報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「帰省最終日」 5

2018-10-12 19:13:15 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[8月31日21:00.天候:晴 埼玉県さいたま市三橋5丁目 湯快爽快おおみや]

 休憩処で休んでいるマリア。
 リクライニングシートを倒して寛いでいる。
 と、そこへ……。

 稲生:「マリアさん、そろそろ時間ですよ」

 稲生がマリアの顔を上から覗き込むようにして言った。

 マリア:「ん?もうそんな時間?」
 稲生:「ええ。そろそろ最終バスが出ます」
 マリア:「分かった」

 マリアはリクライニングを起こして、起き上がった。

 稲生:「着替えの時間も入れると、今からが妥当でしょう?」
 マリア:「さすがだね」

 2人とも、まだ館内着の作務衣姿だ。
 ロッカーに服を入れてあるので、脱衣場に向かった。
 稲生の場合、着替えるのは早いが……。

 稲生:(マリアさんの方が少し時間は掛かるだろう)

 ということで、先に出た稲生は脱衣場の外で待つことに。

 稲生:(次に来るのは……シルバーウィークか、或いは年末年始か……)

 スマホを片手に鉄道の運行情報を確認する。
 今のところ、遅れや運休に関する情報は出ていない。

[同日21:45.天候:晴 JR大宮駅西口→JR埼京線]

 運転手:「はい、どうぞー」

 稲生達を乗せた最後の送迎バスが、大宮駅西口の通りに到着する。
 この後、このバスはここから最後の客を乗せて帰るわけである。
 最後のバスだけに、満席に近い状態で走った。

 稲生:「お世話さまでしたー」

 パチンコ屋の眩しいネオンが輝く所でバスを降りる。
 そして、高架歩道に上がる為、階段を登る。

 稲生:「体の傷、更に癒えましたかね?」
 マリア:「回復魔法でも消えなかった傷痕が、勇太と行くと消える。凄い、魔法みたい」
 稲生:「良かったです。また行きましょう」
 マリア:「うん」

 途中でコインロッカーに預けた荷物を取り出し、それを持って埼京線乗り場に行く。
 金曜日の夜ということもあって、駅構内の賑わいぶりは凄まじい。
 ましてや、月末ということもあるか。
 学生達はこの後更に土日ということもあって、今日が夏休み最終日というわけではない。

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。22番線に停車中の電車は、21時53分発、各駅停車、大宮行きです。発車まで、しばらくお待ちください〕

 緑色の太いラインが特徴のE233系電車が発車を待っていた。
 朝のラッシュ時と、もっと遅い時間の下りに女性専用車となる先頭車両に乗り込んだ。

〔この電車は埼京線、各駅停車、新宿行きです〕
〔This is the Saikyo line train for Shinjuku.〕

 空いているモスグリーンのシートに座る。
 マリアのスカートの色がそれなので、ちょうどそれに溶け込むような感じになる。
 契約悪魔が緑色をシンボルカラーとしている為、契約者としては体のどこかにその色を身に付けなければならないのである(入浴時を除く)。

 稲生:「これで行けば、夜行バスに間に合います」
 マリア:「前もこのルートじゃなかった?」
 稲生:「多分そうですね」

[同日21:53.天候:晴 JR埼京線2128K電車10号車内]

 地下のホームに発車メロディが鳴り響く。
 大宮駅では最後に発車ベルがメロディ化した乗り場である。
 現在では未だにベルなのは、新幹線ホームだけとなった。

〔22番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕

 電車は、ほぼ満席に近い状態で発車した。
 今は下り方向が混雑する時間帯なので、上り電車はこんなものだろう。
 それでも、京浜東北線より賑わっている方かもしれない。

〔JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は埼京線、各駅停車、新宿行きです。次は北与野、北与野。お出口は、右側です。……〕

 日本語放送の後で英語放送が流れるが、恐らくこれはアメリカ英語。
 もちろんマリアには何を言っているのか分かるだろうが、違和感はあるのかもしれない。

〔「……途中駅での通勤快速の待ち合わせはございません。終点、新宿まで先に到着致します。……」〕

 マリア:「師匠も寝入ってるみたい。水晶球、何の反応も無くなった」
 稲生:「そうですか。まあ、飛行機なら寝過ごすことも無いでしょうからね」

 稲生は頷いて、ふとドアの上のモニタを見た。

 稲生:「あれ!?」

 E233系のドアの上にはモニタが2つある(中距離電車には無い)。
 向かって左側のモニタでは、時折ニュースや天気予報が流れる。
 たまたまニュースが流れていたのだが、稲生が反応したのは、たまたま飛行機事故が出ていたからだった。

 稲生:「飛行機が墜落ですって」
 マリア:「どこの!?」
 稲生:「サンチアゴ航空513便……」
 マリア:「師匠が乗ったのは?」
 稲生:「JALですね」
 マリア:「じゃ、違うじゃない」
 稲生:「びっくりしたぁ……」
 マリア:「まあ、師匠の場合はいざ墜落となっても、無事に脱出できるからね」
 稲生:「昔ありましたね。そういうこと」

