報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「サンモンドの疑惑」

2016-01-30 20:49:28 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月24日04:00.魔界レッドスターシティ郊外山中にある魔道研究所・医務室 稲生勇太、マリアンナ・ベルフェ・スカーレット、アレクサンドラ・エヴァノビッチ(サーシャ)、サンモンド・ゲートウェイズ]

 ワクチンを投与して暴れ出した稲生だったが、その後でまた昏々と眠りに就いた。
 その間はマリアが看ており、サンモンドやサーシャが古城内の探索に当たっていた。
「この古城の裏口と裏門を見つけた。化け物の気配は無い。この城から脱出するなら、そこが適切だと思う」
 サンモンド達が医務室に戻って来てそう言った。
「ただ、問題があってね。裏口は内鍵で開けられるんだけど、肝心の門が開かないんだ」
 と、サーシャ。
「魔法使い達の研究所だから、そこも魔法の結界か何かで閉じられてるのかと思ったんだけど、そこの船長でも分からないらしいんだ」
「魔法で閉じられているとは思えないが、鍵穴も無い。これはもしかしたら、どこかで遠隔で開けるタイプの門ではないかと思ってね」
「そうなのか」
「かといって、門の周辺を調べても、それらしいのは見つからなかった。稲生君が目が覚めたら、改めて手分けして探したいと思うのだが……」
「う……」
 その時、稲生が呻き声を上げた。
「稲生君!?」
「稲生!」
「ユウタ!?」
 呻き声といっても、それはゾンビの呻き声ではなく……。
「う……ん……」
 稲生が目を開けた。
 それはゾンビのような濁った白目ではなかった。
「マリアさん……?」
「稲生、無事か?」
「サーシャ……?ここは……?」
「魔道研究所の中にある医務室だ。キミはウィルスに感染して、危うくゾンビ化するところだったんだよ。どこか痒かったり、熱っぽい感じはしないかい?」
「……いいえ。特に無いです」
「そうかい。それは良かっ……」
 サンモンドが言い終わらないうちに、マリアが稲生に抱きついた。
「ま、マリアさん!?」
「ユウタ……良かった……良かった……!」
「す、すいませんでした……」
「感動の場面のところ申し訳無いが、ゆっくりしてはいられないみたいなんだ。感動の続きは、ここを脱出してからにしよう」
 と、サンモンド。
「急いで脱出する必要があるのかい?」
 サーシャがサンモンドを見据えた。
「理由は2つある。重要な理由ともっと重要な理由があるが、どっちから聞きたい?」
「普通に重要な理由から聞かせてくれ。あとの方がメシマズ的な話になりそうだ」
 サーシャがそう答えた。
「分かった。まずそれは、大量のゾンビ達がここを目指して歩いている」
「ええっ?!」
「恐らく町の方には、奴らの食す“食料”が無くなってしまったのだろう。まあ、大火から避難してきたというのもあるだろうが」
「城の入口にはキッツい坂があって、足の腐った奴らが登れるとは思えないけどね?」
「城の屋上から見てみたんだが、奴らには仲間意識というものが無い。途中で力尽きて倒れた者でも、平気でそれを踏み越えてしまう。つまり、そういった者達を踏み越えて、こっちに来る可能性が大ということだ。今頃、入口の門扉を呻き声を上げながら力任せに叩いているところだろう。破られるのも、時間の問題だ。裏口はその反対側だから、そんな所に化け物がいるとは思えない」
「なるほどね。もう1つは?」
「さすがの政府も、この事態を嗅ぎ付けらしい。あの惨状を見て、生存者ゼロと見なしたようだ」
「じゃあ、待っていても救助は来ないというわけか」
 と、マリア。
「救助が来ないどころか、夜明けと共にこの町は無くなる」
「は!?」
「何だって!?」
「どういうことですか?」
「これを見てくれ。私の発言のソースだ。この城には、既に治安部隊が突入しててはいたらしい。もっとも、化け物に殺されて全滅していたがね」
 それは何枚かの文書。

『……レッドスターシティの惨状においては、もはや一刻の猶予もならぬ。原因の調査と並行して生存者の救助を最優先としたいところだが、もはやそれも絶望的であることが分かった。こうなった以上、政府として取れる手段は、町そのものの滅菌(滅却とも言う)しか手立てが残されていない。政府はこの程、軍部に雷光集積兵器“ライディーン”の発動を命じた。発動は夜明けと共に行われる。任務に当たっているものは、夜明けまでに町を脱出すること』

「その軍人達、連絡手段は持ってないのかい?」
「私が見つけた何人かは持っていたのだが、既に壊れていた。化け物と戦っている間に壊れたのだろう」
「分かった。じゃあ、探すことにしよう」
「頼む。じゃあ、手分けして探すことにしよう。稲生君は私と来なさい」
「は、はい」
「!?」
「先ほどまで私は、サーシャと一緒に行動していたからね。今度はパートナーを入れ替えて、行動しようじゃないか。その方が効率的だ」
「船長、私は……」
 マリアは何か言い掛けたが、サーシャがそれを制した。
「分かった。マリアンナさん、別にいいじゃないか。ここを脱出できれば、また稲生と再会できるんだから」
「それはそうだが……」
「それじゃ、行くよ」
「私達は西館を探す。キミ達は東館をよろしく」
「分かった。まあ、この城の化け物達は粗方倒しておいたから、安心して探索するといい。この時季の夜明けといったら、6時くらいだろう。それまでに何としてでも脱出手段を見つけるんだ」

[同日04:30.魔道研究所・西館 稲生&サンモンド]

 西館側の警備室に行ってみた。
 そこでは警備員の死体が転がっていたのだが、ゾンビ化して襲って来ることはなかった。
 室内の資料を読んでいると、あることが分かった。
 裏門付近は最近、不審者の影がちらつくようになったので、用心の為、普通の鍵から遠隔操作で開けるタイプに変えたそうである。
 但し、魔法での施解錠はできないようにした。
 この研究所の特性から、そうする必要があったとのこと。
「この研究所の特性?」
「魔法タイプにしてしまうと、強かったり弱かったりと一貫性を見ないからということだろう」
「ああ。そういえば、オークタウンで見たヤツもそうでしたね。……地下の制御室から操作して開けるタイプですか。何だか、大掛かりだなぁ……」
「それだけ、普段は開けないつもりなのだろうね」
「地下に行くには……」
「途中でそれらしき階段を見つけたよ。ただ、鍵が掛かっていたんだが……。あ、そうか」
 サンモンドはポンと手を叩いて、警備員の死体のポケットを探った。
「あったあった。これだ。マスターキー」
「おー!」
「これで行ってみよう。夜明けまでもう時間が無いから急ごう」
「はい!何か船長と一緒にいると、何でも上手く行きそうな気がしますよ」
「!……そ、そうかい?それは光栄だね。さ、早く行こう」
 サンモンドは稲生を促した。

 どうして一瞬、サンモンドは稲生の何気ない言葉に焦ったのだろうか。
コメント (2)
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