[10月23日09:00.天候:晴 魔王城新館ゲストルーム]
稲生:「う……」
稲生は宛がわれたスイートルームで目が覚めた。
何部屋にも分かれているスイートルームで、和室の部分に布団を敷いて寝ていた。
左腕には献血の際に開けた穴を塞いだ絆創膏が貼られている。
今度は変な夢を見ることは無かった。
稲生が起き上がって和室の外に出ると、室内のダイニングテーブルの所にはマリアが座っていた。
稲生:「マリアさん!」
マリア:「あー、勇太。やっと起きたね」
稲生:「先生は?」
マリア:「師匠は『あと5分』を1時間以上繰り返していたので放っておいた」
稲生:「いつものパターンですね」
マリア:「どうする?頼めばすぐに朝食を持ってきてもらえるらしいが……」
稲生:「あ、そうしましょう。ちょっと僕、着替えて洗面台に行って来ますんで」
マリア:「ああ」
稲生がシャワールームと隣接した洗面所に行ってすぐに、キングサイズのベッドが置かれた寝室からイリーナが出てきた。
イリーナ:「うぃー、おはよ〜……」
大きな欠伸をしながら出てきたイリーナは下着姿だった。
マリア:「師匠!?何て恰好なんですか!?」
イリーナ:「あー、何だか暑くて無意識のうちに脱いじゃったみたい。そういうことって無い?」
マリア:「無いですよ、私は!」
イリーナ:「まあ、いいや。ちょっくらシャワー浴びて目ぇ覚めましてくるから、朝食頼んでおいてー」
マリア:「せめて服着てからにしてください!そっちには勇太がいるんですから!」
イリーナ:「おっ、そうだった。勇太君がいたんだったね。もう起きたの?」
マリア:「さっき起きて、今洗面所に……」
稲生:「マリアさん、新しいタオルってどこに……って、わあーっ!?」
イリーナ:「あらあら」
マリア:「あらあらじゃありません!」
稲生:「ぼ、僕はセクハラしてませんよーっ!」
稲生、慌てて奥に引っ込む。
イリーナ:「別に、気にする必要無いのにねぇ……」
マリア:「あなたはもう少し気にしてください!!」
[同日10:30.天候:晴 魔王城・謁見の間]
ルーシー:「昨夜は協力して頂き、真にありがたい限り。押し頂いて吸わせて頂きます」
稲生:「陛下にお喜び頂き、真に光栄です」
ルーシー:「昨夜一晩と言わず、何日でもゆっくり過ごしてください。城内を自由に歩く許可を出しましょう」
稲生:「ありがとうございます」
ルーシー:「ああ、でも、旧館は立ち入らない方がいいかもね」
稲生:「旧館ですか?」
ルーシー:「ええ。内戦でも破壊されなかった方。私でもあまり行かない所だから」
稲生:「分かりました」
魔王城はバァル帝政時代に建立されたものである。
それが共民内戦(ルーシーを新女王として担ぎ上げ、立憲君主制を求める魔界共和党と、王制を完全廃止し、共産主義を求める魔界民主党の政権争い)やバァル1週天下(冥界の奥底から舞い戻ったバァルがルーシーから王権を奪取し、1週間に渡って新政府を弾圧し、そこで発生したバァル派とルーシー派による内戦)によって、魔王城は半壊した。
崩壊した部分は再建して新館とし、破壊されなかった部分は旧館とした。
破壊されなかった旧館は未だバァルの妖力の残っている部分があり、誰も解けない即死トラップまであったりするので、一部を除いて立ち入り禁止になっている。
稲生は謁見の間から出て、外で待つイリーナ達と合流した。
稲生:「お待たせしました」
イリーナ:「うん、ご苦労さん」
マリア:「この後、どうしますか?」
イリーナ:「あなた達は魔界で何かしたいことあるかい?」
稲生:「いえ、特には……。あ、威吹に会って行きたいですね」
イリーナ:「威吹君か。いいね。会ってきな」
稲生:「そろそろ子供が生まれてるかな?」
イリーナ:「あー、そうだねぇ……。1人で大丈夫かい?」
稲生:「ええ。南端村なら環状線で行けますからね」
山手線を2倍ぐらいの長さにしたアルカディアメトロ環状線。
駅名はサウスエンドだが、そこに流れ着いた日本人達がリトル・ジャパンを作り、サウスエンドを直訳した南端という言葉を使い、南端村という名前が付いている。
