報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「大魔道師が見た夢」

2016-01-04 19:59:57 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月28日13:43.天候:晴 JR大宮駅西口→西武バス大38系統車内 稲生勇太、マリアンナ・ベルフェ・スカーレット、イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

 電車を降りた魔道師3人は、そのうちの1人、稲生の案内で大宮駅西口へ出た。
 さいたま市内の一大ターミナル駅でごちゃごちゃしていることもあって、マリアには歩きにくい駅である。
 高架歩道の下に、1台のバスが止まっていた。
「あのバスです」
「そう」
 バッグを抱えて、よいしょよいしょと下りて行くと、バスがエンジンを掛けた。
 アイドリングストップの観点から、バスは発車直前までエンジンを止めていることが多いが、逆に言えば、エンジンを掛けた時が、『まもなく発車します』の合図といったところか。
 もっとも、外国なら本当に、『それで分かるだろ?』的にそのまま発車して行きそうなものだが、日本の場合は優しいもので、

〔「お待たせ致しました。中並木経由、大宮駅東口行き、発車致します」〕

 と、放送してくれるのである。
 バスに乗り込んだ3人を最後の乗客とし、バスは西口パスプールを発車した。

〔♪♪♪。大変お待たせ致しました。ご乗車ありがとうございます。このバスは上小町、中並木経由、大宮駅東口行きです。次は新国道、新国道。……〕

 3人はあえて、1番後ろの座席に座った。
 バスは稲生達を除いて、数人しか乗っていない。
 稲生の目論見通りだった。
「それで、先生が見た夢というのは?」
「……稲生君、また魔界に行くことになりそうね」
「えっ?」
 イリーナが見た夢のシーンは4コマ。
 彼女が見る予知夢は、継続されたものではなく、断片的なもので、数秒から数十秒程度の動画がいくつが流れるというもの。
 それが4つのシーンに分かれていたというものだった。
 そのうち2つに登場したのは、
「恐らく、魔界での傭兵さんかしら。稲生君やマリアより年上っぽいけど、まだ30は行ってないでしょうね。その女戦士と稲生君が、モンスター達と戦っているシーンが1つ。もう1つは、どこかのダンジョンらしき所で、稲生君がパソコンのキーボードを叩いていて、その周りをうろつくモンスター達を同じ女戦士が倒していた」
「魔界にパソコンなんてあるんですか?」
「あるわよ。魔王城の謁見の間なんか、人間界から持ち込んだパソコンをルーシー女王が打ち込んでるってよ」
「他には?」
「もう1つは1番短い映像でね、藤谷さんが出てたよ」
「藤谷班長が?」
「だから、それは人間界でしょうね。何しろ、ガソリンスタンドで燃料を入れている所を稲生君が話しているシーンだったから」
「はあ、なるほど……。最後の1つは?」
「藤谷さんが、何かもう1人の男と喋ってるシーンだったね」
「それだけ?」
「最後に藤谷さんが、もう1人の男の肩をポンと叩いて終わりだった。藤谷さんが日本人なのに対して、もう1人の男は白人っぽかったね」
「それ、当たりますか?」
「動画が短ければ短いほど、当たる確率も低いのよ。ユウタ君が女戦士と一緒に行動しているシーンは、どっちも1分以上あったから、高確率だね」
「また、“魔の者”でも暴れ出すのでしょうか?」
「分かんないねー。第一、魔道師のことは魔道師の中で片付けるのが鉄則だよ?どうして、ビキニアーマーの女戦士が一緒なのか分かんないねー。しかも、マリアもアタシもいなかったし」
「ええっ?」
「だから、何かあるんだろうね」
「どのくらい先の予知ですか?」
「稲生君、いつもの恰好をしていたから、そんなに長いこと先ではないと思うね」
「いつもの恰好というと……」
「まあ、その恰好。見習用のローブを羽織って、見習用のステッキを持っていたからね」
「そうですか……。何なんでしょうね」
 稲生はスマホを取り出し、とある画像を見せた。
「ビキニアーマーというと、こんな感じの……」
 ウィキペディア日本語版には、それのコスプレ写真が掲載されている。
「ああ、そうそう。こんな感じだったね。まあ、ここまで露出は多くなかったけど、でも、軽装備の動きやすい鎧だったね」
「……人間界でのレイヤーさんじゃないですよね?」
「モンスターとガチバトルしてたから、多分魔界だと思う」
「そうですか」
「うん」
「師匠。ユウタはしばらく監視しておいた方が良いでしょうか?」
「えっ?」
「何で?」
「またこの前みたく、“魔の者”に拉致でもされたら……」
「まだ“魔の者”の仕業かどうか分からないし、アタシの予言で高確率のものは、イコールほぼ100パー当たるも同然だってことはマリアも知ってるでしょ?」
「まあ……それはそうですけど」
 マリアは少し不機嫌な顔をした。
「ジタバタしたって、どうにもならないよ。因みにその女戦士、職業柄少し筋肉質だったけど、顔は結構きれいな方だったよ」
「作者の好みでしょ」
 そうそう。……って、コラ!
「僕、運動はあまり得意な方じゃないんですけどねぇ……」
「ああ、それは大丈夫。別に、ユウタ君が剣を取って戦ってたってわけじゃないから。どっちかっていうと、その女戦士に守ってもらってるって感じだったね」
「そうなんですか?」
「魔界では魔道師の存在は大きいからね。もしかしたら、むしろ向こうから何か頼まれ事をされて、一緒に歩いてるだけかもしれないよ」
「見習いの僕じゃ、何もできないと思いますけど……」
「ま、今ここであーだこーだ言っててもしょうがないよ。少なくとも、これから何が起こるのか分かっただけでも良しってしなきゃね」
「はあ……」

[同日14:00.天候:晴 上落合八丁目バス停→向かいのガソリンスタンド 稲生、マリア、イリーナ]

 バスは県道上のバス停に停車した。
 首都高速が地下を走る大通りだが、僅か1日3往復しか走らない免許維持路線で、中型バスしか走らない所に、大仰なバス停車帯というのは勿体ない設備のような気がする。
 バスを降りて、その大通りを横断歩道で渡る。
 するとファミリーマートとエネオスが一緒になった所があるのだが、そこのガソリンスタンドに見覚えのある車が止まっていた。
 シルバーのベンツEクラス。
 現行年式のものではなく、前の年式ものだ。
 藤谷が中古で購入したものらしいが、それでも200万円はしたとのこと。
 そう、藤谷のベンツである。
 ナンバーも希望ナンバーだ。
「イリーナ先生の予言、当たりましたね?」
「こんな早いタイミングなんてねぇ……」
 藤谷が自分の車にガソリンを入れているシーンは、まず当たったわけだ。
 低い確率のものが当たったということは、やはり高い確率のものはガチで当たるか?
「藤谷班長」
 車から降りてきた藤谷。
 左ハンドルなので、左から降りてくる。
 稲生が話し掛けると、
「おー、稲生君!久しぶりだな?」
「ええ、お久しぶりです」
「すると、イリーナ先生達も一緒か」
「あいよ。アタシはここだよー」
「これはこれはイリーナ先生。御無沙汰しております」
 屈強な体つき、尚且つ強面の藤谷が揉み手をしてペコペコとイリーナにお辞儀をした。
「お仕事の方は、絶好調らしいじゃない」
「大変おかげさまで。大手からの仕事もじゃんじゃん入るようになりましたし、もうてんやわんやの状態ですよ」
「それは良かったわねぇ……」
「それで班長、どうして東京で仕事をしている班長がここに?」
「おう。今度、さいたま新都心の開発工事の仕事が取れたんで、その関係でな」
「確かにあそこ、工事してましたもんね。また何か建てるんですか?」
「そんな所だ。いやあ、ここでイリーナ先生とお会いできて、大変光栄です」
「アタシの予知夢に2回も登場したんだから、何かしら協力してもらうことになるかもしれないねぇ……」
「ええっ?アッシで良かったら、いつでも協力しますよ」
「白人に知り合いはいないかい?もちろん、アタシら以外で、尚且つ男だよ」
「うーん……。実は何人かいるんスよ」
「えっ?」
「今、宗門では海外布教にも力を入れてるもんでぇ、法道院さん辺りがアジア系信徒を入れてらっしゃるのに対し、うちでは白人が入ってますね」
「日蓮正宗系ですかね?先生」
 と、稲生。
「あー、そうか。アタシゃてっきり藤谷さんの仕事関係かと思ったけど、宗教関係かもしれないね」
「それが、どうかしたんスか?」
「まだ分からないんです。でも、イリーナ先生の予知夢に登場されたわけですから、少なくとも班長が何かしらのキーマンかもしれないんです」
「キーマンか。何か、照れるな。ま、アッシで良かったら、できる限りのご協力はさせて頂きますよ」
「その時はよろしくね」
「ええ。ですので先生、今後とも我が藤谷組をどうぞ、何卒1つ……」
 藤谷は終始、揉み手を崩さなかった。

 前回でも何気に活躍した藤谷。
 今回は……というか次回?は、何をしてくれるのだろうか。
 そして、稲生の身に起こる出来事とは?
コメント (4)
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