報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Sisters” 「仕事帰り」

2017-04-18 20:23:33 | アンドロイドマスターシリーズ
[4月18日18:00.天候:晴 東京都江東区東雲 某マンスリーマンション]

 シンディ:「埼玉から役員車通勤している方もいらっしゃるそうですよ?社長は新幹線通勤にしてみては?」
 敷島:「つったって、東京駅から都営バスだろ?だったら、会社の近くにマンスリーマンション借りてた方がいい。何かあった時、それが例え真夜中でも会社に駆け付けられるだろ?」
 シンディ:「ですが……」
 敷島:「いいのいいの。それより、早く夕飯にしてくれ」
 シンディ:「はい」

 敷島が埼玉のマンションを現住所にしている理由は、アメリカ人妻のアリスがDCJのロボット未来科学館(埼玉県さいたま市)に勤務しているからである。
 DCJは外資系企業である為、手当の概念が無い。
 以前、アリスの給料明細を見せてもらったことがあったが、日本の企業とはだいぶ違うのが見て取れた。
 特にアリスは研究職だから、尚更ワケが分からない。
 ただ、取りあえずアメリカに帰っても年収の高い仕事ではあるというのは理解できた。

 シンディ:「あれ?姉さんから通信が来てます」
 敷島:「何だ?」
 シンディ:「予定通り、明日には復帰できるとのことです」
 敷島:「分かった。それじゃ明日、エミリーが戻って来たら、お前も向こうに行っていいよ」
 シンディ:「そうさせてもらいます」

[同日20:00.天候:晴 同マンション]

 敷島:「ゴールデンウィーク前に、何かちょっとしたイベントをやるというのもいいな……」
 シンディ:「社長、お風呂の準備ができました」
 敷島:「おっ、ありがたい。ボディソープがそろそろ切れかかってたけど……」
 シンディ:「それも大丈夫です」
 敷島:「いつものだな。じゃ、入って来るぞ」
 シンディ:「はい、ごゆっくり」

 シンディは敷島が風呂に入っている間、室内の掃除を始めた。
 敷島は30分くらい入っているから、その間に済ませる。
 因みにどこから始めるかは、シンディとエミリーとでは違った。
 敷島が風呂に入っている間なので、風呂は1番最後になるのだが。

 シンディ:「メイドも秘書も子守りも何でもできます。それがマルチタイプです」

 掃除機掛け中のシンディのつぶやきが入浴中の敷島に聞こえるわけが無いが、まるで呼応するかのように……。

 敷島:「ふぅ……。シンディも見た目が美人だから、グラビアの仕事くらい引き受けて欲しいなぁ……。『用途外だからダメ』なんて言わずにさ。エミリーも似たようなものだが、エミリーの方が聞いてもらえるような気がする」

[同日20:30.天候:晴 同マンション]

 敷島:「ふう……。いい湯だった」
 シンディ:「ビール出しましょうか?」
 敷島:「おっ、ありがとう」
 シンディ:「1本でいいですか?」
 敷島:「ああ。お前も体の汚れが気になったら、入っていいぞ」
 シンディ:「ありがとうございます。そう言えばこの前、姉さんの体を洗ってあげたそうで?」
 敷島:「前に背中流してもらったし、他にも色々やってくれてるから、その礼にな」
 シンディ:「そういうことでしたか。じゃあ今度、私もお背中流します。なので……」
 敷島:「分かった分かった。今度、シンディの体も洗ってやるよ」
 シンディ:「楽しみにしています。じゃ、今日は自分で洗いますね」
 敷島:「ああ」

 シンディが浴室に入り、敷島はテレビのスイッチを入れた。

〔「……埼玉県さいたま市西区のガソリンスタンドで、ロボットが洗車機を勝手に使用するという事件があり、近くのDCJロボット未来科学館より、ガイノイド・マルチタイプが取り押さえました」〕

