報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「魔界の不思議な旅 〜魔王城〜」 4

2016-10-27 16:04:49 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月23日09:00.天候:晴 魔王城新館ゲストルーム]

 稲生:「う……」

 稲生は宛がわれたスイートルームで目が覚めた。
 何部屋にも分かれているスイートルームで、和室の部分に布団を敷いて寝ていた。
 左腕には献血の際に開けた穴を塞いだ絆創膏が貼られている。
 今度は変な夢を見ることは無かった。

 稲生が起き上がって和室の外に出ると、室内のダイニングテーブルの所にはマリアが座っていた。

 稲生:「マリアさん!」
 マリア:「あー、勇太。やっと起きたね」
 稲生:「先生は?」
 マリア:「師匠は『あと5分』を1時間以上繰り返していたので放っておいた」
 稲生:「いつものパターンですね」
 マリア:「どうする?頼めばすぐに朝食を持ってきてもらえるらしいが……」
 稲生:「あ、そうしましょう。ちょっと僕、着替えて洗面台に行って来ますんで」
 マリア:「ああ」

 稲生がシャワールームと隣接した洗面所に行ってすぐに、キングサイズのベッドが置かれた寝室からイリーナが出てきた。

 イリーナ:「うぃー、おはよ〜……」

 大きな欠伸をしながら出てきたイリーナは下着姿だった。

 マリア:「師匠!?何て恰好なんですか!?」
 イリーナ:「あー、何だか暑くて無意識のうちに脱いじゃったみたい。そういうことって無い?」
 マリア:「無いですよ、私は!」
 イリーナ:「まあ、いいや。ちょっくらシャワー浴びて目ぇ覚めましてくるから、朝食頼んでおいてー」
 マリア:「せめて服着てからにしてください!そっちには勇太がいるんですから!」
 イリーナ:「おっ、そうだった。勇太君がいたんだったね。もう起きたの?」
 マリア:「さっき起きて、今洗面所に……」
 稲生:「マリアさん、新しいタオルってどこに……って、わあーっ!?」
 イリーナ:「あらあら」
 マリア:「あらあらじゃありません!」
 稲生:「ぼ、僕はセクハラしてませんよーっ!」

 稲生、慌てて奥に引っ込む。

 イリーナ:「別に、気にする必要無いのにねぇ……」
 マリア:「あなたはもう少し気にしてください!!」

[同日10:30.天候:晴 魔王城・謁見の間]

 ルーシー:「昨夜は協力して頂き、真にありがたい限り。押し頂いて吸わせて頂きます」
 稲生:「陛下にお喜び頂き、真に光栄です」
 ルーシー:「昨夜一晩と言わず、何日でもゆっくり過ごしてください。城内を自由に歩く許可を出しましょう」
 稲生:「ありがとうございます」
 ルーシー:「ああ、でも、旧館は立ち入らない方がいいかもね」
 稲生:「旧館ですか?」
 ルーシー:「ええ。内戦でも破壊されなかった方。私でもあまり行かない所だから」
 稲生:「分かりました」

 魔王城はバァル帝政時代に建立されたものである。
 それが共民内戦(ルーシーを新女王として担ぎ上げ、立憲君主制を求める魔界共和党と、王制を完全廃止し、共産主義を求める魔界民主党の政権争い)やバァル1週天下(冥界の奥底から舞い戻ったバァルがルーシーから王権を奪取し、1週間に渡って新政府を弾圧し、そこで発生したバァル派とルーシー派による内戦)によって、魔王城は半壊した。
 崩壊した部分は再建して新館とし、破壊されなかった部分は旧館とした。
 破壊されなかった旧館は未だバァルの妖力の残っている部分があり、誰も解けない即死トラップまであったりするので、一部を除いて立ち入り禁止になっている。

 稲生は謁見の間から出て、外で待つイリーナ達と合流した。

 稲生:「お待たせしました」
 イリーナ:「うん、ご苦労さん」
 マリア:「この後、どうしますか?」
 イリーナ:「あなた達は魔界で何かしたいことあるかい?」
 稲生:「いえ、特には……。あ、威吹に会って行きたいですね」
 イリーナ:「威吹君か。いいね。会ってきな」
 稲生:「そろそろ子供が生まれてるかな?」
 イリーナ:「あー、そうだねぇ……。1人で大丈夫かい?」
 稲生:「ええ。南端村なら環状線で行けますからね」

 山手線を2倍ぐらいの長さにしたアルカディアメトロ環状線。
 駅名はサウスエンドだが、そこに流れ着いた日本人達がリトル・ジャパンを作り、サウスエンドを直訳した南端という言葉を使い、南端村という名前が付いている。
 路線図的には、山手線の大崎駅辺りに位置する。

