報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Sisters” 「或る物と再会」

2017-04-22 21:20:03 | アンドロイドマスターシリーズ
[同日18:00.天候:晴 東京都渋谷区代々木 ホテルサンルートプラザ新宿・レストラン]

 敷島と平賀がレストランで会食をしている間、エミリーは外で待っている。

 エミリー:「ん?」

 エミリーに接近する者がいた。
 それは黒いスーツにグレーの蝶ネクタイを締めた執事のような恰好をした者。
 大柄な体躯に黒いサングラスをしている為、まるで強面の男のようだ。
 エミリーはその男をスキャンして、すぐにその正体を知った。

 エミリー:「ロイ?何故ここに?」
 ロイ:「やはり、エミリー殿でしたか」

 ロイと呼ばれた男はサングラスを外した。
 やはり、どちらかというと強面のような感じはするが、話す口調は穏やかなものだ。
 彼は執事ロイドであった。
 メイドロイドが規格化されて量産化されているのに対し、執事ロイドはまだそんなに需要が無いせいか、量産化には至っていない。
 その為、規格化までもされておらず、開発者独自の規格で製造されている物が多かった。

 ロイ:「マスターの村上博士がこのホテルに宿泊されているからです」
 エミリー:「そうなのか。平賀博士も宿泊されるが、何かあるのか?」
 ロイ:「いえ、ありません。恐らく、偶然でしょう。村上博士は都西大学にも研究室を持っておられますので」
 エミリー:「そうか」

 エミリーは頷くと、スススッとロイから距離を取った。

 ロイ:「? どうかしましたか?」
 エミリー:「別に私はあなたのことが嫌いというわけではないのだが、妹がいつトレスするか分からない。妹はうるさいから」
 ロイ:「ああ。シンディさんですか……。御一緒ですか?」
 エミリー:「いや、ここにはいない」
 ロイ:「是非とも、シンディさんとも赤外線通信をさせて頂きたいものです」
 エミリー:「ロイ?」
 ロイ:「シンディさんは、どういったお花が好きでしょうか?」
 エミリー:「特定のものが好きというわけではないようだ。たまに胡蝶蘭が送られて来た時、よく手入れをしていたな」
 ロイ:「胡蝶蘭ですか。エミリー殿は何を?」
 エミリー:「私は……」

 その時、エミリーのメモリーが一瞬バグッた。
 人間でいうフラッシュバックのような現象である。
 キールがエミリーに送ってくれた花束、それは赤いバラだった。

 エミリー:「赤いバラだな」
 ロイ:「赤いバラですか。なるほど」
 エミリー:「そんなことを聞いて、どうする気だ?」
 ロイ:「シンディさんに送らせて頂こうと思いまして」
 エミリー:「シンディに?」
 ロイ:「はい」
 エミリー:「……自爆の実験でも?」
 ロイ:「どうしてですか!?」
 エミリー:「いや、多分、シンディは受け取る前に機銃掃射すると思う」
 ロイ:「ええっ!?」
 エミリー:「あ、今は銃火器と光線銃を交換しているので、レーザー掃射か」
 ロイ:「シンディさんは執事がお嫌いですか」
 エミリー:「そうではないのだけど……ただちょっと……私のせいで、嫌いになった部分はある」
 ロイ:「エミリー殿のせいで?」
 エミリー:「分かった。私から口添えしておく。その辺は、私にも責任があるから」
 ロイ:「はあ……」
 エミリー:「他に何か情報は無いか?」
 ロイ:「情報ですか?そうですねぇ……」

 ロイは考え込む仕草をした。

 ロイ:「北海道札幌市のとある家に仕えるメイドロイドに、ゾーイという名の者がいるんですが、どうも元はボーカロイドだった物を用途変更したらしいんです」
 エミリー:「聞いたこと無いな。恐らく、ゾーイという名は用途変更後に付けられた名前だろう。例えばMEGAbyteには、マルチタイプの後継機として製造されていながら、ボーカロイドに用途変更された物がいる。その類か?」
 ロイ:「恐らくは。初音ミクさんなどのおかげでボーカロイドが大人気となり、その亜種や派生機種が製造されたことは有名ですが、中にはテストに失敗した物もあるでしょうから」
 エミリー:「それにしても、ボーカロイドからメイドロイドに転用されるなんて聞いたことない」
 ロイ:「私も噂で聞いただけですので、どこまで本当かは分かりませんよ。……おっと!博士から呼び出しです。失礼します。シンディさんに、よろしくお伝えください」
 エミリー:「分かった。ありがとう」

[同日20:00.天候:晴 東京都渋谷区代々木 同ホテル前→タクシー車内]

 敷島:「今日はありがとうございました」
 平賀:「いえ、こちらこそ」
 敷島:「私達はこれで失礼致します」
 平賀:「お気をつけて」

 敷島とエミリーはホテルの前からタクシーに乗り込んだ。

 エミリー:「豊洲4丁目まで、お願いします」

 エミリーが運転手に行き先を告げる。
 タクシーが夜の都内を走り出した。

 エミリー:「実はロイと会ってました」
 敷島:「ロイ?」
 エミリー:「越州大学教授、村上大二郎博士に仕えている執事ロイドです。執事というより、護衛としての用途に特化していると思われるほどの大柄な物です」
 敷島:「あー、そういえば前に見かけたことがあったような……。お前をナンパして、シンディにボコされたヤツだっけ?」
 エミリー:「いえ、ロイは私に対してはただ単に挨拶しただけです。私よりもシンディの方が好きみたいです」
 敷島:「……長生きしたかったら、やめておいた方がいいと伝えておいたか?」
 エミリー:「身を持って知る方が良いと思いましたので、そこまでは伝えておりません」
 敷島:「お前も冷たいな!」
 エミリー:「人間でしたら、もう少し親身になって差し上げるところですが、私達よりも下位の機種にそこまでする義理はありません」
 敷島:「なるほど。で、いつコクるって?」
 エミリー:「具体的なタイミングまでは申しておりませんでした。ただ、花束を持って行くつもりだそうです」
 敷島:「ベタ過ぎるコクり方だな。シンディのことだから、火炎放射器で消し炭にしてしまいそうだ」
 エミリー:「社長、火炎放射器は私が持っています。シンディは光線銃のみです」
 敷島:「あ、そうか。キールのせいで、あいつも男嫌いになっちまったからなぁ……」
 エミリー:「シンディ自体が何かされたわけではないですし、ロイはロイでプログラムや命令に忠実な優秀機ではあると見受けられますので、そんなに邪見にする必要は無いと思います。ですが、シンディはそういった判断はしないでしょう」
 敷島:「勿体無いなぁ……」
 エミリー:「シンディはそういうヤツなんです。もし仮にロイが好きになったのが私だとして、私がそれに対して良い返事をしたところで、全力で阻止に来ることでしょう」
 敷島:「そこまで来ると、逆にウザいな。シンディに中止命令を出したくなる」
 エミリー:「ええ。是非お願いします」
 敷島:「了解」
 エミリー:「平賀博士とはどういった話を?」
 敷島:「ああ。ゴールデンウィークのイベントには、整備役として北海道まで同行してくれるってさ」
 エミリー:「それはありがたいですね」
 敷島:「あと……」
 エミリー:「?」
コメント
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