[8月30日13:40.天候:晴 東京湾フェリー“しらはま丸”船内]
残暑の日差しが照り付ける中、一隻のカーフェリーが千葉県内房の金谷港から出港した。
稲生:「威吹と一緒に乗り鉄したついでに乗ってみたフェリーがこれです」
マリア:「そうなんだ」
稲生:「あの時はいかに湾内とはいえど、波が高い日だったもので、少し大きく船が揺れたものです」
マリア:「それで威吹が船酔いしたわけか」
稲生:「ま、そんなところです。確か、欠航になるかどうかの瀬戸際で、安全の為、デッキには出ないよう放送が流れていたような……?」
稲生は首を傾げた。
マリア:「今は天気もいいから、デッキに出ても大丈夫なんでしょう?」
稲生:「そうですね。そういう放送も流れてませんし……」
ポテンヒット:「それでも風は強ェから、今外に出たらパンチラ・パンモロの大サービスだぜ?外人の姉ちゃんよォ」
↑甲板から缶ビール片手に船室に戻ってきた友情出演のポテンヒットさん。
マリア:「やっぱここにいる!」
稲生:「は、はあ……」
ポテンヒット:「チッ、そいつァ残念だぜ。ヒック」
缶ビールを買い足す為、船内売店へと立ち去るポテンヒットさん。
横田:「むむむ……!ポテンヒット君、余計なこと言わないように」
デッキの片隅でビデオカメラ構えて待つ、あの人。
マリア:「それにしても乗り鉄の割には、船も平気で乗るんだな」
稲生:「昔は鉄道連絡船なんかもありましたからね。鉄道と船は、実は結構密着していた時代があったわけですよ。冥界鉄道公社だって、船を走らせてるくらいですもんね」
マリア:「まあね」
稲生:「それにしてもサンモンド船長、あれから姿を現しませんね」
マリア:「元ネタとなった人が行方不明になったからじゃないの」
稲生:「は?」
マリア:「いや、何でもない」
稲生:「こういう船に乗っていると、クイーン・アッツァー号の事件とか思い出しますよ」
マリア:「ああ、あったね、そういえば。でもこの船は、そこまで大きくない」
稲生:「まあ、そうなんですけど」
と、その時、外が何だか騒がしい。
稲生:「何だ?」
マリア:「!?」
稲生とマリアが窓の外に目をやって時だった。
エレーナ:「おーい、稲生氏〜!」
リリアンヌ:「お、おお、お届け物ですよ〜!」
稲生:「え、エレーナ!?」
マリア:「あのバカ!なに目立ってんだよ!」
2人は急いでデッキに出た。
エレーナ:「やっぱここにいた!再配達なんてかったるいから、直接持って来たよー!」
マリア:「いや、そこは再配達しろっ、この!」
横田:「嗚呼ッ!かぐわしき、魔女のパンティラ!」
横田、強風でマリアのスカートが捲れ上がるのをしっかりカメラで押さえる。
それだけでなく、エレーナやリリアンヌのも。
しかしエレーナの場合は、それを想定して見せパンを穿いているはずだが。
リリアンヌ:「ば、バランスが!」
リリアンヌ、まだホウキの乗り方が上手くできず、強い風に煽られる。
で!
横田:「嗚呼ッ!?」
横田に激突し、横田はその衝撃で海へと落ちた。
横田:「あ〜れ〜!」
リリアンヌ:「や、やや、やってしまいました!」
マリア:「ああ、アイツならいいや。勇太、さっさと受け取って帰ってもらえ!」
稲生:「は、はい!」
稲生は伝票にサインをした。
エレーナ:「それじゃ、毎度〜!」
リリアンヌ:「し、しし、失礼します……」
エレーナとリリアンヌは再びホウキに跨って、船から離脱していった。
マリア:「お騒がせ魔女連中め!」
稲生:「威吹、また木彫りを作ってくれたんだ。言ってくれたら、僕から取りに行ったのに……」
稲荷神社の鳥居の横にあるような狐の石像を木彫りにしたようなものだった。
マリア:「何か、観光地のお土産みたいだな」
稲生:「依り代になるんですって。これが」
マリア:「依り代?」
稲生:「中で話しましょう。マリアさん、片手塞がってますし」
マリア:「あ、うん……」
魔法の杖をわざわざ出して、それでスカートの裾を押さえているマリアだった。
[同日14:20.天候:晴 神奈川県横須賀市 久里浜港]
フェリーは無事に対岸の久里浜港に入港した。
稲生:「これで船旅は終わりです」
マリア:「なるほど」
マリアは微笑を浮かべた。
マリア:「屋敷の中にいては体験できないことだった。ありがとう」
稲生:「いえ……。本当に船は平気なんですね」
マリア:「私はね」
ホウキ乗りのエレーナも大丈夫だろうと思うところだが、どうも今みたいにホウキを乗りこなす前まではよくホウキ酔いをしていたのだとか……。
稲生:「えーと、ここから久里浜駅まではバスで行きます」
マリア:「そうか」
フェリーを降りる時はいたってシンプルである。
タラップを下りる時に乗車券が回収され、そのまま外に出て終わり。
もちろん、再びターミナルの中に入ることは可能である。