 イリーナ:「じゃあ、マリアは私に付いてきな」
 マリア:「あ、はい」
 イリーナ:「魔界の方が、魔女の何たるかが教えやすいからね。マスターになったからといって、あなたはまだロー(low)なんだから、まだまだ勉強は必要よ」
 マリア:「はい」
 イリーナ:「じゃあ勇太君、何かあったらすぐに連絡して」
 稲生:「分かりました」

[同日11:00.天候:晴 アルカディアメトロ1番街駅]

 1番街駅は、東京で言えば東京駅や大手町駅に相当する駅である。

 稲生:「今度の人間界行きの冥鉄列車は2日後に運転されるのか……。あれに乗って帰れないかなぁ……。帰ったら、先生に相談してみよう」

 通常はその列車に乗ることはできない。
 そもそも乗車券が時価であり、その乗客の持ち合わせより高く設定されるのがオチだからである。
 ここに流れ着く人間というのは、時空乱流に巻き込まれたり、たまたま開いてしまった魔界の穴に落ちてしまったりと様々である。
 もちろん、人間界では何の手掛かりも無く行方不明者扱いだ。
 中には最終電車に急いで乗り込んでみたら、それは実は冥鉄列車で魔界に連れて来られたという話もある。
 もちろん、そのまま折り返し列車に乗ることは許されない。

 稲生は券売機でサウスエンド駅までのトークンを買い求めた。
 高架鉄道線であっても、キップではなくトークンである。
 メトロの運賃ならとても安く、それはつまり、それだけアルカディア王国の物価が安いことを意味する。
 宿屋でも、日本なら1泊1万円くらいしそうな部屋でも、1000円ほどで泊まれるくらいだ。

 稲生:「一応、今度の冥鉄列車の情報でも仕入れておくか」

 稲生は普段閉まっている冥鉄の有人窓口に近づいてみた。
 閉まっていても、魔道師が呼び出せば係員がやってくるのがデフォである。
 と、そこへ、

 ???:「イノー!?イノーじゃないか!」

 と、勇太を呼び止める者がいた。

 勇太:「えっ?」

 何だか聞き覚えのある女性の声。
 振り向いてみると、そこにいたのは……。
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“大魔道師の弟子” 「魔界の不思議な旅 〜魔王城〜」 3

2016-10-27 10:11:51 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月23日02:00.天候:雷 魔王城新館某所]

 横田:「クフフフフフフ……。さあ、稲生さん。お時間でございますよ」

 キラリンと横田の眼鏡が雷光に反射する。
 変態的な笑みが尚、恐怖を演出する。

 横田:「あなたはこれから、我らが女王、ルーシー陛下の永遠の命の糧となるのです。光栄に思うのですよ。クフフフフフフフ……」
 稲生:「あ、あの……献血程度の量でいいんですよね?」
 横田:「ええ、もちろん。さあ、場所へご案内致します」
 稲生:「あ、あの……マリアさん達は……?」
 横田:「あの御方達は、あくまで付き添いでしょう?陛下に呼ばれたのはあなた1人です。他の方は関係無い」
 稲生:「はあ……」
 横田:「さあ、こちらです」

 稲生はカンテラを手にする横田の後をついていった。
 窓からは時折、雷鳴が響き、雷光が差し込んできた。

 稲生:(ラストダンジョンに相応しい場所だ。さすが魔王城……)

 最近のRPGでもってしても、未だに女魔王の出現には至っていない。
 これだけ聞くとフェミニストは怒るだろうが、登場させたら登場させたらで今度は別の理由で怒るのである。
 だからゲームメーカーも、ラスボスで女性は出さないのだろう。
 作者の知っている限り、数えるほどしか無い。
 え?“東方Project”は主人公もラスボスも女性ばかりだって?いや〜、それはちょっと……。
 全く、フェミズムは不便ですな。

 稲生が案内された場所は、ルーシーの私室であった。

 横田:「失礼します。横田です。先般の宮中晩餐会における大感動は、未だ冷めやらぬものであります」
 ルーシー:「ご苦労……」

 ルーシーは謁見の間にあるような、豪勢な椅子と似たような別の椅子に座っていた。
 王冠代わりの黒いコウモリをあしらったティアラが、雷光に反射して黒光りするのが目についた。

