はぁい♪ミス・メリーよ♪
日本では12/25過ぎたら、クリスマスツリーは片付けられて、正月の門松に早変わり。
でもドイツ等では過ぎてもお役御免にならないの。
ロシアでは年が明けてからがクリスマスの本番よ。
日本でも、例えばハウステンボスでは、春まで大きなツリーが飾られてるというわ。
流石は中世のヨーロッパの町を忠実に再現した所ね!
クリスマスツリーを今年中に観られなかった人は、ハウステンボスへ出かける事をお勧めするわ♪
今日紹介するのは正にそのツリー(木)が主役のお話なの。
アンデルセン童話の中の一編、「もみの木」――
町の外の森に、1本の、まだ若くて背の低いモミの木が在ったの。
そのモミの木は、日当りも風通しも充分な良い所に立ってたけど、いつも不満を感じてた。
周りには仲間の木が植わってて、動物達が遊びに来てくれたけど、そんな環境当り前だと思ってたのね。
次の年は新芽を1つ伸ばし、その次の年にはまた大きくなり、次第にモミの木は歳を取って行った。
それでも若くて小さなモミの木は溜息を吐いて言ったわ。
「私も他の木の様に大きかったら、さぞ良いだろうなあ。そうすれば枝をうんと伸ばして、高い梢の上から広い世の中を見渡すんだけど。そうなれば、鳥は私の枝に巣をかけるだろうし、風が吹けば他の木の様に、こっくりこっくりしてみせてやるのだがなあ。」
森の中で暮す毎日は、変り映えのしない退屈なもの。
でも冬になり春になり夏になり秋になり、また冬が訪れる頃、モミの木の背は大分高くなった。
以前は野兎に頭の上をピョンピョン飛越えられたけど、背が高くなった後は周りを跳ね回っているだけ。
モミの木はそれを大層喜んだわ。
「ああ嬉しい。段々育って行って、今に大きな歳を取った木になるんだ。世の中にこんなに素晴しい事は無い。」
毎年秋になると、いつも木こりがやって来て、1番大きい木を2、3本伐り出してたの。
見あげるほど高い木が、大きな音を立てて地面の上に倒され、枝を切り落され、太い幹の皮を剥がれ、丸裸の細い何だか解らない物にされる様子を、若いモミの木は恐ろしがって見てたわ。
けれども、それが荷車に積まれて森を出て行くのを見て、モミの木はこう独り言を呟き不思議がったの。
「皆、何処へ行くんだろう?一体どうなるんだろう?」
好奇心が擽られたモミの木は、春になるとコウノトリに尋ねたの。
「エジプトから飛んで来る途中、新しい船に沢山私は出合ったのだが、どの船にも立派な帆柱が立っていた。私はきっと、この帆柱が、おまえさんの言うモミの木だと思うのだよ。だって、それからはモミの木の匂いがしていたもの。」
「まあ、私も遠い海を超えて行けるくらいな大きい木だったら、さぞ良いだろうなあ。けれどコウノトリさん、一体海ってどんなもの?それはどんな風に見えるでしょう?」
「そうさな、ちょっと一口には、とても言えないよ。」
そう言いコウノトリが飛んでった後、空の上のお日様の光が、優しくモミの木を諭したの。
「若い間が何よりも良いのだよ。ずんずん伸びて、育って行く若い時ほど、楽しい事は無いのだよ。」
けれどもモミの木には、それかどういう訳か解らなかった。
クリスマスが近付くと若い木が何本も伐り倒された。
それを見て、モミの木は自分も、早くよその世界へ出られる事を願ったわ。
「皆、何処へ行くんだろう?中には私よりずっと小さいのも在る。それに何で彼らは枝を伐り落されないんだろう?一体何処へ連れて行かれるんだろう?」
傍で聞いてた雀達は、モミの木に囀って教えたの。
「僕達、窓から覗いて知ってるよ。皆そりゃあ素晴しく立派になるんだよ。暖かいお部屋の真ん中に、小さなモミの木は立ってたよ。金色の林檎だの、蜜のお菓子だの、玩具だの、何百とも知れない蝋燭だので、それはそれは綺麗に飾られていたっけ。」
「ああ、どうかして、そんな華々しい運が巡って来ないかなあ。帆をかけて遠い海を超えて行くよりも、ずっと良さそうだ。早くクリスマスが来れば良いなあ。私はもう、去年連れて行かれた木と同じ位に背が高く育ったのに――暖かい部屋の中で綺麗に飾られた後はどうなるのだろう?多分それからも、もっと良い、面白い事にぶつかるんだ!」
