報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「赤いだけに動きも3倍?」

2016-01-26 21:09:19 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月23日21:30.天候:雨 魔界アルカディア王国西部レッドスターシティ郊外山中 稲生勇太、マリアンナ・ベルフェ・スカーレット、アレクサンドラ(サーシャ)]

 雨が降り続く山中。
 魔道研究所の門の所まで確認したサーシャは、急ぎ足で稲生達が休憩している山小屋まで戻ってきた。
 町中にいたゾンビ達よりも腐敗の酷い山中のゾンビ達は、稲生達の山小屋まで辿り着くことは困難であるようだ。
 だから戻ってきても、実は既に山小屋はゾンビの群れに取り囲まれて……ということはなかった。
 それでも一応、用心の為、扉はマリアの魔法で固く閉ざされている。
 サーシャはドアをノックした。
「私だよ」
「……入って」
 魔法のロックが解かれ、サーシャが中に入ると、何だか様子がおかしかった。
 既にゾンビが来ていたのだろうか。
 いや、だったら、魔法の鍵を掛けておく必要は無い。
 稲生が小屋の中の粗末なベッドに横になっていた。
 で、肩で息をしている。
「稲生!?どうしたんだい?」
「……病気になったみたい」
「はあ!?」
 サーシャが駆け寄ると、稲生は高熱を出していた。
「こ、この雨の中走り回っていたから、風邪でも引いたか?」
「……かもしれない」
「マリアンナさんの魔法は?」
「傷や疲労の回復はできるが、病気までは魔法で治せない」
「……そうか」
「で、何か見つけたのか?」
「ああ。それなんだけど、どうも私達が想像している以上におかしなことが起きてるらしい」
「おかしなこと?」
 サーシャは門扉の前で倒れていた男が手にしていた手帳を見せた。
 稲生達が新聞社で手に入れた新聞や記者の手帳、そしてマリアが手に入れた別の記者の手帳に書かれていた疑問の答えがそこに書かれていた。
 英文で書かれていたが、それを日本語訳すると以下のようになる。

『見ろ!魔道師どもめ!終焉だ!破滅だよ!!杜撰な管理を前々から指摘していたというのに、上層部の連中はことごとく無視し続けて来た!これがその結果だ!こうなった以上、この研究所もオークタウンの隠ぺい用施設も山の麓の町も皆終わりだ!そうなる前に私は逃げて、政府にチクッてやる!』
『あのウィルスの感染力は凄まじい。ヘタをすれば人間界で恐れられている放射能以上に拡散の被害が出る可能性は十分にある。その前に手を打たないと国全体が危険に晒される畏れもある。帝政時代のバァル大帝が薬師系の魔道師を弾圧していたことも、これで十分に頷けたわけだ。弾圧や差別される方にも問題があるとは、よく言ったものだ』
『門扉を開けるにはオークランドの隠ぺい施設に、更に隠ぺいしてある鍵が必要だ。もっとも、さすがに政府も嗅ぎ付けたのか、あの施設は取り壊されることになったようだが……』
『一緒に逃げていたロバートに、化け物の兆候が現れたので、仕方なく殺して所内の地下室に埋めておいた。これで多分、私が最後の生き残りだ』
『ちくしょー  まさか、犬どもまでおりから脱走してやがったとは  あっちこっちかまれて  これじゃ おれも かんせんし  しにたくな  』

「な、何だこれは!?」
「分からないけど、研究所の入口の門の前で死んでたヤツが持ってた。関係者であることは間違いないと思う」
「門の鍵って?」
「実は稲生と一緒に見つけた鍵がある。それかもしれない」
 サーシャは手持ちのポーチの中から、オークタウンの旧貴族の屋敷の中から見つけた鍵を取り出した。
「なるほど」
「研究所が今どうなっているか分からないけども、薬師系の魔道師が運営していたものなら、まだ薬とかあるかもしれないね」
「行ってみるしかないな」
「手帳に出て来たゾンビ犬は私が倒しておいたけど、まだゾンビ達がいる」
「えっ!?」
「町中にいる奴らと違って、もっと体が腐ってるもんだから、ロクに歩けない奴らの方が多い。稲生を担いで行っても、十分に奴らの動きを交わすことはできるわ」
「そ、そうか。それってつまり……」
「あなたも自分の体力で精一杯でしょう?私が稲生を背負って行くから、あなたはついてきて」
「分かった。いざとなったら、私がゾンビを魔法で焼き払ってやる」
「魔法が使えるようになったの?」
「少し休んだら魔力も回復するし、町で確保した回復薬もあるからね」
「了解。稲生、少しの間、辛抱しなよ」
「はい……」
 サーシャは稲生を背負った。
「研究所はあっちだ。しっかりついてくるんだよ」
「……取りあえず、私の方が年上なんだが?」
「あっと!これは失礼!」
「まあ、いい。今はユウタに効く薬を探す方が先」
 マリア達は山小屋を出て、研究所に向かった。

[同日22:00.魔道研究所入口 マリア、サーシャ、稲生]

 手記を持って倒れていた男の元へ行く前には、1ヶ所キツい坂道がある。
 これのおかげで人間のゾンビ達はそれ以上上がれないし、ゾンビ犬達にあっても難しいらしい。
 犬というのは、階段の昇り降りが苦手だからである(ソースは作者の実家の柴犬)。
「!?」
 だが、その門扉の前まで行って、サーシャは異変を感じた。
「どうした、アレクサンドラ?」
「サーシャとお呼び!……死体が無くなってる!?」
「えっ!?」
 サーシャが手記を拾った男の死体が無くなっていた。
「……嫌な予感がする」
 サーシャは男が倒れていたのとは違う場所に、稲生を一旦下ろした。
「サーシャ、どうした?」
「殺気を感じる」
 サーシャは剣を抜いた。
 一体、どうしたのだろうか?
 途中の山道のゾンビ達は、彼らの体の事情と道の構造上、ここまで来ることはできないはずだが……。
「!!!」
 サーシャの予感通り、彼女らに襲い掛かって来る者がいた。
「くっ!こいつ!!」
 それは、先ほど門扉の横で死んでいた男。
 しかし、先ほどとは風体が異なっていた。
 どちらかというと東アジア系の男であったが、その肌の色がまるで赤鬼のように赤く染まっている。
 いや、それだと稲生やマリアの知っている赤鬼、蓬莱山鬼之助が怒るだろう。
 本当の赤鬼は赤銅色の肌をしているだけだと。
 しかし今、サーシャ達に襲い掛かっている男は、まるで全身がうっ血したかのように赤紫色に染まり、特に頭の部分はもっと赤く染まっていた。
 目の部分は他のゾンビのように白く濁っているが、ゾンビ達と違うのは肌の色だけではない。
 まるでホラー映画の“エルム街の悪夢”に出てくるフレディのかぎ爪のように、長く鋭く尖った爪を持っていた。
 フレディのは鉄製のかぎ爪を人工的にはめているだけだが、こちらの方は生の爪である。
 しかも他のゾンビは全体的に動きが遅いのに対し、この全身真っ赤のゾンビ?のような者は、走って向かってきた。
「こいつもゾンビなのか!?」
 まるで武闘家と戦っているかのように素早い。
 サーシャの剣を交わすくらいの動きをする。
 他のゾンビ達が上がれなくて、呻き声だけを上げる数メートル下の崖に落ちても平気。
 むしろ、
「ガァァァァッ!!」
 ゾンビ達にも仲間意識は無く、たまたま集団でいるだけの連中ではあるが、この赤いゾンビは、崖下に落ちてわらわらといる他のゾンビ達を殴り倒している。
 まるで、『オレの邪魔をするな!』とばかりに。
 当然、奴は崖を這い上がって来る。
「ガッ……!!」
 だが、下から上へ向かう場合は不利だ。
 サーシャは上から下へ、剣を赤いゾンビの頭部に突き刺した。
 さしもの赤いゾンビも、脳を貫通させられたのでは無事では済まなかった。
 鋭く生えた牙を剥き出しにしながら、崖の下へと落ちていった。
「ふう……」
「大丈夫か、サーシャ?」
「ええ。今の、なに?ゾンビなの?」
「恐らくは……。何らかの理由で、もっと強い亜種になったのかもしれない……」
「うう……」
「稲生、大丈夫?」
「はぁ……はぁ……」
「くっ、熱が更に酷くなってる!」
「早いとこ中に入りましょう。医務室くらいあるでしょ」
 サーシャは手に入れた鍵を門扉の鍵穴に差した。
 見事、それで門の鍵が開いた。
「早く中へ!」
 サーシャ達はついに研究所の中への進入に成功したのである。

 が、これがまた新たな悪夢の始まりでもあった。
コメント (11)
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