 稲生:「…………」

 ルーシーの目が赤くボウッと光る。
 威吹やキノなど、高等妖怪が妖力を解放する時などと似た現象だ。

 横田:「稲生さん、陛下への4リットル献血、真に感謝致します。陛下に代わり、御礼を申し上げる次第であります」
 稲生:「は!?よ、4リッター!?」
 横田:「はい。魔界における献血は、4リットルですよ。それが何か?」
 稲生:「いや、死んじゃうでしょ!?そんなにしたら!」
 横田:「それは私の関知するところではございません」
 稲生:「だいたい、どこに4リットル献血って表記があるの!?僕、同意書をよく読んだけど、そんな記述はどこにも無かったよ!?」
 横田:「これはしたり!よく見て御覧なさい」

 横田は同意書を取り出した。
 もちろん、最後には稲生のサイン付きであるが……。
 献血量の所には、『0.4ℓ』と書いてあるのだが、横田が『0.』の部分をペリっと剥がした。
 代わりにその下に『絶対』という言葉が出てくる。
 こうすることで、
「私はルーシー・ブラッドプール陛下に絶対4ℓ献血に協力することに同意します」
 と、出てくるのである。

 稲生:「うわあっ!詐欺だ!」
 横田:「これはまたしたり!陛下を詐欺呼ばわりするとは何たる非礼!!」
 ルーシー:「いいのよ、横田。4リッターも献血してくれるのだもの。私は構わないわよ」
 横田:「ううっ!何と陛下はお優しい!」

 ルーシーが稲生の首元に手を伸ばしてくる。

 稲生:「わっ、わああああああああっ!!」

 稲生はルーシーと横田を突き飛ばして、私室から飛び出した。

 ルーシー:「逃がすなっ!追えっ!!」
 横田:「メガネ、メガネ……」(←稲生に抵抗された衝撃で眼鏡が吹っ飛び、全く見えない状態になっている)

 稲生:「先生ぇっ!マリアさん、助けてーっ!!」

 だが、ここは魔王城。
 妖力によるテレポーテーション(瞬間移動)で先回りされたルーシーに捕まった。

 ルーシー:「いただきます」
 稲生:「わあああああああっ!!」

 ルーシーは人間では有り得ないほどの鋭い犬歯を稲生の喉笛に突き刺した。

                                         BAD END(“大魔道師の弟子” 完)

[同日同時刻 天候:晴 魔王城新館ゲストルーム]

 稲生:「……という夢を見たんです」
 マリア:「さっきの叫び声はそれかいw」
 イリーナ:「大丈夫だよぉ。今時のヴァンパイアはそんな血の吸い方はしないから」

 さすがのイリーナも呆れていた。

 稲生:「ま、まさか、予知夢!?」
 イリーナ:「具体的な夢みたいだけど、私の見立てではただの夢だねぇ……」
 マリア:「ユウタ。師匠がこう言ってるんだから、安心して」
 稲生:「はあ……」

 と、そこへ、ゲストルームのドアがノックされた。
 入って来たのは安倍だった。

 稲生:「安倍総理!」
 安倍:「お待たせしました。お時間になりましたので、ご案内致します。その前に、こちらの同意書にサインの方を……」

 稲生は同意書を受け取ると、それを隅から隅まで読んだ。
 特に、献血量の所。
 変な細工がされていないかを調べてみる。

 安倍:「あの……何か、変な所が?」
 稲生:「うん……。上からシールが貼られているわけでもない。炙り出しで、字が隠されているわけでもない」
 安倍:「そんな小細工しませんよ」
 イリーナ:「ごめんなさいね。さっきまで、怖い夢は見たそうだから」
 安倍:「はあ?」

 やっと稲生は同意書にサインした。

 安倍:「では、ご案内致します。こちらです」

 夢の中と違い、今度はイリーナとマリアも一緒だ。
 そして夢の中では外は雷だったが、今は雲もほとんど無い快晴の天気だ。
 魔界なのに月があり、しかもそれは人間界にある月と比べて大きい。
 その為か、月明かりが異様に明るいのだ。
 まるで皆既日食……よりは暗いか。
 この満月が、妖怪達の妖力を倍増させる。
 人間界の月は小さいので、それでも……。

 稲生:「! もしかして、魔界って別の星なんじゃ?」
 イリーナ:「さあ、どうだかねぇ……」

 連れて行かれたのは、ルーシーの私室では無かった。
 医務室であった。

 看護師:「じゃあ、そこに横になって」

 看護師は人間ではなく、恐らくサキュバスの類だろう。
 吸血鬼は人間の血を吸う妖怪であるが、サキュバスはというと……。

 看護師:「さすがは陛下に見込まれた方ですわ。白い血も美味しそう……」
 イリーナ:「契約に無いからダメですよ」

 サキュバス看護師は、稲生の股間を見てうっとりした。
 が、すぐにイリーナに突っ込まれる。
 サキュバスは人間の男性の精液を吸う妖怪である。
 その為、魔界の妖怪達の間では、本来の人間の血液を『赤い血』、精液を『白い血』と呼ぶのだそうな。