枝を揺すぶって羨ましがるモミの木に、またもや風とお日様の光とが、優しく声をかけたの。
「私達の中に居る方が気楽だよ。この広々とした中で、元気の良い若い時を充分に楽しむのが良いのだよ。」
けれどもモミの木は、そんな事を聞いても、ちっとも嬉しくなかった。
冬が去り夏も過ぎてモミの木はずんずん育ち、とても立派な美しい木になった。
そうしてその年のクリスマスが近付くと、モミの木はとうとう真っ先に伐られてしまった。
斧で伐られた瞬間、痛みに気絶してしまい、やっと正気付いて見ると、他の木と一緒に藁に包まれて、何処かの家の庭の中に置かれてた。
それから、祝い着を纏った2人の男に立派に飾られ、大きな部屋に飾られたの。
部屋の壁には色々な額がかかってて、タイル貼りの大きな暖炉の側には、獅子の蓋の付いた青磁の瓶が置いてあった。
他には揺り椅子だの絹張りのソファだの、絵本や玩具が載ってる大きなテーブルが有った。
モミの木は砂がいっぱい入ってる大きな美しい桶の中に入れられたの。
すると召使達の後から女の子達が出て来て、モミの木に色紙で作った網を飾り始めたの。
網の中にはキャラメル等の、お菓子が入れられてた。
更に金紙を被せた林檎や胡桃が、本当に生っているように吊るされた。
青や赤や白の蝋燭を百本あまり、どの枝にもしっかりと挿した後、天辺にはピカピカ光る金紙の星が付けられた。
色んな物で飾り立てられたモミの木は、見違える様に立派になったの。
「さあ、これで今晩、明りが点きます。」
家の人が言うのを聞き、モミの木は心がワクワクと踊ったわ。
「早く晩になって明りが点かないかな。それからどんな事が起るのだろう?森から色々な木が会いに来る?それとも雀達が窓硝子の所へ飛んで来る?もしかしたら、このままここで根が生えて、冬も夏もこうやって飾られたまま、立っているのかもしれない。」
晩になるとモミの木に明りが灯されたの。
何百の光で自分が美しく輝く様を、モミの木は嬉しがって枝を震わせ喜んだ。
その為蝋燭が青い葉に燃え移り、かなり焦げてしまったわ。
家の人達は慌てて火を消してくれたけど、モミの木は恐いから、もう枝を震わすのを止め、じっと立ってたの。
やがて部屋の扉が開いて、大勢の子供達が飛び込んで来た、大人達も後から静かにやって来た。
子供達ははしゃいで木の周りを踊り回り、枝にぶら下がったクリスマスの贈り物を、1つ1つ浚って行った。
蝋燭も短くなり消されてしまうと、子供達はもうモミの木を振り返らず、お婆さんが語るお話に耳を澄ましたの。
聞き耳を立てるモミの木は、少し寂しく思ったわ。
「私には相談してくれないのかしら?私は、このお仲間ではないのかしら?」
お仲間には違いないけど、モミの木のお役目は済んでいたのね。
それでもモミの木は、明日もまた明りを点けて貰って、玩具だの金の果物だので飾られると信じてた。
翌朝召使達がやって来て、モミの木を部屋の外へ引き摺って行き、屋根裏の物置の薄暗い隅へ放り上げたの。
お日様の光が射さない所で、モミの木はそれでもこう考えたわ。
「今は外は冬なのだ。地面は凍って雪が被さっている。だからあの人達は私を植える事が出来ない。それで私は春が来るまで、ここで囲われているのだ――ただ、ここがこんなに薄暗い寂しい所でなければなぁ。」
するとそこへ子鼠が鳴きながら這い出して来て、モミの木に何処からやって来たのか尋ねたの。
モミの木は自分が若い頃育った森の事を話したわ。
「まあ随分色々な物を沢山見たんですねえ。随分幸せだったんですねえ。」
「私がかい?――成る程そういえば幸せだった、あの時分の私が1番幸せだったなぁ。」
それからモミの木は美味しいお菓子や蝋燭の明りで飾られた、クリスマスの晩の話を聞かせたわ。
子鼠達は最初モミの木の話を面白がったけど、その内飽きて仲間の所へ帰ってしまい、モミの木はまた独りきりになってしまった。
幾日も経ってから、モミの木は漸く外に出されたの。
