報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「赤いだけに動きも3倍?」

2016-01-26 21:09:19 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月23日21:30.天候:雨 魔界アルカディア王国西部レッドスターシティ郊外山中 稲生勇太、マリアンナ・ベルフェ・スカーレット、アレクサンドラ(サーシャ)]

 雨が降り続く山中。
 魔道研究所の門の所まで確認したサーシャは、急ぎ足で稲生達が休憩している山小屋まで戻ってきた。
 町中にいたゾンビ達よりも腐敗の酷い山中のゾンビ達は、稲生達の山小屋まで辿り着くことは困難であるようだ。
 だから戻ってきても、実は既に山小屋はゾンビの群れに取り囲まれて……ということはなかった。
 それでも一応、用心の為、扉はマリアの魔法で固く閉ざされている。
 サーシャはドアをノックした。
「私だよ」
「……入って」
 魔法のロックが解かれ、サーシャが中に入ると、何だか様子がおかしかった。
 既にゾンビが来ていたのだろうか。
 いや、だったら、魔法の鍵を掛けておく必要は無い。
 稲生が小屋の中の粗末なベッドに横になっていた。
 で、肩で息をしている。
「稲生!?どうしたんだい?」
「……病気になったみたい」
「はあ!?」
 サーシャが駆け寄ると、稲生は高熱を出していた。
「こ、この雨の中走り回っていたから、風邪でも引いたか?」
「……かもしれない」
「マリアンナさんの魔法は?」
「傷や疲労の回復はできるが、病気までは魔法で治せない」
「……そうか」
「で、何か見つけたのか?」
「ああ。それなんだけど、どうも私達が想像している以上におかしなことが起きてるらしい」
「おかしなこと?」
 サーシャは門扉の前で倒れていた男が手にしていた手帳を見せた。
 稲生達が新聞社で手に入れた新聞や記者の手帳、そしてマリアが手に入れた別の記者の手帳に書かれていた疑問の答えがそこに書かれていた。
 英文で書かれていたが、それを日本語訳すると以下のようになる。

『見ろ!魔道師どもめ!終焉だ!破滅だよ!!杜撰な管理を前々から指摘していたというのに、上層部の連中はことごとく無視し続けて来た!これがその結果だ!こうなった以上、この研究所もオークタウンの隠ぺい用施設も山の麓の町も皆終わりだ!そうなる前に私は逃げて、政府にチクッてやる!』
『あのウィルスの感染力は凄まじい。ヘタをすれば人間界で恐れられている放射能以上に拡散の被害が出る可能性は十分にある。その前に手を打たないと国全体が危険に晒される畏れもある。帝政時代のバァル大帝が薬師系の魔道師を弾圧していたことも、これで十分に頷けたわけだ。弾圧や差別される方にも問題があるとは、よく言ったものだ』
『門扉を開けるにはオークランドの隠ぺい施設に、更に隠ぺいしてある鍵が必要だ。もっとも、さすがに政府も嗅ぎ付けたのか、あの施設は取り壊されることになったようだが……』
『一緒に逃げていたロバートに、化け物の兆候が現れたので、仕方なく殺して所内の地下室に埋めておいた。これで多分、私が最後の生き残りだ』
『ちくしょー  まさか、犬どもまでおりから脱走してやがったとは  あっちこっちかまれて  これじゃ おれも かんせんし  しにたくな  』

「な、何だこれは!?」
「分からないけど、研究所の入口の門の前で死んでたヤツが持ってた。関係者であることは間違いないと思う」
「門の鍵って?」
「実は稲生と一緒に見つけた鍵がある。それかもしれない」
 サーシャは手持ちのポーチの中から、オークタウンの旧貴族の屋敷の中から見つけた鍵を取り出した。
「なるほど」
「研究所が今どうなっているか分からないけども、薬師系の魔道師が運営していたものなら、まだ薬とかあるかもしれないね」
「行ってみるしかないな」
「手帳に出て来たゾンビ犬は私が倒しておいたけど、まだゾンビ達がいる」
「えっ!?」
「町中にいる奴らと違って、もっと体が腐ってるもんだから、ロクに歩けない奴らの方が多い。稲生を担いで行っても、十分に奴らの動きを交わすことはできるわ」
「そ、そうか。それってつまり……」
「あなたも自分の体力で精一杯でしょう?私が稲生を背負って行くから、あなたはついてきて」
「分かった。いざとなったら、私がゾンビを魔法で焼き払ってやる」
「魔法が使えるようになったの?」
「少し休んだら魔力も回復するし、町で確保した回復薬もあるからね」
「了解。稲生、少しの間、辛抱しなよ」
「はい……」
 サーシャは稲生を背負った。
「研究所はあっちだ。しっかりついてくるんだよ」
「……取りあえず、私の方が年上なんだが?」
「あっと!これは失礼!」
「まあ、いい。今はユウタに効く薬を探す方が先」
 マリア達は山小屋を出て、研究所に向かった。

