報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「イリーナ組の社会科見学」 〜中央高速バス〜

2017-04-25 19:43:16 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月2日17:00.天候:晴 白馬八方バスターミナル]

 バスターミナルも兼ねた案内所の前に1台の車が到着する。
 今回はイリーナが連れて行くということもあって、ベンツのSクラスであった。

 稲生:「それにしても、夕方に出発するなんて……」
 イリーナ:「ちょっと変わってるでしょ。魔界の入口を適当に開けるわけにはいかないからね」
 稲生:「適当にって……。えーっと……じゃあ、乗車券は1人ずつ持ちましょう。この時期は夜行便が無いから、実質的に最後のバスってことになりますね」
 イリーナ:「なるほど」
 マリア:「ちょっとトイレに行ってくる」
 稲生:「はい。途中休憩が2回あるので、夕食はこの時に買う必要がありそうです」
 イリーナ:「あー、そういうことになるか」
 稲生:「しかし、魔界の穴を通りに行くのに東京まで行くことになるとは……」
 イリーナ:「しょうがない。今回はたまたま開きやすい所がそこだったんだよ。何しろ、思い立ったが吉日って言うからね」
 稲生:「しかも、その場所が東京中央学園なんて……」
 イリーナ:「いや、ほんと、偶然だよね」
 稲生:「何か、偶然過ぎて怖いです」

[同日17:15.天候:晴 京王バス東高速バス車内]

〔「お待たせ致しました。バスタ新宿行き、発車致します」〕

 昼行便の最終便は長野県側のアルピコ交通ではなく、東京側の京王バスが担当する。
 白馬線もまた『中央高速バス』の1つであると分かる瞬間だ。
 4列シートではあるが、長距離便ということもあってか、貸切観光バスの座席よりも少し広めに造られている。
 さすがに、ドル箱の松本線で導入されているSシート(2列と1列のハイグレード席)は無かった。
 稲生とマリアで隣り合って座り、その前にイリーナが座る。
 前回の時と同様、イリーナはさっさと座席に座るとフードを被って寝る体勢を取った。
 夕暮れ迫る村内をバスが走り出す。

 稲生:「魔界の穴は塞いだはずなのに、どうしても僕の母校が出入口になってしまうんですか」
 マリア:「しょうがない。何かのきっかけで、どうしてもそうなってしまうんだよ」

 マリアはバスターミナルの自販機で買った飲み物を口に運んだ。

 マリア:「例えば肩を脱臼した経験のある者は、例え治ったとしても、また肩が外れやすいという。つまり、それと同じさ」
 稲生:「はあ……そういうもんですか」
 マリア:「1度その場で魔界の穴が開いてしまうと、例え後で塞がったとしても、また開いてしまいやすいということさ」
 稲生:「なるほど……。高校時代は、とんだ無駄なことをしてたんですねぇ、僕達……」
 マリア:「まあ、結果的には。だけど、素人の集団でよくあそこまでやったものだと思うぞ」
 稲生:「威吹とかも、いてくれましたしね」
 マリア:「いっそのこと、ユウタはあの狐妖怪をファミリアにしてしまったらどうだ?」
 稲生:「ええっ?いや、それは威吹に申し訳ないですよ。今、あいつは魔界で静かに暮らしているんですから」
 マリア:「魔道師の修行をしていたわけでもないのに、よくあんな危険な狐を手懐けていたものだ」
 稲生:「威吹はいいヤツですよ。とても、江戸時代は人喰い妖狐だったとは思えないくらい」
 マリア:「狐は人を化かす生き物だということは知ってるよね?……まあ、いいや。このバスが終点に着くのは何時くらい?」
 稲生:「バスタ新宿着、22時28分ですね」
 マリア:「うん、いい時間だ」
 稲生:「そこから山手線で上野に向かって……。まあ、23時過ぎには魔界の穴に辿り着けますか」
 マリア:「時差ボケに注意しないとな」
 稲生:「やっぱそうなりますか。魔界って、海外旅行みたいなものですねぇ……」
 マリア:「うん。何も、飛行機に乗るだけが海外旅行じゃないってことさ」
 稲生:「なるほど……。マリアさん、“ユーロスター”には乗りました?」
 マリア:「いや、まだ無い」

 英仏海峡トンネルを通る国際列車である。
 人間としての人生を終えたマリアは、イリーナの瞬間移動魔法によって、まずは東欧に一っ飛びしたからである。
 政情不安な国の方が“魔の者”は追いにくいという性質に応えたものだ。
 人間に憑依したり操ったりするのだが、政情不安な国だと憑依先の人間が真っ先に殺される恐れが高い為。
 更に高飛びして政情は安定している日本まで来たが、さすがに遠すぎることもあって、“魔の者”はその眷属を送って寄越す程度しかできていない。

