[9月10日07:30.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原のマンション]
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
今では同居人は高橋君の他、BOWの日本版リサ・トレヴァーと2人になっている。
BOWとは『Bio Organic Weapon』の略で、まあ簡単に言えば遺伝子組み換えの生物兵器のことだ。
アメリカのは完全に化け物と化して、特殊部隊に退治された上、研究所の自爆に巻き込まれてその生涯を終えたらしい。
日本で開発されたリサ・トレヴァーは、恐らくこれが完成品。
自我・理性共に失われておらず、普段は人間の姿そのままという正に完璧なBOWだ。
それが何故私の所にいるのか、それは話せば長くなる。
そのリサであるが、ここ1週間ほど、ベランダから外を眺めることが日課となっていた。
彼女が見下ろしているものは、近くに小中学校がある為か、通学する小中学生達。
リサの歳から言えば、本当なら中学1年生くらいか?
愛原:「なあ、高橋君。さっきからずっと見てるんだけど、もしかして行きたいのかな?」
朝食を終え、私は食後のコーヒーを啜っていた。
食後の片付けをしている高橋は、手を休めて答えた。
高橋:「リサですか?多分、そうだと思いますよ。ヤンチャな中坊は、誰でも必ず1度は考えるんですよねぇ。いやあ、若い若い」
高橋は懐かしそうに頷いた。
愛原:「いや、君の場合は今からたった10年そこら前の話だろう?何言ってるんだ。ってか、何の話だ?」
高橋:「え?他校のヤンキー潰しの旅ですよね?俺もヤンキーの多い千葉まで行ってきましたよ。ちょうと京成線沿線が……」
愛原:「違う!普通に登校だ!」
私は高橋を窘めると、リサの方に向き直った。
愛原:「リサ!」
私はリサに話し掛けた。
リサ:「何ですか、愛原さん?」
高橋:「てめ、先生を先生付けで呼ばないとは……!」
愛原:「いや、俺が止めさせたんだ。別にリサはキミと違って、俺の弟子ってわけじゃないんだし」
高橋:「いや、しかしですね……」
愛原:「いいから高橋君は黙っててくれ。……えーと……何だ。その……もし良かったら、学校……行く?」
リサ:「! おー!」
リサは目を丸くして大きく両手を挙げた。
一瞬、両手の爪が長く鋭く尖る。
が、すぐに元に戻った。
高橋:「マジっすか、先生!?俺はヤンキーは潰しましたけど、学校ごと潰しはしませんでしたよ!?」
高橋の言うことはもっともだ。
リサの場合、本気でクリーチャーに変化すれば学校1つ潰すことなど、造作も無いことだろう。
だが、本来は学校に行ってないといけない歳なのだ。
しかも、本人は乗り気である。
高橋:「しかもそんなカネあるんスか!?」
愛原:「だからエージェントさんに相談する必要がある。事務所に行ったら、まずはエージェントさんに相談してみよう」
高橋:「いやー、俺はエージェントからも反対されると思いますよー?」
愛原:「その時はその時だ。な?リサ?取りあえず、キミの面倒を見てくれるお偉いさんに聞いてみるから、それまで待っててくれ」
リサ:「分かった!」
高橋:「いや、ぜってー無理ですって」
高橋は口元を歪め、首を傾げて言った。
ま、ダメ元だ。
私も正直、高橋の言う通りになるとは思っていた。
もしダメなら通信制教育とか、そういう手もあるだろう。
[同日09:00.天候:晴 愛原学探偵事務所]
同じ地区の雑居ビル内に、私の事務所はある。
雑居ビルと言っても、築浅のきれいなビルだ。
そこは北区王子時代と比べれば、だいぶマシになった。
高野:「おはようございます、先生」
愛原:「おはよう。そうだ。高野君にも相談しておきたい」
高野:「何ですか?」
私は今朝あったことを高野君にも話した。
高野:「いいじゃないですか。ずっと家に閉じこもっていたり、たまにこの事務所に遊びに来てくれるだけの生活よりは」
愛原:「おー、高野君は賛成してくれるか」
高野:「私『は』って……。マサ君は先生の言う事に反対したの?」
高野君は高橋を睨みつけるように視線を向けた。
高橋:「いや、つーか無理だろ!?BOWだぜ?女の世界にも、しっかりケンカはあるんだろ?そこでブチギレて学校ごと潰しやがったら、先生に迷惑が掛かるんだ!それくらい、エージェントも百も承知だろうが!」
高野:「リサちゃん、しっかりしてそうだけどね。研究所で嫌と言うほど研究されてきたわけでしょう?だったら、我慢強い所とか有りそうだけどね」
愛原:「いや、俺もそう思うんだよ。でも、エージェントさんレベルではどう思うかだ。そこは高橋君の言う通りだと思う」
高野:「それじゃ、善は急げですね」
愛原:「ああ。今からメールを送っておこう」
私は自分の机に座ると、メールを作成することにした。
と!
