"暮らしのリズム"的できごと

先人が培った暮らしの知恵を通じて今を楽しむ【暮らしのリズム】のブログ。旧暦、落語、音楽、工芸品、食、民俗芸能などをご紹介

民俗芸能は心を洗う~岩手より

2005年10月07日 15時46分54秒 | 芸能の催しごと

旧九月五日。秋雨前線が日本列島に沿うように停滞し、はっきりしない天気が続いています。明日10月8日は二十四節気の“寒露”。野草には露が宿り、ますます秋が深まってくる季節ですね。

geinouAみちのくは岩手を訪れた9/27~10/2。好天に恵まれ順調に稲刈りを終えた翌日の10月1日(土)、計ったように空はどんよりと曇り雨模様となりました。この日、県内の民俗芸能団体が集まる舞台公演が北上市のさくらホールでありました。こういった公演はめったに行われるものではなく、今回も「スポーツレクリエーション祭」が北上で開催されるのを記念して特別に行われたというものです。これはツイている、ということで期待で胸を膨らませて観にいってきました。


(公演チラシの表と裏。デザイン、レイアウト、構成、これでいいのか・・・ム・ム・ム)


geinouB岩手県には現存しているだけで1000以上の民俗芸能団体があって、その数と種類の豊富さは他県を圧倒している、と言われています。特にその多くは、旧南部藩と旧伊達藩の藩境にあたる北上市周辺に集中しているそうです。確かに彼の地へ通うようになって老若男女に関わらず、民俗芸能が日常のとても近いところにあるのだなぁ、といつも感じさせられてきました。

舞台では岩手の四季をテーマに、お正月に始まり季節は移ろいまた冬がやってくる、という流れに沿った演出がされています。
新春は【早池峰岳神楽】の「権現舞」。神や仏を人の目に見ることができるように獅子頭に乗り移させ、安泰を祈祷する厳かな舞で舞台の幕が開きます。
続いては、私が最も好きな【二子鬼剣舞】が登場。鬼剣舞は修験者の悪霊払いがルーツとされる勇壮で華麗な舞。人気の高い民俗芸能です。リズム感、躍動感共に完璧。見事でした。
【早池峰獅子踊】は旧南部領内に伝承される幕踊系鹿踊の代表的な団体です。初めて観ましたがこれもいいですね。舞はもちろん、囃子方の円熟した技術が素晴らしかったです。
【黒沢尻歌舞伎】の「花魁道中」は30cm以上はあろうかという高下駄を外八文字という独特の形で引きずりながら歩く花魁の所作がユニークでした。桜の季節の演出です。
太鼓系鹿踊では【金津流石関鹿踊】と【梁川金津流鹿踊】が登場。夏祭りの準備に向けてでしょうか、普段めったに見ることができない装束をはずしての稽古の模様を舞台で再現。踊り手自ら太鼓を打ち、唄い、踊る、高度な芸能であることをあらためて認識することができました。
舞台は夏。日本一速いテンポの盆踊り、さんさ踊りは【三本柳さんさ踊】です。大地を踏みしめて沈み込んでから浮き上がるというかなりハードな踊りですね。
休憩を挟んで後半は、鬼剣舞の元祖【岩崎鬼剣舞】による仏教的な祈祷生の高い「一人加護」と「八人加護」でスタート。
続いて【早池峰岳神楽】。早池峰神楽の最初に必ず演じられる式六番の中の一つ「鶏舞」。この舞によって国土、神々、山川草木など天地万象が生ずる場所が示されるのだそうです。一見すると地味な舞ではあるけれども、神秘的で美しい。
沿岸の【陸中弁天虎舞】が登場。これも今回初めて観ることができました。海難をもたらす風を鎮め、漁の安全、大漁を祈願した舞だそうです。農村や山岳地方とはずいぶん印象が違って荒々しく激しい舞です。
ふたたび【二子鬼剣舞】が登場し、三つの曲芸的演目を一つにした「曲芸」と「三人加護」。二子鬼剣舞の最も魅力的な演目がこの「三人加護」です。二人による扇の舞に始まり、御幣の舞が加わり、最後は三人で素手の舞となる実にドラマティックな展開が感動を呼びます。
ステージのフィナーレは【岩崎鬼剣舞】【二子鬼剣舞】合わせて16人による「一番庭」の群舞。同じ演目でも伝承される団体が違うとずいぶん違って見えるものだなぁ。3時間に及ぶ内容の濃い公演でした。

岩手の民俗芸能を地道に研究され、その魅力を広く伝えるためにタウン誌「ダ・ダ・スコ」と「街きたかみ」を発行し、毎年8月に行われる「みちのく芸能祭り」をプロデュースしてこられた加藤俊夫さんが、今年三月に肝臓癌の悪化で急逝されたとのこと、今回現地で初めて知りました。その後残念ながらタウン誌はいずれも廃刊になってしまったそうです。一度お話しを伺ってみたいな、と思っていただけに残念でした。そして、今回の舞台公演は加藤さんが企画し構成・台本・演出を手掛けたそうです。素晴らしい公演に巡り合わせてくれて、感謝しています。ご冥福をお祈りいたします。

人間は、おのれの力の及ばないことに対して、科学の発達しない時代においては、ただひたすら自然界や神仏に対して祈りを捧げて解決を願った。その祈りの手段として演じられたのが民俗芸能である。(加藤俊夫『岩手県の民俗芸能解説』より)

岩手県の民俗芸能のラフガイドは岩手県のHomepageがお薦めです。