報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「帰省最終日」 3

2018-10-10 18:47:41 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[8月31日16:10.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 イオンモール与野バス停]

 買い物の最後にコーヒーショップで一息ついた稲生とマリアは、大宮駅に向かうべく、モールの外に出た。
 県道を渡って、道の反対側にあるバス停でバスを待つ。
 しばらくすると、さいたま新都心駅から乗ったバスとは別の会社のバスがやってきた。
 それに乗り込む。
 ここでの下車客は多かったが、乗車客は稲生達だけであった。
 1番後ろの空いている席に座る。

〔発車します。お掴まりください。発車します〕

 電車よりもよく効いているバスの冷房。
 バスは県道を郊外に向かって走り出した。

〔♪♪♪。次は円阿弥、円阿弥でございます。このバスは三橋三丁目経由、大宮駅西口行きです〕

 稲生達が乗ったバスは遠回りする路線であり、それだったら道路を渡らずに駐車場出口横のバス停から乗ると良い。
 そうしなかったのは、大きな荷物を持っていた為、混雑する路線ではなく、空いている路線を狙ったからである。
 イリーナが一緒であれば、それにかこつけてタクシーに乗ることができたのだが……。
 尚、日本は治安が良いので公共交通機関の利用が推奨されるが、治安の悪い国や地域によってはこの限りではない。
 基本的に先進国などにおいては、公共交通機関の利用が(弟子や見習の身分にあっては)推奨される。
 師匠のお供をしている場合はこの限りではない。

 マリア:「師匠は無事に飛行機に乗ったって」
 稲生:「そうですか。空港での寝坊事故が無くて良かったです」
 マリア:「今のビジネスクラスは、シートがフラットになるのか?」
 稲生:「国際線はそうらしいですよ。父さんがこの前マレーシアに出張に行った時、そんな感じだったそうです」
 マリア:「勇太のdad、ビジネスクラスに乗ったのか」
 稲生:「いえ。どういうわけだが、プレミアムエコノミーだったそうで……」
 マリア:「Huh?」

 プレミアムエコノミーとはエコノミークラスとビジネスクラスの間のクラスのことである。
 ビジネスクラスのシートがファーストクラスのそれに近づいたせいで、エコノミーとの格差が広がってしまい、その埋め合わせクラスとして設定されたものである。
 具体的には国内線のプレミアムシート(例えばJALだと“クラスJ”)のような感じだと思ってもらえれば良い。
 鉄道で言うなら、新幹線のグリーン車?……のように左右幅はそれなりに広いらしいのだが、シートピッチは普通車並みであるという。
 それでも新幹線の普通車よりも狭いエコノミー(最悪、国鉄時代に製造された特急車両の普通車よりも狭い)よりはマシってところか。

 稲生:「何でも、団体さんに押さえられていたそうです」
 マリア:「お気の毒……」
 稲生:「黒いローブを羽織った魔女みたいな集団だったと言います」
 マリア:「ちょっと待て。勇太のdadに不快な思いさせたアホ組はどこだ?」

 マリアは水晶球を取り出した。
 おおかた、またアナスタシア組辺りであろう。

[同日16:35.天候:晴 JR大宮駅西口]

〔♪♪♪。お待たせ致しました。まもなく終点、大宮駅西口、大宮駅西口。毎度、西武バスをご利用くださいまして、ありがとうございました。どなた様も忘れ物の無いよう、お支度ください。……〕

 昨日、イリーナが夕食会を開いてくれたパレスホテルのあるソニックシティの前を通り、バスは西口ロータリーの中に入った。
 尚、最近では自動放送でも言うようになったが、バスがロータリーの中に入るか、手前の降車場に止まるかは運転手の匙加減によるらしい。
 手前に止まった場合、エレベーターで高架歩道に上がることができなくなる為、エレベーターを使用したい乗客は運転手に申し出るようにとのこと。
 多分、改めてロータリーの中まで乗せてくれるのだろう。
 で、今回は手前に止まった。
 まあ、稲生達は別に階段を登れるので良いのだが。