眩しい日の光を浴びたモミの木は、「これでまた楽しい珍しい毎日が始まる」と、期待を膨らませたわ。
物置での日陰暮しが長かった為に、枝の先は乾涸びて黄色くなってしまってた。
金紙の星はまだ天辺に付いていて、キラキラ輝いていたのを見つけた小さな子供が、それを乱暴にもぎ取ってしまった。
「御覧よ。汚い古いモミの木にくっ付いていたんだよ!」
その子はそう叫ぶと、枝を踏ん付け、ぽきぽき音を立てたの。
モミの木はみすぼらしい自分の姿を見回し、これならいっそ物置の暗い片隅に放り出されてた方が良かったと嘆いたわ。
彼は森の中の若い自分の姿や、楽しかったクリスマスの前の晩の事を思い出し、溜息を吐いたの。
「楽しめる時に、楽しんでおけば良かった。」
やがて下男が来てモミの木を小さく折り、一束の薪にしてしまった。
それから大きな湯沸し釜の下へ突っ込まれたモミの木は、かっかと赤く燃えたの。
モミの木は深い溜息の代りにパチパチ言いながら、森の中の、夏の真昼の事や、星が輝いている冬の夜半の事を思っていたわ。
それにクリスマスの前の晩の事や、お婆さんの話の事を考えている内――木は燃えきってしまったの。
残ったのは小さな子供が胸に付けてる金紙の星だけ、それはモミの木が1番輝いてた頃の物だった。
…何だかとっても切なくなる物語ね。
昔話には某かの教訓が含まれているというけど、貴方はこれから何を読み取ったかしら?
メーテルリンクの「青い鳥」のように、幸福はすぐ傍に有る内は気付かないものとか、若いのは良い事だとか、時間を無駄にせず生きるべきとか、己の境遇に満足する心が大事だとか、色々思い付けるでしょうね。
クリスマスは毎年やって来るけれど、1人が生涯の内で楽しめるクリスマスは、数が限られてるもの。
メリーも今有るクリスマスの時間を、目いっぱい楽しんでおこうと思うわ。
それじゃあ今夜のクリスマスソングを紹介――7曲目はお話のタイトルに因んで「もみの木」!
ドイツで古くから歌われてるクリスマスキャロルと言われ、イギリスでは「オークリスマスツリー」の名で親しまれてるの。
クリスマスの陰に潜む樹木信仰を歌ったものなのね。
今夜の話はこれでお終い、明日もまた一緒に楽しく歌いましょう♪
【もみの木 ― O Tannenbaum ―】
(日本語バージョン)
モミの木♪ モミの木♪
変らぬその葉♪
モミの木♪ モミの木♪
変らぬその葉♪
夏にも冬にも♪ 変らず繁るよ♪
モミの木♪ モミの木♪
変らぬその葉♪
(ドイツ語バージョン)
O Tannenbaum♪ o Tannenbaum♪
Wie treu sind deine Blätter♪
Du grünst nicht nur zur Sommerzeit♪
Nein, auch im Winter, wenn es schneit♪
O Tannenbaum♪ o Tannenbaum♪
Wie treu sind deine Blätter♪
(↓から、びょり記)
…様々な歌詞バージョンが存在するけど、自分の知ってる日本語バージョンのは見付からんかった。
んで折角だからドイツ語バージョンをご紹介。(すぐ終るが)
写真はモミの木じゃないけど、後楽園東京ドームシティのクリスマスツリー。
今年は震災を意識してか、去年より慎ましいものでした。
左の写真は後楽園、東京ドームシティ内ムーミンカフェ(→http://www.laqua.jp/tenpo/moomin_bakery_cafe)の、ニョロニョロパン2種類、焼き上がり時間と個数は限定だそうな。
右は東京ドームホテルのクリスマスツリーです。
参考:ハンス・クリスティアン・アンデルセン作「モミの木(楠山正雄、訳 電子図書館:青空文庫)」
日本では12/25過ぎたら、クリスマスツリーは片付けられて、正月の門松に早変わり。
でもドイツ等では過ぎてもお役御免にならないの。
ロシアでは年が明けてからがクリスマスの本番よ。
日本でも、例えばハウステンボスでは、春まで大きなツリーが飾られてるというわ。
流石は中世のヨーロッパの町を忠実に再現した所ね!
