報恩坊の怪しい偽作家!

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“大魔道師の弟子” 「そぼ降る雨の山中で」

2016-01-25 19:24:33 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月23日21:00.天候:雨 魔界アルカディア王国西部レッドスターシティ郊外 稲生勇太、アレクサンドラ(サーシャ)、マリアンナ・ベルフェ・スカーレット]

 燃え盛る市街地を離れた3人は、郊外の山に向かった。
 レッドスターシティは山間にある町で、それが為、外部とは隔離されている感がある。
「マリアさん、本当にこの山の中に魔道研究所が?」
「ああ。エレーナから聞いたことがある。この町の郊外には、魔法薬を研究する施設があるんだって。ポーリン師も、そこ出身なんだそうだ」
 生まれた所がそこというわけではなく、人間界を拠点とする前まではその研究所で働ていたという意味だ。
「そ、そうなんですか……」
 さすがに郊外の山まで行くと、ゾンビが徘徊しているということは殆ど無かった。
 だが、
「稲生、どうした?しっかりしろ」
「す、すいません……。結構、キツい坂ですね……」
 稲生は息が上がっていた。
「マリアさんは……大丈夫なんですか?」
「まあ、私は免許皆伝を受けた身だからね。そこの女戦士ほどではないけども……」
「言ってくれますねー。私はパーティーの中では、体力不足で迷惑掛けてたくらいですよ」
 サーシャは苦笑いを浮かべた。
 だが、彼女だけ確かに息が上がっていない。
「それにしても、残念です。水晶球を落とされたとは……」
「あのバイオハザードの中で、逃げ回っていたら、落としもするさ」
 マリアは忌々しそうに答えた。
「研究所に行けば、水晶球くらいあるだろう。それと、町がどうしてあんな風になったのかも分かるはずだ」
「ゼェ……ゼェ……!」
「ちょっと!しっかりしな、稲生。マリアンナさん、研究所はまだ先なのかい?」
「情報に寄れば、あと半分くらいだと思う」
「そうか。あそこに山小屋がある。そこで少し休もう」
「しかし、あまりのんびりしては……」
「稲生とマリアンナさんは、そこで休んでるといい。私はまだ疲れてないから、ちょっと調査してくるよ」
「さすがは戦士さんだ。研究所の場所は分かっても、内部までは私も入ったことが無いからよく分からない。場所を確認してくるだけにした方がいい」
「分かってるさ。どうせおおかた、内部は魔法のセキュリティが掛かったりしているだろうし、そもそも魔法の使えない私がすんなり入れるとも思えないしね」
「そういうことだ」
「じゃ、私が戻って来るまで休んでて」
「明かりはどうします?」
 今は稲生の懐中電灯だけしか無い状態だ。
 山小屋に入ってみると、石油ランプがあった。
 緊急避難小屋的なものなので、特に何か設備があるわけではない。
「石油は十分にあるな」
 ランプが点いた。
「じゃ、この懐中電灯はサーシャが持ってて」
「いいのかい?」
「魔法具じゃないから」
「分かった」
「くれぐれも、ムリはしないように」
「分かってますよ」
「あなた達、戦士は正々堂々とした戦いを望むだろうが、私達魔道師はそれを望むとは限らない。いや、望まないことの方が多い」
「ええ、分かってますよ」
 サーシャは苦笑した。

 サーシャが出て行くと、マリアは眉を潜めた。
「あの戦士、魔道師と旅をしたことでもあるのか?意外と私達のことを知ってる」
「ええ。昔、冒険者仲間にいたと言ってました。今、どこで何をしているかまでは分かりませんが、かなりの実力者なので、弟子でも取ってその育成でもしているんじゃないかと」
「名前は?」
「聞くの忘れました」
 戦士というのは正々堂々とした戦いを望むが、魔道師は魔法を駆使するだけに、そんな戦士達から見れば卑怯とも言える手段を惜し気も無く使う時がある。
 味方にすれば、いつの間にか敵が消えてるという楽な事態になることもある反面、敵に回せば大変なことになるということをサーシャは話していた。
 サーシャがマリアンナに対して尊大な態度を取ることが無いのは、何もマリアンナが年上だからというだけではなかった。
「……後でサーシャが戻ったら聞こう」
「怒らないんですか?」
「ユウタには助けられたから、いいよ。ありがとう。助けてくれて」
「いえ、僕は運に守られただけですから」
 たまたま酒の入った瓶が足元に落ちており、しかもそれがウォッカで、更に天井に当たった時に割れた上、照明のローソクが灯っていたことが幸いだった。
 ウォッカはローソクの火が点いて燃え出し、真下にいたゾンビに燃え移った。
「運を駆使するのも、魔法の1つだよ」
「そう言ってもらえると……」

[同日21:15.天候:雨 レッドスターシティ郊外山中 サーシャ]

「何だい、何だい?結局、ここにもゾンビがいるじゃないか」
 だが、町中にいた者達とはだいぶ違う。
 町中にいた市民達のゾンビも、それはそれでホラーチックであったが、こちらのゾンビは更に腐敗が進んでいた。
 町中の方が最近のゾンビ映画のゾンビ、今ここでサーシャの前に立ちはだかっているのが昔のゾンビ映画のゾンビって感じだった。
 つまり、土葬された墓場の中から出てきたかように腐敗していたのである。
 当然、歩く速度も遅いし、大半はそもそも歩けない状態だ。
 腹這いになって、サーシャに向かって来ようとしている。
 そんなものは、サーシャの相手ではない。
 あとは、
「バウッバウッ!」
「ガルルル!」
 ゾンビ化した野犬……のようなもの。
 犬のゾンビであったが、野犬なのか、そもそもどこかで飼われていたものなのかどうかが分からない。
 犬のゾンビはゾンビ化しても、人間のそれとは違い、脚力は失われていなかった。
「くっ、ナメんじゃないよっ!」
 サーシャが苦戦したのは、人間のゾンビよりも、犬のゾンビの方だった。
(こいつら、研究所の衛兵か何かか?)
 ゾンビ犬だけ倒したサーシャは、不審に思った。
 昔、魔道師と旅をしていた時、その魔道師が言っていたことを思い出す。
 魔道師の中には、人間から見れば不気味なモンスターをわざと護衛に配置している者がいると。
 多くは普通の人間が怖がる物を置いていて、それで自分の身を守るのだと。
 ここではゾンビを配置しているのだろうか。
(でも、研究所はまだ先のはず。もう、こんな所まで警戒しているなんて……。まあ、魔道師の考えてることは分からないけど)
 サーシャはそんなことを考えながら先へ進んだが、途中で道が二股に分かれていた。
「くっ、どっちだ?」
 マリアからは二股に分かれているとは聞いていない。
 もしかしたら、また最後には合流するというパターンかもしれない。
(取りあえず、右へ行ってみよう)
 サーシャは右の道へ進んだ。

 しばらく進むと、
「!?」
 鉄製の柵で先の道が塞がれ、同じ鉄製の2枚扉が閉じられていた。
 で、その横に1人の黒衣の男が倒れていた。
「……死んでるか」
 その男は事切れていた。
 ゾンビではないが、あっちこっちを噛み千切られていることから、ゾンビに殺されたらしい。
 手に何かを持っている。
「これは……!」
 そこには大変なことが書かれていた。
(研究所はこの奥みたいだね。取りあえず一旦、稲生達の所に戻ろう。門の鍵を取ってこなきゃいけない)
 サーシャは男の持っていた手帳を斜め読みした後、来た道を取って返した。

 ゾンビ犬は既に死んでおり、腐敗した人間のゾンビ達が呻き声を上げてサーシャの行く手を阻もうとしたが、当然できなかったし、できそうになった者も首を跳ね飛ばされたり、ナイフで脳天を串刺しにされたりして、本当に堕獄するハメになってしまった。
 尚、ナイフは町中や旅の途中で手に入れたものである。

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1 コメント

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つぶやき (作者)
2016-01-26 12:36:39
先ほど、今月分のパケットが契約分に達した旨のお知らせがあった。
昨年まではWi-Fiを自由に使えた環境にあったのだが、今年からそうではなくなったのをすっかり忘れていた。
というわけで、これより通信制限が掛かると思われる。
コメントの返信が遅れる恐れがあるので、ご容赦願いたい。
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