[同日22:32.天候:晴 JR新宿駅→バスタ新宿]

 電車は都心に近づく度に混雑してきた。
 特に、池袋から。
 山手線より速く行けるということもあってか、新宿止まりであったとしても人気があるらしい。

〔まもなく終点、新宿、新宿。お出口は、右側です。山手線、中央快速線、中央・総武線、京王線、小田急線、東京メトロ丸ノ内線、都営地下鉄新宿線と都営地下鉄大江戸線はお乗り換えです。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 駅が通路で繋がっていない西武新宿線は乗り換え駅扱いにはなっていない。
 電車がゆっくりとホームに入線する。
 駅の構造上、埼京線ホームは池袋方向から混んでいる。
 で、ホームも広いとは言えないので、特に池袋方向は人がごった返していることも多々ある。
 場合によっては、電車も警笛を鳴らしながら入線することもあるわけだ。
 今は電子音で鳴らすのだが。

〔しんじゅく〜、新宿〜。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕

 電車のドアが開くと、一斉に乗客が降り出す。

 稲生:「それじゃ、ついて来てください」
 マリア:「うん」

 終日大勢の利用者で賑わう新宿駅だが、新南口側は比較的空いていることが多い。
 あくまでも、比較的だ。
 これは新宿の街から外れていることと、バスタ新宿やサザンテラスなど、特定の利用者しかいないからであろう。
 改札口を出る前に、駅のトイレに立ち寄っておく。
 これはバスタ新宿のトイレは増設されたとはいえ、まだまだ混雑が解消されたとは言えず、それなら駅の方を使う方が良いからだ。

[同日23:05.天候:晴 バスタ新宿→アルピコ交通5517便車内]

 帰りに乗る高速バスは、夜行便と言えども3列シートではなく、4列シートだ。
 いつもの昼用の便を夜間に走らせているだけに過ぎない。
 それでも長距離便ということもあってか、通常の4列シートよりはシートピッチも広めに造られている。
 とはいうものの、毛布やスリッパ、おしぼりが付いているわけではない。
 トイレは付いていて、Wi-Fiも入るようだ。
 もちろん稲生とマリアは隣り合って座る。
 クーラーはガンガンに効いていて少し寒いくらいだ。
 マリアはローブを羽織り、それについているフードを被った。

 稲生:「栂池高原まで行くみたいです。いつものように、バスターミナルが終点ではないみたいです」
 マリア:「寝過ごさないようにしろって?」
 稲生:「まあ、皆降りますし、放送も入るから大丈夫だと思いますけどね」

 ローブを羽織り、フードまで被ると初対面の頃のマリアを思い出す。
 実はダンテ一門の規則なのか、同じ門内でも面識の無い者には紹介しないというものがある。
 だから例えば水晶球でアナスタシア組を検索しても、稲生の場合はアナスタシアとアンナしか知らないので、彼女らしかプロフィールが紹介されない。
 他のメンバーはローブを羽織り、フードも深く被った状態で顔も分からず、名前も紹介されない。
 これはつまり、他の組のメンバーが稲生やマリアを検索しようとしても、そちらにはフードを深く被った2人の画像しか紹介されないということだ。

 マリア:「次はいつ行く?」
 稲生:「秋か冬ですね」
 マリア:「私は……師匠か勇太に誘われないと屋敷から出られない。師匠はあの通り1人で行動したがる人だから、あまり期待できない」
 稲生:「分かりました。また帰省する機会があったら、誘いますよ」
 マリア:「ありがとう」

 バスはほぼ満席の状態でバスタ新宿を出発した。
 この便は他の昼間の便と違い、長野県まで客扱いをしない為、途中休憩以外で乗降ドアが開くことは無い。
 温泉にも入り、時間も時間なので、すぐに寝入る体勢を取った2人だった。
 肘掛けの上に手を置いて、手繋ぎすることは忘れない。
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“大魔道師の弟子” 「帰省最終日」 4

2018-10-12 10:24:46 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[8月31日17:15.天候:晴 埼玉県さいたま市西区三橋5丁目 湯快爽快おおみや]

 稲生とマリアを乗せた送迎バスは、無事に目的地に到着した。

 運転手:「はい、お疲れさまでしたー」

 正面入口の前にバスが止まり、そこへぞろぞろと向かう利用者達。
 もちろんその中に、稲生達もいた。

 マリア:「ここに来るの、久しぶりだ」
 稲生:「そうですか?」
 マリア:「うん。確か師匠が、マフィアのマダムに自分の武勇伝を語っていたような気がする」
 稲生:「別の場所じゃないですか?何ですか、マフィアのマダムって?
 マリア:「Japanese “Okami-san”?“Ane-san”?そうかな。私が見た予知夢かもしれない」
 稲生:「作者の予知夢並みに当たらないと信じましょう」
 マリア:「そうだな」

