報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「年度初めでも通常運転のイリーナ組」

2017-04-24 19:35:03 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月1日07:00.天候:晴 長野県北部 マリアの屋敷2F東側]

 自室として宛がわれた稲生の部屋。
 枕元に置いた自分のスマホがアラーム音を鳴らす。
 それは、とある駅の発車メロディ。
 首都圏のJR駅で聴けるものだった。
 これが朝の目覚まし時計の代わり。

 稲生:「う……ううーん……」

 稲生は気だるそうに起き上がった。

 稲生:「うーん……。昨夜の酒がまだ残ってるかなぁ……」

 少し二日酔い気味らしい。
 朝の支度をして、それから1階の大食堂に向かう。
 途中に即死トラップがあるのだが、さすがに慣れている為、例え二日酔いであったとしても引っ掛からない。
 この屋敷は侵入者あろうものなら、絶対に生きては出れない構造になっているのだ。
 もっとも、今年に入ってからの侵入事案はゼロであるが。

 稲生:「おはようございます……」
 マリア:「おはよう。……何だ?具合でも悪いのか?」
 稲生:「生理中です」
 マリア:「あぁ?」
 稲生:「……冗談です。昨夜のホームパーティーで飲み過ぎちゃったもんで……」
 マリア:「ユウタは酒弱いなぁ( ̄ー ̄)」
 稲生:「いや〜……」
 イリーナ:「でも実際、ユウタ君もそろそろ『男の生理』の周期に入る頃でしょう」
 稲生:「先生、おはようございます」
 イリーナ:「おはよう」
 マリア:「男なのに生理が?」
 イリーナ:「うん。男性も骨盤が開く周期があって、その時は性欲減退だとか頭痛だとか精神不安定だとか、要するに『おりもの』や『経血』が無いだけで、それ以外は女性と同じようなことが起こるわけよ」
 稲生:「言われてみれば、覚えがありますよ」
 マリア:「ふーん……」

 マリアは右手を顎にやった。

 マリア:「師匠は閉経した後だから楽でしょうねぇ……」
 イリーナ:「

 ガンッ!(マリアの上に金ダライが落ちた)

 マリア:「いでっ!?」
 稲生:「
 イリーナ:「そういうわけだからユウタ君、今日は土曜日なことだし、軽く魔道書を読むだけにしておきましょうか」
 稲生:「分かりました」
 イリーナ:「マリアは今日、地下のプール掃除ね」
 マリア:「1人で!?」

 元々は魔法の実験室があった地下室だが、今ではどういうわけだかプールがある。
 マリアが金槌で水の上を歩くことができない為(水に関係する魔法を使う際、魔力で水の上を歩くという技を魔法使いは行うことがある)、まずは泳ぎの練習をする為に改築された。
 人間時代、冬の池に沈められたりした迫害を受けた為。

[同日09:00.天候:晴 マリアの屋敷2F東側 稲生の部屋]

 稲生:「……偉大なるストゥルスの力を用いて、マナの純度を増幅せよ。パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。嗚呼、神の復讐よ。嗚呼、何ということだ」

 大師匠ダンテの記した魔道書。
 多くはラテン語で書かれている為、これを英訳して、更に日本語訳にするのが今の稲生に与えられた課題。

 稲生:「うーん……やっぱり、この辺がどうしても分からないなぁ……。日本語に訳するからおかしいのかな?英語だと自然になるのか……?うーん……」

 稲生は机の上の電話を取った。
 西洋風のアンティークなデザインの電話だ。
 更に古風に、ダイヤルは回転式だ。

 マリア:「はいはい、こちらマリアンナ」

 電話口の向こうからマリアの不機嫌そうな声が聞こえて来た。

 稲生:「あ、マリアさん、僕ですけど……」
 マリア:「何だ、ユウタか。また師匠かと思ったよ」
 稲生:「はあ……」
 マリア:「何の用?」
 稲生:「ちょっと魔道書で分からないことがあったので、教えてもらいたいんですが……」
 マリア:「分かった。ちょっとプールまで来てくれる?」
 稲生:「は、はい!」

 稲生は電話を切った。

 稲生:「本当にプール掃除やってたんだ……」

[同日09:15.天候:晴 マリアの屋敷B1F・屋内プール]

 マリアに泳ぎを教えてあげた際、着させたものがスクール水着だったものだから、事情を知るエレーナに笑われた記憶がある。

 稲生:「それにしても、プールに行く為に開ける3つのドアごとにプレートを集めないといけないとは……」

 もちろん、稲生は手持ちの魔法の杖で開けることができる。
 プールには何も仕掛けは無かったと思うが、魔法の実験場だった頃の名残だろうか。

 稲生:「しかもプレートの1枚はマリアさんの部屋にあって、そのマリアさんの部屋のドアを開ける為のプレートが僕の部屋にあるという……」

 それはつまり、稲生も侵入者達から見た中ボスとなれという意味であろう。

 稲生:「マリアさーん、すいませーん!」

 稲生は男子更衣室の中を通ってプールに出た。
 師匠に不遜な言動をしたマリアに対する罰とはいえ、さすがに1人で掃除はキツいだろうと思うのだが、そんなことは無かった。
 ちゃんとメイド人形達が何人かやってきて、共同で掃除をしていた。

 マリア:「悪いね。手が放せないから、わざわざ来てもらっちゃった」
 稲生:「おわっ!?」

 稲生がびっくりしたのは、マリアが水着になっていたからであった。
 といっても泳ぎを教えた時のようなスクール水着ではなく、昨年の夏に買ったビキニであった。

 マリア:「いくらあの体を使っているとはいえ、齢1000年超えの婆さんなんだから、本当のこと言ったまでなのにね」
 稲生:「いや、ナンボ何でも、あれはさすがに失言だったと思います」
 マリア:「ふん……。で、どこが分からないって?」
 稲生:「ここなんです。大師匠様の呪文の部分を英訳にするところまではいいんですけど、その後、日本語訳にしようとすると文言がおかしくなるんです」
 マリア:「何度も言うけど、ユウタは英語を直訳し過ぎるんだよ。私は今、『自動翻訳魔法』を使っているけど、私の日本語、随分とカタく聞こえるだろ?それはユウタが英語を直訳し過ぎることの裏返しだってことさ」
 稲生:「そうなんですか」
 マリア:「ここの英訳は、ただ単に『敵を殲滅せん』くらいでいいんだ」
 稲生:「ええっ!?英文は長いのに、日本語でそんなに短くしちゃっていいんですか?」
 マリア:「意味は同じだ」
 稲生:「へえ!」
 マリア:「他に分からない所は?」
 稲生:「えっとですね……」

 どうしても稲生は魔道書の内容より、水着姿のマリアの方が気になってしょうがなかったという。
 『男の生理中』でなければ、恐らく魔道書を熟読するどころではなかっただろう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする