報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「アルカディア・タイムス日本語版」

2017-04-03 19:26:53 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月27日16:00.天候:不明 魔界王国アルカディア・王都アルカディアシティ 3番街駅]

 魔界高速電鉄(愛称はアルカディア・メトロ。まだ浸透していない)の3番街駅はアルカディアシティの中心街の一画にあり、そこは地元の新聞社アルカディア・タイムス本社の最寄り駅である。
 基本的に新聞は定期購読か駅売り、または店舗で購入する。
 しかし新聞社のサービスとして、この3番街駅や路面電車のターミナル駅などで壁新聞として掲示もされている。
 そろそろ夕方のラッシュも始まろうとする時間帯、それは夕刊の時間でもある。

 メトロの駅では電車の接近放送があったり無かったりと、バラバラである。
 3番街駅には自動放送が無い為、入線してくる電車は警笛を鳴らしてやってくる。
 回送などの通過電車は断続的に鳴らして通過する。
 旧ソ連製の電車に酷似した電車が入線してきた。
 メトロは基本的にワンマン運転である。
 人間界で運行されていた頃はツーマン仕様であっても、ここでワンマン化改造されている。
 地上の高架鉄道はツーマン運転なのに、地下鉄がワンマン運転である理由は明らかにされていない。
 電車のドアが開くと、最後尾の車両の1番後ろのドアから山積みになった新聞が一気に降ろされた。
 見ると、6両編成の電車のうち、最後尾だけ乗客が乗っていない。
 車内には山積みの新聞が置かれている。
 新聞社は発行した新聞の輸送に、電車を利用しているのである。
 地上でも、高架鉄道や路面電車などでそれが行われている。
 魔界では自動車交通が無いからだ。

 係員A:「売店に持って行くから、壁新聞よろしく!」
 係員B:「了解!」

 地下鉄の停車時間は短い。
 放送は無くても発車のブザー(かつての“営団ブサー”に音が似ている)は鳴るので、それで電車が発車するタイミングは測れるのだが。
 3番街駅では受け取る係員がいない為、乗車している係員が降りる。
 車内にはまだ係員が便乗して、各駅に新聞を降ろしていくのである。
 2人の係員と新聞の束を降ろした電車は、旧ソ連製の電車よろしく、勢い良く乗降ドアを閉めて発車していった。
 3番街駅のホームは天井が高く、ホームも広い。
 その為、ホームの中央に壁新聞を貼れるスペースがある。
 係員Bがその掲示板に、刷り上がったばかりの夕刊を貼り付けた。
 そして、売店に新聞を卸したAと共に、次の電車に乗って帰って行った。
 今度は開業したての地下鉄銀座線100形(東京高速鉄道)に酷似した電車であった。

 電車の乗客達は電車を待ったり、改札口へ向かう合間に壁新聞に目を通す。
 記事には人間界で起きた大きな事件も掲載されているのだが、今回は魔道師達のことが書かれていた。

『ダンテ一門総師範、東ア団支部長と会談!』『緊張の糸に耐えかねた弟子が暴走!』『ダンテ一門勢が有利か?』

 以下、本文。

「日本時間3月27日10時より、魔道師組織による会談が行われた。一方は人間界は元より、魔界においても多大な影響力を持つ『ダンテ一門』その総師範であるダンテ・アリギエーリ師。もう一方は、最近勢力を伸ばしつつある東アジア魔道団(以下、東ア団)日本支部長の渡辺正幸(韓国帰化人。旧名、辺 正幸)師である。会談内容は日本国内におけるシェアについてであるが、会談はダンテ師と直弟子であるイリーナ・レヴィア・ブリジッド師と渡辺師と副支部長の大森次郎師の2対2で行われ、随行の弟子達は会場外で待機という状態にあった。
 そのような中、12時27分頃、睨み合いの続く会場外では、ついに緊張の糸が断ち切れた。
 緊張に耐えられなくなった東ア団韓国支部の支部員が、ダンテ一門側随行員2名に突如として飛び掛かったのである。
 (写真はイギリス人魔道師に襲い掛かる韓国人魔道師)
 危うく乱闘になる所であった為、会談は一時休止。最初に騒ぎを起こした随行者は退場となったが、これにより、ダンテ一門側が交渉に有利な運びとなる。
 東日本一帯のみならず、東海地方もダンテ一門がシェアすることとなった。
 尚、具体的な最終案については後日発表される見込みである」

