[3月29日07:00.天候:晴 東京都新宿区新宿2丁目 アパホテル新宿御苑前]
稲生はスマホのアラームで目が覚めた。
朝の身支度をする為、バスルームに向かう。
一応、BGM代わりにテレビを点けるとニュースをやっていた。
〔「……昨夜9時半頃、東京都新宿区のホテルで女性の下着ばかりを狙った窃盗事件があり、この事件で男が逮捕されました」〕
稲生:「ブッ!」
〔「事件があったのは、新宿2丁目のアパホテル新宿御苑前店で、このホテルにある大浴場の女性用脱衣所にあった下着およそ10点近くが盗まれたものです。この事件を受けて出動した新宿警察署は、ホテルから逃走を図った男を窃盗の現行犯で逮捕しました。逮捕されたのは住所不定無職の横田高明容疑者です」〕
稲生:「うあー……また顕正会本部に家宅捜索入るかな……。いや、住所不定無職って!?」
〔「警察の取り調べに対し、横田容疑者は意味不明の言動を続けていることから、警察では責任能力の有無について慎重に調べを進めていく方針です」〕
稲生:「しっかりNHKの全国ニュースになっちゃってるし……」
〔「次です。“ユタと愉快な仲間たち”シリーズ、“アンドロイドマスター”シリーズなどの作品を手掛けている雲羽百三監督は、次の新シリーズに向けて多摩準急名誉監督と……」〕
プツッとテレビのスイッチを切る稲生。
稲生:「マリアさん、機嫌悪いだろうなぁ……。でもまあ、朝食に誘うか」
[同日07:30.天候:晴 同ホテル1Fレストラン]
ズーンと、テンションの低いマリアを伴ってレストランへとやってきた稲生。
稲生:「食べ放題のバイキングですよ」
マリア:「あ、そう」
稲生:(生理中以上に機嫌悪いな、こりゃ……)
横田に下着を盗られたことが思いっきりムカついているらしい。
本当はズタズタのメッタメタにしてあの世に送り、それでやっとスッキリできるところが、先に警察が連行していったことでそれができなくなり、不完全燃焼であるようだ。
きっと昨夜は眠れなかったのだろう。
稲生:「イリーナ先生も下着を盗られてしまいましたからね、やはりはらわたが煮えくり返っているところですか?」
マリア:「師匠はいつも通り。『あと5分』を1時間以上繰り返していたので放っておいた」
稲生:「さすが先生」
齢1000年以上の大魔道師ともなると、下着を盗られたくらいでは動じないようだ。
昨夜はここでステーキのコースやアルコールを楽しんだ魔道師達。
あの時は、まさか下着泥棒が現れるとは思わなかった。
バイキングで朝食を稲生以上に食べるのは、マリアの特徴。
で、空いている席に座った所、そこはテレビの近くだった。
NHKではなく、民放の朝の情報番組をやっていた。
〔「……はい、こちら現場となったホテルの前です。昨夜、こちらのホテルでとんでもない事件が起こりました。何と、このホテルにあります大浴場で、女性の下着ばかりを狙った窃盗事件が発生したのです」〕
稲生:「うわ、テレビ中継来てるし!」
マリア:「……っ!」
〔「狙われたのは10歳の女の子の下着から47歳の女性の下着まで、およそ10点近く!横田容疑者は如何にして女性用の脱衣所に忍び込み、そして誰にも分からずに下着を持ち出せたのでしょうか!?その犯行について、私達は……」〕
マリアから魔力のオーラがダダ漏れしてきていた。
マリア:「横田……やっぱコロス……!!」
稲生:「すいません!ちょっとチャンネル変えてもらっていいですか!?」
稲生は朝食もあまり喉を通らなかったという。
[同日10:00.天候:曇 都営地下鉄新宿三丁目駅]
ホテルをチェックアウトした稲生達は、バスタ新宿まで電車で行くことにした。
マリアが途中のコンビニで買い物したいと言ったからである。
見ると、どうも下着やストッキングが欲しかったようであった。
その足で最寄り駅の新宿三丁目駅へ向かう。
稲生:「少し曇って来ましたねぇ……」
イリーナ:「心配無い。今日は天気予報通りさ。雨は降らないよ」