マリア:「あのターミナルの中には何があるの?」
稲生:「金谷港とほぼ同じだと思いますよ」
マリア:「師匠に何か買って行ってあげよう」
稲生:「それもそうですね」
稲生は大きく頷いた。
土産物を扱う売店もあったはずだ。
イリーナ組はフランクだから、こうやって遊び歩くことも自由にさせてもらっているが、厳しい組だとこういうことは許されない。
エレーナの所属するポーリン組も本来はそういう方針なのだそうだ。
ただ、師匠ポーリンが宮廷魔導師の任に就いたことと、エレーナがマスターになったことで、なかなか直接的な指導ができずにいる。
[同日15:05.天候:晴 東京湾フェリーバス停→京急バス市内線(久7系統)車内]
イリーナへの土産物を購入した稲生達は、ターミナル前から出ているバスに乗り込んだ。
一般の路線バスである。
京急久里浜駅から海へ向かう、またはその逆の路線を一括して『市内線』と呼ぶようである。
因みにJR久里浜駅へ向かうバスは少ないので、大抵は京急久里浜駅から歩いて向かうことになる(が、地元民は殆どJRに乗らないらしい)。
〔「お待たせ致しました。行政センター前経由、京急久里浜駅行き、発車致します」〕
バスは中扉を閉めると、すぐに発車した。
〔毎度、京急バスをご利用くださいまして、ありがとうございます。このバスは久里浜行政センター前経由、京急久里浜駅行きでございます。次は久里浜港、久里浜港。……〕
マリア:「威吹とはこのルートを行ったの?」
稲生:「そうです。本当は鎌倉で降りて、そこから江ノ電に乗りたかったんですが、あまりにも威吹が辛そうだったので……」
マリア:「それじゃ、今回はそのルートを行く?」
稲生:「いえ。基本的にあの当時のルートを辿る旅ですからね。今回もそれを踏襲したいと思います」
マリア:「なるほど。分かった」
バスは海を背に、久里浜の街へと向かう。
残暑の日差しが照り付ける中、一隻のカーフェリーが千葉県内房の金谷港から出港した。
稲生:「威吹と一緒に乗り鉄したついでに乗ってみたフェリーがこれです」
マリア:「そうなんだ」
稲生:「あの時はいかに湾内とはいえど、波が高い日だったもので、少し大きく船が揺れたものです」
マリア:「それで威吹が船酔いしたわけか」
稲生:「ま、そんなところです。確か、欠航になるかどうかの瀬戸際で、安全の為、デッキには出ないよう放送が流れていたような……?」
稲生は首を傾げた。
マリア:「今は天気もいいから、デッキに出ても大丈夫なんでしょう?」
稲生:「そうですね。そういう放送も流れてませんし……」
ポテンヒット:「それでも風は強ェから、今外に出たらパンチラ・パンモロの大サービスだぜ?外人の姉ちゃんよォ」
↑甲板から缶ビール片手に船室に戻ってきた友情出演のポテンヒットさん。
マリア:「やっぱここにいる!」
稲生:「は、はあ……」
ポテンヒット:「チッ、そいつァ残念だぜ。ヒック」
缶ビールを買い足す為、船内売店へと立ち去るポテンヒットさん。
横田:「むむむ……!ポテンヒット君、余計なこと言わないように」
デッキの片隅でビデオカメラ構えて待つ、あの人。
マリア:「それにしても乗り鉄の割には、船も平気で乗るんだな」
稲生:「昔は鉄道連絡船なんかもありましたからね。鉄道と船は、実は結構密着していた時代があったわけですよ。冥界鉄道公社だって、船を走らせてるくらいですもんね」
マリア:「まあね」
稲生:「それにしてもサンモンド船長、あれから姿を現しませんね」
マリア:「元ネタとなった人が行方不明になったからじゃないの」
稲生:「は?」
マリア:「いや、何でもない」
稲生:「こういう船に乗っていると、クイーン・アッツァー号の事件とか思い出しますよ」
マリア:「ああ、あったね、そういえば。でもこの船は、そこまで大きくない」
稲生:「まあ、そうなんですけど」
と、その時、外が何だか騒がしい。
稲生:「何だ?」
マリア:「!?」
稲生とマリアが窓の外に目をやって時だった。
エレーナ:「おーい、稲生氏〜!」
リリアンヌ:「お、おお、お届け物ですよ〜!」
稲生:「え、エレーナ!?」
マリア:「あのバカ!なに目立ってんだよ!」
2人は急いでデッキに出た。
エレーナ:「やっぱここにいた!再配達なんてかったるいから、直接持って来たよー!」
マリア:「いや、そこは再配達しろっ、この!」
横田:「嗚呼ッ!かぐわしき、魔女のパンティラ!」
横田、強風でマリアのスカートが捲れ上がるのをしっかりカメラで押さえる。
それだけでなく、エレーナやリリアンヌのも。
しかしエレーナの場合は、それを想定して見せパンを穿いているはずだが。
リリアンヌ:「ば、バランスが!」
リリアンヌ、まだホウキの乗り方が上手くできず、強い風に煽られる。
で!