[同日22:00.魔道研究所入口 マリア、サーシャ、稲生]

 手記を持って倒れていた男の元へ行く前には、1ヶ所キツい坂道がある。
 これのおかげで人間のゾンビ達はそれ以上上がれないし、ゾンビ犬達にあっても難しいらしい。
 犬というのは、階段の昇り降りが苦手だからである(ソースは作者の実家の柴犬)。
「!?」
 だが、その門扉の前まで行って、サーシャは異変を感じた。
「どうした、アレクサンドラ?」
「サーシャとお呼び!……死体が無くなってる!?」
「えっ!?」
 サーシャが手記を拾った男の死体が無くなっていた。
「……嫌な予感がする」
 サーシャは男が倒れていたのとは違う場所に、稲生を一旦下ろした。
「サーシャ、どうした?」
「殺気を感じる」
 サーシャは剣を抜いた。
 一体、どうしたのだろうか?
 途中の山道のゾンビ達は、彼らの体の事情と道の構造上、ここまで来ることはできないはずだが……。
「!!!」
 サーシャの予感通り、彼女らに襲い掛かって来る者がいた。
「くっ!こいつ!!」
 それは、先ほど門扉の横で死んでいた男。
 しかし、先ほどとは風体が異なっていた。
 どちらかというと東アジア系の男であったが、その肌の色がまるで赤鬼のように赤く染まっている。
 いや、それだと稲生やマリアの知っている赤鬼、蓬莱山鬼之助が怒るだろう。
 本当の赤鬼は赤銅色の肌をしているだけだと。
 しかし今、サーシャ達に襲い掛かっている男は、まるで全身がうっ血したかのように赤紫色に染まり、特に頭の部分はもっと赤く染まっていた。
 目の部分は他のゾンビのように白く濁っているが、ゾンビ達と違うのは肌の色だけではない。
 まるでホラー映画の“エルム街の悪夢”に出てくるフレディのかぎ爪のように、長く鋭く尖った爪を持っていた。
 フレディのは鉄製のかぎ爪を人工的にはめているだけだが、こちらの方は生の爪である。
 しかも他のゾンビは全体的に動きが遅いのに対し、この全身真っ赤のゾンビ?のような者は、走って向かってきた。
「こいつもゾンビなのか!?」
 まるで武闘家と戦っているかのように素早い。
 サーシャの剣を交わすくらいの動きをする。
 他のゾンビ達が上がれなくて、呻き声だけを上げる数メートル下の崖に落ちても平気。
 むしろ、
「ガァァァァッ!!」
 ゾンビ達にも仲間意識は無く、たまたま集団でいるだけの連中ではあるが、この赤いゾンビは、崖下に落ちてわらわらといる他のゾンビ達を殴り倒している。
 まるで、『オレの邪魔をするな!』とばかりに。
 当然、奴は崖を這い上がって来る。
「ガッ……!!」
 だが、下から上へ向かう場合は不利だ。
 サーシャは上から下へ、剣を赤いゾンビの頭部に突き刺した。
 さしもの赤いゾンビも、脳を貫通させられたのでは無事では済まなかった。
 鋭く生えた牙を剥き出しにしながら、崖の下へと落ちていった。
「ふう……」
「大丈夫か、サーシャ?」
「ええ。今の、なに?ゾンビなの?」
「恐らくは……。何らかの理由で、もっと強い亜種になったのかもしれない……」
「うう……」
「稲生、大丈夫?」
「はぁ……はぁ……」
「くっ、熱が更に酷くなってる!」
「早いとこ中に入りましょう。医務室くらいあるでしょ」
 サーシャは手に入れた鍵を門扉の鍵穴に差した。
 見事、それで門の鍵が開いた。
「早く中へ!」
 サーシャ達はついに研究所の中への進入に成功したのである。

 が、これがまた新たな悪夢の始まりでもあった。
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“大魔道師の弟子” 「そぼ降る雨の山中で」

2016-01-25 19:24:33 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月23日21:00.天候:雨 魔界アルカディア王国西部レッドスターシティ郊外 稲生勇太、アレクサンドラ(サーシャ)、マリアンナ・ベルフェ・スカーレット]