稲生:「先生に言われると、何だか安心します」
イリーナ:「マスターになった時点で、おおよその天気は当てられるものさ」
稲生:「なるほど……」
賑わう都心の地下鉄駅に入る。
マリアの足取りが軽くなったのは、新しい下着とストッキング(他に化粧品も買っていた)を手に入れたから、やっと機嫌が直ったのだろうか。
〔まもなく1番線に、各駅停車、笹塚行きが短い8両編成で到着します。黄色い線の内側まで下がって、お待ちください〕
稲生:「おっ、ちょうど来た」
ホームへの階段を下りていると、轟音を立てて都営地下鉄の車両が入線してきた。
〔1番線の電車は、各駅停車、笹塚行きです。新宿三丁目、新宿三丁目。丸ノ内線、副都心線はお乗り換えです〕
ぞろぞろと降りてくる乗客達をかわして、稲生達は電車に乗り込んだ。
キャリーケースを乗せる際に、よっと持ち上げる。
新宿三丁目駅のホームはカーブしているので、電車とホームの間に隙間ができやすいからだ。
〔1番線、ドアが閉まります〕
JR東日本の通勤電車と同じチャイムが鳴ってドアが閉まる。
外観や内装に差異はあれど、JRのE231系辺りと似た設計をしているからだろう。
電車がトンネル内を走り出した。
〔次は新宿、新宿。都営大江戸線、丸ノ内線、JR線、京王線、小田急線はお乗り換えです。お出口は、右側です。毎度、都営地下鉄新宿線をご利用頂きまして、ありがとうございました〕
マリア:「早くここから離れたい」
稲生:「せっかくいいホテルだったのに、横田のせいで台無しになってしまいましたからね」
マリア:「全くだ」
稲生とマリアは、運転室のドアの窓から進行方向を覗いている。
稲生、ちゃっかり先頭車の1番前から乗り込んでいた。
[同日10:20.天候:曇 バスタ新宿]
〔「お待たせ致しました。10時25分発、京王バス東、白馬線、白馬八方バスターミナル行きはC8乗り場からご案内致します。……」〕
稲生:「あっ、マリアさん。今ちょうどバス来るところです」
マリア:「そうか。間に合った」
マリアはトイレに行っていた。
いくら増設されたといっても、やはりまだ女子トイレは混雑しやすい傾向にある。
見ると、それまでスカートから出ていた足が生足だったのが、黒いストッキングになっていることから、先ほどコンビニで買ったストッキングをはいたらしい。
係員:「お荷物お預かりします」
稲生:「お願いします」
往路とはバス会社が違うが、構造はだいたい同じ。
ドル箱の松本行き辺りなら、Sシートというグレードアップの座席(もちろん利用には追加料金が必要)があるのだが、本数の少ない白馬行きだとそういうのは無い。
指定された後ろの方の席に座った。
座席は普通の4列シート車だが、長距離向けということもあってか、やや広めの造りにはなっていた。
後部にはトイレもある。
人形達を入れたバッグは荷棚に置いて、稲生とマリアは隣り合って座った。
稲生:「早速、ストッキングはいてるんですね?」
マリア:「向こうはまだ寒いからね、その方がいい」
稲生:「雪がまだ見られますからねぇ……」
下着もはき替えたのかどうかまでは聞けなかった稲生。
イリーナ:「じゃ、アタシゃまた寝るよー」
稲生:「はい」
稲生達の前の席に座るイリーナはローブのフードを被ると、座席を倒した。
イリーナの隣に座る者はいないようだ。
バスは時間になると、ドアを閉めて出発した。
マリア:「お昼はどうする?向こうに着くの、5時間後だろ?」
稲生:「途中、2ヶ所で休憩箇所がありますから、最初の休憩地で買い込めばいいんですよ。別に、バスの中は飲食禁止ってわけじゃないんで」
マリア:「そうか。その途中休憩地で食べれるわけじゃないのか」
稲生:「まあ、そうですね」
この中央高速バスには無いが、ほんのごく一部の高速バス路線には、昼食休憩を取っている所もあるもよう。
バスはバスタ新宿を出ると、甲州街道からまずは中央高速へと向かった。
