を残した画家として
神田日勝さんのことを覚えていようと思いました。



東京での会期は残りわずかですが、機会があればぜひ。
向き出しのベニヤ板と、かわいい馬の目がとても印象に残ります。


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