[3月28日11:59.天候:晴 JR仙山線快速電車・先頭車内]
発車時刻が迫り、ホームに発車メロディが鳴り響く。
標準軌のホームは山形民謡の“花笠音頭”が流れるが、狭軌ホームは大宮駅・宇都宮線ホームと同じものである。
ピンポーンピンポーンとドアチャイムが鳴ると、開いていたドアがゆっくりと閉まった。
そして、新型のインバータのモーター音を響かせながら電車が走り出す。
最初はポイント通過の為に、低速度で。
それでもポイント通過の際は、ガクンと大きく揺れる。
〔今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は仙山線、快速、仙台行きです。停車駅は北山形、羽前千歳、山寺、作並、愛子、愛子からの各駅です。次は、北山形です。……〕
首都圏の新型電車でも流れているタイプの自動放送が、この電車の中でも流れる。
声優もテンプレートもほぼ同じだ。
しかしそんなことを気にするのは鉄ヲタの稲生くらいで、他の3人の魔道師は今つついている駅弁の方が気になっているという……。
ダンテ:「日本は食べ物の美味い国だというが、正しくその通りだね。美味い物を食べに来たというだけでも、それが入国の理由として成り立つくらいだよ」
稲生:「観光ビザですか、大師匠様?」
イリーナ:「そういうことは聞かないの」
稲生:「あ、すいませんでした」
ダンテ:「いやいや」
〔「……終点、仙台には13時15分の到着です。……」〕
ダンテ:「マリアンナ君は、いつもお昼は軽いのかい?サンドイッチだけで済んでるね」
マリア:「あ、はい。昔からブレイクファーストは沢山食べて、ランチは軽めです」
ダンテ:「イギリス人だねぇ……」
稲生:「大師匠様は?今現在、英国紳士といった姿をされておられますが?」
ダンテ:「ああ。この方がカッコいいだろう?」
稲生:「?」
ダンテ:「普段の私は、フードで顔を隠さないといけないくらいなんだ」
稲生:「どういうことでしょうか?」
イリーナ:「ユウタ君、その辺で」
稲生:「あっ、すいません!」
稲生が知っているダンテの正体(?)は、どうも黒人のような気がした。
フードだけでは顔全体は隠せない。
フードやローブから覗く手足が、黄色人種の稲生よりも浅黒い色をしていたのを見た。
浅黒いわけだから、アフリカ系ではない。
あの色は……中東系とか、そんな感じに思えた。
稲生:「! インド人とかも、普段の先生の肌と同じような色ですね。インドは長らくイギリスの領土でした……」
マリア:「どうして、そこで私を見る?私の生まれはハンガリーだぞ」
イリーナ:「ま、国籍はイギリスだけどね」
ダンテ:「僕の正体を探るのも、面白いかもしれないね」
稲生:「いえ、そんな失礼なことはしません。ちょっと気になっただけで……」
ダンテ:「案外、稲生君も他人のことが気になるタイプかな?」
稲生:「そうかもしれません」
マリア:「私の過去にも、随分と踏み込んできたもんな」
稲生:「いや、ハハハ……」
ダンテ:「だが、そのおかげで、北海道における“魔の者”との戦いは制することができたとも言える。私の出自や正体を知ってしまったところで、私自身はどうこうするつもりは無いよ。まあ、イリーナ達が激昂するかもしれないけどw」
イリーナ:「ユウタ君、キミには解くべき課題がまだ残ってるでしょ?ダンテ先生の正体とか、そんなことはどうでもいいのよ?」
イリーナの顔は笑っていたが、目は笑っていなかった。
普段は細くしている目が、この時は開眼されていた。
稲生:「は、はい。気をつけます」
イリーナ:「良かったね。もしここにナスターシャがいたら、胸倉掴まれて魔法で粉々にされていたかもね」
ダンテ:「何だい?あのコはそんな乱暴な魔法を覚えたのかい?」
イリーナ:「そうなんです。それで魔界の賞金首を倒しては、荒稼ぎしているんですけどね」
ダンテ:「魔界でレベル上げと資金稼ぎするのは構わんが、あまり魔法を乱暴なことに使うのは良くないな。今度パーティで会ったら、少し注意をしておかないと」
イリーナ:「ええ。ガツンと言っちゃってください」
ダンテ:「キミねぇ……」
稲生:「あ、あの……!」
稲生が手を挙げた。
