とのさま不経済新聞 by 雲葉

「よるのとのさま」から改題(2013年2月1日)

「みのかん」

2019年01月29日 | 酔いどれとのさま
  昨年春のこと、いつものようにふらっと「みのかん」へ行ったらのような貼り紙があって休業していました。

  
  

  どうしたのか気を揉みつつ、6月になってツイッターで検索したらご主人が亡くなられたとの知らせがありました。そしてあまり間を置かず、一緒に店を切り盛りしていた妹さん(恥ずかしながらご夫婦と思ってました)も亡くなられ、店はそのまま再び開くことなく廃業となってしまいました。

  初入店から四半世紀余り、近年は夜勤ということもあって平日昼間に単独で伺うことがほとんどで、昼から何にも煩わされずにボーっと飲んでいられる貴重な空間でした。

  月1程度しか行かないながらもいつしか顔を覚えられ、座るや否や「ビールでいいの?」飲み終えるころになると「ハイボール?」

  嫁はんに話すと「平日の真昼間に(店の客層にしては)若いのが普段着で行ってたら印象に残りやすいんでしょ」とのことだった。

   「みのかん」店内

  想い出は数えきれないのですがふたつだけ書くこととします。

  もう何年も前、土曜日の日中と記憶してますが、旧知と飲んでいた時のこと。スーツ姿の、見るからに酩酊している感じの男性グループが千鳥足で入ってきたと見るや、ご主人は彼らを「うちは酔っ払いお断りだよ」と言って叩き出し、暖簾をしまって入り口に鍵を掛けてしまいました。

  店内にお客は少なめとはいえ、旧知ともその光景に目を丸くしました。酔って粗相(場合によっては狼藉)を働く者やら、店もお客様第一の行き過ぎで際限なく飲ませる傾向が見られる中で、こうした行動はよほど信念がないとできないでしょう。この一件で酒に失礼な飲み方は決してすまいと心に決めたのでした。

  聞きかじった話では、この店では酒は3杯までという不文律があったそうな。でもそれは店が定めているわけではなく、なにしろ酎ハイにはロンググラスに25度の焼酎が8割くらい(量にして1合弱)注がれるのだ。それを3杯飲んだらよほど強い人でなければかなり酔うだろう。そのためご主人が酔い具合からストップをかけるのを目にしてそう思ったのかもしれない。実際に焼酎のお代わりを頼むご老体に「もうやめときな」とたしなめることもありました。

   ある日のメニュー

  話は変わって2016年夏でしたか、それまで日祝定休だったところに土曜と水曜が追加されました。

  その直前のある平日に行き、横に座ってたご常連さんとご主人の会話から、どうもたちの悪い客が増えたような感じでした。テレビの影響か酒場巡りがブームのようになり、横浜に3軒だけ残った“市民酒場”でも土曜営業はここだけ。となれば話を聞きつけこぞってやってくるようになったのでしょう。

  給仕はご主人ひとりだし、高齢に加えて腰を悪くなさってるため動きも鈍くなり、時間がかかるようになれば遅いのなんのと悪態をつく輩が現れたのか。話しぶりからの想像なのでこれ以上は何とも言えません。ただ、後に別のある店でも定年で暇を持て余したようなオッサンが、店のシステムが気に入らないようで「(テレビ番組名)を見て来たのにガッカリだ」なんてぼやいてたけど、それならもっと高級店に行くか家で飲んでろと思う。店がどういうシステムを行なおうと自由だし、それに納得して利用するんじゃないのかね? 加えてアンタに他人の酒をまずくする資格なんてないよ

  そんなことやらあって赤提灯の新規開拓は無期限休止しようと思ったわけです。とはいえ足を運んだことがあるお店だけでもすでに一生分あるのでいいかなと。

  水曜はご主人の定期通院で臨時休業することが多かったため定期化したのでしょう。

  主を失ったお店はやがて解体され(冒頭写真)また記憶の中だけのお店が増えました。でも残念とはいえ、こういう終わり方でよかったのかなとも思います。野毛の某有名店が廃業するときはちょっとした騒ぎになったようですし、ここも二の舞になりかねませんから。

  長い間本当にありがとうございました。