旧四月三日。一昨日、二十四節気の【小満(しょうまん)】を迎え、いよいよ初夏の装いが濃くなって参りました。
万物盈満すれば草木枝葉繁る
『暦便覧』(天明八年/1788年出版)
盈満(えいまん)は「物事が満ちあふれること。また、そのさま。」という意味です。冬の間眠っていた自然のいろいろなことがしだいに長じてくる。本格的な夏に向けてまだ伸びしろがある様子ということで、小さく満のでしょう。こういう季節を感じる情緒ある言葉を、現代的なライフスタイルにおいてわかりにくいなどとするのは、やはりおかしいのでは、と思ってしまいます。前回のエントリー『「二十四節気」見直しに異議あり』に重複しますが、むしろ忘れてはならない言葉として覚えておきたいものです。
ちなみに「盈満の咎め」という後漢書にでてくる古い中国の言葉があります。物事が満ち足りると却って災いを招きやすいということですが、まさに今の世に投影される言葉ではないでしょうか。
さて、暦の言葉通り淡い新緑はいつのまにか青々と繁り徐々に強くなる陽射しを遮って心地良い木陰を作ってくれるようになりました。紫陽花にはしっかり蕾がついています。花が遅くて心配された梅の実も確実に膨らんでいます。
写真は月島の密かな名物になってきている、壁一面にバラが繁り淡いピンクの花を一斉に咲かせる家です。毎年この小満の頃と共に花を咲かせるのですが、今年も見頃を迎えています。咲き揃うのはほんの数日間ですが、これはお見事です。
小満の日の朝。金環日食に沸きました。雲が薄くかかりいいフィルターによく観ることができました。人生でおそらく最初で最後の体験になると思うと、やはり感動的です。もっと夜のように暗くなるのかと思っていましたが、陽光がどんどん弱まるのは急に曇るときとはまったく違って興味深い風景でした。それに伴って浜離宮や東京湾の鳥が騒々しく飛び回っていたのは面白い現象です。いきなり体内時計を狂わされたようです。
日食では太陽が欠けてゆくというより、いつもは観ることができない新月の月を眺めることができる、という歓びを感じてしまいます。しかも今回は月の全形を観ることができるわけですから、私の中ではあれは『黒い満月』なのです。