 敷島:「ブーッ!」

 敷島は口に運んだビールを噴き出した。

〔バージョン4.0:「エミリー様モ、シャワー一緒ニ浴ビマセンカ?」 エミリー:「アホか!早く外に出ろ!!」〕

 敷島:「まだこんなことするヤツいるのか……。時間的に、エミリーの点検が終わった直後だな。エミリーも大変だったな」

 画面にはエミリーに首根っこ掴まれて、洗車機から引きずり出されるバージョン4.0の姿が映し出されていた。

 敷島:「待てよ。確か、前にもそんなことしてたアホロボットがいたな……。もしかして、これは……」

 敷島は自分のスマホを取り出した。

 敷島:「あ、もしもし。アリスか?俺だけど……」
 アリス:「ああ、タカオ。なに?どうしたの?」
 敷島:「いや、今テレビ観たんだけど、またバージョンがフザけたことしたらしいな?」
 アリス:「たまたま点検中で、監視の対象から外した隙に脱走しやがったのよ」
 敷島:「洗車機で体を洗うのが流行ってるのか?」
 アリス:「分からないけど、シンディやエミリーがきれい好きでしょ?少なからず、影響されてると思うね」
 敷島:「なるほど……」
 アリス:「バージョン達はロボットだから、そんなに気にすること無いのにね」
 敷島:「1つ思ったんだが、いっそのこと、ロボット専用の洗車機のような物を造ってみたらどうだ?」
 アリス:「ええっ?バージョンしか使わないんだから、そんなもの売れないよ」
 敷島:「だから、科学館の新しい展示物として作るんだよ。西山館長から聞いたぞ?従来からの展示物がマンネリ化してきたから、そろそろ新しい物を置きたいって」
 アリス:「ま、それは聞いてるけどォ……」
 敷島:「で、定期的にイベントとして実演するんだよ。ゴンスケ辺りも普段の仕事で、体が汚れやすいだろう?」
 アリス:「まあ、そうねぇ……」
 敷島:「バージョン達にも、その新しい機械で体を洗うように伝えるんだ。そうしたら、もうガソリンスタンドの洗車機を勝手に使うなんてことはしなくなるぞ」
 アリス:「分かった。ボス(西山館長)に伝えてみるわ」
 敷島:「ああ、よろしく。……ああ。それじゃ」

 敷島は電話を切った。

〔「……都内の交差点で車同士の事故があり、うち1台が、弾みで歩道を歩いていた下校中の小学生の列に突っ込みました。尚、この際、見守りとして稼働していたロボットが車を受け止めた為、児童にケガはありませんでした」〕

 敷島:「普段は上手くやってる奴らなんだがなぁ……。テロロボットから用途変更しただけで、悪の手先から正義の手先だ。うん」

〔バージョン4.0:「ソウデスネ。私ハタダ与エラレタプログラムニ従ッタダケデス」〕

 敷島:「かつてのテロロボット達だが、謙虚さも出るようになったんだがなぁ……」

〔バージョン4.0:「体ガ汚レテシマッタノデ、洗車機デ体ヲ洗イタイデスw」〕

 敷島:「コラぁ!」

 取りあえず、関東地方は今日も平和。
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“Gynoid Multitype Sisters” 「マルチタイプ9号機をどうするか?」

2017-04-18 15:16:18 | アンドロイドマスターシリーズ
[4月18日13:30.天候:晴 東京都江東区豊洲 敷島エージェンシー]

 敷島:「さすがにうちのミクを魔女っ娘にするのはカンベンしてくれ。イメージが違い過ぎる」
 勝又:「ゴメンゴメン」
 敷島:「さすがは秋葉原から選出された都議会議員だな。ヲタ議員だ」
 勝又:「いや、それほどでも……。じゃあ、例の件はよろしく」
 敷島:「ああ。了解」

