報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Sisters” 「ぶっとび執行役員」

2017-04-16 21:05:28 | アンドロイドマスターシリーズ
[4月3日07:30.天候:晴 東京都江東区東雲 某賃貸マンション]

 敷島:「おはよー……ス」
 エミリー:「おはようございます」

 2DKのマンションを借りている敷島。
 その身の回りの世話をするのは、シンディから姉機のエミリーに取って代わっている。
 小さな仕様変更はあったが、基本は同型の姉妹機なので、大した違いは無い。
 顔はよく似ているが、髪色や髪型、それに性格の設定が多少違っている。

 エミリー:「今、朝食の支度をしている所ですので」
 敷島:「ああ、分かった」

 敷島はそう言って、洗面台のあるバスルームに入った。
 その後で、ダイニングのテーブルの前に座る。
 テレビを点けると、情報番組をやっていた。

〔「先週、北海道○○郡××町の農地に、第二次大戦中、旧日本軍によって埋められたと思われる爆弾が発見されました。爆弾は昨日、自衛隊によって回収、処理されました。防衛省では埋められた経緯について、『現在調査中』としています。……」〕

 エミリー:「お待たせしました」
 敷島:「おっ、ありがとう」

 皿に盛られたベーコンエッグが出て来た。
 シンディだとベーコンや黄味が硬めの状態で出してくるのに対し、エミリーは柔らかめの状態で出してくる。
 因みに、敷島的にはどちらでも良いということにしている。
 味は良いからだ。
 ロイド故に味見はできないが、完全にレシピ通りに作る為、安定した味わいにはなっている。
 恐らく、シンディのオーナーであるアリスが、ベーコンはカリカリに焼いたものが好きな為、必然的にユーザーよりオーナーの好みを優先して作るからではないかと思われる。
 会社では秘書の役割を果たすエミリーやシンディだが、ここでは完全にメイドだ。
 もちろん、どんな役割も遜色無く果たすことができるということで、マルチタイプと呼ばれるようになったのだ。
 マルチタイプと呼ぶようになったのは、平賀が学会で提唱してから。
 だから、そんなに昔のことではない。

 エミリー:「四季ホールディングスや四季エンタープライズでは、入社式があるみたいですね」
 敷島:「ああ。それと比べて、うちみたいなちゃっこい子会社は今年度の新卒採用はゼロだ。別の意味で安定してるよ、全く」

 ボーカロイドが売れるようになって、個々に専属のマネージャーを雇用するようになったのは昨年度。
 井辺はあくまで、そんなマネージャー達を統括する総合プロデューサーという位置付けである。

 敷島:「井辺君が俺の片腕になってくれていることだしな」
 エミリー:「私からすれば、まだまだです」
 敷島:「そうか?」
 エミリー:「社長のように、私やシンディの銃撃を全てかわさなければなりません」
 敷島:「いや、俺は営業手腕やマネジメント力のことを言ってるんだけどな」

[同日08:45.天候:晴 東京都江東区豊洲 豊洲アルカディアビル18F 敷島エージェンシー]

 敷島:「おはよっス」
 一海:「おはようございます、社長。それとエミリーさん」
 エミリー:「おはよう」
 一海:「あの……」
 敷島:「何だ、一海?」
 一海:「四季エンタープライズの入社式に行かれるんじゃないのですか?」
 敷島:「は?何で?俺、呼ばれてないよ?」
 一海:「先日、メールがありましたよね?四季エンタープライズの入社式について」
 敷島:「あったけど?俺には関係無いだろう?」
 一海:「役員は全員参加とありましたよ?」
 敷島:「いや、俺、親会社の役員じゃないし」
 一海:「今年度を持って、社長も四季ホールディングスの執行役員に任命されてるんですけど……?」
 敷島:「四季ホールディングスの末端執行役員だろ?四季エンタープライズじゃない」
 一海:「ですが、出席者リストを見ますと、四季ホールディングスの役員全員出席になってるんですけど……?」

