報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「魔道師達のバイオハザード」

2016-01-23 22:42:50 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月23日17:00.天候:曇のち雨 魔界アルカディア王国西部都市レッドスターシティ マリアンナ・ベルフェ・スカーレット]

「はぁ……はぁ……はぁっ……!」
 マリアは息せき切って、比較的近代的な建物が立ち並ぶ都市の市街地を走り回っていた。
「アー……!」
「アウゥゥ……ッ!」
「ちくしょっ!ここにも……!」
 マリアの目の前に現れたのは、人間の男が2人。
 だがその姿は、異様であった。
 目の虹彩は白く濁っており、着ている衣服はボロボロだ。
 そして、まるで夢遊病者のようにヨタヨタ、モタモタと歩いている。
 だがその視線は明らかにマリアの方を向き、不潔に伸びた爪が特徴の手をだらりと前に垂らして、マリアに向かってきた。
 衣服から覗く皮膚は腐っており、既に腐乱死体の腐臭を放っていた。
 つまり、歩く死体、リビングデッド、またはゾンビといっても差し支えはない。
 そういうモンスターが徘徊する町なのだろうか。
 稲生達が滞在したオークタウンは、その名の通り、オークが住む町であったが……。
 だが、常にゾンビが秩序良く暮らす町にしては、やはりおかしかった。
 逃げ遅れたと思われる市民は、そのゾンビ達に捕まり、食い殺されていた。
 マリアは魔法の杖を持っていたが、逃げ回って魔法を使っているうちに、残りの魔力が残り僅かになってしまった。
 使い切るということは、死に直結しかねない。
 マリアは目の前に現れた倉庫の中に飛び込んだ。

 幸いそこには避難民達が肩を寄せ合っていた。
 治安維持に当たる警備兵(人間界の警察官に当たる)も1人いたのだが、成す術もなく、この避難所を守るのが精一杯といった感じだった。
 奥にはケガ人の救護所があり、そこで生き残った市民達が負傷者の救護に当たっていた。
「一体、何が起きたんだ?」
 マリアは警備兵に尋ねたが、
「分からない。ほんの1週間前くらいから、町の至る所に不審者の情報が相次いで寄せられていたので、我々も警戒していた。私も不審者に声を掛けたところ、いきなり襲われた。どうやら、ほぼ、同時多発的にこの暴動が起きたらしい」
「暴動?そんな風には見えないが……。あのゾンビみたいな奴らは何なんだ?」
「何かの病に冒されていたらしいな」
 と、別の避難民が答えた。
「あんた、旅の魔道師さんだろ?魔法で何とかしてくれよ」
「何とかしたいのは山々だが、原因と状況が分からないのであれば、どうしようもない。魔力だって無限にあるわけではないのだからな」
 マリアは正直に答えるしかなかった。
「元々この町にはゾンビが住んでいたのか?」
「まさか!あのゾンビ達は、元々この町の普通の住民だ。それがどういうわけか、ああなって他の市民達を襲うようになったのだ」
(“魔の者”が憑依した?いや、だったら何もゾンビのような姿にする必要は無いだろう)
 マリアは“魔の者”犯人説を考えたが、状況的にそれは否定した。
「何かの病って何だ?」
「何らかの皮膚病だか熱病が流行ったことがあったんだ。外を徘徊している奴らは、その病人達だ。お、俺は見たんだ。隣の雑貨屋のマイケルも、全身の痒みを訴えて、高熱にうなされた。だから俺は医者を呼んだんだが、医者でも手に負えない有り様だった。俺はこの町に伝染病でも流行ったのかと思ったんだが、そしたらマイケルのヤツ、突然起き上がって……医者を襲いやがったんだ」
「……!」
「それも、ただ襲ったんじゃなく、医者に食らい付いて……わあーっ!!」
「アアアアッ!」
「うわっ!よせっ!やめろーっ!!」
「くそっ!」
「!!!」
 奥にいた救護所のケガ人達が突然、周囲の避難民達を襲い出した。
 皆、外にいるゾンビ達のようになっていた。
 警備兵が、
「魔道師さん、ここは私が食い止める!裏口から出るんだ!裏口から出たら、真っ直ぐ役所へ向かえ!そこが対策本部になっているはずだから、そこへ逃げろ!」
「わ、分かった!」
 マリアは裏口から外へ逃げた。
 裏口のドアを閉めた直後、中から警備兵の断末魔が聞こえた。
「くっ……!」
 マリアは目を瞑ると、裏道を走り出した。
(この町には私の他に魔道師達がいるはず。一体、何をやっているんだ!)

