瀬戸際の暇人

今年も偶に更新します(汗)

異界百物語 ―第88話―

2009年08月25日 20時20分03秒 | 百物語
やあ、いらっしゃい。
今夜は昨夜約束した通り、バスに纏わる怪談をしよう。
バス通学をしている人には、存分に肝を冷やして貰いたい。




兵庫県淡路西浦街道での話だそうだ。

この地には厄年に厄神さんに参り、祝宴を張る風習が有ると言う。
或る年Hさんと言う男性が61歳になった折、淡路より島外の厄神さんに参拝した。

その帰り、親類宅で祝宴の相談をして1泊、翌日淡路に帰り、そこの親類宅に立ち寄った後、日暮れ時に帰途に着いた。

ところが一向に家に戻って来ない。

心配になった家族が捜しに行こうと話していた矢先、富島川の橋のたもとで死んでいるという知らせが入った。
轢逃げ事件と判ったが、結局犯人は捕まらなかったらしい。

事件から半年が経過した頃、男性が死んでいた側を通る最終便のバスの1番後ろの座席に、Hさんと思しき男が俯いて乗るようになった。
その為運転手は怯え、乗客も後ろの座席には絶対に乗らなくなったと言う。

男はバス停を2つ3つ過ぎた辺りで居なくなると言い、淡路ではミステリーとしてマスコミも取上げたそうだ。




怪談を聞く度に思うのは、死者は永遠であるなあという事だ。
命は不滅でなくとも、不幸にして亡くなった者の魂は、怪談の中で生き続ける。
恐れられるだけなら、長く語り継がれはしないだろう。


…今夜の話は、これでお終い。
さあ…蝋燭を1本吹消して貰えるかな。

……有難う。

それでは気を付けて帰ってくれ給え。

――いいかい?

夜道の途中、背後は絶対に振返らないように。
夜中に鏡を覗かないように。
風呂に入ってる時に、足下を見ないように。
そして、夜に貴殿の名を呼ぶ声が聞えても、決して応えないように…。

御機嫌よう。
また次の晩に、お待ちしているからね…。




『現代民話考3巻―偽汽車・船・自動車の笑いと怪談―(松谷みよ子、編著 ちくま文庫、刊)』より。

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