報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「生き残りの魔道師」

2016-01-28 21:12:25 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月23日23:00.天候:雨 レッドスターシティ郊外山中の魔道研究所 マリアンナ・ベルフェ・スカーレット&アレクサンドラ・エヴァノビッチ(サーシャ)]

 昔は帝政時代の貴族が使用していたと思われる古城。
 それを転用したのが魔道研究所であった。
 主に魔法の妙薬を開発する施設であったらしい。
 魔界には色々と魔法を研究・開発している施設があるという話をマリアは聞いていたが、実際に来たのはこれが初めてだった。
「あった!サーシャ!やっぱりこの研究所は、薬を開発していた!」
「やっぱりね」
 城内を徘徊するゾンビやその他の化け物の攻撃を交わしつつ、稲生の病気を治す為の手段探しに走るマリアとサーシャ。
「町の惨状は、やはりこの施設が原因だったか……」

『今朝5時頃、警備員のスコットに突然叩き起こされて、シェルターへの避難を促された。何でも研究所の方で事故があったらしい。魔法使いの奴ら、夜も寝ないで実験ばっかりやってるからこんなことになるんだ』

 所内からはゾンビ化したスタッフの手記なんかも見つかった。
 当然こんな奇病なんて、感染した本人も知らないだろうから、書いている本人も自分が化け物になっていくのを自覚できないまま、文章だけがおかしくなっていった。

『夜、からだ中、あつい かゆい。胸のはれもの かきむしたら 肉がくさりおちやが おれ 一体どうなって 』
『かゆい かゆい スコットきたー ひどいかおなんで ころして く た。うまかっ です 』
『かゆい うま 』

「ユウタもこうなって……」
「そんなことはさせないよ。早いとこ薬を探そう!」

 ある部屋に飛び込んだ。
 どうやら、普段は倉庫として使っている部屋らしい。
「誰だ……?」
 柱の影に誰かが倒れていた。
「その声は……!」
 マリアは見覚えがあった。
 柱の陰に駆け寄ると、そこには黒を基調としたワンピースに身を包んだ魔女の姿があった。
 マリアと違い、黒髪に赤いカチューシャが目立っている。
 だが、あちこちをケガしていた。
「アリッサ!アリッサなのか!?」
「その声は……マリアンナ……。無事だったのか……」
「知り合いかい?」
 サーシャが辺りを警戒しながら聞いた。
「私と同門のアリッサだ。どうしたんだ、その傷は!?」
「ま、マリアンナ……。こ、この城は……マジでヤバい。は、早く逃げろ……。さもないと……」
「待て!今、回復魔法を掛ける」
「無駄だ。毒に冒された」
「毒!?ここのゾンビは毒を持ってるのか!?」
「違う。ここにいるのは……ゾンビだけじゃない」
「えっ?」
「へ、蛇だ……。恐ろしく巨大な……くっ!」
「蛇!?」
「多分……魔法の実験で……巨大化したものだと思う……。血清は見つけたんだけど……この体じゃ……」
「分かった!今、取って来る!場所はどこだ!?」
「医務室……1階の医務室……」
「分かった!今取って来る!もう少し頑張ってくれ!」