 裏道とて安全な道とは言えず、路地裏や民家からゾンビ化した住民達が飛び出してきては、マリアに食らい付こうとした。
 マリアは素早い動きでそれらの攻撃を交わしたが、体力には自信の無い魔道師である。
 いつまでもこんなことができるわけがなかった。
(早く役所に避難して、状況と原因を探らなくては……!)

[同日同時刻 天候:曇のち雨 レッドスターシティ 稲生勇太&サーシャ]

「さ、サーシャ!」
「くっ……寄るんじゃないよ、変態!」
 サーシャは食らい付こうと近づいて来るゾンビ達を剣でバッタバッタと斬り伏せる。
「表通りはダメだ!わらわらと化け物達がやってくるだけだ!裏道を進むよ!」
「は、はい!」
 2人は路地の中に飛び込んだ。
「この町の地理なんかさっぱり分からないのに……!」
「一体、どうなってるんだい、この町はァ!?」
「本当に、この町にマリアさんが!?」
「もう既に避難しちまった後かもしれないね!」

 バリーン!

「アアアア!」
「わあっ!?」
 建物の窓を破って、ゾンビが襲って来た。
「でやあーっ!」
 サーシャがゾンビの首と胴を切り離してやる。
 ゾンビは今度こそ本当に即死したようだ。
「ここも危ない。モタモタしてらんないね」
「しかし、どこへ逃げれば!?」
「どこか手近な避難所でもあれば……」
「こんな状態で……!?」
 路地を抜けて再び表通りらしい所に出ると、当然またゾンビ達が何人も徘徊していた。
「サーシャ、あの建物へ!」
「よ、よし!」
 稲生達はボーッと突っ立っているゾンビや、逃げ遅れた市民達を捕食するのに夢中になっているゾンビ達の目を盗んで、近くの建物に飛び込んだ。
 それは5階建ての建物だった。

「ここは……!?」
 飛び込んで、ガラスドアの鍵を掛ける。
 まだこちらに気づいているゾンビはいないようだった。
「アルカディア・タイムスの支局みたいですね。新聞社なら、この町に何が起きたか分かってるかもしれない!」
 だが、飛び込んだ1階ホールは無人で静まり返っていた。
「ちっ、この建物も化け物達に占領されてしまったらしいね」
 サーシャは上階などから、ゾンビ達の呻き声がするのを聞いた。
 だが、外は外で危険だ。
 もしこの建物にいるゾンビの数が少ないのであれば、まだサーシャの剣で斬り捨てることができる。
 ゾンビとて不死ではなく、出血多量の傷を付けられれば、さすがに本当に死ぬらしいし、さっきみたいに首を刎ね飛ばしてやっても良いらしい。
 間違っても、頭が無い状態でも襲って来るということはないようだ。
「取りあえず、上の階を目指そう」
「は、はい!」

 アルカディア王国の都市部は、明治時代〜昭和一ケタくらいの文明であるらしい。
 このビルはインフォメーションによれば5階建てらしく、まるで東京の明治生命館にあるような古めかしい木造ドアのエレベーターがあったのだが、故障しているのか、はたまた電源が落ちているだけなのか、ボタンを押しても全く動く気配が無かった。
「しょうがない。階段で行くしか無いか」
 2人は階段を上がって、まずは2階に行くことにした。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする