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絵本の話を中心に、好きなもの、想うことなど。

しあわせなかんけい

2020-01-14 17:34:29 | 好きな本

ずっとむかしから好きな作家、気になる作家というのが何人か居て。
角田光代さんも、そうと言えばそうなのですが、だいぶ前に『対岸の彼女』を
読んでから、意識して、読んでなかった気もしていました。

『八日目の蝉』や、『紙の月』など、ドラマ化や映画化されたものは
なんとなく観ていたものの、小説からはすこし離れてところにいました。

なぜって、すごく小説が上手いから。



それなのに、昨年秋ごろから、『それもまた小さな光』『福袋』『空中庭園』と
続けて借りては読み‥「ひとり角田さんまつり」をしていまして、ああどれも
やっぱり上手いなあ、と思いながら読みました。

そして、こちらの『さがしもの』。
平成17年に『この本が、世界に存在することに』という題名で最初に刊行
されたそうですが、私は、どなたかのレビューか、何かの紹介でこちらの
文庫版の方を知り、ぜひとも読んでみたいと図書館で予約しました。


 

旅する本
だれか
手紙
彼と私の本棚
不幸の種
引き出しの奥
ミツザワ書店
さがしもの
初バレンタイン

9編の、全然つながっていない短編がおさめられていて、表題作の
『さがしもの』がこんなふうに、紹介されています。


「その本を見つけてくれなけりゃ、死ぬに死ねないよ」、病床の
おばあちゃんに頼まれた一冊を求め奔走した少女の日を描くー



もうこれだけで、すごく読んでみたくなったのですが笑、他のタイトルからも
なんとなくわかるように、どの短編も、本が好きな人だったら、大きく頷いたり
苦笑いしたり、ためいきついたり、涙ぐんだりしてしまうような、本にまつわる
はなしばかりなのです。

ここでちょっと横道にそれますが、本が好きと、読書が好き、は似ているようで
違いますよね。本が好きな人はたぶんほとんど読書が好きな人と重なり、読書好きも
本好きだとは思いますが、「本が好き」な人は、まず「本」という形が好きなのですよ。
紙に文字が印刷されていて、固い表紙が付いていて、それが綴じられている、という
その「もの」がもうすでに好きなのです。
そして、そこに付いてくるもろもろ‥手触りだったり、匂いだったり、色だったり
もちろん書かれている内容、フォントの色や形‥そんなものすべてが好きなのです。

それを踏まえた上で、この『さがしもの』は、本好きな人なら、ほぼ必ず、満足
できる内容だと思います。

思わぬところで、自分の本と再会する『旅する本』。
遠い南の島でなんとなく手にした文庫本の、以前の持ち主を想う『だれか』。
旅館で見つけた詩集のあいだに挟まれてあった『手紙』。
同棲を解消し、共同の本棚から自分の分だけを持って引っ越した『彼と私の本棚』。
その本があるから次々自分によからぬことが起きたのだと思う『不幸の種』。
古本屋に突如現れる、書きこみのある伝説の本のはなし『引き出しの奥』。
新人賞をとった作家のふるさととココロの中にある『ミツザワ書店』。
その本を見るまでは死ねないよ、と祖母に頼まれた『さがしもの』。
初めての恋人との初バレンタインに本を贈ったわたし『初バレンタイン』。


こうして、(忘れないように)書き出してみると、どの話もみなすごくよかったなと
あらためて思います。
でも、この中で、泣いた話はひとつで、泣きそうになったはなしは2つでした。

~ぽとりと水滴な落ちる。頬をはられたように気づく。
だれかを好きになって、好きになって別れるって、
こういうことなんだとはじめて知る。
本棚を共有するようなこと。たがいの本を交換し、隅々まで読んで、
おんなじ光景を記憶すること。記憶も本もごちゃまぜになって
一体化しているのに、それを無理矢理引き離すようなこと。
自信を失うとか、立ちなおるとか、そういうことじゃない。
すでに自分の一部になったものをひっぺがし、永遠に失うようなこと。


巻末に角田さんご自身の読書体験が書かれたエッセイもあって‥
幼少期からの本とのあれこれが語られています。

そう、本は人を呼ぶのだ。

私も、もうひと組のココロの耳をすませ、これからも角田さんの本や、
角田さんのじゃない本と幸せな関係を作っていきたいと思います。


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