[3月28日18:00.天候:晴 東京都新宿区新宿2丁目 APAホテル新宿御苑前]
稲生:「お待たせしました。こちらがカードキーです」
イリーナ:「あいよ。マリア、持っててー」
マリア:「はいはい」
チェックインの手続きを済ませ、3人の魔道師はエレベーターに乗り込んだ。
稲生:「ここの社長さん、何だか魔道師に似てますね」
イリーナ:「そうかもね」
稲生:「あははは……って、ええっ!?」
マリアはコホンと咳払いをした。
マリア:「それで、部屋割りだけど、私と師匠がツインってことだな?」
稲生:「そうです」
イリーナ:「別に、ユウタ君とマリアが2人で泊まってもいいのよ?」
稲生:「ええっ!?」
マリア:「2人で部屋に入った途端、エレーナが中継に来ると思うのでやめておきます」
イリーナ:「あら、そう?」
エレベーターを降りて、客室に向かう。
稲生:「荷物を置いたら、すぐ夕食にしますか?」
イリーナ:「うーん……ちょっと一息して……」
マリア:「そうだな。すぐにディナーにしよう」
イリーナ:「ちょっと、マリア!?」
マリア:「師匠の場合、一息つくと翌朝になってますからね」
イリーナ:「段々とアタシのことが分かってるくるようになったねぇ……」
マリア:「当たり前です。もう何年あなたの弟子やってると思ってるんですか」
稲生:「ハハハハ……。ここのレストランでは、ステーキやハンバーグが食べられるそうです」
イリーナ:「旅行最後の夜になるんだけど、日本食じゃなくていいのかい?家に帰ると、しばらく日本食が食べられなくなるよ?」
これはキッチンメイドを担当するマリアの人形が、日本食のノウハウを知らない為。
但し、何故か稲生専属メイド人形と化しているダニエラが何とかしようとしているもよう。
稲生:「ええ、だからです。その方が、『明日はマリアさんの屋敷に帰るんだ』という気になれます」
イリーナ:「なるほど。考えたね」
イリーナは大きく頷いた。
[同日18:15.天候:晴 同ホテル1F ステーキ&ハンバーグ匠]
イリーナ:「Да, ура!」(はい、カンパイ!)
マリア:「Toast!」(乾杯!)
稲生:「お疲れさまでーす!」
自動翻訳魔法が切れた直後の乾杯の為、イリーナはロシア語、マリアは英語、稲生は日本語で乾杯した。
イリーナ:「いや、ほんと2人ともご苦労さんね。特にマリア、あそこでブチ切れなくて良かったわ」
マリア:「ユウタが代わりにキレてくれたので、私は普通に対応できました」
イリーナ:「うんうん。日本全国はシェアできなかったけれども、半分以上はダンテ一門でシェアできるようになったから良かったね」
稲生:「ロシアの東部もアジア圏だから云々言ってたみたいですけど?」
イリーナ:「あれはいいのよ。向こうの勝手な言い分だから」
稲生:(東アジア魔道団、『樺太は元々日本の領土だったんだから、うちでシェアさせてもらう!』とか、『北方四島もだ!』とか言ってたんだけど、結局は『でも現在はロシアの領土なので、アジアではない』と突っぱねたもんな、先生達……。もしかして大師匠様、裏でロシア政府に何かしてる?)
マリア:「どうした、ユウタ?」
稲生:「いや、何かちょっと心配で……」
イリーナ:「大丈夫よ。あいつらはもうこの期に及んでは、もう襲ってこないわ」
マリア:「山形の様子を見ていると、俄かには信じ難いですがね」
稲生:(そうじゃなくて、先生。この東京もダンテ一門が裏に回って何かしてもいいってことになったってことは、日本人の僕から見れば物凄く心配だってことです)
イリーナはクイッと赤ワインを飲んだ。
イリーナ:「ユウタ君は何も心配しなくていいのよ。あなたは今のところ、ダンテ一門で唯一の日本人なんだから。意味が分かる?もしあなたが実力を発揮してマスターになったら、率先してこの国を裏から動かせるようになれるのよ?何しろ事情を1番知っているのは、外国人のアタシ達よりも、ネイティブのあなたなんだから」
マリア:「師匠、イギリス人は他にもいますよね?」
イリーナ:「アリッサとかジェニファーとかいるよ」
稲生:「あれ?アリッサさんって、確か“魔の者”に殺された人じゃなかったでしたっけ?」
イリーナ:「ああ、それなんだけどね。英語圏の魔道師、何人か名前被りしてるから」
稲生:「えっ!?」
イリーナ:「“私設地獄”の管理者にジェシカっているでしょ?ジェシカって名前の魔女、他に2人くらいいるから」