 稲生:「大人2人お願いします」
 運転手A:「はい、ありがとうございます」

 バス代は稲生が持つ。
 マリアはICカードを持っていない為。
 再び灼熱の太陽照り付ける車外に出た。

 稲生:「さっさと荷物置いて、汗流したいですね」
 マリア:「うん」

 階段を登り、大宮駅西口へ向かう。
 途中でエホバの証人の信者が冊子配りしている前を通るが、同じキリスト教でも宗派によっては彼らが異端者扱いされることもあってか、魔女狩りには興味が無い様子だ。
 キリスト教内なら基本的にどの宗派でも仲良く付き合う救世軍でさえも、彼らとは付き合いにくいもよう(例としてエホバ信者の輸血嫌いは有名であるが、救世軍は病院経営も行っており、そこで輸血も行っている為)。

 稲生:「ここのロッカーが空いてるな」

 土休日は満員御礼になりやすい大宮駅のコインロッカーであるが、平日はそこそこ空いている。
 Suicaで支払うタイプのロッカーに目星を付けた稲生は、そこにイオンモールなどで購入したものを入れた。
 Suicaを使えば、開錠はそのSuicaを当てるだけで良い。

 稲生:「それじゃ、行きましょうか」
 マリア:「うん。こういう所は勇太に任せると安心だな」
 稲生:「ありがとうございます」

[同日17:00.天候:晴 JR大宮駅西口→送迎バス車内]

 稲生達が路線バスを降りた場所から更に西に行った所に、送迎用のマイクロバスが止まっている。
 それに乗り込んで発車を待つ。

 運転手B:「はい、発車します」

 発車の時間になると運転手が自動ドアを閉めた。
 尚、マイクロバスはエアブレーキが搭載されていない為(排気ブレーキは搭載されている)、その機構を利用して開閉する他の路線バスと違い、開閉に際してエアの音はしない。

 稲生:「体の傷痕は、もう無くなったっぽいですね」
 マリア:「おかげさまでね」

 その為か、他の魔女も、調査と称して来日しては温泉に入ったりしているが、大した成果は得られていないらしい。
 この事に対し、エレーナがこう断罪している。

『好きなオトコと一緒に入らないと意味無ェよ』

 と。
コメント (2)
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“大魔道師の弟子” 「帰省最終日」 2

2018-10-10 10:18:46 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[8月31日12:40.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区吉敷町 MOVIXさいたま]

 映画の上映が終わり、ぞろぞろと出口から出て来る観客達。
 その中に稲生とマリアも含まれていた。

 稲生:「いやあ、やっぱりパソコンで観るのと大画面で観るとは違いますね」
 マリア:「そりゃそうさ。家庭用プロジェクターも買ったことだし、これで屋敷の中でも十分映画が観れるってことさ」
 稲生:「ポップコーンとかはどうします?」

 稲生は購入して食べ終わったポップコーンとコーラの空き容器をゴミ箱に捨てながら言った。

 マリア:「ポップコーンくらい、私の人形に頼めば作ってくれるさ」
 稲生:「さすがですね」
 マリア:「次はどこ行く?」
 稲生:「屋敷で使う物はまだ購入しきれていないでしょう?今度はイオンにでも移動しますか」
 マリア:「うん、分かった」

[同日13:07.天候:晴 JRさいたま新都心駅西口→イオンモール与野]

 夏の日差しを避けるように、バス停に向かう。

 稲生:「まだ暑いですね。屋敷の涼しさがありがたいですよ」
 マリア:「それでも、私がいたイギリスより暑いくらいだよ」
 稲生:「そうなんですか。緯度の高い国は、涼しくていいですねぇ……」
 マリア:「冬は寒いけどね」
 稲生:「そりゃそうでしょうね」

 バスに乗り込むが、時間にならないとエンジンが掛からない為、まだ車内は暑い。
 ようやく発車1分前になって、エンジンが掛かった。
 待ってましたとばかり、クーラーの吹き出しスポットから強い風が吹き出て来る。
 マリアのサラサラとした金髪のボブヘアーがその風に靡いた。
 通路側に座る稲生が、手を伸ばして開けていた窓を閉める。

〔「お待たせ致しました。北浦和駅西口行き、まもなく発車致します」〕
〔ドアが閉まります。ご注意ください〕

 最近の中扉のドアは、ブザーではなく、電車のドアみたいなチャイムに変わっている。
 西口のバス乗り場は東口と比べればこぢんまりとしているが、それでも屋内(?)にあるので、そこを出発すると……。

