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絵本の話を中心に、好きなもの、想うことなど。

“good” bye  精一杯を尽くせ

2020-02-01 15:05:05 | 好きな本

時々、歴史小説、時代小説みたいなものが読みたくなり、たぶんそういう
気持ちだったときに図書館に予約したのだろうと思います。
朝井まかてさんの作品、何冊か読んだことがあって、どれも面白かったので。

 
※順番が来て読み始めるまで、この帯にあるような「伝説の女商人」の
交易の話だなんてまるで知りませんでした。A新聞に連載していたようですが
それも知らず‥なので逆にとても新鮮な気持ちで読み始められました笑。


時は幕末。所は長崎。
26歳で油問屋「大浦屋」を継いだお希以(けい)は、先細りになっていく
油問屋の仕事だけではなく、異国を相手に交易をしてみたいという気持ちを
抑えられなくなります。それは亡き祖父から聞いた言葉が胸の奥深くに沁み
ついているからに違いありませんでした。

「海はこの世界のどこにでもつながっとるばい。昔は自在に交易できたばい。
才覚さえあれば、異人とでも好いたように渡りあえた」

あるとき、行きつけの料亭の女将を通して、通詞(通訳)品川藤十郎と、
阿蘭陀人の船乗りテキストルと知り合うことができ、テキストルを通して
お茶の葉を、イギリス人に渡してもらうことで、外国との交易という
大海原に船を漕ぎ出すことができたのですが、海は凪いでいる時ばかりでは
もちろんなく、沈没しそうになったり、難破させられそうになったり。
でも、お希以(のちに慶と名をあらためます)は、何事にもその時その時の
精一杯を尽くすのです。


物語が始まってすぐにお希以さんの生き方に夢中になっている自分に
気が付きました。女の分際でとか、女のくせに、とか言われながらも
(言われれば言われるほど?)自分の信じた路を懸命に歩いていく姿にも、
そういう女の人がその時代に居たということにも、ココロ奪われた感じでした。

商売は軌道に乗り、大浦屋は、「幕末のヒーロー」と後に言われるような人たちの
バックアップをしたり、誰からも一目置かれるようなところまでのぼりつめます。

でもそのあたりに来ると、読み手の自分の速度が急に落ちてきたのを感じ、
なんでなんだろう?と思ってみたら、いつか途方もない落とし穴が待っているに
違いなく、お慶さんの身に起こるかもしれない不幸に、自分が怖がっている
のだということがわかりました。
そんな私の心配をよそに、大浦慶という女性は、幕末から明治の世にかけて
生き抜くのですが‥こんな箇所に慶さんの強さを想い、ぐっときました。


 大浦屋が火事にあったとき、お希以を置き去りにして後添いとその息子との
 三人で逃げて行った父親が、数十年ぶりに大浦屋に戻ってきたときー

 お父しゃんが今もろくでなしであるように、私も冷たか娘よ。
 それでも、こらえると決めた限りはこらえ通すまで。
 己にした約束は、裏切れぬのだから。


 晩年長崎を離れて横浜で造船所の仕事にかかわったときー

 こうして始めてしもうた限りは、まだ帰れん。目論見通りに進めぬ道行には
 慣れているはずだと背筋を立て、踵を返した。


 そして、タイトルへ繋がるこのくだりもー

 「日本は旧き世におさらばして、どこに向かうとやろうか。一途で頑固な
 くせに、移ろいやすかけんね」
 我が身の来し方を思い合わせれば、なお自嘲めく。
 「あれは、よかさよならをしたと言えるとやろうか。グッドバイやった、と」


グッドバイはもちろん英語のgood bye のことで、タイトルにした真意はどこに
あるのだろうと気になり、語源を調べてみたところ‥

good bye の語源は、God be with you だったということ。
元々は、〈神があなたのおそばにありますように〉 の意で、「Good」 ではなくて
「God」 。その 「God」 が、ほかの 「Good morning」 「Good evening」 「Good night」
などの挨拶ことばに引っ張られて 「Good」 に替わってしまったといういきさつ
だそうです。

でも、本書『グッドバイ』は、そういう語源とは関係なく、大事なのは good (ですよね?)


お慶がこんなふうに長年のココロの友に語りかけるところがあるのですが。

 宗次郎しゃん、友助。
 空も海も、どこまでも青かね。ほら、波濤が白く輝いとうよ。
 あんたがたにこの景色を捧げて、私はようやく心から告げよう。
 グッドバイ。

前述の、よかさよならをしたと言えるとやろうか。グッドバイやった、と
と重ね合わせて思ってみると、良い出会いばかりが、自分と自分の人生を豊かにしてくれる
わけではなく、「良き別れ」をいくつも重ねてこそ、豊かな人生だったと言えるのでは
ないかと、思えてきました。

その時その時の、精一杯を尽くすからこそ、良き出会いに恵まれたのかー。
出会いを良きものにするために、その時その時を精一杯生きたからこそ、よかさよならを、
「グッド」バイをすることができたのかー。



いずれにしても同じことたい。

大事なのは自分にできることの精一杯を尽くすことだと、お慶さんだったら
言うだろうなと思い、まだ訪れたことがない長崎の海を想ってみるのでした。



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