マリア:「確か来月からアメリカ人で1人、ジェシカって名前の新人が入るらしいです」
イリーナ:「あらま!これで3人?困ったわねぇ……」
稲生:(きっとまた白人なんだろうなぁ……)
稲生はビールを口に運んだ。
ダンテ一門で1番多いのがロシア人だからしょうがないのかもしれないが、有色人種は創始者のダンテと日本人の稲生しかいなさそうである。
マリア:「師匠、せっかくの新人にそんなこと言っちゃダメです」
イリーナ:「おっと!そうだったわね。危ない危ない。今の、担当マスターに聞かれないようにしないとね」
マリア:「当たり前です。名前被りくらい、大魔道師として看過しなくてはダメです」
イリーナ:「そうね。あなたの本名はマリアンナだからいいけど、他にマリアって名前、何人もいるもんね」
稲生:(そうか。マリアって名前はメジャーだもんなぁ……)
イリーナ:「アナスタシア組だけでも、モイラとマライアの2人いるでしょ?これも名前の語源はマリアだからね」
マリア:「まだ、読み方違うからいいんですよ。名字に使われている方が混乱しやすいです」
イリーナ:「いたっけ?」
マリア:「マルファ先生が言ってましたが、弟子最有力候補がハンガリー人のナディア・マリアンナという名前だそうじゃないですか」
イリーナ:「あら、よく聞いてたわねぇ……」
マリア:「自分が名前として使っている方ですから、覚えますって」
マリアンナという名前は名字にも使えるらしく、ハンガリー人によくいるらしい。
イリーナ:「あっ、ユウタ君、ゴメンね。ついていけないでしょう?」
稲生:「あ、いえ、大丈夫です」
イリーナ:「ユウタ君もハイマスターくらいになったら、弟子を取ってもいいんだからね?それも、あなたと同じ日本人から選んでもいいのよ?」
マリア:「東アジア魔道団がまた怒りますよ?」
イリーナ:「シェアしている所から選べば、別に問題無いでしょ」
魔道師達の談義についていくのがやっとだった新人弟子の稲生は、運ばれて来たステーキのコースは完食したが、ついつい痛飲したビールなどのアルコールや、そういう難しい話で頭がいっぱいになり、肝心の味は覚えていなかったという。
ただ、逆を言えば不味くはなかったということだ。
人間、マイナスのことはプラスのことよりも記憶に残るものである。
え?魔道師はもう人間じゃないのだろうって?そこは、【お察しください】。
けして、味覚が普通の人間と大幅に変わるわけではない。
稲生:「お待たせしました。こちらがカードキーです」
イリーナ:「あいよ。マリア、持っててー」
マリア:「はいはい」
チェックインの手続きを済ませ、3人の魔道師はエレベーターに乗り込んだ。
稲生:「ここの社長さん、何だか魔道師に似てますね」
イリーナ:「そうかもね」
稲生:「あははは……って、ええっ!?」
マリアはコホンと咳払いをした。
マリア:「それで、部屋割りだけど、私と師匠がツインってことだな?」
稲生:「そうです」
イリーナ:「別に、ユウタ君とマリアが2人で泊まってもいいのよ?」
稲生:「ええっ!?」
マリア:「2人で部屋に入った途端、エレーナが中継に来ると思うのでやめておきます」
イリーナ:「あら、そう?」
エレベーターを降りて、客室に向かう。
稲生:「荷物を置いたら、すぐ夕食にしますか?」
イリーナ:「うーん……ちょっと一息して……」
マリア:「そうだな。すぐにディナーにしよう」
イリーナ:「ちょっと、マリア!?」
マリア:「師匠の場合、一息つくと翌朝になってますからね」
イリーナ:「段々とアタシのことが分かってるくるようになったねぇ……」
マリア:「当たり前です。もう何年あなたの弟子やってると思ってるんですか」
稲生:「ハハハハ……。ここのレストランでは、ステーキやハンバーグが食べられるそうです」
イリーナ:「旅行最後の夜になるんだけど、日本食じゃなくていいのかい?家に帰ると、しばらく日本食が食べられなくなるよ?」
これはキッチンメイドを担当するマリアの人形が、日本食のノウハウを知らない為。
但し、何故か稲生専属メイド人形と化しているダニエラが何とかしようとしているもよう。
稲生:「ええ、だからです。その方が、『明日はマリアさんの屋敷に帰るんだ』という気になれます」
イリーナ:「なるほど。考えたね」
イリーナは大きく頷いた。
[同日18:15.天候:晴 同ホテル1F ステーキ&ハンバーグ匠]
イリーナ:「Да, ура!」(はい、カンパイ!)
マリア:「Toast!」(乾杯!)