『各師の声明。尚、「師」は正式な魔道師のみとし、見習に関しては「氏」とする』

「ダンテ師:孫弟子の1人の案、『JRの管轄で如何でしょう?』というものを採用した。細かい境界線については後日また会談する必要があるものの、取りあえずはJR北海道、東日本の他、JR東海のエリアもシェアすることができた。できればJR西日本の部分も頂きたかったが、そこは難しかった。尚、乱闘騒ぎに乗じて『沖縄』と書き込んだ弟子については別途処分する。

 イリーナ師:JRの無い沖縄県やその他離島を頂こうとして失敗したのが痛かった。取りあえずは70%成功したので、一応良しとしたい。

 稲生氏:大石寺のあるJR東海エリアをダンテ一門でシェアすることができて良かった。でも、“やきそばエクスプレス”からJRバスが撤退したのは痛いと思います。

 マリアンナ師:いきなりコリアンが襲って来たのには驚いたが、あれが火病というヤツか。とにかく、冷静に対処できて良かった。

 渡辺師:到底納得の行くべき会談内容ではない。西日本エリアはシェアできたものの、ダンテ一門とは相容れぬ存在であることが分かった為、関係改善には先方の努力が必要であろう。

 大森師:大変な会談となってしまった。少なくとも支部の場所を西日本に移転させる必要があり、今後は多忙となる為、ダンテ一門どころの騒ぎではなくなると思われる」

 乗客A:「何だか人間界も大変だねぇ……」
 乗客B:「人間界が、じゃないよ。魔道師達が、だよ」
 乗客A:「それもそうか」
 乗客B:「何しろ彼の国には、人間成り済ましの人外が侵食しているって話だからな」
 乗客A:「おい、それマジかよ?」
 乗客B:「だいぶ前、この新聞で見た。ま、この新聞もたまにセンセーショナルなこと書くから、どこまで本当かは知らねぇよ」
 乗客A:「でも、火の無い所に煙は立たないって言うぜ?」
 乗客B:「まあな」

 壁新聞に見入っていた2人の乗客達は、やってきた電車に乗り込んだ。
 人間界のことなど、どこ吹く風といったかのように、電車は短い発車ブザーの後、すぐにドアを閉めて走り去ったのだった。
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“大魔道師の弟子” 「山形に到着」

2017-04-03 12:17:44 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月27日07:44.天候:曇 福島県福島市・JR福島駅]

 列車が東北地方に入ると、外の雨が止んだ。
 それでもどんよりとした曇り空が広がり、今度は雪が降りそうな空模様だった。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、福島です。東北新幹線、東北本線、山形線はお乗り換えです。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。福島の次は、米沢に止まります〕

 他にも阿武隈急行線や福島交通飯坂線など、他社線もあるのだが、そこは案内しない。

〔「福島駅14番線到着、お出口は右側です。福島でお降りのお客様、お忘れ物の無いよう、お気をつけください。お乗り換えのご案内です。今度の東北新幹線下り、……【中略】。福島で3分停車致します。発車は7時47分です。引き続きご乗車のお客様は、発車までしばらくお待ちください。ありがとうございました。まもなく、福島です」〕

 列車がATC信号による自動ブレーキにより、減速していく。
 運転士が実際に手動でブレーキ操作を行うのは、時速30キロ以下になってからだという。
 福島駅も、有効長は他のフル規格新幹線駅と同じなのだが、山形新幹線の停車位置は同じ。
 恐らく他の駅でもそうだったのだろう。
 後ろに東北新幹線を連結していないせいで、ホームの先の方に止まっている感じだ。
 通常は解結作業で5分くらい掛かるのだが、今回はそれが無い為、通常の乗務員交替と時間調整だけで済むようである。

〔ふくしま、福島。ご乗車、ありがとうございました〕

 稲生:「マリアさん、ちょっと降りてきます」
 マリア:「列車の撮影でもするの?」
 稲生:「いえいえ」

 稲生は(グリーン車にも車椅子対応席がある為に)間口が広い乗降ドアからホームに降りた。
 降りると、東京よりも寒い風がホームを吹き抜けている。
 東京も雨のせいで肌寒い状態であったが、ここはそれ以上だ。
 本当に雪になるかもしれない。

 稲生:「マリアさん、紅茶飲みたがってたな。さすが、イギリス人だ」

 稲生は売店でペットボトル入りの紅茶を買い求めようとした。

 マリア:「ミルクティーで」
 稲生:「わっ、びっくりした。いつの間に!?」

 まさか、瞬間移動でも!?
 いや、そんなことはいい。

 稲生:「これとこれ……」

 稲生は飲み物のペットボトルを2つ買い求め、Suicaで支払った。

 稲生:「マリアさん、寒いから降りてこなくても良かったのに……」
 マリア:「いや、これくらい……。イギリスはもっと寒いから」
 稲生:「まあ、確かに日本より緯度は高いですねぇ……」