 燃え盛る市街地を離れた3人は、郊外の山に向かった。
 レッドスターシティは山間にある町で、それが為、外部とは隔離されている感がある。
「マリアさん、本当にこの山の中に魔道研究所が?」
「ああ。エレーナから聞いたことがある。この町の郊外には、魔法薬を研究する施設があるんだって。ポーリン師も、そこ出身なんだそうだ」
 生まれた所がそこというわけではなく、人間界を拠点とする前まではその研究所で働ていたという意味だ。
「そ、そうなんですか……」
 さすがに郊外の山まで行くと、ゾンビが徘徊しているということは殆ど無かった。
 だが、
「稲生、どうした?しっかりしろ」
「す、すいません……。結構、キツい坂ですね……」
 稲生は息が上がっていた。
「マリアさんは……大丈夫なんですか?」
「まあ、私は免許皆伝を受けた身だからね。そこの女戦士ほどではないけども……」
「言ってくれますねー。私はパーティーの中では、体力不足で迷惑掛けてたくらいですよ」
 サーシャは苦笑いを浮かべた。
 だが、彼女だけ確かに息が上がっていない。
「それにしても、残念です。水晶球を落とされたとは……」
「あのバイオハザードの中で、逃げ回っていたら、落としもするさ」
 マリアは忌々しそうに答えた。
「研究所に行けば、水晶球くらいあるだろう。それと、町がどうしてあんな風になったのかも分かるはずだ」
「ゼェ……ゼェ……!」
「ちょっと!しっかりしな、稲生。マリアンナさん、研究所はまだ先なのかい?」
「情報に寄れば、あと半分くらいだと思う」
「そうか。あそこに山小屋がある。そこで少し休もう」
「しかし、あまりのんびりしては……」
「稲生とマリアンナさんは、そこで休んでるといい。私はまだ疲れてないから、ちょっと調査してくるよ」
「さすがは戦士さんだ。研究所の場所は分かっても、内部までは私も入ったことが無いからよく分からない。場所を確認してくるだけにした方がいい」
「分かってるさ。どうせおおかた、内部は魔法のセキュリティが掛かったりしているだろうし、そもそも魔法の使えない私がすんなり入れるとも思えないしね」
「そういうことだ」
「じゃ、私が戻って来るまで休んでて」
「明かりはどうします?」
 今は稲生の懐中電灯だけしか無い状態だ。
 山小屋に入ってみると、石油ランプがあった。
 緊急避難小屋的なものなので、特に何か設備があるわけではない。
「石油は十分にあるな」
 ランプが点いた。
「じゃ、この懐中電灯はサーシャが持ってて」
「いいのかい?」
「魔法具じゃないから」
「分かった」
「くれぐれも、ムリはしないように」
「分かってますよ」
「あなた達、戦士は正々堂々とした戦いを望むだろうが、私達魔道師はそれを望むとは限らない。いや、望まないことの方が多い」
「ええ、分かってますよ」
 サーシャは苦笑した。

 サーシャが出て行くと、マリアは眉を潜めた。
「あの戦士、魔道師と旅をしたことでもあるのか?意外と私達のことを知ってる」
「ええ。昔、冒険者仲間にいたと言ってました。今、どこで何をしているかまでは分かりませんが、かなりの実力者なので、弟子でも取ってその育成でもしているんじゃないかと」
「名前は?」
「聞くの忘れました」
 戦士というのは正々堂々とした戦いを望むが、魔道師は魔法を駆使するだけに、そんな戦士達から見れば卑怯とも言える手段を惜し気も無く使う時がある。
 味方にすれば、いつの間にか敵が消えてるという楽な事態になることもある反面、敵に回せば大変なことになるということをサーシャは話していた。
 サーシャがマリアンナに対して尊大な態度を取ることが無いのは、何もマリアンナが年上だからというだけではなかった。
「……後でサーシャが戻ったら聞こう」
「怒らないんですか?」
「ユウタには助けられたから、いいよ。ありがとう。助けてくれて」
「いえ、僕は運に守られただけですから」
 たまたま酒の入った瓶が足元に落ちており、しかもそれがウォッカで、更に天井に当たった時に割れた上、照明のローソクが灯っていたことが幸いだった。
 ウォッカはローソクの火が点いて燃え出し、真下にいたゾンビに燃え移った。
「運を駆使するのも、魔法の1つだよ」
「そう言ってもらえると……」

[同日21:15.天候:雨 レッドスターシティ郊外山中 サーシャ]

