報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

特別読切!“雲羽百三と障魔との戦い” 第二部

2018-10-13 19:47:24 | 日記
[2018年某月某日夜間 天候:曇 静岡県富士市 JR新富士駅]

〔♪♪♪♪。まもなく、新富士です。新富士の次は、静岡に止まります〕
〔Ladies & Gentlemen.We will soon make a breaf stop at Shin-Fuji.The stops after Shin-fuji,will be Shizuoka.〕

 私、雲羽百三を乗せた“こだま”号は無事、新富士駅に接近した。
 勧誡前日の夜、障魔が競うピークである。
 これを『障魔が時』と言うw
 おふざけはさておき、雲羽を乗せたN700系はATCブレーキに従い、時速70キロ以下で新富士駅の副線下りホームに入る。
 そして停車すると、ドアチャイムが2回鳴ってドアが開いた。

〔しんふじ、新富士です。しんふじ、新富士です。ご乗車、ありがとうございました〕

 私が列車を降りると同時に、下り本線を“のぞみ”だか“ひかり”だかが通過していく。
 とても速過ぎる為、列車の判別はできない。
 スーツを着用し、手にボストンバッグを持った私はそのまま改札口へと向かう。

 

 雲羽:「ふむ……。怪しい者はいないか……」

 ここでケンショーレンジャーが待ち構えていた場合、私は構内警備を請け負う静岡支社の仲間を召喚しなくてはならないだろう。
 だが、それは杞憂に終わった。

 雲羽:「おや?」

 だがしかし、改札口を出た私の足元に落ちている1枚のキップ。
 ふと脳裏に、先日書いた予知夢のことを思い出す。

 雲羽:(まあ、改札口を出てすぐにまた引き戻されるトラップなんて、あんまり考えられないからなぁ……)

 そう思った私はそのキップを拾い上げた。
 それはこの駅の入場券。
 何だ、入場券か。
 これなら改札の中には入れても、列車には乗れないぞ。
 所詮はこんなものか。
 私はそのキップを上着のポケットに入れると、今宵の宿泊先であるビジネスホテルに向かった。

[2018年某月某日夜間 天候 晴 静岡県富士市 某ビジネスホテル]

 無事にチェックインし、割り当てられたシングルルームに入った私は、早速登山中のトチロ〜さんにメールを入れた。

 トチロ〜:「ここまで無事で何よりです。明日は●時に駅まで迎えに行きますので、それまでけして魔に負けないようにしてください」

 とのこと。
 私はすぐに返信し、

 雲羽:「明日の朝まで、ホテルからは一切出ないようにします。ホテルの中にいれば安全でしょう」

 とした。
 仕事が終わってそのまま電車に飛び乗って来た私は、今夜は早めに寝ようと、室内のバスルームにあるバスタブにお湯を入れた。

 雲羽:「明日はいよいよ、勧誡が行われるのか……」

 果たして今夜は眠れるのだろうか。
 緊張して眠れなくし、翌日は寝不足にさせるというのも魔の働きだとするのなら、さすがにこれには勝てないかも。

 そう思っていたが、23時に就寝すると、あっという間に眠りに落ちた。
 どうやら、報恩坊の皆さんが私如きの為に祈って下さっているらしい。
 何とも、ありがたいことだ。
 嬉しくて涙が……フワ〜ア……!
 ……すいません、眠くて出る涙の量の方が多かったですw
 それでは、おやすみなさい。

[2018年某月某日朝 天候:雨 静岡県富士市 某ビジネスホテル客室内→朝食会場]

 枕が変わると抵抗無く起きられるものだ。
 おはようございます。
 うむ。
 寝坊という魔は退くことができた。
 私はすぐに起き上がり、朝の身支度を整えるべく、バスルームに入った。
 これから御本尊様の御前にいく手前、服装・身だしなみはキチンと整えて行かなければならない。
 そういえばこのホテル、モーニングサービスがあったんだったな。
 しっかりとした勤行は、しっかりとした食事からだ。
 え?なに?普通、朝食は朝の勤行が終わってからだって?
 ……コホン。私はまだ勧誡していないのだ。
 まあ、細かいことはいいじゃないか。
 私は身支度を整えると、一旦部屋を出て、朝食会場に向かった。