愛原:「あれ?」
高橋:「どうしました?」
愛原:「元々今日、エージェントさんが来ることになってるわ」
PCの画面には今日の10時、リサの様子伺いにやってくる旨のメールが受信されていた。
高野:「ちょうどいいですね。この時、リサちゃんの希望を伝えてみては?」
愛原:「そうだな」
それから1時間後、まだまだ残暑が厳しいというのに、スーツ姿の女性エージェントがやってきた。
名前を善場(としば)と言った。
私よりは若いが、高橋君よりは年上だ。
多分、高野君くらいの年齢(30歳手前)だと思われる。
善場:「今日はお忙しいところ、お邪魔して申し訳ありません」
愛原:「いえいえ。暑い中、お疲れ様です」
私と善場氏は応接室に移動した。
高野:「失礼致します」
高野君が私達にアイスコーヒーを持って来た。
善場:「お構いなく」
高野:「どうぞ、ごゆっくり……」
高野君が下がると、善場氏が先に口を開いた。
善場:「用件というのは他でもありません。今、愛原さんが面倒を見て頂いているリサ・トレヴァーのことです」
愛原:「実は私も、ちょうどリサのことで御相談させて頂きたいことがあったんですよ」
善場:「そうでしたか。それは奇遇ですね」
愛原:「先に、善場さんのお話から伺いましょう」
善場:「はい。実は……」
善場氏の話とは、一体何なのだろう?
そして私の話、リサの希望は叶うのだろうか。
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
今では同居人は高橋君の他、BOWの日本版リサ・トレヴァーと2人になっている。
BOWとは『Bio Organic Weapon』の略で、まあ簡単に言えば遺伝子組み換えの生物兵器のことだ。
アメリカのは完全に化け物と化して、特殊部隊に退治された上、研究所の自爆に巻き込まれてその生涯を終えたらしい。
日本で開発されたリサ・トレヴァーは、恐らくこれが完成品。
自我・理性共に失われておらず、普段は人間の姿そのままという正に完璧なBOWだ。
それが何故私の所にいるのか、それは話せば長くなる。
そのリサであるが、ここ1週間ほど、ベランダから外を眺めることが日課となっていた。
彼女が見下ろしているものは、近くに小中学校がある為か、通学する小中学生達。
リサの歳から言えば、本当なら中学1年生くらいか?
愛原:「なあ、高橋君。さっきからずっと見てるんだけど、もしかして行きたいのかな?」
朝食を終え、私は食後のコーヒーを啜っていた。
食後の片付けをしている高橋は、手を休めて答えた。
高橋:「リサですか?多分、そうだと思いますよ。ヤンチャな中坊は、誰でも必ず1度は考えるんですよねぇ。いやあ、若い若い」
高橋は懐かしそうに頷いた。
愛原:「いや、君の場合は今からたった10年そこら前の話だろう?何言ってるんだ。ってか、何の話だ?」
高橋:「え?他校のヤンキー潰しの旅ですよね?俺もヤンキーの多い千葉まで行ってきましたよ。ちょうと京成線沿線が……」
愛原:「違う!普通に登校だ!」
私は高橋を窘めると、リサの方に向き直った。
愛原:「リサ!」
私はリサに話し掛けた。
リサ:「何ですか、愛原さん?」
高橋:「てめ、先生を先生付けで呼ばないとは……!」
愛原:「いや、俺が止めさせたんだ。別にリサはキミと違って、俺の弟子ってわけじゃないんだし」
高橋:「いや、しかしですね……」
愛原:「いいから高橋君は黙っててくれ。……えーと……何だ。その……もし良かったら、学校……行く?」
リサ:「! おー!」
リサは目を丸くして大きく両手を挙げた。
一瞬、両手の爪が長く鋭く尖る。
が、すぐに元に戻った。
高橋:「マジっすか、先生!?俺はヤンキーは潰しましたけど、学校ごと潰しはしませんでしたよ!?」
高橋の言うことはもっともだ。
リサの場合、本気でクリーチャーに変化すれば学校1つ潰すことなど、造作も無いことだろう。
だが、本来は学校に行ってないといけない歳なのだ。
しかも、本人は乗り気である。
高橋:「しかもそんなカネあるんスか!?」
愛原:「だからエージェントさんに相談する必要がある。事務所に行ったら、まずはエージェントさんに相談してみよう」
高橋:「いやー、俺はエージェントからも反対されると思いますよー?」
愛原:「その時はその時だ。な?リサ?取りあえず、キミの面倒を見てくれるお偉いさんに聞いてみるから、それまで待っててくれ」
リサ:「分かった!」
高橋:「いや、ぜってー無理ですって」
高橋は口元を歪め、首を傾げて言った。
ま、ダメ元だ。
私も正直、高橋の言う通りになるとは思っていた。
もしダメなら通信制教育とか、そういう手もあるだろう。
[同日09:00.天候:晴 愛原学探偵事務所]
同じ地区の雑居ビル内に、私の事務所はある。
雑居ビルと言っても、築浅のきれいなビルだ。
そこは北区王子時代と比べれば、だいぶマシになった。
高野:「おはようございます、先生」
愛原:「おはよう。そうだ。高野君にも相談しておきたい」
高野:「何ですか?」
私は今朝あったことを高野君にも話した。
高野:「いいじゃないですか。ずっと家に閉じこもっていたり、たまにこの事務所に遊びに来てくれるだけの生活よりは」
愛原:「おー、高野君は賛成してくれるか」
高野:「私『は』って……。マサ君は先生の言う事に反対したの?」
高野君は高橋を睨みつけるように視線を向けた。
高橋:「いや、つーか無理だろ!?BOWだぜ?女の世界にも、しっかりケンカはあるんだろ?そこでブチギレて学校ごと潰しやがったら、先生に迷惑が掛かるんだ!それくらい、エージェントも百も承知だろうが!」
高野:「リサちゃん、しっかりしてそうだけどね。研究所で嫌と言うほど研究されてきたわけでしょう?だったら、我慢強い所とか有りそうだけどね」
愛原:「いや、俺もそう思うんだよ。でも、エージェントさんレベルではどう思うかだ。そこは高橋君の言う通りだと思う」
高野:「それじゃ、善は急げですね」
愛原:「ああ。今からメールを送っておこう」
私は自分の机に座ると、メールを作成することにした。
と!
愛原:「あれ?」
高橋:「どうしました?」
愛原:「元々今日、エージェントさんが来ることになってるわ」
PCの画面には今日の10時、リサの様子伺いにやってくる旨のメールが受信されていた。
高野:「ちょうどいいですね。この時、リサちゃんの希望を伝えてみては?」
愛原:「そうだな」
それから1時間後、まだまだ残暑が厳しいというのに、スーツ姿の女性エージェントがやってきた。
名前を善場(としば)と言った。
私よりは若いが、高橋君よりは年上だ。
多分、高野君くらいの年齢(30歳手前)だと思われる。
善場:「今日はお忙しいところ、お邪魔して申し訳ありません」
愛原:「いえいえ。暑い中、お疲れ様です」
私と善場氏は応接室に移動した。
高野:「失礼致します」
高野君が私達にアイスコーヒーを持って来た。
善場:「お構いなく」
高野:「どうぞ、ごゆっくり……」
高野君が下がると、善場氏が先に口を開いた。
善場:「用件というのは他でもありません。今、愛原さんが面倒を見て頂いているリサ・トレヴァーのことです」
愛原:「実は私も、ちょうどリサのことで御相談させて頂きたいことがあったんですよ」
善場:「そうでしたか。それは奇遇ですね」
愛原:「先に、善場さんのお話から伺いましょう」
善場:「はい。実は……」
善場氏の話とは、一体何なのだろう?
そして私の話、リサの希望は叶うのだろうか。