「何だい、何だい?結局、ここにもゾンビがいるじゃないか」
 だが、町中にいた者達とはだいぶ違う。
 町中にいた市民達のゾンビも、それはそれでホラーチックであったが、こちらのゾンビは更に腐敗が進んでいた。
 町中の方が最近のゾンビ映画のゾンビ、今ここでサーシャの前に立ちはだかっているのが昔のゾンビ映画のゾンビって感じだった。
 つまり、土葬された墓場の中から出てきたかように腐敗していたのである。
 当然、歩く速度も遅いし、大半はそもそも歩けない状態だ。
 腹這いになって、サーシャに向かって来ようとしている。
 そんなものは、サーシャの相手ではない。
 あとは、
「バウッバウッ!」
「ガルルル!」
 ゾンビ化した野犬……のようなもの。
 犬のゾンビであったが、野犬なのか、そもそもどこかで飼われていたものなのかどうかが分からない。
 犬のゾンビはゾンビ化しても、人間のそれとは違い、脚力は失われていなかった。
「くっ、ナメんじゃないよっ!」
 サーシャが苦戦したのは、人間のゾンビよりも、犬のゾンビの方だった。
(こいつら、研究所の衛兵か何かか?)
 ゾンビ犬だけ倒したサーシャは、不審に思った。
 昔、魔道師と旅をしていた時、その魔道師が言っていたことを思い出す。
 魔道師の中には、人間から見れば不気味なモンスターをわざと護衛に配置している者がいると。
 多くは普通の人間が怖がる物を置いていて、それで自分の身を守るのだと。
 ここではゾンビを配置しているのだろうか。
(でも、研究所はまだ先のはず。もう、こんな所まで警戒しているなんて……。まあ、魔道師の考えてることは分からないけど)
 サーシャはそんなことを考えながら先へ進んだが、途中で道が二股に分かれていた。
「くっ、どっちだ?」
 マリアからは二股に分かれているとは聞いていない。
 もしかしたら、また最後には合流するというパターンかもしれない。
(取りあえず、右へ行ってみよう)
 サーシャは右の道へ進んだ。

 しばらく進むと、
「!?」
 鉄製の柵で先の道が塞がれ、同じ鉄製の2枚扉が閉じられていた。
 で、その横に1人の黒衣の男が倒れていた。
「……死んでるか」
 その男は事切れていた。
 ゾンビではないが、あっちこっちを噛み千切られていることから、ゾンビに殺されたらしい。
 手に何かを持っている。
「これは……!」
 そこには大変なことが書かれていた。
(研究所はこの奥みたいだね。取りあえず一旦、稲生達の所に戻ろう。門の鍵を取ってこなきゃいけない)
 サーシャは男の持っていた手帳を斜め読みした後、来た道を取って返した。

 ゾンビ犬は既に死んでおり、腐敗した人間のゾンビ達が呻き声を上げてサーシャの行く手を阻もうとしたが、当然できなかったし、できそうになった者も首を跳ね飛ばされたり、ナイフで脳天を串刺しにされたりして、本当に堕獄するハメになってしまった。
 尚、ナイフは町中や旅の途中で手に入れたものである。
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“大魔道師の弟子” 「魔道師達のバイオハザード」 3

2016-01-25 10:33:35 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月23日18:30.天候:雨 魔界アルカディア王国西部レッドスターシティ 稲生勇太&アレクサンドラ(サーシャ)]

 火災が起きている市街地を進む稲生達。
「あれが対策本部のあった役所だって」
「何たるちゃあ……」
 役所は崩壊して、今なお火の手を上げていた。
 周辺には黒焦げになった死体の山。
 それが生き残っていた人間のものなのか、はたまたゾンビだったのかは分からない。
 ただ少なくとも、そんな状態で起き上がって、稲生達に襲い掛かって来るようには見えなかった。
「マリアさんがいるのは、この近くらしいです」
「探すよ!」
「はい!」
 稲生達は役所の近くを探した。
 この辺りで火の手を上げているのは役所くらいのもので、まだ周辺の商店街にあっては火災は起きていなかった。
「アアア……!」
「くそっ!こいつらに意思疎通の知能があれば、捕まえてマリアンナさんの情報聞き出してやるところなんだけどね!」
 サーシャは忌々しそうにゾンビの首を刎ね飛ばしてやった。
 もちろんゾンビには、呻き声を上げて足を引きずりながら、生存者の血肉を求めて徘徊することくらいしかできない。
「あっ!」
 その時、稲生はとある商店の前に人だかりができているのが分かった。
 といっても、たかっている人達というか、それはゾンビ達であるのだが。
 その店の看板には、『Cafe』の文字が。
「サーシャさん、あそこ!」
「うわっ、あんなに沢山!店のオープンセレモニーじゃあるまいし!」
「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!あの不死なる者共に堕獄の制裁を!イ・ウォ!」
 稲生は覚えたてのCクラスの魔法を使った。
「お、いいじゃん!」
 サーシャは目を丸くした。
 爆発系の魔法の中ではCクラス、つまり最下位の強さであり、店の前に集まっているゾンビ達を一掃することはできなかった。
 1番後ろにいた何体かが倒れただけ。
 が、少なくとも、比較的前の方にいたゾンビ達にまで、関心を稲生達に向けることはできたようだ。
 稲生達を新たな獲物と認識し、呻き声を上げながらヨタヨタと向かってくる。
「ちょっと稲生、まだ数が多いね。私1人なら抜けることはできるかもだけど、中の様子が分からない。もう少し奴らを減らすことができない?」
「しょうがない。これはさっきの新聞社の中で拾ったものですが、これを使います」
 稲生はローブの中から、石炭のようなものを出した。
 大きさは拳大ほど。
 サーシャにはそれに見覚えがあった。
「お、いいもの持ってんじゃん。それ、“爆弾岩のつぶて”だろ?確か、投げると……」
「魔法で少しアレンジを加えてあります!」
「えっ?」
 稲生は“爆弾岩のつぶて”をゾンビ達とは少し方向をずらした方に投げた。
 本来の効果は手榴弾である。
 敵に向かって投げると、爆発を起こして、集団の敵を一掃するというもの。
 本来なら集団の中心に投げるべきものだが、稲生はあえてその中心から離れた所に投げた。
 すると、