 朝食会場にて、再びトチロ〜さんとメール。

 トチロ〜:「ちゃんと起きられましたか?約束通り、駅前でお待ちしております」

 とのこと。
 ここまで魔の揺さぶりは無かったぞ。
 これならもう安心なのだろう。
 私は朝食を終えると、荷物を取りにまた部屋に戻った。

[2018年某月某日朝 天候:雨 某ビジネスホテル正面エントランス外]

 チェックアウトをしてホテルの外に出る。
 うわ……。
 こんな時に雨かよ。
 9月30日の時も台風直撃だったし、諸天からは歓迎されてないのかね。
 と、そこへ1台のタクシーが止まった。
 白い塗装に青いラインの入ったプリウスα。
 カタツムリ型の黄色い行灯に、『個人』と書いてあるので、個人タクシーだろう。
 誰かがタクシーを呼んだのだろう。
 参ったな。
 まさかと思って、私は傘を持っていない。
 駅から近いホテルとはいえ、さすがにここから駅までダッシュで行っても濡れるだろうな。
 せっかく身支度を整えたのに、雨でずぶ濡れで行くのも御本尊様に申し訳が立たない。
 私がどうしようか悩んでいると……。

 運転手:「お迎えに上がりましたよ」

 白い帽子を深く被った運転手が窓を開けて私に話し掛けた。

 雲羽:「迎え?いや、私はタクシーは呼んでませんよ?」
 運転手:「失礼ですが昔、報恩坊に所属されていた雲羽さんでしょう?」
 雲羽:「え?ええ、そうですが……」
 運転手:「私も法華講員です。これから大石寺に向かう所なんですよ。一緒に乗りませんか?もちろん、料金は要りません」
 雲羽:「ですが、駅前でトチロ〜さんと待ち合わせをしているので……」
 運転手:「それなら駅まで乗って行きませんか?」
 雲羽:「いいんですか?」
 運転手:「ええ。どうせ通り道ですし……」
 雲羽:「それじゃ、よろしくお願いします」

 運転手はリアドアを開けた。
 そこはタクシー、自動ドアだ。
 私が乗り込むと……。

 I田:「やあ、雲羽さん。お久しぶりw」
 雲羽:「あれ!?法道院のI田さん!?」
 運転手:「この前はどうも」

 運転手が帽子を取ると、それは……。

 雲羽:「O原班長!?」
 O原:「それでは出発します。……法道院まで」
 雲羽:「いやいやいや!ちょちょちょ……!」
 I田:「ダメですよ、雲羽さん。元は法道院に所属してたんでしょう?また信心を始めたくなったのなら、法道院に戻るのが筋目じゃないですか?」
 雲羽:「いや、そんなの知らないし!」

 どんどん駅から遠ざかって行くO原タクシー。

 O原:「それじゃI田くん、Y沢講頭に『今月の誓願、うちの地区は達成です』って報告しといて」
 I田:「分かりました」
 雲羽:「俺が最後の1人なのかよ!?」
 O原:「いやあ、宝物殿の前で再会した時、正にキミはうちに戻るべき人間だと思っていたんだよ。やっぱり、仏縁ってのは大事だね」
 雲羽:「んが……!?」
 I田:「雲羽さん、街頭折伏とか、うちには色々とやることがやりますんでね、これからもよろしくお願いしますよ」
 雲羽:「降ろしてくれーっ!!」

 私を乗せたO原タクシーは一路、東京・池袋へと疾走して行った。

                                  雲羽百三と障魔との戦い 第二部 完
コメント (9)
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