路線図的には、山手線の大崎駅辺りに位置する。
イリーナ:「じゃあ、マリアは私に付いてきな」
マリア:「あ、はい」
イリーナ:「魔界の方が、魔女の何たるかが教えやすいからね。マスターになったからといって、あなたはまだロー(low)なんだから、まだまだ勉強は必要よ」
マリア:「はい」
イリーナ:「じゃあ勇太君、何かあったらすぐに連絡して」
稲生:「分かりました」
[同日11:00.天候:晴 アルカディアメトロ1番街駅]
1番街駅は、東京で言えば東京駅や大手町駅に相当する駅である。
稲生:「今度の人間界行きの冥鉄列車は2日後に運転されるのか……。あれに乗って帰れないかなぁ……。帰ったら、先生に相談してみよう」
通常はその列車に乗ることはできない。
そもそも乗車券が時価であり、その乗客の持ち合わせより高く設定されるのがオチだからである。
ここに流れ着く人間というのは、時空乱流に巻き込まれたり、たまたま開いてしまった魔界の穴に落ちてしまったりと様々である。
もちろん、人間界では何の手掛かりも無く行方不明者扱いだ。
中には最終電車に急いで乗り込んでみたら、それは実は冥鉄列車で魔界に連れて来られたという話もある。
もちろん、そのまま折り返し列車に乗ることは許されない。
稲生は券売機でサウスエンド駅までのトークンを買い求めた。
高架鉄道線であっても、キップではなくトークンである。
メトロの運賃ならとても安く、それはつまり、それだけアルカディア王国の物価が安いことを意味する。
宿屋でも、日本なら1泊1万円くらいしそうな部屋でも、1000円ほどで泊まれるくらいだ。
稲生:「一応、今度の冥鉄列車の情報でも仕入れておくか」
稲生は普段閉まっている冥鉄の有人窓口に近づいてみた。
閉まっていても、魔道師が呼び出せば係員がやってくるのがデフォである。
と、そこへ、
???:「イノー!?イノーじゃないか!」
と、勇太を呼び止める者がいた。
勇太:「えっ?」
何だか聞き覚えのある女性の声。
振り向いてみると、そこにいたのは……。
稲生:「う……」
稲生は宛がわれたスイートルームで目が覚めた。
何部屋にも分かれているスイートルームで、和室の部分に布団を敷いて寝ていた。
左腕には献血の際に開けた穴を塞いだ絆創膏が貼られている。
今度は変な夢を見ることは無かった。
稲生が起き上がって和室の外に出ると、室内のダイニングテーブルの所にはマリアが座っていた。
稲生:「マリアさん!」
マリア:「あー、勇太。やっと起きたね」
稲生:「先生は?」
マリア:「師匠は『あと5分』を1時間以上繰り返していたので放っておいた」
稲生:「いつものパターンですね」
マリア:「どうする?頼めばすぐに朝食を持ってきてもらえるらしいが……」
稲生:「あ、そうしましょう。ちょっと僕、着替えて洗面台に行って来ますんで」
マリア:「ああ」
稲生がシャワールームと隣接した洗面所に行ってすぐに、キングサイズのベッドが置かれた寝室からイリーナが出てきた。
イリーナ:「うぃー、おはよ〜……」
大きな欠伸をしながら出てきたイリーナは下着姿だった。
マリア:「師匠!?何て恰好なんですか!?」
イリーナ:「あー、何だか暑くて無意識のうちに脱いじゃったみたい。そういうことって無い?」
マリア:「無いですよ、私は!」
イリーナ:「まあ、いいや。ちょっくらシャワー浴びて目ぇ覚めましてくるから、朝食頼んでおいてー」
マリア:「せめて服着てからにしてください!そっちには勇太がいるんですから!」
イリーナ:「おっ、そうだった。勇太君がいたんだったね。もう起きたの?」
マリア:「さっき起きて、今洗面所に……」
稲生:「マリアさん、新しいタオルってどこに……って、わあーっ!?」
イリーナ:「あらあら」
マリア:「あらあらじゃありません!」
稲生:「ぼ、僕はセクハラしてませんよーっ!」
稲生、慌てて奥に引っ込む。
イリーナ:「別に、気にする必要無いのにねぇ……」
マリア:「あなたはもう少し気にしてください!!」
[同日10:30.天候:晴 魔王城・謁見の間]