 ピコーン!ピコーン!ピコーン!

「アー……?」
「ウー……!」
 そのつぶてからオレンジ色の光が不規則に放たれ、特殊な信号音みたいな音が辺りに鳴り響く。
 店の外にいたゾンビ達はそれに強い関心を持ち、引き寄せられるようにフラフラとそのつぶてに集まり出した。
 店の外にいた連中だけでなく、既に中に侵入した者達もわざわざ出てきて向かうほどであった。
「一体、何が起きるんだい?」
「シッ。黙って見てて!」
 粗方ゾンビ達が集まったところで、

 チュドォォォォン!!

「きゃっ!」
「意外と強力だぁ……!耳が痛い」
 やっと爆発し、多くのゾンビ達は全身がバラバラになったり、黒焦げになったりと、爆発に巻き込まれた者で無事な者は1人としていなかった。
「稲生の魔法より強力だね」
「すいません」
「まあいいさ。あれも魔法具なんだろ?魔法具を駆使するのも、魔道師さんの特徴なんだろうからね」
「そ、そうですとも!」
「それより、中の様子はどうだい!?」
「おっ、そうだ!マリアさーん!」
 稲生達は店の中に飛び込んだ。

 店の中にはまだ3体のゾンビがいた。
「マリアさーん!」
 声を掛けたが、中からマリアの声はしなかった。
 ゾンビ3体のうち、2体は稲生達に気づいて、こっちに向かってきた。
「稲生!あいつを殺せ!」
 サーシャが2体に向かって剣を振りながら、残りの1体について大声を出した。
 何故サーシャがそんなことを言ったか。
 残りの1体は、今まさにマリアに手を出す直前の為、稲生達に改めて関心を向ける必要が無かったからだ。
 最後の1体はカウンターを乗り越えようと、必死でもがいていた。
 腐った肉体なので、なかなかカウンターをよじ登れそうに無い。
「マリアンナさんはそのカウンターの下にいる!恐らく!」
「は、はい!」
 稲生は落ちていた酒瓶を拾い上げた。
 昼間はカフェだが、夜はバーになるのだろう。
 その酒瓶にはウォッカが入っているらしい。
「マリアさんから離れろ!!」
 稲生は酒瓶をゾンビに向かって投げた。
 が、コントロールは物凄く悪く、天井に当たっただけだった。
 天井に当たった瓶は、そこから吊るされた火の点いたローソクと一緒にゾンビに落ちて割れた。
 アルコール度数90パー以上のウォッカと、火の点いたローソクが一緒に当たったらどうなるか。
「ギャアアアアアッ!!」
 カウンターにいたゾンビが火に包まれた。
 が、そのショックか、火だるまのゾンビがカウンターの向こう側に落ちてしまった。
「えっ、ウソ!?」
 稲生は慌ててカウンターの向こう側に向かった。
「わあーっ!?」
 やはりカウンターの向こう側には誰かがいたようで、一緒に燃え上がっていた。
「な、何やってんだい!?」
 ゾンビ2体を倒したサーシャが慌ててやってくる。
「は、早く水を……!あ、いや、ダメだ!油に水掛けたら余計燃える!」
「ユウタ!?」
 すると、マリアが別の場所から現れた。
「あれ!?マリアさん!?」
 マリアはトイレから出て来た。
「ゾンビに取り囲まれたから、ここに隠れていたんだが……」
「そっちだったのか!」
「てか、この店にも火が点いた!無事だと分かったら、早く逃げよう!」
 サーシャは店内にあった、割れていない酒瓶やら何やらごっそり持ち出した。
 これでは火事場泥棒だ。

 しかし、ゾンビ達は生きた人間の血肉は求めるが、酒には興味が無いということだ。
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“大魔道師の弟子” 「魔道師達のバイオハザード」 2

2016-01-24 23:21:12 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月23日18:00.天候:雨 アルカディア王国西部レッドスターシティ マリアンナ・ベルフェ・スカーレット]