クリスマスツリーを今年中に観られなかった人は、ハウステンボスへ出かける事をお勧めするわ♪
今日紹介するのは正にそのツリー(木)が主役のお話なの。
アンデルセン童話の中の一編、「もみの木」――
町の外の森に、1本の、まだ若くて背の低いモミの木が在ったの。
そのモミの木は、日当りも風通しも充分な良い所に立ってたけど、いつも不満を感じてた。
周りには仲間の木が植わってて、動物達が遊びに来てくれたけど、そんな環境当り前だと思ってたのね。
次の年は新芽を1つ伸ばし、その次の年にはまた大きくなり、次第にモミの木は歳を取って行った。
それでも若くて小さなモミの木は溜息を吐いて言ったわ。
「私も他の木の様に大きかったら、さぞ良いだろうなあ。そうすれば枝をうんと伸ばして、高い梢の上から広い世の中を見渡すんだけど。そうなれば、鳥は私の枝に巣をかけるだろうし、風が吹けば他の木の様に、こっくりこっくりしてみせてやるのだがなあ。」
森の中で暮す毎日は、変り映えのしない退屈なもの。
でも冬になり春になり夏になり秋になり、また冬が訪れる頃、モミの木の背は大分高くなった。
以前は野兎に頭の上をピョンピョン飛越えられたけど、背が高くなった後は周りを跳ね回っているだけ。
モミの木はそれを大層喜んだわ。
「ああ嬉しい。段々育って行って、今に大きな歳を取った木になるんだ。世の中にこんなに素晴しい事は無い。」
毎年秋になると、いつも木こりがやって来て、1番大きい木を2、3本伐り出してたの。
見あげるほど高い木が、大きな音を立てて地面の上に倒され、枝を切り落され、太い幹の皮を剥がれ、丸裸の細い何だか解らない物にされる様子を、若いモミの木は恐ろしがって見てたわ。
けれども、それが荷車に積まれて森を出て行くのを見て、モミの木はこう独り言を呟き不思議がったの。
「皆、何処へ行くんだろう?一体どうなるんだろう?」
好奇心が擽られたモミの木は、春になるとコウノトリに尋ねたの。
「エジプトから飛んで来る途中、新しい船に沢山私は出合ったのだが、どの船にも立派な帆柱が立っていた。私はきっと、この帆柱が、おまえさんの言うモミの木だと思うのだよ。だって、それからはモミの木の匂いがしていたもの。」
「まあ、私も遠い海を超えて行けるくらいな大きい木だったら、さぞ良いだろうなあ。けれどコウノトリさん、一体海ってどんなもの?それはどんな風に見えるでしょう?」
「そうさな、ちょっと一口には、とても言えないよ。」
そう言いコウノトリが飛んでった後、空の上のお日様の光が、優しくモミの木を諭したの。
「若い間が何よりも良いのだよ。ずんずん伸びて、育って行く若い時ほど、楽しい事は無いのだよ。」
けれどもモミの木には、それかどういう訳か解らなかった。
クリスマスが近付くと若い木が何本も伐り倒された。
それを見て、モミの木は自分も、早くよその世界へ出られる事を願ったわ。
「皆、何処へ行くんだろう?中には私よりずっと小さいのも在る。それに何で彼らは枝を伐り落されないんだろう?一体何処へ連れて行かれるんだろう?」
傍で聞いてた雀達は、モミの木に囀って教えたの。
「僕達、窓から覗いて知ってるよ。皆そりゃあ素晴しく立派になるんだよ。暖かいお部屋の真ん中に、小さなモミの木は立ってたよ。金色の林檎だの、蜜のお菓子だの、玩具だの、何百とも知れない蝋燭だので、それはそれは綺麗に飾られていたっけ。」
「ああ、どうかして、そんな華々しい運が巡って来ないかなあ。帆をかけて遠い海を超えて行くよりも、ずっと良さそうだ。早くクリスマスが来れば良いなあ。私はもう、去年連れて行かれた木と同じ位に背が高く育ったのに――暖かい部屋の中で綺麗に飾られた後はどうなるのだろう?多分それからも、もっと良い、面白い事にぶつかるんだ!」