 暖房の効いた車内に戻ると、ダンテは集中して書類に目を通していたし、イリーナは寝ていた。

 マリア:「何もすることが無いからといって、暢気な師匠だ」
 稲生:「まあまあ」

〔「お待たせ致しました。山形新幹線下り、“つばさ”121号、山形・新庄行きが発車致します。ご乗車になりまして、お待ちください」〕

 ホームに発車メロディが鳴り響く。
 タイトルは、“栄冠は君に輝く”。
 これの作曲者である古関祐而が福島市出身だったからである。
 因みにこの古関氏、作曲した中に“嗚呼神風特別攻撃隊”もあるだが、これのアレンジバージョンが顕正会の会歌として使用されている。
 顕正会員たるもの、先生の為に特攻しろ!ということを暗に示している。
 列車は定刻通りに福島駅を出発し、それまで高架線を走行していたものが、地上に下りて走ることとなった。

[3月27日08:57.天候:雪 山形県山形市 JR山形駅→ホテルメトロポリタン山形]

 福島県でも山間は雪が積もっていたものの、実際に降り出してきたのは山形県に入ってからだった。
 もうすぐ4月になるというのに、雪国ではまだまだ雪の姿を見ることができる。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、山形です。仙山線、左沢線はお乗り換えです。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。山形の次は、天童に止まります〕
〔「まもなく山形、山形です。2番線到着、お出口は右側です。山形からのお乗り換えをご案内致します。……」〕

 ダンテ:「イリーナ、そろそろ起きなさい」
 イリーナ:「ふぁい……」
 稲生:「ここからが正念場なんですね」
 ダンテ:「うむ。だがまあ、向こうさんも礼を失することはしてこないだろう。だから、我々も気を使う必要がある」
 稲生:「はい」

 列車は雪の積もる線路の上を減速し、山形駅構内へと入って行った。
 尚、福島から先は改軌された在来線の上を走る為、ATCは無い。
 全て運転士による手動運転である。

〔「ご乗車ありがとうございました。山形、山形です。車内にお忘れ物の無いよう、ご注意ください。2番線に到着の列車は“つばさ”121号、新庄行きです。次は、天童に止まります。……」〕

 山形県の県庁所在地である町の中心駅で降りる乗客は多い。
 稲生達も、そういった乗客達の後に続いて降りる。

 稲生:「またここに来るとは思いませんでしたね」
 マリア:「あの時は、まだ東アジア魔道団が関わっているとは思わなかったな」
 ダンテ:「会談開始は10時の予定だが、もう向こうさんは来ているかもしれない。本来ならちょっと一息吐きたいところだが、ホテルまではこのまま直行したいと思う」
 稲生:「はい。ホテルは駅と直結しているので、すぐそこです」

 稲生達は新幹線改札口を出ると、エスカレーターでコンコースへと上がった。
 すると今度は在来線用の改札口があるので、そこも出る。
 出て右に曲がり、東口に向かう途中にホテルメトロポリタン山形がある。

 稲生:「会場は……ちょっと聞いてきます」

 稲生はホテルのフロントに行って確認することにした。

 イリーナ:「一般のシティホテルを会場にすることの意味は、どこにあるのでしょう?」
 ダンテ:「向こうさんは直接、拠点まで来てくれと言ってきたんだ。さすがにそれは呑めないと断らせてもらった。それだとこっちが完全アウエーになり、不利過ぎる。おたくらがせめて東京まで来るように言ったら、それも断られた。当然、キミ達の家に来ることもだ」
 イリーナ:「来られても、ちょっと困りますけどね」
 ダンテ:「折衷案がここだったというわけさ。これだって、私達の方が譲歩している方だ」
 イリーナ:「確かにそうですね」

 そこへ稲生とホテルマンがやってきた。

 稲生:「会場が分かりました」
 ホテルマン:「ダンテ・アリギエーリ様でございますね。ご案内致します。お荷物はいかがなさいますか?」
 ダンテ:「ああ、うむ……。会談に必要の無いものは預かってもらうことにしようか」
 イリーナ:「私の場合、全部必要なものですけど」
 稲生:「じゃあ僕はこの荷物を……」
 マリア:「じゃあ、私も」

 必要の無い大きな荷物だけを預け、稲生達はホテルマンの案内で会場へと向かった。
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