 対策本部があるという役所に向かうマリア。
 既に夜が近づいているということもあり、町は薄暗くなってきた。
 あちらこちらからゾンビの呻き声や、生き残った市民達の叫び声が聞こえて来た。
 また、雨も降って来たので、マリアはローブのフードを被って走った。
「アアア……!」
「ウウウ……!」
 ゾンビ達は雨の中でもマリアの姿を見つけては追い掛けようとはするが、雨でできたぬかるみに足を取られて転倒する者が続出した。
「確か、あの角を曲がれば役所だったはず!」
 マリアはゾンビ達の待ち伏せに警戒しながら、しかし速やかに裏の細道の角を曲がった。
「なっ……!?」
 だが、マリアはその役所に着くことは叶わなかった。
 何故なら、その役所は業火に包まれていたからである。
 どうやらつい最近、火事になったばかりらしい。
 だがこの混乱の状態では、誰が火を消すというわけでもなく、成す術も無く建物全体に燃え広がってしまったのだろう。
 人間界と違って、消火設備も貧弱であろうし……。
「ちくしょう……!どうしたら……!」
「た、助けてくれーっ!」
「!?」
 すると、その業火の役所の中から、火だるまになった男が飛び出してきた。
「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!主よ!この者に水の祝福を!我に力を……わぁっ!?」
 マリアが魔法の杖を突き出して、魔法を唱えようとした時だった。
 同じく火だるまになったゾンビが、救助を求めて来た男に食らい付いた。
 男は最後に手帳らしき物を投げると、ゾンビと共に燃え尽きてしまった。
「あ……!く……はっ……!」
 壮絶な場面に、さすがのマリアも腰を抜かしそうになった。
「ユウタと会うまでは……こんな所で……」
 マリアは咄嗟に手帳を拾い上げると、役所の敷地の外へと逃げ出した。
 敷地内には同じく燃え盛る建物からわらわらと出て来たゾンビ達がいて、マリアを追い掛けようとしたが、それはできなかった。
 何故なら木造3階建ての役所は、ついに業火の炎を上げながら盛大に崩れ落ちたからである。

 敷地内にいたゾンビ達は、強制的に“火葬”されることとなった。

[同日同時刻 天候:雨 同市内アルカディア・タイムス支局内 稲生勇太&アレクサンドラ(サーシャ)]

 外から雨の音と時折聞こえる叫び声、そして内外から聞こえるゾンビ達の呻き声。
 それらの音に交じって、犬の遠吠えまで聞こえる。
「もうすぐ夜だね。おあつらえ向きに、ホラーチックな展開だよ」
 サーシャは支局内に徘徊していたゾンビを斬り伏せると、そう言った。
「そうですね」
 稲生は倒れて血だまりを作りながらも、まだピクピクと動いているゾンビにしかめっ面をした。
 例え元は人間だったといっても、それこそホラー映画のゾンビ並みに変貌してくれていたのがまだ幸いだった。
 ほとんど人間と変わらぬ姿をしていたら、稲生の心情はもっと大混乱していただろう。
「この町はもう終わりだな。見な、稲生。あっちこっちで火の手が上がってる。もう誰も消すヤツがいないんだ」
「そんな……」
「早いとこ避難しないと、私達もゾンビに食われる前に丸焼きになってしまう。目ぼしい情報を見つけたら、1度ここを出よう」
「は、はい」
 さすがに情報の発信元となっている場所だ。
 一般に新聞が発行されていたのが、3日前までだ。
 アルカディア・タイムス日本語版は無かったが、英語版を見るに、人喰い事件が頻発するようになったという記事が目に入った。
 そしてその後、この町にいた魔道師達が姿を消したということも……。
 新聞記者の手帳には、魔道師の誰かに極秘取材を行う予定を入れていた者がいたとのことだ。
「稲生!隣の建物が火事になったみたいだ!ここに燃え移る前に避難しよう!」
 稲生が記者のデスクを調べている間、ゾンビの侵入をサーシャが警戒していてくれたのだが、ゾンビではなく、火災によって強制的にタイムアウトとなってしまった。
「は、はい!」
 断腸の思いで稲生は、3日前の新聞と記者の手帳だけを持ち出して、避難することにした。