 マリア:「“魔の者”を倒したら、乗れるかもよ」
 稲生:「今はダメなんですか?」
 マリア:「トンネルに入った途端、“魔の者”はテロリストを操って、トンネルに爆弾を仕掛けさせるだろう。今ならイスラム教のせいにできるからな」
 稲生:「なるほど……」

 キリスト教は魔女狩り、イスラム教はテロで魔道師達を追い詰めてくる為、こちら側にとって世知辛い宗教であるようだ。
 傍観勢兼実況勢にあるのは仏教くらいか。

[同日21:00.天候:晴 中央自動車道上]

 バスは順調に中央自動車道の上り線を走行している。

 マリア:「げっ……!」
 稲生:「どうしました?」

 マリアが手持ちの水晶球を見て嫌そうな顔をした。

 マリア:「私達が向かう魔界の穴、行くのは私達だけじゃないみたいだぞ」
 稲生:「他に誰が行くんです?」
 マリア:「エレーナ……」
 稲生:「エレーナくらい、いいじゃないですか。ついでに、マスター昇格のお祝いの言葉でも掛けてあげましょうよ。昔は敵だったけど、今は僕達の味方になっているんですし……」
 マリア:「いや、エレーナは今さらどうでもいい。そうじゃなくて……」
 稲生:「リリィも一緒ですか?まあ、別に……」
 マリア:「リリィはいない。というか多分、もう魔界にいると思う。そうじゃくて、アンナと鉢合わせになりそう」
 稲生:「……マジですか?」
 マリア:「うん」
 稲生:「夜の学校の、それも閉鎖された旧校舎の怖さを倍増してくれる魔女さんですよねぇ……」
 マリア:「私達はむしろ、人間側に恐怖を与える側だが……」
 稲生:「僕だけ恐怖を味わうことになりそうです……。帰っていいですか?」
 マリア:「師匠とブラックジャックで勝ったら帰っていいんじゃない?」

 その言葉を聞いた稲生、更に血の気が引いた。

 稲生:「あー……」
 マリア:「ま、私が一緒にいるから。アンナの好き勝手にはさせないよ」
 稲生:「あ、ありがとうございます」

 魔女には魔女で対抗せよということだ。
 エレーナもいるからと思うが、恐らくこの場合、エレーナは実況役に徹するだけであろう。
 アンナはヤンデレ魔女で、どうも稲生を狙っているフシがある。
 もしもマリアという先約がいなかったら、とっくにアナスタシア組の師匠アナスタシアもびっくりの手法で引き入れたのではないかと思われる。
 表立ったケンカはしていない。
 門内破和の罪に問われ、最悪破門処分になるからだ。
 なのでアンナも表向きにはマリアに気を使って退いているのだが、あくまでも表向きは……という感じが拭えないのであった。
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“大魔道師の弟子” 「新年度人事発表」

2017-04-25 10:00:10 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月1日18:00.天候:晴 長野県北部 マリアの屋敷]

 稲生:「あれ?アルカディアタイムスの夕刊だ」

 稲生が1Fのエントランスホールに行くと、エントランス脇のメール室でメイド人形の1人が郵便物の仕分けをしていた。
 といっても、9割方がイリーナ宛である。
 稲生宛は殆ど無い。
 その為か、配達された新聞の置き場所にされていたりする。

 稲生:「新聞もらって行きますよー」

 メイド人形は稲生の言葉にコクコクと頷いた。

 稲生:「あっ、そうか……」

 新聞の一面記事には、『ダンテ一門、新年度人事発表さる!』と書かれていた。
 稲生の為に、新聞は英語版の他に日本語版も配達されていた。
 新聞はこの他に人間界の英字新聞と、とある全国紙が配達されている。
 悠久の時を生きる魔道師のこと、たった1年おきでは大きな事は基本的に起こらない。
 数人単位で新弟子が入ったことだの、誰かが独立しただの、誰が階級が上がったか下がったかのことが書かれている。
 稲生が新弟子として入った時も、しっかりこの新聞に書かれた。
 そしてそれは、切り抜きとして保存してある。
 欧米人だけで構成されているはずのダンテ門流に、初めての日本人新弟子が入ったことが報じられた。
 但し、本来は他門との協定に基づいて欧米人のみにしていた為、協定違反ではないかということも書かれていた。
 そんなことを思い出しながら、稲生はある項目に注目した。
 それは、見習(Intern)から1人前(Low Master)になった者の所。