 靴を靴箱に入れて鍵を掛け、フロントへと向かう。

 稲生:「大人2人です」

 稲生、会員証を出しながら料金を払う。
 渡されたタオルを手に、館内着を取りに行く。

 稲生:「マリアさん、作務衣の着方は分かりますか?」
 マリア:「この前、師匠に教わった」
 稲生:「本当に先生は何でも御存知なんですねぇ……。さすがは齢1000年の大魔道師です」
 マリア:「でも、スマホの使い方は分からないよ。あと、DVDの予約の仕方も全然分かってない」
 稲生:「あ、そうですか……。シニア向けの、らくらくスマートフォンなんかもありますけど……」
 マリア:「10台くらい壊した後で、ようやく通話の仕方が分かるといった感じかな」
 稲生:「そりゃ水晶球の方が楽でいいですねぇ……。てか、屋敷の固定電話は使えるのに……」

 黒電話の西洋版のようなもの。
 今でも中世ヨーロッパを模した建物の中に、オブジェとして置いていたりされているのを見たことのある方もいるだろう。
 ディズニーのアニメとかには出てこないかな?

 マリア:「取りあえず、公衆電話までならギリギリ使えるほどのメカ音痴」
 稲生:「はあ……」

 館内着の作務衣を持ち、2階の大浴場へと向かう。

 稲生:「! それじゃ、日本の鉄道駅の券売機は……?」
 イリーナ:「師匠が魔法を解いたら同じ見た目になると思われるお年寄りが、普通にそれでキップを買っていることに驚愕していた。だから、勇太に全部任せているんだと思うよ?」
 稲生:「指定席券売機のカオスさには僕も思わず頷くところですが、普通の券売機くらいは……だと思うんですけど……」
 マリア:「『昔はサンクトペテルブルグまで、2等車1枚って言えば買えたのにねぇ……』なんてボヤいてた」
 稲生:「いや、シベリア鉄道のキップ売り場は、今でも有人窓口しか無いのでは?」

[同日18:00.天候:晴 湯快爽快おおみや2F 湯上り]

 稲生:「ふーっ、サッパリした。これで夜行バスでも、眠れそうだな」

 男湯の脱衣場から出てきた稲生。
 牛乳などの自動販売機のある湯上りに来たが、まだそこにマリアはいない。

 稲生:「まあ、いいや。風呂上がりにコーヒー牛乳でも……」

 稲生はリストバンドに付いているバーコードを近づけようとした。
 館内における金銭のやり取りは、全てこれで行われる。

 マリア:「熱かった……」

 その時、マリアが女湯の脱衣場から出てきた。
 白い肌が赤みがかっている。
 その姿に一瞬心臓が高鳴る稲生。

 稲生:「ど、どうでした、湯加減は?」
 マリア:「うん、サッパリした」
 稲生:「それは良かったです。あ、牛乳でも如何ですか?」
 マリア:「Milk……ハッ!?」

 マリアの脳裏に蘇るケンショーレンジャー達の謀略……。

 マリア:「いいけど、一応、毒のチェックさせてね」
 稲生:「ん?毒?……あ」

 稲生も思い出した。
 確かあれは……“魔の者”の眷属を北海道で倒して、旭川から新千歳空港に向かった時のことではなかっただろうか。

 稲生:「べ、別の飲み物にしましょうか」
 マリア:「いや、いいよ」

 マリアは水晶球を取り出した。

 マリア:「Hum...近くにケンショーレンジャーの気配無し……か」
 稲生:「水晶球で検索できるようになったんですか」
 マリア:「何とか修得したよ」
 稲生:「それはいいですね。はい、コーヒー牛乳。僕もこれがいいんです」
 マリア:「そう。飲んだ後で何だけど……」
 稲生:「はい?」
 マリア:「もうすぐディナーの時間だよ」
 稲生:「あ、そうですね。食べに行きましょう」

 今度は1階に下り、食事処のテーブル席に向かい合って座った。

 稲生:「えーと……何がいいかな?取りあえず、ビール」
 マリア:「ワインはある?」
 稲生:「ありますよ。……これに、かつ丼にしようかな」
 マリア:「私はこのカツレツで」
 稲生:「トンカツ御膳ですか。じゃ、これでいきましょう」

 稲生は呼び出しボタンを押して注文した。
 そして、先にビールとワインが来てカンパイしたまでは良かった。

 店員:「お待たせしました。こちら、黒豚とんかつ御膳になります」
 マリア:「Thanks.」
 店員:「こちら、かつ丼になります」

 丼だけでなく、味噌汁や漬物も付いている。

 店員:「ごゆっくりどうぞ」
 稲生:「はい、どうもー。……それじゃ、頂くとしましょう」
 マリア:「ああ」

 ところがマリアの人形達、何やらゴソゴソやっている。
 小型の電池スタンドを取り出して、それをピカーッと稲生に照らす。

 ミク人形:「かつ丼、美味いか?」
 ハク人形:「食べたら、仲間の潜伏先を言え」
 稲生:「……何なの?」
 マリア:「やめなさい、お前達!……うちの人形達、最近、日本の刑事ドラマにハマっちゃって……」
 稲生:「はあ!?」

 尚、実際は取調室における飲食は禁止。
 かつ丼も容疑者の自腹でないと注文できないとのことである(作者の警備会社に所属している警察OBより)。
コメント (3)
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