 敷島は社長室の外まで見送った。

 敷島:「今度の議員選挙はいつだって?」
 勝又:「昨年やったばかりだから、しばらくは無いと思うね」
 敷島:「そうか。それじゃ気をつけて」
 勝又:「失礼」

 勝又は自分の秘書やシンディと一緒にエレベーターに乗り込んだ。
 シンディは車寄せまで見送りに行く。

 敷島:「魔女っ娘案は却下だって前にも言ったのになぁ……」

 敷島は頭をかきながら社長室に戻った。

 鏡音リン:「社長、魔女っ娘ならリンがやってもいいYo!」
 敷島:「いや、いいんだ。確かに俺も、リンならまだいいとは思ったんだ。お前は設定年齢14歳だろ?ぶっちゃけ、プリキュアシリーズのキャラクターだって似たような年齢だし
 リン:「うん」
 敷島:「勝っちゃん……勝又先生は、ミクでないとダメだなんて拘る始末でさ」
 リン:「ふーん……。みくみくが魔女っ娘やってるヤツって何かあったっけ?」
 敷島:「いや、無いだろ。“千本桜”は違うし、“悪ノ娘”だって……魔法使いの設定なんて無いもんなぁ……」
 リン:「ルカ姉だったら、“悪ノ娘”で大魔道師の役やってたけどね」
 敷島:「とにかく、ミクにはイメージが合わない。だからダメだと断っておいたよ。アイドルはイメージが大事だからな」
 リン:「うんうん」

 しばらくリンと立ち話をしていると、シンディが戻ってきた。

 シンディ:「勝又先生はお帰りになりました」
 敷島:「ご苦労さん」
 シンディ:「今度、若手議員連盟でパーティーを行う時、私達にコンパニオンよろしくと仰ってました」
 リン:「おお〜!またお仕事入るね!」
 敷島:「リンはコンパニオンの仕事はダメだからな」
 リン:「ええ〜!?リン、人間じゃないから児童労働何でもOKだYo!」
 敷島:「いや、お前な!」
 シンディ:「だーかーらぁ、イメージが大事だって社長が常日頃から言ってるでしょ。そういうのはお姉さん達に任せておきなさい」
 敷島:「あ、でも、歌の仕事くらいならいいんじゃないか?」
 シンディ:「えっ?」
 敷島:「リンは設定年齢に合わず、こぶしの効いた歌い方が上手いだろ?あれで演歌歌わせたら、かなり好評だったじゃないか」
 シンディ:「そうねぇ……」
 敷島:「勝っちゃんが国会議員になったら、政界と強いパイプができるぞ。今のうちに営業しておかないとな」

 それを今問題の『政治とカネ』と言います。

[同日15:00.天候:晴 敷島エージェンシー]

 敷島:「……分かりました。……はい、では、そういうことでよろしくお願いします。……はい、かしこまりました。資料の方は後ほど送らせて頂きます。……はい。……はい、それでは失礼します」

 敷島は電話を切った。

 敷島:「ちょっとトイレ行ってくる」
 シンディ:「はい」

 敷島は社長室を出てトイレに向かった。

 敷島:「ん?」

 ボーカロイドの控室から、何やら歌声が聞こえてくる。
 敷島はそっと部屋を覗いてみた。

 敷島:「げ!?」

 中の様子は……。

 リン:「ズンドコ♪ズンドコ♪ズンズン♪ズンドコぉ〜♪ズンドコぉ〜♪」
 敷島:「ほ、本当に演歌の練習してやがる!」

[同日17:15.天候:晴 敷島エージェンシー]

 シンディ:「社長、お疲れさまです」
 敷島:「おっ、お疲れ。そろそろ帰るとするか」
 シンディ:「はい」
 敷島:「明日はエミリーが点検から戻って来るんだっけ?」
 シンディ:「そうですね。代わりに私が今度は点検に入ります」
 敷島:「なるほどなるほど」

 敷島は帰り支度をして、事務室に顔を出した。

 敷島:「じゃあ皆、俺は先に帰るから」
 井辺:「はい、お疲れさまでした」
 篠里:「お疲れさまでした」
 緒方:「お疲れさまです」
 一海:「お疲れさまでした」

 エレベーターホールに向かう敷島とシンディ。

 敷島:「事務室にいたのは篠里君と緒方君だったか。すると今、控え室にいるのはミクとルカだな」
 シンディ:「あと、MEGAbyteもです」
 敷島:「あ、なるほど」