 マリアとサーシャは医務室に取って返した。
「おう、2人とも!早かったな。首尾はどうだ?」
 マリア達が出て行った後も、やはりゾンビ達がちょこちょこ訪れて来たらしい。
 医務室の外では、サンモンドに銃弾で頭を撃ち抜かれたり、蜂の巣にされて血だまりを作って倒れている個体がいた。
「ここに血清があるはずだ。……これだ!」
「血清?しかし、稲生君の病気はそれで治らないと思うよ?」
「この城の奥に、マリアンナの仲間が倒れてた。彼女は巨大な毒蛇に噛まれたらしいんで、血清が必要なんだ」
「何だって?するとこれから、もしかしてその巨大な毒蛇と戦うかもしれないのかね?」
「その恐れは十分にある。私の剣で戦えると思うが、毒を吐いてきたりしたら危険だね」
「ふむ。それなら、アレク……もとい、サーシャ。私と交替しよう」
「えっ?」
「私が銃で、遠くから攻撃すれば良い」
「そんな簡単に行く?」
「実はここに来る前に、いい物を見つけたんだ」
 サンモンドは自分の荷物の中から、ある物を取り出した。
 それはグレネードガンと硫酸弾(榴散弾ではない)。
「あまりにデカ物だから、私の手に負えないと思っていた。体の腐った連中相手なら、正直ハンドガンでもいいくらいだからね。だが、巨大な爬虫類が相手となったら話は別だ。正にこの武器は、そういった敵用と言っても過言ではないだろう。これなら、大きな毒蛇も真っ青だ」
「なるほど。まあ、倒してくれることに越したことはないね。じゃあ、私はここで稲生を見てるよ」
「気をつけてくれ。さっき目を開けたのだが、もうゾンビのような目をしていた。起き上がって襲って来たら、その時は……遠慮しない方がいい」
「分かってるよ。その時はマリアンナ、恨まないでくれよ?」
「……しょうがない。というか、早いとこアリッサに血清を打たないと!」
「うむ。急ごう」

 再びマリア達がアリッサの所に行こうとすると、新たな敵が待ち受けていた。
 しかし、それは巨大な蛇ではない。
 どこに隠れていたのかと思うほど、ゾンビが待ち構えていた。
 そこはサンモンドが手持ちの銃(グレネードではない)で、ゾンビ達を撃ち抜いた。
 幸い、アリッサが倒れていた空間にはゾンビ達も入り込めないようである。
「アリッサ!大丈夫か!?血清だ!」
「ありがとう……。うっ……!」
 マリアンナがアリッサに血清を注射した。
「……ふふっ。こんな時でも……注射は痛いな……。ああ……何だか、少しは楽になった気がする……」
「それは良かった。ジェシカ達が“魔の者”に殺されたってのに、もう2度とうちの一門から死人は出したくないからな」
「その通り……」
「一体、何があったんだ?この城で?」
「この城は……ただの魔道研究所じゃない」
「えっ?」
「マリアンナは系統が違うから知らないだろうけど、ここの研究員達は皆、アルカディア政府を良く思っていない」
「どうしてだ?弾圧していたのはバァル大帝の方だろう?今の政府は、特に弾圧はしていないと聞いてるが……」
「宮廷魔導師の職を廃止した安倍総理を恨んでる。皆、その職に登ることが憧れだったのに……」
「確かにルーシー女王の要望で、復活することになったらしいが……。別に、あっても無くてもいいんじゃないか?」
「それはまだマリアンナが、魔道師の世界についてまだよく理解していないだけだ。とにかく、魔道師は全て正義の味方とは限らないってこと。人間界でのほほんと暮らしているアンタ達とは違う……」
「言ってくれるな。それより私の弟弟子がゾンビに成りかかってる」
「えっ!?」
「特効薬があるって聞いたんだが、知らないか?」
「……特効薬そのものは無い」
「なにっ!?」
「だけど、それを作ることはできる」
「作り方は!?助けてあげたんだから教えてくれ!」
「それはもちろん。ただ、材料の1つが、そっちの部屋にあるんだけどね……」
「そっちの部屋?」
「……私が大蛇に遭遇した部屋。逃げてなければ、多分まだそこにいると思う」
「よろしい。ここは私の出番だな」
 サンモンドがグレネードガンに、硫酸弾をリロードした。
「これだけあれば、3発くらいでくたばるだろう。“魔の者”の手先であるのなら、私にとっても敵だからね」
「私はここでアリッサを見てていいか?」
「ああ、構わんよ。蛇をブッ飛ばしたら呼ぶから、その時は来てくれたまえ」
「分かった」
 サンモンドは巨大な毒蛇が潜んでいるという部屋に向かった。
 手にはグレネードガンを持って。

 別のドアからは、ゾンビが呻き声を上げて、ドンドンとドアを叩いている。
 もはや、一刻の猶予も無かった。
コメント (2)
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