[4月1日07:00.天候:晴 長野県北部 マリアの屋敷2F東側]
自室として宛がわれた稲生の部屋。
枕元に置いた自分のスマホがアラーム音を鳴らす。
それは、とある駅の発車メロディ。
首都圏のJR駅で聴けるものだった。
これが朝の目覚まし時計の代わり。
稲生:「う……ううーん……」
稲生は気だるそうに起き上がった。
稲生:「うーん……。昨夜の酒がまだ残ってるかなぁ……」
少し二日酔い気味らしい。
朝の支度をして、それから1階の大食堂に向かう。
途中に即死トラップがあるのだが、さすがに慣れている為、例え二日酔いであったとしても引っ掛からない。
この屋敷は侵入者あろうものなら、絶対に生きては出れない構造になっているのだ。
もっとも、今年に入ってからの侵入事案はゼロであるが。
稲生:「おはようございます……」
マリア:「おはよう。……何だ?具合でも悪いのか?」
稲生:「生理中です」
マリア:「あぁ?」
稲生:「……冗談です。昨夜のホームパーティーで飲み過ぎちゃったもんで……」
マリア:「ユウタは酒弱いなぁ( ̄ー ̄)」
稲生:「いや〜……」
イリーナ:「でも実際、ユウタ君もそろそろ『男の生理』の周期に入る頃でしょう」
稲生:「先生、おはようございます」
イリーナ:「おはよう」
マリア:「男なのに生理が?」
イリーナ:「うん。男性も骨盤が開く周期があって、その時は性欲減退だとか頭痛だとか精神不安定だとか、要するに『おりもの』や『経血』が無いだけで、それ以外は女性と同じようなことが起こるわけよ」
稲生:「言われてみれば、覚えがありますよ」
マリア:「ふーん……」
マリアは右手を顎にやった。
マリア:「師匠は閉経した後だから楽でしょうねぇ……」
イリーナ:「」
ガンッ!(マリアの上に金ダライが落ちた)
マリア:「いでっ!?」
稲生:「」
イリーナ:「そういうわけだからユウタ君、今日は土曜日なことだし、軽く魔道書を読むだけにしておきましょうか」
稲生:「分かりました」
イリーナ:「マリアは今日、地下のプール掃除ね」
マリア:「1人で!?」
元々は魔法の実験室があった地下室だが、今ではどういうわけだかプールがある。
マリアが金槌で水の上を歩くことができない為(水に関係する魔法を使う際、魔力で水の上を歩くという技を魔法使いは行うことがある)、まずは泳ぎの練習をする為に改築された。
人間時代、冬の池に沈められたりした迫害を受けた為。
[同日09:00.天候:晴 マリアの屋敷2F東側 稲生の部屋]
稲生:「……偉大なるストゥルスの力を用いて、マナの純度を増幅せよ。パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。嗚呼、神の復讐よ。嗚呼、何ということだ」
大師匠ダンテの記した魔道書。
多くはラテン語で書かれている為、これを英訳して、更に日本語訳にするのが今の稲生に与えられた課題。
稲生:「うーん……やっぱり、この辺がどうしても分からないなぁ……。日本語に訳するからおかしいのかな?英語だと自然になるのか……?うーん……」
稲生は机の上の電話を取った。
西洋風のアンティークなデザインの電話だ。
更に古風に、ダイヤルは回転式だ。
マリア:「はいはい、こちらマリアンナ」
電話口の向こうからマリアの不機嫌そうな声が聞こえて来た。
稲生:「あ、マリアさん、僕ですけど……」
マリア:「何だ、ユウタか。また師匠かと思ったよ」
稲生:「はあ……」
マリア:「何の用?」
稲生:「ちょっと魔道書で分からないことがあったので、教えてもらいたいんですが……」
マリア:「分かった。ちょっとプールまで来てくれる?」
稲生:「は、はい!」
稲生は電話を切った。
稲生:「本当にプール掃除やってたんだ……」
[同日09:15.天候:晴 マリアの屋敷B1F・屋内プール]
マリアに泳ぎを教えてあげた際、着させたものがスクール水着だったものだから、事情を知るエレーナに笑われた記憶がある。
稲生:「それにしても、プールに行く為に開ける3つのドアごとにプレートを集めないといけないとは……」
もちろん、稲生は手持ちの魔法の杖で開けることができる。
プールには何も仕掛けは無かったと思うが、魔法の実験場だった頃の名残だろうか。
稲生:「しかもプレートの1枚はマリアさんの部屋にあって、そのマリアさんの部屋のドアを開ける為のプレートが僕の部屋にあるという……」
それはつまり、稲生も侵入者達から見た中ボスとなれという意味であろう。
稲生:「マリアさーん、すいませーん!」
稲生は男子更衣室の中を通ってプールに出た。
師匠に不遜な言動をしたマリアに対する罰とはいえ、さすがに1人で掃除はキツいだろうと思うのだが、そんなことは無かった。
ちゃんとメイド人形達が何人かやってきて、共同で掃除をしていた。
マリア:「悪いね。手が放せないから、わざわざ来てもらっちゃった」
稲生:「おわっ!?」
稲生がびっくりしたのは、マリアが水着になっていたからであった。
といっても泳ぎを教えた時のようなスクール水着ではなく、昨年の夏に買ったビキニであった。
マリア:「いくらあの体を使っているとはいえ、齢1000年超えの婆さんなんだから、本当のこと言ったまでなのにね」
稲生:「いや、ナンボ何でも、あれはさすがに失言だったと思います」
マリア:「ふん……。で、どこが分からないって?」
稲生:「ここなんです。大師匠様の呪文の部分を英訳にするところまではいいんですけど、その後、日本語訳にしようとすると文言がおかしくなるんです」
マリア:「何度も言うけど、ユウタは英語を直訳し過ぎるんだよ。私は今、『自動翻訳魔法』を使っているけど、私の日本語、随分とカタく聞こえるだろ?それはユウタが英語を直訳し過ぎることの裏返しだってことさ」
稲生:「そうなんですか」
マリア:「ここの英訳は、ただ単に『敵を殲滅せん』くらいでいいんだ」
稲生:「ええっ!?英文は長いのに、日本語でそんなに短くしちゃっていいんですか?」
マリア:「意味は同じだ」
稲生:「へえ!」
マリア:「他に分からない所は?」
稲生:「えっとですね……」
どうしても稲生は魔道書の内容より、水着姿のマリアの方が気になってしょうがなかったという。
『男の生理中』でなければ、恐らく魔道書を熟読するどころではなかっただろう。
自室として宛がわれた稲生の部屋。
枕元に置いた自分のスマホがアラーム音を鳴らす。
それは、とある駅の発車メロディ。
首都圏のJR駅で聴けるものだった。
これが朝の目覚まし時計の代わり。
稲生:「う……ううーん……」
稲生は気だるそうに起き上がった。
稲生:「うーん……。昨夜の酒がまだ残ってるかなぁ……」
少し二日酔い気味らしい。
朝の支度をして、それから1階の大食堂に向かう。
途中に即死トラップがあるのだが、さすがに慣れている為、例え二日酔いであったとしても引っ掛からない。
この屋敷は侵入者あろうものなら、絶対に生きては出れない構造になっているのだ。
もっとも、今年に入ってからの侵入事案はゼロであるが。
稲生:「おはようございます……」
マリア:「おはよう。……何だ?具合でも悪いのか?」
稲生:「生理中です」
マリア:「あぁ?」
稲生:「……冗談です。昨夜のホームパーティーで飲み過ぎちゃったもんで……」
マリア:「ユウタは酒弱いなぁ( ̄ー ̄)」
稲生:「いや〜……」
イリーナ:「でも実際、ユウタ君もそろそろ『男の生理』の周期に入る頃でしょう」
稲生:「先生、おはようございます」
イリーナ:「おはよう」
マリア:「男なのに生理が?」
イリーナ:「うん。男性も骨盤が開く周期があって、その時は性欲減退だとか頭痛だとか精神不安定だとか、要するに『おりもの』や『経血』が無いだけで、それ以外は女性と同じようなことが起こるわけよ」
稲生:「言われてみれば、覚えがありますよ」
マリア:「ふーん……」
マリアは右手を顎にやった。
マリア:「師匠は閉経した後だから楽でしょうねぇ……」
イリーナ:「」
ガンッ!(マリアの上に金ダライが落ちた)
マリア:「いでっ!?」
稲生:「」
イリーナ:「そういうわけだからユウタ君、今日は土曜日なことだし、軽く魔道書を読むだけにしておきましょうか」
稲生:「分かりました」
イリーナ:「マリアは今日、地下のプール掃除ね」
マリア:「1人で!?」