 『ポーリン組:エレーナ・マーロン 契約悪魔:マモン』

 稲生:「そうか。エレーナもやっとローマスターか……」

 因みに契約悪魔のマモンとは、キリスト教における七つの大罪で、強欲を司る悪魔のことである。
 対応する動物(やモンスター)はゴブリン、狐、針鼠、烏ということになっている。
 しかしエレーナの使い魔は黒猫であり、これは本来、嫉妬の悪魔レヴィアタンに対応するものである。
 だが、特に使い魔に関する記述が無いことから、特に変更する必要は無いのだろう。

 稲生:「ん?」

 更に稲生の目を引く物はまだあった。

 『尚、今年度よりデビルネームはフルに名乗ることが決定された。これはキリスト教徒の洗礼名(例としてマリア、ヨハネなど)がそのまま名乗られているのに対抗するものであるとされる』

 稲生:「ん?ということは、エレーナの名前がエレーナ・マモン・マーロンになるのか?何か、日本語的に語感が悪いなぁ……」

 だが、記事にはまだ続きがある。

 『これに伴い、フルネームが長くなって煩わしいという場合に備え、デビルネームをそのまま洗礼名のようにアルファベットに略して名乗ることも良いとされた』

 ということは、エレーナの場合は『エレーナ・M・マーロン』ということになる。

 稲生:「ふむふむ……」

 稲生はそのまま大食堂に行って、夕食を取った。

 稲生:「新聞に大きく載ってますよ」
 イリーナ:「おっ、さすが。御用新聞は早いねぇ」
 稲生:「御用新聞……。するとマリアさんの名前、『マリアンナ・ベルフェゴール・スカーレット』ということになるんですね?」
 イリーナ:「そういうことになるね。因みにアルファベットの頭文字はBだよ」
 稲生:「なるほど」
 マリア:「スペインやポルトガルはたたでさえフルネームが長いのに、もっと大変ですね」
 稲生:「そうなんですか」
 イリーナ:「本人達が直接来て名乗ってくれればいいんだけど、なかなか日本に来ないからね。洗礼名・自分の名前・母方の姓・父方の姓でフルネームだから」
 稲生:「ええっ!?」
 マリア:「デビルネームの中には長いヤツもあるから、それを充てられたら大変ですね」
 イリーナ:「そうねぇ……。だから、頭文字のアルファベットで略してもいいってことになったのね」
 稲生:「何だか大変ですねぇ……」

 もちろんイリーナ組には、何ら変化は無し。
 稲生は見習としての修行を継続、マリアはローマスターとして魔法の鍛練を続行せよということだ。

 稲生:「! そういえば……」
 マリア:「?」
 稲生:「マリアさんは自作の人形、エレーナは黒猫が使い魔で、他にもカラスや黒い犬を使い魔にしている魔道師さん達がいますが……」
 イリーナ:「うん」
 稲生:「先生の使い魔を僕はまだ見たことがありません」
 イリーナ:「おー、そうか。そう言えばそうだったね」
 マリア:「師匠ほどのグランドマスターになれば、ほぼ契約悪魔から供給される魔力だけで事足りるようになるから、あまりファミリア(使い魔)を必要としないんだ。それに師匠のファミリア、人間界にいちゃマズいものだし」
 稲生:「ええっ?」
 イリーナ:「うん、そうだね。よし、分かった。じゃ、久しぶりに遠足に行きますかー」
 稲生:「え、遠足!?」
 イリーナ:「社会科見学でも修学旅行でもいいよ」
 稲生:「どこに行くんですか?」
 マリア:「人間界以外だから、魔界だよ。そもそも、師匠のファミリアってのはd……」
 イリーナ:「ああーっと!マリア!そこは見てのお楽しみってことにしたから、内緒にしてて!」
 マリア:「そんな演出しなくても……」
 稲生:「魔界にいないといけないということは、人間界には普通に存在しないというものですね」
 イリーナ:「まあ、そういうことね」

 普段フランス人形の姿をしているマリアの人形達は、マリアの魔法によって人形形態のままコミカルな動きをしたり、人間形態になってメイドとして働いたりする。
 普段はメイド服を着たフランス人形の姿をしているわけだから、別にそれがそのまま人間界にしても差支えは無い。
 また、エレーナの黒猫も、知っている人間の前では人語を話すが、それ以外は普通の黒猫だ。
 だからこれも人間界にいても、そんなに問題は無い。
 しかし、イリーナの使い魔は違うという。

 イリーナ:「早速明日行きましょう。準備をしといてね」
 稲生:「分かりました」
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