報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「冒険の始まりは突然に」

2016-01-16 21:25:45 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月7日12:00.天候:晴 長野県白馬村郊外・マリアの屋敷 稲生勇太、マリアンナ・ベルフェ・スカーレット、イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

 積もった雪が除雪されて、土が剥き出しになった中庭。
 そこに魔法陣が描かれていた。
 除雪されていない柔らかい雪の上に仰向けに倒れて、大きく息の上がっている稲生の姿があった。
 そんな稲生の姿を、普段は目を細めているイリーナが目を開いていた。
 感情が昂った時の現象だが、別に憤怒の感情を出しているわけではない。
 むしろ、その逆だ。
「スゴい!スゴーい!」
 と、驚喜の声を上げている。
「午前中で1つか2つの魔法を覚えられれば御の字だと思っていたけど、5つも覚えられるなんてスゴいわ!」
「はぁ……はぁ……」
 師匠の褒め言葉は聞こえたが、稲生はそれに反応できなかった。
 魔法を使うということは、その強さに応じた精神力を使うことになる。
 即ち、使う魔法が強ければ強いほど、必要になる精神力も強いものでなければならないというわけだ。
 だから稲生は、肉体的に疲れているわけではなかった。
「どう?立てないでしょ?別に激しい運動をしたわけでもないのに、まるでそうしたかのような疲れ。でも、そう言われてみても、それとはやっぱり違う疲れ。これがあなたの言うMP(マジックポイントまたはマジックパワー)がゼロになった状態よ」
 イリーナはローブの中から、液体の入った小瓶を取り出した。
「はい、これ飲んでー」
 稲生はイリーナに小瓶の液体を飲ませてもらった。
 少し、体が楽になるような感覚になる。
 MPを回復させる薬のようだ。
「先生……」
「素質があるどころか、凄い才能だわ。最終的には、アタシを超えるかもしれないね」
「本当ですか?」
「うん!この調子で頑張ってね」
「はい!」
「……で、マリアはどうなのかしら?」
「……何とか覚えました。ムェ・ルァ・ゾゥ・マ」
「メラゾーマ?確か、火系の魔法の中で強力なものですね。あ、それで、その辺の雪が融けてたんですね」
「他には?」
「……それだけです」
「マリアも素質はあるんだけどねぇ……」
「どうせ私はユウタほどの才能は無いですよ」
「まあまあ、マリアさん。僕はCクラスの魔法だけですから。Aクラスって、物凄く大変なんでしょう?」
「それはそうだが」
「イリーナ先生は更にその上のSクラスの魔法が使えるんだから、改めて凄いと思います」
「そのSクラスを惜し気も無く連続使用できるダンテ先生は、もはや神の領域だね」
「おいおい、褒めたところで何も出さないよ、ボクは」
「はっはっはー!それもそうかぁ!」
「せ、先生!?」
「師匠!後ろ!」
 弟子達が青い顔をした。
「んー?」
 イリーナが振り向くと、
「はぁうっ!?」
「ハロー。元気にしてたかい?」
 大師匠ダンテ・アリギエーリがいた。
 黒いローブに身を包み、フードを深く被っている。
 そこから見える顔の下半分は、やはりどう見ても浅黒い肌をしていることから、稲生はダンテが黒人ではないかと見ている。
 浅黒いことからアフリカ系ではなく、中東系とかその辺。
「ダンテ先生!」
 イリーナはびっくりして飛び上がり、弟子達は慌てて片膝をついて畏まった。
「熱心に修行をしているようで、感心だな。いやね、キミの弟子の指導法について、他の魔道師達から不安視する声が聞こえたものだからさ。インドに視察に来たついでに寄ってみたんだ」
(インドに行ったついでに来る所なんだ、ここは……)
 稲生は大魔道師達のスケールのデカさに驚いた。
「この分なら、そんなに心配は無いみたいだね」
「特に、稲生君は類まれな才能を持っているようです。将来有望ですわ」
「そうかい。それは楽しみだな。それより、準備はできたかい?」
「準備……って、何かありましたっけ?」
「ほほお……。キミ、これから中国で落ち合って、魔界の穴の調査をする約束をしていたじゃないか?」
「あっ?……ああーっ!!」
「師匠。まさか、大師匠様とのお約束を忘れていたと……」
 マリアは呆れた顔をした。
「まあ、いい。そんなことだろうとは思っていた。今からでいいから仕度しなさい。……ああ、キミ達は来なくて結構だ。ちょっと厄介事でね。見習君とマスターに成り立てでは手に負えそうにない」
 ダンテは暗に稲生とマリアのことを言った。
 マスターに成り立てとは言えど、一人前になったマリアでさえ、手に負えない事案とは一体何なのだろう。
「しょうがないから、後は自習ね。そうね。アタシが戻って来るまで、宿題を出しておくわ。稲生君はCクラスの魔法をあと5つ覚えなさい。マリアはAクラスの魔法を3つ覚えること」
「は、はい」
「み、3つもですか!?」
「そうよ」
「何気にユウタよりキツくないですか、私?」
「あのねぇ、あなたは仮にもマスターになった魔道師よ?それに比べて、ユウタ君は私に弟子入りしてからまだ1年も経ってない。修行法が同じなワケないじゃないの」
「ううっ……!」
「じゃあ、準備ができたらアタシは行くからね。1つ屋根の下で仲良くするのは大いに結構だけど、修行の妨げにならない程度にね」
「え……?」
「なっ……?!」
 イリーナが帰って来るのは1週間後の予定だというから、それまでに課題をこなさなければならない。