 敷島の顔がサーッと青くなる。

 敷島:「入社式って何時からだっけ?」
 一海:「9時からです」

 遅刻決定!?
 だが、しかし……。

 敷島:「エミリー!」
 エミリー:「はい!?」
 敷島:「俺を乗せてブクロまで飛んでくれ!」

[同日08:59.天候:晴 東京都豊島区池袋 フォーシーズンズ・ビルヂング]

 敷島峰雄:「ほぉ〜。せっかく頑張っているというから役員に任命してやったのに、孝夫は経営の仕事をナメ切っているようだな?そうかそうか。最高顧問がお亡くなりになった途端、まーた適当なことをやろうとしているのか。そうかそうか」

 四季エンタープライズ会長で、敷島の伯父である峰雄は顔を真っ赤にして怒筋を浮かべていた。
 だが!

 秘書:「か、会長!何か飛んで来ますよ!?」
 峰雄:「なに!?」

 入社式会場となる講堂では、ついに司会者の開会宣言が行われようとしていた。

 司会:「只今より、2017年度入社式を行います。まもなく、会長・敷島峰雄以下、本社役員の全員が入場致します。皆様、ご起立の上、拍手でお迎えください」

 ガッシャーン!!

 司会:「わあっ!?何だ!?」
 エミリー:「到着しました!」
 敷島:「よっし!開始1分前!ギリギリ間に合った!……あ、皆さん、どうもどうも!落ち着いてください。私は怪しい者ではありません。私はグループ会社の敷島エージェンシーを営んでおります、敷島孝夫と申します。以後、お見知り置きを……いでっ!」

 スパーンと祝辞の紙で叩かれる敷島。

 峰雄:「キサマは何をやってるんだ!?」
 孝夫:「いや、別に遅刻はしませんでしたし……」
 峰雄:「そういう問題じゃない!秘書に乗って窓ガラス破って登場する役員がどこにおるか!!」
 孝夫:「取りあえず、ここに……ぎゃん!」

 また引っ叩かれる敷島。

 峰雄:「バカモン!お前はもう帰れ!」
 孝夫:「あ、新入社員の皆さん!うち、これくらい楽しくやってる会社なんで、安心して働けますよー」
 峰雄:「お前が言うな!」
 エミリー:「役員でも始末書作成する御方です」
 秘書:「はあ……」

 秘書と一緒になって割れた窓ガラスを片付けるエミリーだった。

[同日11:00.天候:晴 敷島エージェンシー]

 井辺:「社長、お帰りなさい」
 敷島:「は、ははは……ただいま」
 井辺:「大変でしたね」
 敷島:「こってり絞られてきたよ。あ、窓ガラスの修理代は俺の自腹だから」

 当たり前である。

 敷島:「これで俺の役員登用は取り消しだろうと思ったんだが、何故かそうはならなかったよ」

 敷島は辞令を広げた。

 井辺:「常務執行役員ですか」
 敷島:「名ばかりで、何の権限も無い役員だよ。変な時に本社に呼ばれたりするだけで、面倒臭い肩書きだ」
 エミリー:「最高顧問の日記に、敷島社長を是非とも本社で抱えたいみたいなことが書かれていたので、それに従わざるを得なかったのでしょう」
 敷島:「昔の日記だろ?遺言状じゃない」

 だが遺言状を作成する前に他界してしまったので、最近まで書いていた日記帳が実質的な遺言状になっている。

 井辺:「社長、ゴールデンウィークに行われる『北海道ボカロフェスティバル』ですが、先方のイベント会社から連絡が……」
 敷島:「おっ、そうか」
 井辺:「社長も行かれるのですか?」
 敷島:「ああ。ちょっとな。もちろん、井辺君のことを信用していないわけじゃない。ちょっと、北海道で他にやってみたいことがあるんだよ」
 井辺:「KR団関係ですか」
 エミリー:「あそこに、ミクの秘密が隠されていそうな気がしてしょうがない。最初はオホーツク海のことかと思っていたんだけども、どうも違うような気がするんだ」
 井辺:「なるほど……」
コメント (4)
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