もはや、都内との行き来には高速バスを使うのがデフォルトになりつつある。
稲生はスマホのアラームで目が覚めた。
朝の身支度をする為、バスルームに向かう。
一応、BGM代わりにテレビを点けるとニュースをやっていた。
〔「……昨夜9時半頃、東京都新宿区のホテルで女性の下着ばかりを狙った窃盗事件があり、この事件で男が逮捕されました」〕
稲生:「ブッ!」
〔「事件があったのは、新宿2丁目のアパホテル新宿御苑前店で、このホテルにある大浴場の女性用脱衣所にあった下着およそ10点近くが盗まれたものです。この事件を受けて出動した新宿警察署は、ホテルから逃走を図った男を窃盗の現行犯で逮捕しました。逮捕されたのは住所不定無職の横田高明容疑者です」〕
稲生:「うあー……また顕正会本部に家宅捜索入るかな……。いや、住所不定無職って!?」
〔「警察の取り調べに対し、横田容疑者は意味不明の言動を続けていることから、警察では責任能力の有無について慎重に調べを進めていく方針です」〕
稲生:「しっかりNHKの全国ニュースになっちゃってるし……」
〔「次です。“ユタと愉快な仲間たち”シリーズ、“アンドロイドマスター”シリーズなどの作品を手掛けている雲羽百三監督は、次の新シリーズに向けて多摩準急名誉監督と……」〕
プツッとテレビのスイッチを切る稲生。
稲生:「マリアさん、機嫌悪いだろうなぁ……。でもまあ、朝食に誘うか」
[同日07:30.天候:晴 同ホテル1Fレストラン]
ズーンと、テンションの低いマリアを伴ってレストランへとやってきた稲生。
稲生:「食べ放題のバイキングですよ」
マリア:「あ、そう」
稲生:(生理中以上に機嫌悪いな、こりゃ……)
横田に下着を盗られたことが思いっきりムカついているらしい。
本当はズタズタのメッタメタにしてあの世に送り、それでやっとスッキリできるところが、先に警察が連行していったことでそれができなくなり、不完全燃焼であるようだ。
きっと昨夜は眠れなかったのだろう。
稲生:「イリーナ先生も下着を盗られてしまいましたからね、やはりはらわたが煮えくり返っているところですか?」
マリア:「師匠はいつも通り。『あと5分』を1時間以上繰り返していたので放っておいた」
稲生:「さすが先生」
齢1000年以上の大魔道師ともなると、下着を盗られたくらいでは動じないようだ。
昨夜はここでステーキのコースやアルコールを楽しんだ魔道師達。
あの時は、まさか下着泥棒が現れるとは思わなかった。
バイキングで朝食を稲生以上に食べるのは、マリアの特徴。
で、空いている席に座った所、そこはテレビの近くだった。
NHKではなく、民放の朝の情報番組をやっていた。
〔「……はい、こちら現場となったホテルの前です。昨夜、こちらのホテルでとんでもない事件が起こりました。何と、このホテルにあります大浴場で、女性の下着ばかりを狙った窃盗事件が発生したのです」〕
稲生:「うわ、テレビ中継来てるし!」
マリア:「……っ!」
〔「狙われたのは10歳の女の子の下着から47歳の女性の下着まで、およそ10点近く!横田容疑者は如何にして女性用の脱衣所に忍び込み、そして誰にも分からずに下着を持ち出せたのでしょうか!?その犯行について、私達は……」〕
マリアから魔力のオーラがダダ漏れしてきていた。
マリア:「横田……やっぱコロス……!!」
稲生:「すいません!ちょっとチャンネル変えてもらっていいですか!?」
稲生は朝食もあまり喉を通らなかったという。
[同日10:00.天候:曇 都営地下鉄新宿三丁目駅]
ホテルをチェックアウトした稲生達は、バスタ新宿まで電車で行くことにした。
マリアが途中のコンビニで買い物したいと言ったからである。
見ると、どうも下着やストッキングが欲しかったようであった。
その足で最寄り駅の新宿三丁目駅へ向かう。
稲生:「少し曇って来ましたねぇ……」
イリーナ:「心配無い。今日は天気予報通りさ。雨は降らないよ」
稲生:「先生に言われると、何だか安心します」