元々は魔法の実験室があった地下室だが、今ではどういうわけだかプールがある。
マリアが金槌で水の上を歩くことができない為(水に関係する魔法を使う際、魔力で水の上を歩くという技を魔法使いは行うことがある)、まずは泳ぎの練習をする為に改築された。
人間時代、冬の池に沈められたりした迫害を受けた為。
[同日09:00.天候:晴 マリアの屋敷2F東側 稲生の部屋]
稲生:「……偉大なるストゥルスの力を用いて、マナの純度を増幅せよ。パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。嗚呼、神の復讐よ。嗚呼、何ということだ」
大師匠ダンテの記した魔道書。
多くはラテン語で書かれている為、これを英訳して、更に日本語訳にするのが今の稲生に与えられた課題。
稲生:「うーん……やっぱり、この辺がどうしても分からないなぁ……。日本語に訳するからおかしいのかな?英語だと自然になるのか……?うーん……」
稲生は机の上の電話を取った。
西洋風のアンティークなデザインの電話だ。
更に古風に、ダイヤルは回転式だ。
マリア:「はいはい、こちらマリアンナ」
電話口の向こうからマリアの不機嫌そうな声が聞こえて来た。
稲生:「あ、マリアさん、僕ですけど……」
マリア:「何だ、ユウタか。また師匠かと思ったよ」
稲生:「はあ……」
マリア:「何の用?」
稲生:「ちょっと魔道書で分からないことがあったので、教えてもらいたいんですが……」
マリア:「分かった。ちょっとプールまで来てくれる?」
稲生:「は、はい!」
稲生は電話を切った。
稲生:「本当にプール掃除やってたんだ……」
[同日09:15.天候:晴 マリアの屋敷B1F・屋内プール]
マリアに泳ぎを教えてあげた際、着させたものがスクール水着だったものだから、事情を知るエレーナに笑われた記憶がある。
稲生:「それにしても、プールに行く為に開ける3つのドアごとにプレートを集めないといけないとは……」
もちろん、稲生は手持ちの魔法の杖で開けることができる。
プールには何も仕掛けは無かったと思うが、魔法の実験場だった頃の名残だろうか。
稲生:「しかもプレートの1枚はマリアさんの部屋にあって、そのマリアさんの部屋のドアを開ける為のプレートが僕の部屋にあるという……」
それはつまり、稲生も侵入者達から見た中ボスとなれという意味であろう。
稲生:「マリアさーん、すいませーん!」
稲生は男子更衣室の中を通ってプールに出た。
師匠に不遜な言動をしたマリアに対する罰とはいえ、さすがに1人で掃除はキツいだろうと思うのだが、そんなことは無かった。
ちゃんとメイド人形達が何人かやってきて、共同で掃除をしていた。
マリア:「悪いね。手が放せないから、わざわざ来てもらっちゃった」
稲生:「おわっ!?」
稲生がびっくりしたのは、マリアが水着になっていたからであった。
といっても泳ぎを教えた時のようなスクール水着ではなく、昨年の夏に買ったビキニであった。
マリア:「いくらあの体を使っているとはいえ、齢1000年超えの婆さんなんだから、本当のこと言ったまでなのにね」
稲生:「いや、ナンボ何でも、あれはさすがに失言だったと思います」
マリア:「ふん……。で、どこが分からないって?」
稲生:「ここなんです。大師匠様の呪文の部分を英訳にするところまではいいんですけど、その後、日本語訳にしようとすると文言がおかしくなるんです」
マリア:「何度も言うけど、ユウタは英語を直訳し過ぎるんだよ。私は今、『自動翻訳魔法』を使っているけど、私の日本語、随分とカタく聞こえるだろ?それはユウタが英語を直訳し過ぎることの裏返しだってことさ」
稲生:「そうなんですか」
マリア:「ここの英訳は、ただ単に『敵を殲滅せん』くらいでいいんだ」
稲生:「ええっ!?英文は長いのに、日本語でそんなに短くしちゃっていいんですか?」
マリア:「意味は同じだ」
稲生:「へえ!」
マリア:「他に分からない所は?」
稲生:「えっとですね……」
どうしても稲生は魔道書の内容より、水着姿のマリアの方が気になってしょうがなかったという。
『男の生理中』でなければ、恐らく魔道書を熟読するどころではなかっただろう。