稲生:「質問が1つ」
ダンテ:「何かね?」
稲生:「昨夜のホテルの前での騒ぎなんですが、先生方が駆け付ける前に魔法陣を空に浮かび上げて攻撃していた人がいたようなんですが、それも東アジア魔道団のヤツなんですか?」
イリーナ:「あー、気づいちゃったか……」
ダンテ:「う、うん……それなんだけどね……」
稲生:「あ、聞いちゃダメでした?」
マリア:「いいんじゃないですか、言っても。ユウタ、あの魔法陣で攻撃していたのはマルファ先生だよ」
稲生:「えっ!?あの陽気なラテン系!?」
イリーナ:「いや、一応、あいつもサンクトペテルブルグ出身なんだけど……」
ダンテ:「非魔女は明るいコが多いからね。いいんじゃないかい?1人くらいああいうコがいても」
稲生:「魔法陣で攻撃できるなんて、かなり強い魔法なんですってね。なるほど。先生クラスなら当然ですね」
ダンテ:「彼女にも早く弟子を取るよう、急かしてるんだけどね」
稲生:「えっ、いない!?」
イリーナ:「グランドマスターになってるってのに、未だに弟子を取っていないのはあいつだけよ。あんな空気も読まずにバカ騒ぎするヤツ、ついていく弟子なんていないですよ」
ダンテ:「もう少しおとなしくしてくれていれば、物凄くいいコなのにねぇ……」
稲生は思った。
稲生:(魔道師って結構、残念系が多い?)
マリアも容姿は可愛いのに、壮絶な人間時代の過去を経験したせいか、陰があるどころの雰囲気ではなかった。
イリーナ:「ナスターシャはやる気は人一倍あるんですけど、どうも空回りすることが多いみたいですね」
ダンテ:「努力家であることは認めるよ。是非その点はイリーナにも、見習うべき点が多々あるな」
イリーナ:「申し訳ありません」
ダンテ:「かと思うと、ヒョイっと壁を乗り越えてしまうコもいる。それで出世したポーリンなんかそうだな」
イリーナ:「あのお姉さん、宮廷魔導師の仕事が忙しくて、弟子の育成どころじゃなくなってるみたいです」
ダンテ:「うむ……」
稲生は師匠クラスの話を聞きながら、車窓の方を見た。
まだ雪の残る山形県。
電車は更に雪深い山へと向かう。
発車時刻が迫り、ホームに発車メロディが鳴り響く。
標準軌のホームは山形民謡の“花笠音頭”が流れるが、狭軌ホームは大宮駅・宇都宮線ホームと同じものである。
ピンポーンピンポーンとドアチャイムが鳴ると、開いていたドアがゆっくりと閉まった。
そして、新型のインバータのモーター音を響かせながら電車が走り出す。
最初はポイント通過の為に、低速度で。
それでもポイント通過の際は、ガクンと大きく揺れる。
〔今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は仙山線、快速、仙台行きです。停車駅は北山形、羽前千歳、山寺、作並、愛子、愛子からの各駅です。次は、北山形です。……〕
首都圏の新型電車でも流れているタイプの自動放送が、この電車の中でも流れる。
声優もテンプレートもほぼ同じだ。
しかしそんなことを気にするのは鉄ヲタの稲生くらいで、他の3人の魔道師は今つついている駅弁の方が気になっているという……。
ダンテ:「日本は食べ物の美味い国だというが、正しくその通りだね。美味い物を食べに来たというだけでも、それが入国の理由として成り立つくらいだよ」
稲生:「観光ビザですか、大師匠様?」
イリーナ:「そういうことは聞かないの」
稲生:「あ、すいませんでした」
ダンテ:「いやいや」
〔「……終点、仙台には13時15分の到着です。……」〕
ダンテ:「マリアンナ君は、いつもお昼は軽いのかい?サンドイッチだけで済んでるね」
マリア:「あ、はい。昔からブレイクファーストは沢山食べて、ランチは軽めです」
ダンテ:「イギリス人だねぇ……」
稲生:「大師匠様は?今現在、英国紳士といった姿をされておられますが?」
ダンテ:「ああ。この方がカッコいいだろう?」
稲生:「?」
ダンテ:「普段の私は、フードで顔を隠さないといけないくらいなんだ」
稲生:「どういうことでしょうか?」
イリーナ:「ユウタ君、その辺で」
稲生:「あっ、すいません!」
稲生が知っているダンテの正体(?)は、どうも黒人のような気がした。