 微かにリンの演歌の声が聞こえてくる。

 敷島:「リンの奴、まだやってるのか」
 シンディ:「最近、テレビ出演やグラビア撮影の仕事ばっかりで、歌の仕事が無いって言ってましたよ」
 敷島:「テレビでは歌ってないのか?」
 シンディ:「トーク番組が最近多いみたいですね。その番組のミニコーナーで歌うこともあるみたいですけど、最近は尺の都合で無いことが多いようです」
 敷島:「そうなのか。何とかしてあげたいな」

 エレベーターに乗り込む2人。

[同日17:31.天候:晴 豊洲駅前バス停→都営バス東16系統]

 敷島:「久しぶりにバスで帰るなぁ……」
 シンディ:「四季グループで路線バス通勤してる社長クラスは、あなたくらいらしいです」
 敷島:「そう?不動産屋のおっちゃんは?」
 シンディ:「ロマンスカー通勤です」
 敷島:「たかが厚木在住でロマンスカーかよ!……SKファシリティーズの爺さんは?」
 シンディ:「タクシー通勤に切り替えたみたいです。さすがに70歳過ぎた状態で、ご自分で運転するのは危険だということで」
 敷島:「多分、ファシリティーズよりも俺んとこの方が決算良かったと思うぞ?」
 シンディ:「ですから!社長の場合、ハイヤー通勤してもいいんですって!」
 敷島:「贅沢したくて社長になったわけじゃないんだよ。ミク達がかわいそうだったからさ……」
 シンディ:「そういう問題じゃありません」

 と、そこへ都営バスがやってくる。

〔「東16系統、直通の車庫行きです。都橋は通りませんので、ご注意ください」〕

 敷島とシンディはバスに乗り込んだ。
 ここでは降りの方が多い。
 ビックサイトまで行くバスならもう少し混んでいただろうが、その途中止まりだとそんなに混んでいない。
 敷島は1人席に腰掛けると、シンディはその横に立った。

〔発車致します。お掴まりください〕

 バスが走り出す。
 都営バスで三菱ふそうのエアロスターといえば、AT車である。
 MT車ならシフトレバーのある場所にそれは無く、代わりにドライブやパーキングなどのシフトボタンがあるだけである。

〔毎度、都営バスをご利用頂きまして、ありがとうございます。この都営バスは、深川車庫前行きです。次は深川五中前、深川五中前。……〕

 シンディ:「ん?」

 バスを追い越して行く1台のタクシー。
 そのリアシートからロイドの反応があった。
 識別信号的に、メイドロイドのようだった。
 今やメイドロイドは量産型が出回っているが、どの個体もマルチタイプには頭が上がらないようである。

 シンディ:「社長、デイジーはどうなりますか?」
 敷島:「デイジーなぁ……。肝心要の最高顧問がもうこの世にいないんじゃ、引き取り手がいないんだよなぁ……」
 シンディ:「何だかかわいそうです。造られてすぐ倉庫入りだなんて」
 敷島:「爺さん好みの仕様にしちゃったからなぁ。マルチタイプなのに中身はメイドロイドっていう中途半端仕様じゃ、引き取り手も無いだろうしなぁ……」

 かといって明確な買い手が無いまま、通常仕様に戻すのも気が引ける。
 当然それだってタダじゃないからだ。

 敷島:「四季グループで欲しそうな役員さん、他にいないんだよなぁ……」
 シンディ:「そんなに私達って、信用無いですか?」
 敷島:「いや、秘書ロイドとして欲しそうにしていた人はいたんだけど……」
 シンディ:「ん?」
 敷島:「この前、エミリーと一緒に本社ビルに突撃したことでドン退きされたw」
 シンディ:「社長と姉さんって、何気に自分で自分の首締めることがありますよね?」
コメント (3)
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“Gynoid Multitype Sisters” 「敷島の仕事」

2017-04-18 10:52:00 | アンドロイドマスターシリーズ
[4月18日10:00.天候:晴 東京都豊島区池袋 フォーシーズンズ・ビルヂング]

 四季エンタープライズの本社ビルに、敷島孝夫が訪れている。
 役員室エリアの廊下を一緒に歩くのは、敷島の叔父で四季エンタープライズ社長の敷島俊介である。
 伯父の峰雄はホールディングスの会長。