イリーナ:「マスターになった時点で、おおよその天気は当てられるものさ」
稲生:「なるほど……」
賑わう都心の地下鉄駅に入る。
マリアの足取りが軽くなったのは、新しい下着とストッキング(他に化粧品も買っていた)を手に入れたから、やっと機嫌が直ったのだろうか。
〔まもなく1番線に、各駅停車、笹塚行きが短い8両編成で到着します。黄色い線の内側まで下がって、お待ちください〕
稲生:「おっ、ちょうど来た」
ホームへの階段を下りていると、轟音を立てて都営地下鉄の車両が入線してきた。
〔1番線の電車は、各駅停車、笹塚行きです。新宿三丁目、新宿三丁目。丸ノ内線、副都心線はお乗り換えです〕
ぞろぞろと降りてくる乗客達をかわして、稲生達は電車に乗り込んだ。
キャリーケースを乗せる際に、よっと持ち上げる。
新宿三丁目駅のホームはカーブしているので、電車とホームの間に隙間ができやすいからだ。
〔1番線、ドアが閉まります〕
JR東日本の通勤電車と同じチャイムが鳴ってドアが閉まる。
外観や内装に差異はあれど、JRのE231系辺りと似た設計をしているからだろう。
電車がトンネル内を走り出した。
〔次は新宿、新宿。都営大江戸線、丸ノ内線、JR線、京王線、小田急線はお乗り換えです。お出口は、右側です。毎度、都営地下鉄新宿線をご利用頂きまして、ありがとうございました〕
マリア:「早くここから離れたい」
稲生:「せっかくいいホテルだったのに、横田のせいで台無しになってしまいましたからね」
マリア:「全くだ」
稲生とマリアは、運転室のドアの窓から進行方向を覗いている。
稲生、ちゃっかり先頭車の1番前から乗り込んでいた。
[同日10:20.天候:曇 バスタ新宿]
〔「お待たせ致しました。10時25分発、京王バス東、白馬線、白馬八方バスターミナル行きはC8乗り場からご案内致します。……」〕
稲生:「あっ、マリアさん。今ちょうどバス来るところです」
マリア:「そうか。間に合った」
マリアはトイレに行っていた。
いくら増設されたといっても、やはりまだ女子トイレは混雑しやすい傾向にある。
見ると、それまでスカートから出ていた足が生足だったのが、黒いストッキングになっていることから、先ほどコンビニで買ったストッキングをはいたらしい。
係員:「お荷物お預かりします」
稲生:「お願いします」
往路とはバス会社が違うが、構造はだいたい同じ。
ドル箱の松本行き辺りなら、Sシートというグレードアップの座席(もちろん利用には追加料金が必要)があるのだが、本数の少ない白馬行きだとそういうのは無い。
指定された後ろの方の席に座った。
座席は普通の4列シート車だが、長距離向けということもあってか、やや広めの造りにはなっていた。
後部にはトイレもある。
人形達を入れたバッグは荷棚に置いて、稲生とマリアは隣り合って座った。
稲生:「早速、ストッキングはいてるんですね?」
マリア:「向こうはまだ寒いからね、その方がいい」
稲生:「雪がまだ見られますからねぇ……」
下着もはき替えたのかどうかまでは聞けなかった稲生。
イリーナ:「じゃ、アタシゃまた寝るよー」
稲生:「はい」
稲生達の前の席に座るイリーナはローブのフードを被ると、座席を倒した。
イリーナの隣に座る者はいないようだ。
バスは時間になると、ドアを閉めて出発した。
マリア:「お昼はどうする?向こうに着くの、5時間後だろ?」
稲生:「途中、2ヶ所で休憩箇所がありますから、最初の休憩地で買い込めばいいんですよ。別に、バスの中は飲食禁止ってわけじゃないんで」
マリア:「そうか。その途中休憩地で食べれるわけじゃないのか」
稲生:「まあ、そうですね」
この中央高速バスには無いが、ほんのごく一部の高速バス路線には、昼食休憩を取っている所もあるもよう。
バスはバスタ新宿を出ると、甲州街道からまずは中央高速へと向かった。
もはや、都内との行き来には高速バスを使うのがデフォルトになりつつある。