ルーシー:「昨夜は協力して頂き、真にありがたい限り。押し頂いて吸わせて頂きます」
稲生:「陛下にお喜び頂き、真に光栄です」
ルーシー:「昨夜一晩と言わず、何日でもゆっくり過ごしてください。城内を自由に歩く許可を出しましょう」
稲生:「ありがとうございます」
ルーシー:「ああ、でも、旧館は立ち入らない方がいいかもね」
稲生:「旧館ですか?」
ルーシー:「ええ。内戦でも破壊されなかった方。私でもあまり行かない所だから」
稲生:「分かりました」
魔王城はバァル帝政時代に建立されたものである。
それが共民内戦(ルーシーを新女王として担ぎ上げ、立憲君主制を求める魔界共和党と、王制を完全廃止し、共産主義を求める魔界民主党の政権争い)やバァル1週天下(冥界の奥底から舞い戻ったバァルがルーシーから王権を奪取し、1週間に渡って新政府を弾圧し、そこで発生したバァル派とルーシー派による内戦)によって、魔王城は半壊した。
崩壊した部分は再建して新館とし、破壊されなかった部分は旧館とした。
破壊されなかった旧館は未だバァルの妖力の残っている部分があり、誰も解けない即死トラップまであったりするので、一部を除いて立ち入り禁止になっている。
稲生は謁見の間から出て、外で待つイリーナ達と合流した。
稲生:「お待たせしました」
イリーナ:「うん、ご苦労さん」
マリア:「この後、どうしますか?」
イリーナ:「あなた達は魔界で何かしたいことあるかい?」
稲生:「いえ、特には……。あ、威吹に会って行きたいですね」
イリーナ:「威吹君か。いいね。会ってきな」
稲生:「そろそろ子供が生まれてるかな?」
イリーナ:「あー、そうだねぇ……。1人で大丈夫かい?」
稲生:「ええ。南端村なら環状線で行けますからね」
山手線を2倍ぐらいの長さにしたアルカディアメトロ環状線。
駅名はサウスエンドだが、そこに流れ着いた日本人達がリトル・ジャパンを作り、サウスエンドを直訳した南端という言葉を使い、南端村という名前が付いている。
路線図的には、山手線の大崎駅辺りに位置する。
イリーナ:「じゃあ、マリアは私に付いてきな」
マリア:「あ、はい」
イリーナ:「魔界の方が、魔女の何たるかが教えやすいからね。マスターになったからといって、あなたはまだロー(low)なんだから、まだまだ勉強は必要よ」
マリア:「はい」
イリーナ:「じゃあ勇太君、何かあったらすぐに連絡して」
稲生:「分かりました」
[同日11:00.天候:晴 アルカディアメトロ1番街駅]
1番街駅は、東京で言えば東京駅や大手町駅に相当する駅である。
稲生:「今度の人間界行きの冥鉄列車は2日後に運転されるのか……。あれに乗って帰れないかなぁ……。帰ったら、先生に相談してみよう」
通常はその列車に乗ることはできない。
そもそも乗車券が時価であり、その乗客の持ち合わせより高く設定されるのがオチだからである。
ここに流れ着く人間というのは、時空乱流に巻き込まれたり、たまたま開いてしまった魔界の穴に落ちてしまったりと様々である。
もちろん、人間界では何の手掛かりも無く行方不明者扱いだ。
中には最終電車に急いで乗り込んでみたら、それは実は冥鉄列車で魔界に連れて来られたという話もある。
もちろん、そのまま折り返し列車に乗ることは許されない。
稲生は券売機でサウスエンド駅までのトークンを買い求めた。
高架鉄道線であっても、キップではなくトークンである。
メトロの運賃ならとても安く、それはつまり、それだけアルカディア王国の物価が安いことを意味する。
宿屋でも、日本なら1泊1万円くらいしそうな部屋でも、1000円ほどで泊まれるくらいだ。
稲生:「一応、今度の冥鉄列車の情報でも仕入れておくか」
稲生は普段閉まっている冥鉄の有人窓口に近づいてみた。
閉まっていても、魔道師が呼び出せば係員がやってくるのがデフォである。
と、そこへ、
???:「イノー!?イノーじゃないか!」
と、勇太を呼び止める者がいた。
勇太:「えっ?」
何だか聞き覚えのある女性の声。
振り向いてみると、そこにいたのは……。