 俊介:「いやー、ビックリしたよ。まさか、お前んとこの秘書に乗って登場するなんてねぇ……」
 孝夫:「まさか、自分が本社の入社式に呼ばれていたとは思いもよらなかったので……」

 敷島孝夫とエミリーが突っ込んだ大会議室の大きな窓ガラスは、修理が完了していた。

 俊介:「しばらくはお前の本社役員報酬、ナシだな」
 孝夫:「サーセン……」
 俊介:「いくらここの社名がエンタープライズだからって、本当にエンターテイメントすることは無いだろう」
 孝夫:「いや、すいません、ほんと。遅刻1分前だったもんで」
 俊介:「そういう時は、車が事故ったということにでもしておけばいいんだ。全く。何を慌ててるんだか……」

 常務執行役員、代表取締役に説教を食らうの図。
 尚、孝夫は執行役員に任命はされたが、会社法における取締役ではないので、株主総会での承認は必要は無い。
 それが為、会社法における取締役よりもずっと権限が低く抑えられていることもあり、それで敷島が『余計な仕事が増えるだけ』と嫌がったのである。
 もちろん、ちゃんと報酬はあるのだが。

 シンディ:「姉がとんでもないことをして、申し訳ありませんでした」

 今回、孝夫はシンディを連れている。
 エミリーが定期点検に入ったからである。

 シンディ:「姉は猪突猛進な所がございまして、妹としてお詫び申し上げます」
 孝夫:「エミリーは直球勝負だけども、シンディは変化球をよく投げるんですよ」
 俊介:「どっちでもいいから、今度本社に来る時はちゃんとした乗り物で来るように」
 孝夫:「はい……」

[同日11:00.天候:晴 地下鉄池袋駅有楽町線ホーム]

 敷島:「ゴールデンウィークの北海道ボカロフェスについて報告しに行っただけなのに、結局説教食らっちゃったか……」
 シンディ:「お説教だけで済んで良かったじゃないですか」
 敷島:「まあな」

〔まもなく3番線に、新木場行きが到着します。乗車位置で、お待ちください。ホームドアから手や顔を出したり、もたれかかったりするのはおやめください〕

 シンディ:「私だったら、機械室のダクトから侵入しますけどね」
 敷島:「スーツが汚れるから、それも却下だなぁ……。てか、そんな侵入ルートがあるのか。うちのビルも気をつけないとなぁ……」

 東京メトロ10000系電車が入線してくる。
 これは有楽町線や副都心線で運行されている東京メトロ所有の電車で、その路線では新型車両である。
 副都心線では8両編成もあるが、有楽町線では全て10両編成で運転される。
 HIDランプを光らせて、ホームに進入してきた。

〔池袋、池袋です。丸ノ内線、副都心線、西武池袋線、東武東上線、JR線はお乗り換えです。3番線の電車は、新木場行きです〕

 シンディ:「リンとレンの方は、テレビの収録が終わったそうです」
 敷島:「おっ、そうか。ミクも含めて、あの3人はテレビによく出るようになったな」

 敷島は空いている座席に座り、シンディはその脇に立った。

〔「ご乗車ありがとうございます。この電車は有楽町線、飯田橋、永田町、有楽町、新富町方面、新木場行きです。終点の新木場まで、各駅に停車致します。まもなく発車致します」〕

 短い発車メロディがホームに鳴り響く。
 各駅ごとにその曲は異なり、しかもそれぞれに曲名が付いているという。

〔「3番線、新木場行き、ドアが閉まります」〕

 JRの通勤電車のようなチャイムが3回鳴りながらドアが閉まる。
 閉まった後で発車までのブランクがあるのは、ホームドアが閉まってから車掌が発車合図を出すからだろう。
 加速力に優れた電車が池袋駅を出発する。