稲生:「お疲れさまでーす!」
自動翻訳魔法が切れた直後の乾杯の為、イリーナはロシア語、マリアは英語、稲生は日本語で乾杯した。
イリーナ:「いや、ほんと2人ともご苦労さんね。特にマリア、あそこでブチ切れなくて良かったわ」
マリア:「ユウタが代わりにキレてくれたので、私は普通に対応できました」
イリーナ:「うんうん。日本全国はシェアできなかったけれども、半分以上はダンテ一門でシェアできるようになったから良かったね」
稲生:「ロシアの東部もアジア圏だから云々言ってたみたいですけど?」
イリーナ:「あれはいいのよ。向こうの勝手な言い分だから」
稲生:(東アジア魔道団、『樺太は元々日本の領土だったんだから、うちでシェアさせてもらう!』とか、『北方四島もだ!』とか言ってたんだけど、結局は『でも現在はロシアの領土なので、アジアではない』と突っぱねたもんな、先生達……。もしかして大師匠様、裏でロシア政府に何かしてる?)
マリア:「どうした、ユウタ?」
稲生:「いや、何かちょっと心配で……」
イリーナ:「大丈夫よ。あいつらはもうこの期に及んでは、もう襲ってこないわ」
マリア:「山形の様子を見ていると、俄かには信じ難いですがね」
稲生:(そうじゃなくて、先生。この東京もダンテ一門が裏に回って何かしてもいいってことになったってことは、日本人の僕から見れば物凄く心配だってことです)
イリーナはクイッと赤ワインを飲んだ。
イリーナ:「ユウタ君は何も心配しなくていいのよ。あなたは今のところ、ダンテ一門で唯一の日本人なんだから。意味が分かる?もしあなたが実力を発揮してマスターになったら、率先してこの国を裏から動かせるようになれるのよ?何しろ事情を1番知っているのは、外国人のアタシ達よりも、ネイティブのあなたなんだから」
マリア:「師匠、イギリス人は他にもいますよね?」
イリーナ:「アリッサとかジェニファーとかいるよ」
稲生:「あれ?アリッサさんって、確か“魔の者”に殺された人じゃなかったでしたっけ?」
イリーナ:「ああ、それなんだけどね。英語圏の魔道師、何人か名前被りしてるから」
稲生:「えっ!?」
イリーナ:「“私設地獄”の管理者にジェシカっているでしょ?ジェシカって名前の魔女、他に2人くらいいるから」
マリア:「確か来月からアメリカ人で1人、ジェシカって名前の新人が入るらしいです」
イリーナ:「あらま!これで3人?困ったわねぇ……」
稲生:(きっとまた白人なんだろうなぁ……)
稲生はビールを口に運んだ。
ダンテ一門で1番多いのがロシア人だからしょうがないのかもしれないが、有色人種は創始者のダンテと日本人の稲生しかいなさそうである。
マリア:「師匠、せっかくの新人にそんなこと言っちゃダメです」
イリーナ:「おっと!そうだったわね。危ない危ない。今の、担当マスターに聞かれないようにしないとね」
マリア:「当たり前です。名前被りくらい、大魔道師として看過しなくてはダメです」
イリーナ:「そうね。あなたの本名はマリアンナだからいいけど、他にマリアって名前、何人もいるもんね」
稲生:(そうか。マリアって名前はメジャーだもんなぁ……)
イリーナ:「アナスタシア組だけでも、モイラとマライアの2人いるでしょ?これも名前の語源はマリアだからね」
マリア:「まだ、読み方違うからいいんですよ。名字に使われている方が混乱しやすいです」
イリーナ:「いたっけ?」
マリア:「マルファ先生が言ってましたが、弟子最有力候補がハンガリー人のナディア・マリアンナという名前だそうじゃないですか」
イリーナ:「あら、よく聞いてたわねぇ……」
マリア:「自分が名前として使っている方ですから、覚えますって」
マリアンナという名前は名字にも使えるらしく、ハンガリー人によくいるらしい。
イリーナ:「あっ、ユウタ君、ゴメンね。ついていけないでしょう?」
稲生:「あ、いえ、大丈夫です」
イリーナ:「ユウタ君もハイマスターくらいになったら、弟子を取ってもいいんだからね?それも、あなたと同じ日本人から選んでもいいのよ?」
マリア:「東アジア魔道団がまた怒りますよ?」
イリーナ:「シェアしている所から選べば、別に問題無いでしょ」
魔道師達の談義についていくのがやっとだった新人弟子の稲生は、運ばれて来たステーキのコースは完食したが、ついつい痛飲したビールなどのアルコールや、そういう難しい話で頭がいっぱいになり、肝心の味は覚えていなかったという。
ただ、逆を言えば不味くはなかったということだ。
人間、マイナスのことはプラスのことよりも記憶に残るものである。
え?魔道師はもう人間じゃないのだろうって?そこは、【お察しください】。
けして、味覚が普通の人間と大幅に変わるわけではない。