枝を揺すぶって羨ましがるモミの木に、またもや風とお日様の光とが、優しく声をかけたの。
「私達の中に居る方が気楽だよ。この広々とした中で、元気の良い若い時を充分に楽しむのが良いのだよ。」
けれどもモミの木は、そんな事を聞いても、ちっとも嬉しくなかった。
冬が去り夏も過ぎてモミの木はずんずん育ち、とても立派な美しい木になった。
そうしてその年のクリスマスが近付くと、モミの木はとうとう真っ先に伐られてしまった。
斧で伐られた瞬間、痛みに気絶してしまい、やっと正気付いて見ると、他の木と一緒に藁に包まれて、何処かの家の庭の中に置かれてた。
それから、祝い着を纏った2人の男に立派に飾られ、大きな部屋に飾られたの。
部屋の壁には色々な額がかかってて、タイル貼りの大きな暖炉の側には、獅子の蓋の付いた青磁の瓶が置いてあった。
他には揺り椅子だの絹張りのソファだの、絵本や玩具が載ってる大きなテーブルが有った。
モミの木は砂がいっぱい入ってる大きな美しい桶の中に入れられたの。
すると召使達の後から女の子達が出て来て、モミの木に色紙で作った網を飾り始めたの。
網の中にはキャラメル等の、お菓子が入れられてた。
更に金紙を被せた林檎や胡桃が、本当に生っているように吊るされた。
青や赤や白の蝋燭を百本あまり、どの枝にもしっかりと挿した後、天辺にはピカピカ光る金紙の星が付けられた。
色んな物で飾り立てられたモミの木は、見違える様に立派になったの。
「さあ、これで今晩、明りが点きます。」
家の人が言うのを聞き、モミの木は心がワクワクと踊ったわ。
「早く晩になって明りが点かないかな。それからどんな事が起るのだろう?森から色々な木が会いに来る?それとも雀達が窓硝子の所へ飛んで来る?もしかしたら、このままここで根が生えて、冬も夏もこうやって飾られたまま、立っているのかもしれない。」
晩になるとモミの木に明りが灯されたの。
何百の光で自分が美しく輝く様を、モミの木は嬉しがって枝を震わせ喜んだ。
その為蝋燭が青い葉に燃え移り、かなり焦げてしまったわ。
家の人達は慌てて火を消してくれたけど、モミの木は恐いから、もう枝を震わすのを止め、じっと立ってたの。
やがて部屋の扉が開いて、大勢の子供達が飛び込んで来た、大人達も後から静かにやって来た。
子供達ははしゃいで木の周りを踊り回り、枝にぶら下がったクリスマスの贈り物を、1つ1つ浚って行った。
蝋燭も短くなり消されてしまうと、子供達はもうモミの木を振り返らず、お婆さんが語るお話に耳を澄ましたの。
聞き耳を立てるモミの木は、少し寂しく思ったわ。
「私には相談してくれないのかしら?私は、このお仲間ではないのかしら?」
お仲間には違いないけど、モミの木のお役目は済んでいたのね。
それでもモミの木は、明日もまた明りを点けて貰って、玩具だの金の果物だので飾られると信じてた。
翌朝召使達がやって来て、モミの木を部屋の外へ引き摺って行き、屋根裏の物置の薄暗い隅へ放り上げたの。
お日様の光が射さない所で、モミの木はそれでもこう考えたわ。
「今は外は冬なのだ。地面は凍って雪が被さっている。だからあの人達は私を植える事が出来ない。それで私は春が来るまで、ここで囲われているのだ――ただ、ここがこんなに薄暗い寂しい所でなければなぁ。」
するとそこへ子鼠が鳴きながら這い出して来て、モミの木に何処からやって来たのか尋ねたの。
モミの木は自分が若い頃育った森の事を話したわ。
「まあ随分色々な物を沢山見たんですねえ。随分幸せだったんですねえ。」
「私がかい?――成る程そういえば幸せだった、あの時分の私が1番幸せだったなぁ。」
それからモミの木は美味しいお菓子や蝋燭の明りで飾られた、クリスマスの晩の話を聞かせたわ。
子鼠達は最初モミの木の話を面白がったけど、その内飽きて仲間の所へ帰ってしまい、モミの木はまた独りきりになってしまった。