横田:「嗚呼ッ!?」
横田に激突し、横田はその衝撃で海へと落ちた。
横田:「あ〜れ〜!」
リリアンヌ:「や、やや、やってしまいました!」
マリア:「ああ、アイツならいいや。勇太、さっさと受け取って帰ってもらえ!」
稲生:「は、はい!」
稲生は伝票にサインをした。
エレーナ:「それじゃ、毎度〜!」
リリアンヌ:「し、しし、失礼します……」
エレーナとリリアンヌは再びホウキに跨って、船から離脱していった。
マリア:「お騒がせ魔女連中め!」
稲生:「威吹、また木彫りを作ってくれたんだ。言ってくれたら、僕から取りに行ったのに……」
稲荷神社の鳥居の横にあるような狐の石像を木彫りにしたようなものだった。
マリア:「何か、観光地のお土産みたいだな」
稲生:「依り代になるんですって。これが」
マリア:「依り代?」
稲生:「中で話しましょう。マリアさん、片手塞がってますし」
マリア:「あ、うん……」
魔法の杖をわざわざ出して、それでスカートの裾を押さえているマリアだった。
[同日14:20.天候:晴 神奈川県横須賀市 久里浜港]
フェリーは無事に対岸の久里浜港に入港した。
稲生:「これで船旅は終わりです」
マリア:「なるほど」
マリアは微笑を浮かべた。
マリア:「屋敷の中にいては体験できないことだった。ありがとう」
稲生:「いえ……。本当に船は平気なんですね」
マリア:「私はね」
ホウキ乗りのエレーナも大丈夫だろうと思うところだが、どうも今みたいにホウキを乗りこなす前まではよくホウキ酔いをしていたのだとか……。
稲生:「えーと、ここから久里浜駅まではバスで行きます」
マリア:「そうか」
フェリーを降りる時はいたってシンプルである。
タラップを下りる時に乗車券が回収され、そのまま外に出て終わり。
もちろん、再びターミナルの中に入ることは可能である。
マリア:「あのターミナルの中には何があるの?」
稲生:「金谷港とほぼ同じだと思いますよ」
マリア:「師匠に何か買って行ってあげよう」
稲生:「それもそうですね」
稲生は大きく頷いた。
土産物を扱う売店もあったはずだ。
イリーナ組はフランクだから、こうやって遊び歩くことも自由にさせてもらっているが、厳しい組だとこういうことは許されない。
エレーナの所属するポーリン組も本来はそういう方針なのだそうだ。
ただ、師匠ポーリンが宮廷魔導師の任に就いたことと、エレーナがマスターになったことで、なかなか直接的な指導ができずにいる。
[同日15:05.天候:晴 東京湾フェリーバス停→京急バス市内線(久7系統)車内]
イリーナへの土産物を購入した稲生達は、ターミナル前から出ているバスに乗り込んだ。
一般の路線バスである。
京急久里浜駅から海へ向かう、またはその逆の路線を一括して『市内線』と呼ぶようである。
因みにJR久里浜駅へ向かうバスは少ないので、大抵は京急久里浜駅から歩いて向かうことになる(が、地元民は殆どJRに乗らないらしい)。
〔「お待たせ致しました。行政センター前経由、京急久里浜駅行き、発車致します」〕
バスは中扉を閉めると、すぐに発車した。
〔毎度、京急バスをご利用くださいまして、ありがとうございます。このバスは久里浜行政センター前経由、京急久里浜駅行きでございます。次は久里浜港、久里浜港。……〕
マリア:「威吹とはこのルートを行ったの?」
稲生:「そうです。本当は鎌倉で降りて、そこから江ノ電に乗りたかったんですが、あまりにも威吹が辛そうだったので……」
マリア:「それじゃ、今回はそのルートを行く?」
稲生:「いえ。基本的にあの当時のルートを辿る旅ですからね。今回もそれを踏襲したいと思います」
マリア:「なるほど。分かった」
バスは海を背に、久里浜の街へと向かう。