 稲生:「あの……何かまるで、献血ルームみたいな感じなんですけど……。ここに陛下が来られるんですか?」
 看護師:「いいえ。こちらの400mlパックに、稲生様の血液を充填します。それからすぐに陛下に献上するシステムになっております」
 稲生:「な、何だ……」

 非常にシンプル、且つ取り越し苦労の稲生だった。
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“大魔道師の弟子” 「魔界の不思議な旅 〜魔王城〜」 2

2016-10-26 22:28:03 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月22日21:15.天候:曇 魔王城・大食堂]

 横田:「魔界共和党総務担当理事の横田です。先般の党大会における大感動は、未だ冷めやらぬものであります。暗黒の世界たる魔界を、月のように光り輝く幻想郷とするべく、世界の太陰であられるところのルーシー・ブラッドプール1世陛下におかれましては、ますますの……」

 何気に晩餐会の司会を務める横田である。
 だが、退屈な話で眠くなるのは人間界での顔と同じか。

 横田:「……それでは準備が整いましたようでございます。我らが女王、ルーシー・ブラッドプール陛下のおなーりー!!」
 稲生:「な、何だ何だ!?」
 イリーナ:「こりゃまた豪勢な演出だねぇ……」

 何故か顕正会の雷門会の如く、和太鼓をドンドンと叩く集団が現れ、観音扉が自動で開けられると、そこからルーシーが入って来た。
 先導するは安倍春明であるが……。

 ルーシー:「こんなにジャパニーズ・ドラムを叩くなんて聞いてないわよ?うるさくて耳がキンキンする!」
 安倍:「横田のヤツ、またミスりやがって……!」

 威厳溢れる顔付きで入って来たルーシーだが、魔術で安倍にテレパシーを送った。
 どうやら日本人の稲生が来るということで、和太鼓の演出を企画したようなのだが、配置人数を多めにしてしまったようである。

 ルーシー:「コホン。えー、日本から遥々このアルカディアへ足を運んで頂き、真に感謝するものであります。今宵は細やかながら、晩餐を用意しましたので、心行くまで堪能してください。それと、今回の件に関しては……」

 パンッ!パンパンッ!パーンッ!

 ルーシー:「な、何ごと!?」
 安倍:「横田ァ!まだ陛下がお言葉を述べておられる最中だぞ!?」
 横田:「す、すいません!クラッカーの準備してたら、何発か暴発をば……!」
 ルーシー:「……!硬い事は申しません。とにかく、今は晩餐をお楽しみあれ」

 ルーシーの瞳は普段マリアと同じ青色をしているのだが、魔力を上昇させた時などは琥珀色になったり、赤く光ったりする。
 そこはさすが正体がヴァンパイアといったところか。

 稲生:「い、頂きます!」
 イリーナ:「じゃあ、お言葉に甘えて。姉さん、こっちのワイン飲む?」
 ポーリン:「姉さん言うなっ!」

 晩餐会への参加者はルーシーや安倍の他、宮廷魔導師のポーリンもいる。
 ポーリンはダンテ一門の大魔道師で、エレーナの師匠である。
 薬師系の魔道師で、普段は(肉体の使用期限をできるだけ伸ばす為か)老魔女の姿をしているのだが、公の場に出る時にはイリーナと同じくらいの30代の女性に変身して現れる。
 本来はイリーナも完全に魔力を落とせばたちまち老婆の姿になってしまうのだが、そこはやはりベタな魔女の法則で、『師匠が老婆なら、弟子は若い女』の通りか。
 因みにイリーナとポーリンは共にダンテ門流の創始者、ダンテ・アリギエーリの直弟子であり、ポーリンの方が先に弟子入りしたので、姉弟子ということになる。
 但し、イリーナは途中で魔道師の修行を逃げ出した過去があり、生真面目なポーリンからは、妹弟子だとは思いたくない面もある。
 なので、イリーナがポーリンを『姉さん』呼ばわりするのを嫌がるのである。
 もっとも、さすがに今ではイリーナも免許皆伝を受けて、更にそこから精進し、グランドマスター(大魔道師)の地位にいる為、認めざるを得ないこともあり、微妙な感情なのである。

 稲生:(僕が着けてるローブのブローチは、Iだ)