幾日も経ってから、モミの木は漸く外に出されたの。
眩しい日の光を浴びたモミの木は、「これでまた楽しい珍しい毎日が始まる」と、期待を膨らませたわ。
物置での日陰暮しが長かった為に、枝の先は乾涸びて黄色くなってしまってた。
金紙の星はまだ天辺に付いていて、キラキラ輝いていたのを見つけた小さな子供が、それを乱暴にもぎ取ってしまった。
「御覧よ。汚い古いモミの木にくっ付いていたんだよ!」
その子はそう叫ぶと、枝を踏ん付け、ぽきぽき音を立てたの。
モミの木はみすぼらしい自分の姿を見回し、これならいっそ物置の暗い片隅に放り出されてた方が良かったと嘆いたわ。
彼は森の中の若い自分の姿や、楽しかったクリスマスの前の晩の事を思い出し、溜息を吐いたの。
「楽しめる時に、楽しんでおけば良かった。」
やがて下男が来てモミの木を小さく折り、一束の薪にしてしまった。
それから大きな湯沸し釜の下へ突っ込まれたモミの木は、かっかと赤く燃えたの。
モミの木は深い溜息の代りにパチパチ言いながら、森の中の、夏の真昼の事や、星が輝いている冬の夜半の事を思っていたわ。
それにクリスマスの前の晩の事や、お婆さんの話の事を考えている内――木は燃えきってしまったの。
残ったのは小さな子供が胸に付けてる金紙の星だけ、それはモミの木が1番輝いてた頃の物だった。
…何だかとっても切なくなる物語ね。
昔話には某かの教訓が含まれているというけど、貴方はこれから何を読み取ったかしら?
メーテルリンクの「青い鳥」のように、幸福はすぐ傍に有る内は気付かないものとか、若いのは良い事だとか、時間を無駄にせず生きるべきとか、己の境遇に満足する心が大事だとか、色々思い付けるでしょうね。
クリスマスは毎年やって来るけれど、1人が生涯の内で楽しめるクリスマスは、数が限られてるもの。
メリーも今有るクリスマスの時間を、目いっぱい楽しんでおこうと思うわ。
それじゃあ今夜のクリスマスソングを紹介――7曲目はお話のタイトルに因んで「もみの木」!
ドイツで古くから歌われてるクリスマスキャロルと言われ、イギリスでは「オークリスマスツリー」の名で親しまれてるの。
クリスマスの陰に潜む樹木信仰を歌ったものなのね。
今夜の話はこれでお終い、明日もまた一緒に楽しく歌いましょう♪
【もみの木 ― O Tannenbaum ―】
(日本語バージョン)
モミの木♪ モミの木♪
変らぬその葉♪
モミの木♪ モミの木♪
変らぬその葉♪
夏にも冬にも♪ 変らず繁るよ♪
モミの木♪ モミの木♪
変らぬその葉♪
(ドイツ語バージョン)
O Tannenbaum♪ o Tannenbaum♪
Wie treu sind deine Blätter♪
Du grünst nicht nur zur Sommerzeit♪
Nein, auch im Winter, wenn es schneit♪
O Tannenbaum♪ o Tannenbaum♪
Wie treu sind deine Blätter♪
(↓から、びょり記)
…様々な歌詞バージョンが存在するけど、自分の知ってる日本語バージョンのは見付からんかった。
んで折角だからドイツ語バージョンをご紹介。(すぐ終るが)
写真はモミの木じゃないけど、後楽園東京ドームシティのクリスマスツリー。
今年は震災を意識してか、去年より慎ましいものでした。
左の写真は後楽園、東京ドームシティ内ムーミンカフェ(→http://www.laqua.jp/tenpo/moomin_bakery_cafe)の、ニョロニョロパン2種類、焼き上がり時間と個数は限定だそうな。
右は東京ドームホテルのクリスマスツリーです。
参考:ハンス・クリスティアン・アンデルセン作「モミの木(楠山正雄、訳 電子図書館:青空文庫)」