〔東京メトロ有楽町線をご利用頂きまして、ありがとうございます。この電車は飯田橋、有楽町方面、新木場行きです。次は東池袋、東池袋です〕

 シンディなどのロイドが搭載しているGPSは、地下空間では切れる恐れがあるので、そういう時は予めルートを送信しておく。
 幸い日本の鉄道は基本、ダイヤ通りに走行できるので、予め送信した予定ルートと電車のダイヤと照らし合わせておけば、だいたい位置情報が合っている。

 敷島:「シンディ。今、井辺君に送信できるか?」
 シンディ:「はい。電波は大丈夫です」
 敷島:「取りあえず、本社の承認は完全に取り付けたから、あとは何も心配無いと送信しておいて」
 シンディ:「かしこまりました」
 敷島:「俺は『もう1つの仕事』という別目的がある為、今回の北海道イベントは井辺君が主体ということになっているからな」
 シンディ:「はい」

[同日11:28.天候:晴 東京メトロ有楽町線・豊洲駅→豊洲駅前交差点]

〔この先、揺れることがあります。お立ちのお客様は、お近くの吊り革、手すりにお掴まりください〕

 豊洲は2面4線のホームだが、本線は外側線である。
 で、何故かそちらが副線のようになっており、ポイント通過で減速する。
 その為、多くの東京メトロの駅では、接近放送が鳴ったらすぐ電車がやってくるような状態なのに、豊洲駅にあっては放送が鳴った後で電車がやってくるまでの間、ブランクがある。

〔まもなく豊洲、豊洲です。足元と、ホームドアにご注意ください。出口は、右側です〕

 敷島:「午後から来客があるんだっけ?」
 シンディ:「都議会議員の勝又先生ですよ」
 敷島:「おっ、そうか。勝っちゃんが来るんだっけ」

 若手議員の勝又と敷島は同級生。

〔豊洲、豊洲です。ゆりかもめはお乗り換えです。1番線の電車は、新木場行きです〕

 敷島達は電車を降りた。
 目の前の階段を登る。
 今では普通の人間と遜色無く登り下りできるシンディだが、ロイドなどの2足歩行ロボットが苦労するのは階段の登り降りである。

 敷島:「昼、何食おうかな……」
 シンディ:「私、何か作りましょうか?」
 敷島:「今さらなんだけど、叔父さん達はお昼に何食べてるんだろう?」
 シンディ:「出前でもお取りになってるんでしょうか」
 敷島:「出前ねぇ……。まあ、いいや。今日は吉牛の持ち帰りにしよう。駅前にあるだろ?」
 シンディ:「そうですね」

 2人は地上に出た。

 シンディ:「私が買って来ますから、社長は待っててください」
 敷島:「おっ、分かった。『アタマの大盛り』と味噌汁でよろしく」
 シンディ:「かしこまりました」

 シンディが店の中に入ると、敷島はスマホを取り出した。

 敷島:「勝っちゃん、お疲れ!午後から俺んとこ来るんだったよね?また『クールトウキョウ』の話?」
 勝又:「その通り。日本の首都として、政府のクールジャパンに先駆けて、東京でも何かやろうってこと。そこへボーカロイドは良いコンテンツだと思うんだ」
 敷島:「うちのボカロにミュージカルでもやらせる気か?」
 勝又:「あっ、それ近い。『悪ノ娘と召使』が大好評だったものだから、あれをもう少しアレンジしようと思ったんだ」
 敷島:「何か考えたの?」
 勝又:「さすがに従来通りのシナリオでは飽きが来てしまう。そこで、主人公の初音ミクを魔女っ娘に……」

 ピッ!と問答無用で電話を切る敷島。

 敷島:「さて、『北海道ボカロフェス』に向けて準備をしないとな……」

 しばらくしてシンディが戻って来た。

 シンディ:「お待たせしました」
 敷島:「ありがとう。じゃ、帰るとするか」
 シンディ:「どこかへお電話されていたようですが?」
 敷島:「気のせいだ」
 シンディ:「は?いや、でもさっき……」
 敷島:「気のせいだ」
 シンディ:「は?はあ……。(私のカメラに映っていたんだけど……)」

 ロイドの目はカメラと同じ。
 人間の記憶は記録媒体化できないが、ロイドにはちゃんとメモリーチップがある。
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