 Iとはインターン(見習い)の略である。
 マリアのブローチには、Lとあった。
 ロー・マスター(一人前になり立て。日本の運転免許で言う若葉マークの状態)の略である。
 他にはミドルマスターのM(ある程度熟練した状態。運転免許で言えば若葉マークが取れ、ブルーの状態)、そこから更に昇進したハイマスターのH(車の免許でいうゴールド)もある。
 ハイマスター辺りになると、そろそろ師匠からは独立し、自分も弟子を取るように勧められるようになる。
 だからイリーナとポーリンのローブのブローチには、グランドマスターのGの文字が彫られている。

 マリア:「何も緊張することはないさ。食べよう。何か盛られていることは無いみたいだ」

 稲生の隣に座るマリアが、あまり食の進まない稲生に話し掛けた。

 稲生:「は、はい」

 稲生はオードブルのサラダにフォークを入れた。
 コース料理になっており、最初のサラダは海老やホタテの入った海鮮サラダであった。
 アルカディア王国に海なんてあったっけか?と首を傾げるのは、ヤボというものだ。
 例えアルカディア王国に海は無くても、魔界全体で言えば海はある。
 人間界のそれとは違い、だいぶ見たことも無い、言い換えれば不思議な生態の海洋生物はいるだろうが。
 それでもエビやホタテはいるらしく、そこはちゃんと稲生達が食べやすいように調理されているようだ。
 ヴァンパイアは人の生き血以外、何も口にできないと思われがちだが、少なくともルーシーは違うようだ。
 ちゃんと出された料理を口にしているし、血のように赤いワインも口に運んでいる。

 ルーシー:「少なくとも、私もパパもママも食事はできるから、少なくとも私の家系においては、『ヴァンパイアは生き血しか吸えない』というのは間違ってるみたいだね。ただ、永遠の命を保つのに必要なだけ。どうしてヴァンパイアが永遠の命を保つのに、人間の生き血が必要なのかは私も分からない。だけど、そうすることで、確かに命を保っているのは事実だから」
 稲生:「失礼ですが、お祖父さんとお祖母さんはどうなったのですか?」
 ルーシー:「……死んだよ」
 稲生:「ええっ!?でも、永遠の命って……」

 ルーシーはパチンと指を鳴らした。
 すると大食堂の壁に掛けられている大きな絵画が、クルンと回転して別の絵に入れ替わる。
 その絵に描かれていたのは、キリスト教関係者によって火あぶりにされる男女の絵であった。

 ルーシー:「さすがにこんなことされたら、死ぬに決まってるわ。永遠の命とはいうけど、殺されても死なないわけじゃないのよ。そこの魔道師達みたいにね」
 稲生:「大変失礼致しました」
 ルーシー:「もっとも、グランパもグランマも、当時は普通に『人間狩り』をやっていたから、いずれはああなってもしょうがなかったけどね。報いを受けただけよ。私はそんなヘマはしない」
 稲生:「はー……」

 ルーシーの母親はニューヨークに本社を構える総合商社の役員をしているが、その商才でもって、この王国の運営に当たったら、王室内が大混乱になったという。
 女王の母親だから、ここでは皇太后ということになるのか?
 安倍の仕事が全て皇太后に取られてしまったという異常事態が起きた。

 尚、ルーシーには双子の妹ローラがいたが、これもまたキリスト教系カルト教団の“魔女狩り”に遭って、若い命を落としている。

 ルーシー:「重い話をしてしまったね。そんな話はここまでにして、食事を進めましょう。今度は、あなたの人間界での出来事を聞かせて」
 稲生:「は、はい!」
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“大魔道師の弟子” 「魔界の不思議な旅 〜魔王城〜」

2016-10-25 19:19:17 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月22日20:30.天候:曇 アルカディアメトロ1番街駅]

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく1番街、1番街です。お出口は、右側です。2号線ドワーフ・バレー方面、6号線直通電車、高架鉄道環状線、中央線、軌道線ターミナルはこちらでお降りください。本日、冥界鉄道公社による魔列車の運行はございません。詳しくは高架鉄道線の駅窓口でお尋ねください」〕

 電車は3面6線の広い地下駅の真ん中のホームに滑り込んだ。
 ここで電車を待つ乗客は多い。
 ドアが開いて、稲生達は電車を降りた。

 マリア:「バァル決戦の時は、停電して真っ暗な駅でしたけどね」
 イリーナ:「平常時は賑わう駅なわけね」

 この駅は人間界の駅並みに照明が明るい。
 ここは魔界共和党の党本部も近く、魔族もそうだが人間の利用者も多いからであろう。
 照明の薄暗い電車内との対比が大きい。

 稲生:「僕が死んでいる時ですね?」
 マリア:「そう」
 イリーナ:「マリア、蘇生魔法に失敗した時はわんわん泣いてたもんね」
 稲生:「えっ!?」
 マリア:「そ、それは、その……!今度は完全蘇生魔法をマスターしますから!」
 イリーナ:「おおっ!?大きく出ましたなぁ……。アタシでも修得が難しい魔法だよ?」
 稲生:(ザオリクかな?メガンテやパルプンテもあるんだろうなぁ……)

