千の天使がバスケットボールする

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ネマニャ・ラドゥロヴィチ presents 《悪魔のトリル》

2011-03-02 23:31:28 | Classic
ネマニャ・ラドゥロヴィチという凄いヴァイオリニストがいる。
何が凄いかって、、、彼はきらびやかで日本を代表する最高の音楽専用ホール、サントリーホールよりも、新宿の路上の雑踏の風景が似合うからだ。彼の音楽には理論をこえた原点がある。だから、彼の音楽は素晴らしくも規格外。

一昨年の「ラ・フォル・ジュルネ・ジャポン 熱狂の日 音楽祭2009」でヴィヴァルディ「春」を演奏するネマニャ青年の演奏には、心底驚嘆した。私が趣味を聞かれていつも困惑するのは、クラシック音楽鑑賞と答えると、「高尚ね」の一言で会話が終了することだ。なんなんだ、高尚とは。。。(泣)クラシック音楽=高尚なものと思い込んでいる方には、是非、聴いていただきたい、というよりも体験していただきたいのが、ネマニャ・ラドゥロヴィチのヴァイオリンだ。彼は、高尚で上品なヴァイオリニストというよりも範疇からフェードアウトした”ロック・スター”のような音楽家だ。

その演奏は、パワフルで疾走感に溢れ、それでいて極上の絹の糸のような芯の強靭さと繊細な美音が自由奔放に飛翔し、聴く者はアドレナリンの分泌が発動する。ここまで自由な音楽性が許されるのも、彼の抜群なテクニックと鋭い音程の正確さという基本がしっかりしているからである。そんな彼の今宵の曲は、「同世代の人たちにもロックやポップスと同じように、もっと気楽にクラシック音楽を楽しんでほしい」と仲間と結成した弦楽六重奏ユニットの成り立ちにあるように、深い音楽性を掘り下げるというよりも、アンコールピースとしてよく演奏されるようなヴァイオリンの魅力がたっぷりつまったお楽しみ曲ばかり。

・クライスラー:プニャーニの様式による前奏曲とアレグロ
・ヴィエニャフスキ:伝説曲ト短調op.17
・ヴィターリ:シャコンヌ ト短調
・シューベルト:ロンド イ長調D.438
・チャイコフスキー:なつかしい土地の思い出op.42「メロディ」「スケルツォ」「瞑想曲」
・タルティーニ:ソナタト短調「悪魔のトリル」

■アンコール
・ヴィヴァルディ:「四季」より夏
・セルヴィア民謡より
・映画「シンドラーのリスト」より

黒いブラウスに同じく黒の革のパンツで自然体で登場するネマニャ君。どの曲も、こどもの頃から子守唄として聴いてきたかのように、音楽という小さな宇宙の中を跳んでいるように奏でる。 全く、生まれながらのヴァイオリニストという感じで舌を巻く。画像でもおわかりように、女子好みの端整な顔立ちの王子キャラではない。サイン会で目の前で珍しい生き物として”観察した”彼は、音楽家というよりもその風貌はペンキをもった方が似合うような下層階級の職人タイプ。しかし、ステージに並んだ演奏家たちの中でソリスは誰かと尋ねられたら、それは誰でも人目でわかるだろう。私は、世間で俗に言うカリスマ性というのは、容姿が整った人にだけあるものだとこれまで思っていたが、彼を見ていてそうではないということを知った。演奏中に何度もでてくるtuttiで演奏する場面での率直な感想は、高い音楽教育を受けてきた仲間とソリストとの音楽性がこれほどかけ離れていると。世界には、自ら芸術品のような音楽家はたくさんいる。しかし、彼らとは一線を画した存在ながら、不思議なカリスマ性がある特異なヴァイオリニストのいきいきとした音楽をなかば興奮しながら楽しんだ。当然ながら、我も終演後のサイン会は、ダッシュで長蛇の列に並び・・・。

ところでそんなネマニャ君なのだが、日本ではなかなか演奏会が開かれない。彼は日本では「アスペン」という音楽事務所に所属してしてCDも出しているが、実力のわりには知名度が低いために、これまでチケットが売れなかったこともあったそうだ。(CDもあまり売れていないそうだが、私は山野楽器のS席にあるネマニャ君をお買い上げしたぞ)そのため、彼の音楽を日本でもっと聴くために、「音楽で人は輝く」の著者、樋口裕一氏が会長になりファンクラブ「プレピスカ」*1)が発足されていた。つきましては、是非、本格的なリサイタルを開催していただき、ベートーベンやモーツァルトなどののソナタ、バッハの無伴奏ソナタ、アンコールにはアンリ・ヴュータンの「アメリカの思い出」を弾いていただきたい。嗚呼、、、いつになることやら。。。

【2011年3月2日オペラシティにて】
ネマニャ・ラドゥロヴィチ(Vn)
仲間たち:ギヨーム・フォンタナローザ(Vn)/フレデリック・デシュ(Vn)/デルトラント・コセ(Vla)/アン・ビラニェ(Vc)/スタニスラス・クシンスキ(Cb)

*1)「プレピスカ」とはネマニャ君の生まれた国、セルビアの言語で”交流”という意味だそうだ。

■こんなアンコールも
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日音楽祭」2009年