「うわっ!」
 新聞社の外に出ようとした時、稲生は段差に躓いて転んでしまった。
「大丈夫かい?つまらないことでケガするんじゃないよ?」
「す、すいません……。大丈夫です。ケガは無いです」
 ケガは無かったが、ポケットからスマホやら手帳やらを落としてしまった。
「アァア……!」
「ウー……!」
「くっ、ここは避難所じゃないよ!」
 稲生が落とした物を回収している間にも、彼らの姿を発見したゾンビ達が向かってくる。
 サーシャは血糊を拭いたばかりの剣で、またもやゾンビ達を斬り倒した。
「稲生!早くしな!また奴らが来るよ!」
「ま、待ってください!」
 稲生は震える手で、何度もスマホを拾おうとしては落とすを繰り返した。
 ようやく手にした時、稲生は思わず通話でマリアに掛けてしまったようだ。
 普通なら圏外であるため、繋がらないはずだった。
 が!
「あ、あれ!?」
 スピーカーから、コールの音が聞こえた。
 そして、
{「ゆ、ユウタか!?」}
「マリアさん!」
{「無事なのか!?今、どこだ!?」}
「僕は無事です!今、レッドスターシティのアルカディア・タイムスの前にいます!」
{「ユウタも、魔界に……!」}
「マリアさんはどこですか?」
{「私は役所の近くのカフェにいる。ぞ、ゾンビに取り囲まれて……!もう、魔法が使えない……!」}
「い、今行きます!待っててください!」
「稲生の好きな魔道師さん、やっぱりこの町に?」
「そうなんです!ゾンビに取り囲まれてピンチらしいんです!急がないと!役所の近くのカフェだそうです!」
「了解。役所は……あそこで火炎を上げてる建物じゃないか!?」
「ええーっ!?」
「う、うん。新聞社で手に入れた町の地図からして、あそこっぽい。……てか!た、対策本部が全焼してるって、やっぱダメじゃん!この町!」
「と、とにかく行かないとマリアさんが危ない!魔法が使えなくなってるらしいんです!」
「なにっ!?急ぐよ!」
「はい!」

 稲生とサーシャは火災が起きている町の中心部、かつゾンビが徘徊する街中を突き進んだ。
 生きている人間なら火災が発生したなら避難行動をするところだが、ゾンビくらい頭が腐ったヤツともなると、そもそも熱さすら感じなくなる、火への恐怖も無くなるのかもしれない。
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“大魔道師の弟子” 「魔道師達のバイオハザード」

2016-01-23 22:42:50 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月23日17:00.天候:曇のち雨 魔界アルカディア王国西部都市レッドスターシティ マリアンナ・ベルフェ・スカーレット]

「はぁ……はぁ……はぁっ……!」
 マリアは息せき切って、比較的近代的な建物が立ち並ぶ都市の市街地を走り回っていた。
「アー……!」
「アウゥゥ……ッ!」
「ちくしょっ!ここにも……!」
 マリアの目の前に現れたのは、人間の男が2人。
 だがその姿は、異様であった。
 目の虹彩は白く濁っており、着ている衣服はボロボロだ。
 そして、まるで夢遊病者のようにヨタヨタ、モタモタと歩いている。
 だがその視線は明らかにマリアの方を向き、不潔に伸びた爪が特徴の手をだらりと前に垂らして、マリアに向かってきた。
 衣服から覗く皮膚は腐っており、既に腐乱死体の腐臭を放っていた。
 つまり、歩く死体、リビングデッド、またはゾンビといっても差し支えはない。
 そういうモンスターが徘徊する町なのだろうか。
 稲生達が滞在したオークタウンは、その名の通り、オークが住む町であったが……。
 だが、常にゾンビが秩序良く暮らす町にしては、やはりおかしかった。
 逃げ遅れたと思われる市民は、そのゾンビ達に捕まり、食い殺されていた。
 マリアは魔法の杖を持っていたが、逃げ回って魔法を使っているうちに、残りの魔力が残り僅かになってしまった。
 使い切るということは、死に直結しかねない。
 マリアは目の前に現れた倉庫の中に飛び込んだ。