 稲生:「また、暑い日差しが……」

 照り付けるわけである。

〔♪♪♪♪。毎度、国際興業バスをご利用頂きまして、ありがとうございます。このバスは白鍬電建住宅経由、北浦和駅西口行きです。次は北与野駅入口、北与野駅入口。……〕

 稲生:「予定通りだと、先生は今頃飛行機の中ですね」
 マリア:「ターミナルで寝過ごしてなきゃいいけどな」
 稲生:「そんなことってあるんですか?」
 マリア:「成田空港でもVIPエリア……つまり、ファーストクラスやビジネスクラスの客だけが利用できるエリアってあるでしょ?ソファとかが置いてあったり、ビジネスデスクが置いてあったり……」
 稲生:「あー、聞いたことありますね」

 イリーナはビジネスクラスのチケットを持っていたから、そこを利用できる権利はあるわけだ。

 マリア:「ポーリン先生と移動中、ラウンジで寝込んで大変だったとかエレーナが言ってたなぁ……」
 稲生:「いつの話ですか、それ?」

[同日15:30.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区本町西 イオンモール与野]

 買い物を終えて、タリーズコーヒーで休んでいる稲生達。

 稲生:「小腹が減ったのでちょっと……」
 マリア:「ああ、いいよ。私もスイーツを……」

 稲生、アイスコーヒーと一緒にホットドッグを注文する。
 そういえば映画の時にポップコーンを食べたので、昼はあまり腹が空かず、昼食は取っていなかったのだった。

 稲生:「だいぶ買いましたねぇ……」
 マリア:「こういうモールに来ると、ついつい買っちゃうな」
 稲生:「先生に『無駄使いするな』って怒られますかね?」
 マリア:「師匠の分も買っておいたし、大丈夫じゃない?イギリスに行ったのだって、“魔の者”対策は表向きで、多分金稼ぎに行ったんだと思うよ」
 稲生:「どういうことをしているのか、聞きたいような、聞きたくないような……」
 マリア:「ヒントを言えば、向こうでもホラーチックな事件が起きているってことさ」
 稲生:「ホラーチックな事件?『エルム街の悪夢』とか、『13日の金曜日』とか……」
 マリア:「まあ、それに近いかもね。勇太は日本で日本のモンスター(妖怪)と戦っていたみたいだけど、イギリスなどのヨーロッパには、そうそう勇太みたいなのはいない。だから、魔道師の出番なんだってさ」
 稲生:「それって魔界の穴が開いている?」
 マリア:「ボコボコと開いているみたい。師匠はそれを“魔の者”の仕業だと思ってるみたいだけど。それで確認してくるついでに、それ絡みの事件も解決させて金を稼ごうとしているんだろう」
 稲生:「先生はそういうことされていたんですね。僕達も一緒じゃなくていいんですかね?」
 マリア:「いいみたいだよ。ってか、私はその“魔の者”から逃げて日本まで来たんだから。多分、師匠としても、私なんかが行っても足手まといだと思っているんだろう」
 稲生:「そんなに凄い相手なんですね。北海道の時も苦労したのに、あれで眷属だったとは……」
 マリア:「“魔の者”本人は師匠達の力のおかげで、日本海を越えてやってくることはできない。だけど、それより力の弱い眷属は送り込むことはできる」
 稲生:「僕や威吹が倒した相手の中に、その眷属はいたんでしょうか?」
 マリア:「その中に得体の知れない者はいた?」
 稲生:「いましたよ。それも1つや2つじゃなかったです。威吹も相当苦労しました」
 マリア:「じゃあ、いただろうな。日本の妖怪が勇太のことを聞きつけて襲ってきたということは、あり得る話だ。でも、悉く勇太や威吹に撃退されて、諦めざるを得なかったってことだね」
 稲生:「そうかぁ、危なかったんだなぁ……。マリアさんは、よく悪魔を呼び出せましたね」
 マリア:「勇太が威吹を封印から解放させられたのと同じく、私にもその力くらいはあったらしい」
 稲生:「なるほど」
 マリア:「次はどこ行く?」
 稲生:「荷物を大宮駅のコインロッカーに入れて、それから例の温泉に行きますか」
 マリア:「いつも通りだな」

 マリアはニヤッと笑った。

 マリア:「その前に荷物を仕分けした方がいいかも……」
 稲生:「僕の分は自分で持ちますけど、先生の分とマリアさんの分はしっかり分けた方がいいかもしれませんね」

 中国人並みに爆買いでもしたのだろうか、この魔道師達は……?
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