瀬戸際の暇人

今年も偶に更新します(汗)

異界百物語 ―第89話―

2009年08月26日 20時33分56秒 | 百物語
やあ、いらっしゃい。
夏休みも残る所後数日、名残を惜しもうと今から観光に出掛ける人も多いだろうね。
私も明日は那須に日帰りで出掛ける予定だ。
今夜はそんな瀬戸際レジャー組に贈る、レンタカーに纏わる怪談だ。




或る出版社の女性編集者が、友達と4人でレンタカーを借り、ドライブをする計画を立てた。

それで或るレンタカー会社に借りに行き、車を選んだ訳だが、それは助手席のドアがどうしても開かないという「ハズレ」だった。
不便を感じたものの、借りた後に気付いたのでは遅い。
助手席側からの乗り降りは諦める事にし、気を取り直して目的地を目指した。

「ハズレ」の車でも、ドライブ中特に故障する事も無く、4人は無事にレンタカー会社へ戻ってこれた。
ところが、その車を返す時になって、後部座席に乗っていた男性が、こう話した。

「最初に言うと皆が気にすると思って言わなかったけど、この車が走っている間、ずっと助手席側の窓の外に、髪の長い女性が張り付いて居て、じっと自分達を見ていたんだ……」

それを聞いた他の3人は、何故もっと早く言わなかったのかと非難したが、彼としては下手な事を言って事故でも起きてはいけないと考えたらしい。
しかし彼の言い分を聞いた3人は、そんな変なものが憑いている車に乗っていただけで、充分に事故を起こす可能性が有ったではないかと、尚も非難した。

車を返却後、4人は店員に「この車、ひょっとして事故車じゃないですか?」と尋ねてみた。
すると驚いた事に店員はあっさりと認め、レンタル料金を大幅にまけてくれた。

これに勇を得た4人は、思い切って「この車に、何か変なものが憑いていませんか?」と尋ねてみた。
すると店員は「車じゃないんです。うちのガレージに憑いていて、従業員も時々見るんですよ」と言ったそうだ。




タクシーも恐いが、レンタカーも恐い。
今迄その車をどんな人間が借りたか、見ただけじゃ判断がつかないからねえ。
これから車を借りる予定が有る人は、充分に吟味して選ぶ事だ。
もっともこの話のように、ガレージ自体が憑かれていては、どの車を選んでも変らないだろうがね……。


…今夜の話は、これでお終い。
さあ…蝋燭を1本吹消して貰えるかな。

……有難う。

それでは気を付けて帰ってくれ給え。

――いいかい?

夜道の途中、背後は絶対に振返らないように。
夜中に鏡を覗かないように。
風呂に入ってる時に、足下を見ないように。
そして、夜に貴殿の名を呼ぶ声が聞えても、決して応えないように…。

御機嫌よう。
また次の晩に、お待ちしているからね…。




『ワールドミステリーツアー13(第12巻)―ワールド編― 第13章 (編集部、著 同朋舎、刊)』より。

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