 幸いそこには避難民達が肩を寄せ合っていた。
 治安維持に当たる警備兵(人間界の警察官に当たる)も1人いたのだが、成す術もなく、この避難所を守るのが精一杯といった感じだった。
 奥にはケガ人の救護所があり、そこで生き残った市民達が負傷者の救護に当たっていた。
「一体、何が起きたんだ?」
 マリアは警備兵に尋ねたが、
「分からない。ほんの1週間前くらいから、町の至る所に不審者の情報が相次いで寄せられていたので、我々も警戒していた。私も不審者に声を掛けたところ、いきなり襲われた。どうやら、ほぼ、同時多発的にこの暴動が起きたらしい」
「暴動?そんな風には見えないが……。あのゾンビみたいな奴らは何なんだ?」
「何かの病に冒されていたらしいな」
 と、別の避難民が答えた。
「あんた、旅の魔道師さんだろ?魔法で何とかしてくれよ」
「何とかしたいのは山々だが、原因と状況が分からないのであれば、どうしようもない。魔力だって無限にあるわけではないのだからな」
 マリアは正直に答えるしかなかった。
「元々この町にはゾンビが住んでいたのか?」
「まさか!あのゾンビ達は、元々この町の普通の住民だ。それがどういうわけか、ああなって他の市民達を襲うようになったのだ」
(“魔の者”が憑依した?いや、だったら何もゾンビのような姿にする必要は無いだろう)
 マリアは“魔の者”犯人説を考えたが、状況的にそれは否定した。
「何かの病って何だ?」
「何らかの皮膚病だか熱病が流行ったことがあったんだ。外を徘徊している奴らは、その病人達だ。お、俺は見たんだ。隣の雑貨屋のマイケルも、全身の痒みを訴えて、高熱にうなされた。だから俺は医者を呼んだんだが、医者でも手に負えない有り様だった。俺はこの町に伝染病でも流行ったのかと思ったんだが、そしたらマイケルのヤツ、突然起き上がって……医者を襲いやがったんだ」
「……!」
「それも、ただ襲ったんじゃなく、医者に食らい付いて……わあーっ!!」
「アアアアッ!」
「うわっ!よせっ!やめろーっ!!」
「くそっ!」
「!!!」
 奥にいた救護所のケガ人達が突然、周囲の避難民達を襲い出した。
 皆、外にいるゾンビ達のようになっていた。
 警備兵が、
「魔道師さん、ここは私が食い止める!裏口から出るんだ!裏口から出たら、真っ直ぐ役所へ向かえ!そこが対策本部になっているはずだから、そこへ逃げろ!」
「わ、分かった!」
 マリアは裏口から外へ逃げた。
 裏口のドアを閉めた直後、中から警備兵の断末魔が聞こえた。
「くっ……!」
 マリアは目を瞑ると、裏道を走り出した。
(この町には私の他に魔道師達がいるはず。一体、何をやっているんだ!)

 裏道とて安全な道とは言えず、路地裏や民家からゾンビ化した住民達が飛び出してきては、マリアに食らい付こうとした。
 マリアは素早い動きでそれらの攻撃を交わしたが、体力には自信の無い魔道師である。
 いつまでもこんなことができるわけがなかった。
(早く役所に避難して、状況と原因を探らなくては……!)

[同日同時刻 天候:曇のち雨 レッドスターシティ 稲生勇太&サーシャ]

「さ、サーシャ!」
「くっ……寄るんじゃないよ、変態!」
 サーシャは食らい付こうと近づいて来るゾンビ達を剣でバッタバッタと斬り伏せる。
「表通りはダメだ!わらわらと化け物達がやってくるだけだ!裏道を進むよ!」
「は、はい!」
 2人は路地の中に飛び込んだ。
「この町の地理なんかさっぱり分からないのに……!」
「一体、どうなってるんだい、この町はァ!?」
「本当に、この町にマリアさんが!?」
「もう既に避難しちまった後かもしれないね!」

 バリーン!

「アアアア!」
「わあっ!?」
 建物の窓を破って、ゾンビが襲って来た。
「でやあーっ!」
 サーシャがゾンビの首と胴を切り離してやる。
 ゾンビは今度こそ本当に即死したようだ。
「ここも危ない。モタモタしてらんないね」
「しかし、どこへ逃げれば!?」
「どこか手近な避難所でもあれば……」
「こんな状態で……!?」
 路地を抜けて再び表通りらしい所に出ると、当然またゾンビ達が何人も徘徊していた。
「サーシャ、あの建物へ!」
「よ、よし!」
 稲生達はボーッと突っ立っているゾンビや、逃げ遅れた市民達を捕食するのに夢中になっているゾンビ達の目を盗んで、近くの建物に飛び込んだ。
 それは5階建ての建物だった。

「ここは……!?」
 飛び込んで、ガラスドアの鍵を掛ける。
 まだこちらに気づいているゾンビはいないようだった。
「アルカディア・タイムスの支局みたいですね。新聞社なら、この町に何が起きたか分かってるかもしれない!」
 だが、飛び込んだ1階ホールは無人で静まり返っていた。
「ちっ、この建物も化け物達に占領されてしまったらしいね」
 サーシャは上階などから、ゾンビ達の呻き声がするのを聞いた。
 だが、外は外で危険だ。
 もしこの建物にいるゾンビの数が少ないのであれば、まだサーシャの剣で斬り捨てることができる。
 ゾンビとて不死ではなく、出血多量の傷を付けられれば、さすがに本当に死ぬらしいし、さっきみたいに首を刎ね飛ばしてやっても良いらしい。
 間違っても、頭が無い状態でも襲って来るということはないようだ。
「取りあえず、上の階を目指そう」
「は、はい!」

 アルカディア王国の都市部は、明治時代〜昭和一ケタくらいの文明であるらしい。
 このビルはインフォメーションによれば5階建てらしく、まるで東京の明治生命館にあるような古めかしい木造ドアのエレベーターがあったのだが、故障しているのか、はたまた電源が落ちているだけなのか、ボタンを押しても全く動く気配が無かった。
「しょうがない。階段で行くしか無いか」
 2人は階段を上がって、まずは2階に行くことにした。
コメント (4)
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