[1月14日?時刻不明(夜間?)場所不明 天候:晴 稲生勇太]

「う……」
 稲生は目を覚ました。
「気がついた?」
「えっ?」
 稲生が起き上がると、目の前に火があった。
 どうやら焚き火らしい。
 その向こう側に、1人の女性がいた。
「この辺で倒れていたんだよ。放っておくわけにもいかないからね。見たところ、大したケガは無さそうだけど……」
「え……と……?」
 稲生は直近の記憶を思い出した。
(確か、僕は……)

[1月14日02:00.マリアの屋敷 稲生勇太]

 稲生は何とかイリーナに与えられた課題をこなすことに成功した。
 Cクラスといっても、それぞれの魔法に特色があり、覚え方にそれぞれコツがある。
 それを掴まないと、なかなか覚えられないというのはあった。
 それでも何とか覚えることができ、就寝しようとした時、稲生は意変に気づいた。
 2階の自室の窓の外に、何か光のようなものが見えたのだ。
 窓を覗くと、中庭の魔法陣が鈍い光を放っているようだった。
 稲生の部屋からだと、魔法陣の全景が見えない。
 まだマリアがAクラスの魔法を2つ覚えただけで止まってしまったので、魔法陣は消さずにしておいたのだ。
(マリアさんがまだ使ってるのかな?)
 マリアは3つ目の魔法が覚えられないことに苛立ちを抑え切れず、ほとんど不貞腐れた感じで自室に引きこもってしまった。
 さすがに頭を冷やして、もう1度チャレンジしようとしたのかもしれない。
 稲生は寝間着から私服に着替え、ローブを羽織って、自分用の杖を持って魔法陣に向かった。

 魔法陣は青と緑の間の色の光を放っていたが、そこにマリアはいなかった。
「あれ、マリアさん?」
 稲生はキョロキョロと辺りを見渡したが、マリアの姿は無かった。
(んん?マリアさん、どこ行った?あれ?マリアさんじゃないのかな???)
 魔法陣が勝手に光るとは考えられない。
 異常発生中であると困るので、取りあえず屋敷に戻ろうと思った。
 踵を返すと、魔法陣の光は更に強くなり……。
「えっ!?」
 まるで巨大な掃除機に吸い込まれるかのように稲生の体が吸い寄せられ、そのまま魔法陣の中に引き込まれてしまった。

[1月14日?時刻不明(夜間?)場所不明 稲生勇太&謎の女性]

「……おーい?聞こえるかー?」
「……はっ!?」
 目の前に、稲生に話し掛けてきた女性がいた。
「あ、あの!ここはどこですか!?」
「魔界アルカディア王国の外れだよ。何だい?あなたは他国の人間なのかい?」
「魔界!?また魔界に来ちゃったのか……。僕は人間界から来たんです」
「へえ、そうなんだ!話には聞いたことあるけどね。その恰好、魔道師なんでしょ?私はワケあって旅をしている、ちょっと剣が使えるだけの者なんだけど、ちょうどあなたのような魔道師を探していたんだ。話を聞いてくれる?」
「えっ?えーと……」
「その後で、あなたの話も聞こうじゃない」
「はあ……」
 よく見ると女性は右側に剣を置き、左手に簡素な兜を置いていた。
(何だろう?また“魔の者”が暴れ出したんだろうか?)

 ここから稲生の冒険が始まる……のかもしれない。
コメント (3)
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