 駅の外に出ると雪は止んでいた。
 積もってもいない所を見ると、すぐに止んだらしい。
 だが相変わらず、日本の東京の冬といった感じの寒さではあった。
 吐く息も白い。
 常春の国なのに、冬が来るとは何とも不思議であった。

[10月22日20:45.天候:曇 魔王城新館]

 さすがに城内は暖房が入っているのか、寒くはなかった。

 横田:「横田です。先般の九州大会における大感動は、未だ冷めやらぬものであります」
 マリア:「げ……!」
 イリーナ:「あらあら?」
 稲生:「ウソだよ!絶対に行ってないだろ!」
 横田:「これはしたり。言葉に気をつけて頂きたい。今の私は魔界共和党総務担当理事ですよ?」
 稲生:「だったら、最初の枕詞は何だ!」
 横田:「それより、総理にお取り次ぎを致しますので、こちらで暫しお待ちをば」

 横田は稲生達を応接室に通した。
 イリーナは素直にソファに座ったが、マリアは立ったままだ。

 イリーナ:「マリア、座らないの?」
 マリア:「きっと座った所に盗撮カメラが仕掛けられていて、私のスカートの中が覗けるようになっているはずです。あの変態理事のことですから!」
 イリーナ:「そんなことしなくても、もうあの理事は透視の異能があるみたいだけどね」
 マリア:「ううっ……!」

 マリアはスカートの裾を押さえて、覗かれないように警戒した。

 横田:「クフフフフフフフ……。『服の上依り、内を見通す。是、法華経の極意也』と大聖人も仰せです」
 稲生:「ウソだよ!そんなの聞いたことないよ!」
 安倍:「すみません。うちの横田は相変わらずで……」
 稲生:「安倍総理!」
 安倍:「稲生さん、よくぞ来てくれました。ルーシーも大喜びです。夕食がまだでしょう?晩さん会をご用意しておりますので、もうしばらくお待ちください」
 稲生:「は、はい!」
 安倍:「それと……」

 安倍はマリアに近づいた。
 マリアはまだ稲生以外の男性に警戒心を持っているので、スッと離れる。
 そして、さっきまでマリアが立っていた場所まで来るとしゃがんだ。

 安倍:「横田ぁ〜!変態行為もいい加減にしろよ?」
 横田:「な、なな……何のことでしょうか?わ、私はさっぱり……」

 マリアが立っていた場所には、しっかり超小型のカメラレンズが床に仕掛けられていたのだった。

 安倍:「すいませんでした。画像は後でちゃんと消させますので……」
 マリア:「今消してください!さもないと勇太連れて帰りますよ!!」

 マリアは色白の顔を真っ赤にして安倍に詰め寄った。
 こんなことしても、何故かクビにならない横田であった。

[同日21:00.天候:曇 魔王城新館・ゲストルームエリア]

 安倍:「先ほどは大変失礼致しました。もう横田には勝手なマネはさせませんので」
 イリーナ:「そうしてもらいたいですね」
 安倍:「ゲストルームにご案内致します。今夜はそちらでお寛ぎください」
 稲生:「また、隠しカメラが仕掛けられていたりしませんか?」
 安倍:「その心配はありませんよ。準備に当たりまして、魔王軍近衛兵隊が厳重警備を行いました。横田の出入りは一切ありませんでしたので」
 稲生:「なるほど……。でも、共和党理事って高い地位なんでしょう?近衛兵隊がその下にあったりしたら……」
 安倍:「いえ、近衛兵隊は魔王軍からも切り離された宮内省直轄の警備兵隊なんです。共和党本部からの権限の及ばない所にあります」

 魔王軍からも切り離されているとはあるが、宰相の下には属しているらしい。
 宰相、つまり首相だから安倍だ。

 安倍:「こちらのお部屋です」

 確かに部屋の入口には、近衛兵隊2人がビシッと立哨に当たっていた。
 安倍達の姿を見つけると、青いブレザー調の上着に白ズボン姿をはき、青いドゴール帽を被った兵士達がビシッと敬礼してサッとドアの脇に避け、そのドアを開けた。

 稲生:「スイートルームだ。一晩泊まるだけじゃ、もったいない」

 稲生は素直な感想を漏らした。
 安倍も笑みを浮かべて言う。

 安倍:「稲生さんは今は国賓のようなものですから、一晩と言わず、何日でもゆっくりしてらして構わないんですよ」
 イリーナ:「でもその分、提供する血の量は増えそうだけどね」
 マリア:「一泊だけで立ち去らないと、血を搾り取られるぞ」
 安倍:「はははは……。ルーシーはそんな器の小さい女王じゃありませんよ。吸血鬼として、最低限の吸血を行うだけですから。まもなく晩餐会が始まりますので、お荷物を置いたら、大食堂までご案内致します」

 因みにスイートルームは、空間が1つだけではない。
 何と、和室まであって、稲生は一瞬そこに寝ようかと思ったくらいである。
 キングサイズのベッドで1人分らしいから、それが2つあったので、そこはイリーナとマリア用か。
 稲生は和室の方に布団でも敷いて寝ようかと思ったわけである。

 イリーナ:「じゃあ、荷物を置いて早く行こう。陛下もお待ちだよ」
 稲生:「そうですね」
 マリア:「……はい」

 それでも隠しカメラなどが無いか気にするマリアだった。
 それにしても、別に服装規定があるわけでもないのに、アナスタシア組のスーツ以外で下がスカート以外を着用している魔女はほとんどいない。
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“大魔道師の弟子” 「魔界の不思議な旅 〜アルカディアメトロ(魔界高速電鉄)〜」 2

2016-10-25 16:33:40 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月22日19:55.天候:不明 アルカディアメトロ(魔界高速電鉄)3号線→1号線]

 アルカディアメトロでは高架鉄道線には路線名が付き、軌道線(路面電車)は系統番号、そして地下鉄は号線で呼ぶ。
 稲生達の乗っている電車の運転士はオーガー(一角単眼の食人鬼)であるようだが、王都内に住む者は人喰いをすることもなく、こうして平和に労働に従事しているようである。
 ドラクエに出てくるようなフレイムやホイミスライムみたいなモンスターがハンドルを握っている所を、稲生は見たことがある。
 何も、人型でなくても良いらしい。
 何故なら、アルカディアメトロの電車は自動運転だからである。
 運転席からハンドルがガチャガチャ動く音は聞こえるが、それは運転士が回しているのではない。
 運転士は運転席に座って前方を監視しているだけ。
 もし自動運転ができなくなった場合、手動で運転することもあるが。
 あとは駅に到着したら、ドアの開け閉めをするだけである。

 魔界では遠慮することもないのか、イリーナもマリアも魔法の杖を取り出してそれを足に挟んだり、窓際に立てかけたりしている。
 王都内では魔道師の地位は高く、それを誇示する為もあるのだろうか。

〔「33番街、33番街です。お出口は、右側です」〕

 電車が途中駅のホームに滑り込む。
 停車すると、すぐにドアが開いた。
 普通なら運転席横のドアも開けるのだが、ニューヨーク地下鉄の車両にはそれが無いため、代わりに窓を開けるようだ。

 稲生:「何だか、豊洲駅とか都庁前駅みたい」

 この駅のホームは2面4線になっており、中線がある。
 電車は外側に止まっているので、中線が副線のようである。

〔「対向電車と待ち合わせを致します。5分ほど停車致します。発車まで、しばらくお待ちください」〕

 稲生:「は?対向電車って!?」

 稲生は思わず、電車の進行方向を見た。
 この電車も運転室が向かって右側にある半室構造になっており、左側には前面展望がある。
 しかし、暗いトンネルの中だからなのか、その先が単線になっているようには見えなかった。

 イリーナ:「まあ、もう夜だからね。既に片方の線路は、メンテをやってるからかもしれないね」
 稲生:「へえ……」

 稲生はホームに降りてみた。
 こちらは10番街駅と比べると、若干明るい。

 マリア:「あまり電車から離れないで」

 と、マリアが乗降ドアの前に立って稲生に言った。

 稲生:「えっ、どうしてですか?」
 マリア:「ここは魔界だ。勇太のハイスクールで起きていた現象の大元だから、ヘタするとはぐれるよ」
 稲生:「おおっと!」

 稲生は急いで電車内に戻った。
 もっとも、何か起きたわけではないのだが。

 イリーナ:「来る度に地下鉄やトラムの路線図が変わってるように見えるのは、正にマリアが言ったことさ。勇太君の高校は魔界の入口にあった為に、色々とそこから悪影響を受けていたわけだね。空間が捻じ曲がる現象が起きたなんて話は聞いたことないかい?」
 稲生:「えっと……!」
 イリーナ:「魔界内部でも空間ねじ曲がりなんてザラにあるわけだからね。アタシらは無意識のうちにそんなのに巻き込まれないようにしているわけだけど、勇太君はまだ修行中だから。まあ、魔法の杖を持っていれば大丈夫なんだけどね。ま、変なのにイタズラされる恐れもあるから、今はアタシらから離れない方がいいよ」
 稲生:「わ、分かりました」

 そんなことを話しているうちに、反対側のホームの外側に黄色い電車がやってきた。
 どこの国の車両だか分からないが、確かに保線用の車両に見えた。
 しかし、待ち合わせする電車はそれだけではないらしい。
 この駅も放送は無いらしく、再びトンネルの向こうから、別の電車の風切り音とモーター音が響いて来た。

 稲生:「銀座線の2000形車両に似てるな……」

 それがこちらのホームの隣の線に入って来た。
 すると、向こうの保線用車両が止まったホームは何のホームなのだろう?
 それこそ、イリーナが言っていた空間捻じ曲げによるものなのだろうか。

〔「お待たせ致しました。1号線直通、デビル・ピーターズ・バーグ行き、発車します」〕

 ブーというブザーがホームに響く。
 すぐにドアがバンッと閉まって、電車が走り出した。

〔「お待たせしました。トンネル緊急工事に伴いまして、この先、単線区間となっております。その為、この先においても対向電車との待ち合わせを行う箇所が発生することがあります。予め、ご了承ください。次は16番街、16番街です」〕

 稲生:「トンネル緊急工事?」
 イリーナ:「あー、なるほどねぇ……」

 ここから電車は、やたら警笛を鳴らして走るようになる。
 最初は作業員に注意を促す為かと思ったが、そうではないようだ。
 いや、確かにトンネルに人影は見えるのだが、作業員には見えない。
 イリーナはその理由が分かっているようだ。

 稲生:「何がですか、先生?」
 イリーナ:「勇太君の高校にもあったと思うけどね。校舎に取り残されて、そのまま行方不明になった生徒の話とか」
 稲生:「ええっ?」
 マリア:「アンナなら、その話を詳しく知っていそうです」
 イリーナ:「アーニャは話の内容を相手に侵蝕させるのが好きだからね。捻じ曲げた空間に閉じ込めてやるなんて魔法、あのコならやるわ」
 稲生:「はあ……。それで、それがこのトンネルとどんな関係が?」
 イリーナ:「電車の外をよく見てみな」
 稲生:「?」

 稲生は窓の外を見てみた。
 すると、そこにいたのは……。

 稲生:「あれは……!?」

 対向線をひたすら走る少年。
 彼は東京中央学園の制服を着ていた。

 イリーナ:「恐らく、無限廊下に捕まった少年だね。空間の捻じ曲がった廊下に足を踏み入れた為に、そのままその廊下に閉じ込められてしまったのさ」
 マリア:「おおかた、今でも彼の目に映っているのは夜の学校の廊下で、出口を探す為に走り回っているといったところでしょうか?」
 イリーナ:「そういうことだね。霊感が無く、しかし無限廊下に閉じ込められるとあんな感じ。そして……勇太君、今度は反対側を見てみな」
 稲生:「えっ?」

 今度はトンネルの反対側の壁際を見た。
 線路の外側は人1人分の幅の点検歩廊があるのだが、そこに立って電車に大きく手を振る少女の姿があった。
 だが、電車は冷酷な警笛を鳴らすだけで減速もせず、そのまま過ぎ去って行った。

 稲生:「あのセーラー服、東京中央学園の昔の制服に似てます」
 イリーナ:「その頃から行方不明になったコだろうね。ある程度、霊感が強かったようだ。だから、取りあえず自分が地下鉄のトンネルにいるという状況だけは分かっているみたいだね」
 稲生:「助けないんですか!?」
 イリーナ:「ここは魔界高速電鉄の範疇だからね、アタシらは勝手に手出しができないんだよぉ」
 マリア:「越権行為になるということですね」
 イリーナ:「そういうことさ。もちろん、依頼があれば助けるけどね」
 稲生:「そんな……!」
 イリーナ:「助けたかったら、早いとこ一人前になって、行方不明者の家族・親族の所へ『営業』に行くんだね。魔道師もまた、ビジネスに徹することがあるという一面さ」
 マリア:「私は興味が無いから」

 マリアはバッグの中から出したミク人形とハク人形を抱きながらそう言った。
 電車は無限廊下とリンクしているトンネルをひたすら進む。
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