フードだけでは顔全体は隠せない。
フードやローブから覗く手足が、黄色人種の稲生よりも浅黒い色をしていたのを見た。
浅黒いわけだから、アフリカ系ではない。
あの色は……中東系とか、そんな感じに思えた。
稲生:「! インド人とかも、普段の先生の肌と同じような色ですね。インドは長らくイギリスの領土でした……」
マリア:「どうして、そこで私を見る?私の生まれはハンガリーだぞ」
イリーナ:「ま、国籍はイギリスだけどね」
ダンテ:「僕の正体を探るのも、面白いかもしれないね」
稲生:「いえ、そんな失礼なことはしません。ちょっと気になっただけで……」
ダンテ:「案外、稲生君も他人のことが気になるタイプかな?」
稲生:「そうかもしれません」
マリア:「私の過去にも、随分と踏み込んできたもんな」
稲生:「いや、ハハハ……」
ダンテ:「だが、そのおかげで、北海道における“魔の者”との戦いは制することができたとも言える。私の出自や正体を知ってしまったところで、私自身はどうこうするつもりは無いよ。まあ、イリーナ達が激昂するかもしれないけどw」
イリーナ:「ユウタ君、キミには解くべき課題がまだ残ってるでしょ?ダンテ先生の正体とか、そんなことはどうでもいいのよ?」
イリーナの顔は笑っていたが、目は笑っていなかった。
普段は細くしている目が、この時は開眼されていた。
稲生:「は、はい。気をつけます」
イリーナ:「良かったね。もしここにナスターシャがいたら、胸倉掴まれて魔法で粉々にされていたかもね」
ダンテ:「何だい?あのコはそんな乱暴な魔法を覚えたのかい?」
イリーナ:「そうなんです。それで魔界の賞金首を倒しては、荒稼ぎしているんですけどね」
ダンテ:「魔界でレベル上げと資金稼ぎするのは構わんが、あまり魔法を乱暴なことに使うのは良くないな。今度パーティで会ったら、少し注意をしておかないと」
イリーナ:「ええ。ガツンと言っちゃってください」
ダンテ:「キミねぇ……」
稲生:「あ、あの……!」
稲生が手を挙げた。
稲生:「質問が1つ」
ダンテ:「何かね?」
稲生:「昨夜のホテルの前での騒ぎなんですが、先生方が駆け付ける前に魔法陣を空に浮かび上げて攻撃していた人がいたようなんですが、それも東アジア魔道団のヤツなんですか?」
イリーナ:「あー、気づいちゃったか……」
ダンテ:「う、うん……それなんだけどね……」
稲生:「あ、聞いちゃダメでした?」
マリア:「いいんじゃないですか、言っても。ユウタ、あの魔法陣で攻撃していたのはマルファ先生だよ」
稲生:「えっ!?あの陽気なラテン系!?」
イリーナ:「いや、一応、あいつもサンクトペテルブルグ出身なんだけど……」
ダンテ:「非魔女は明るいコが多いからね。いいんじゃないかい?1人くらいああいうコがいても」
稲生:「魔法陣で攻撃できるなんて、かなり強い魔法なんですってね。なるほど。先生クラスなら当然ですね」
ダンテ:「彼女にも早く弟子を取るよう、急かしてるんだけどね」
稲生:「えっ、いない!?」
イリーナ:「グランドマスターになってるってのに、未だに弟子を取っていないのはあいつだけよ。あんな空気も読まずにバカ騒ぎするヤツ、ついていく弟子なんていないですよ」
ダンテ:「もう少しおとなしくしてくれていれば、物凄くいいコなのにねぇ……」
稲生は思った。
稲生:(魔道師って結構、残念系が多い?)
マリアも容姿は可愛いのに、壮絶な人間時代の過去を経験したせいか、陰があるどころの雰囲気ではなかった。
イリーナ:「ナスターシャはやる気は人一倍あるんですけど、どうも空回りすることが多いみたいですね」
ダンテ:「努力家であることは認めるよ。是非その点はイリーナにも、見習うべき点が多々あるな」
イリーナ:「申し訳ありません」
ダンテ:「かと思うと、ヒョイっと壁を乗り越えてしまうコもいる。それで出世したポーリンなんかそうだな」
イリーナ:「あのお姉さん、宮廷魔導師の仕事が忙しくて、弟子の育成どころじゃなくなってるみたいです」
ダンテ:「うむ……」
稲生は師匠クラスの話を聞きながら、車窓の方を見た。
まだ雪の残る山形県。
電車は更に雪深い山へと向かう。