縦網代バッグ
隣が竹細工をやる家だということは前から知っていた。
でも私自身は竹細工に全く関心が無かった。
竹細工の親方は言う、「俺の仕事は儲かるぞ」
私は心ならずも土方をやっていた。
肉体労働は本来好きである。でも土方は、このままでは将来性が無い。
そこですぐ教えてくださいと頼んだら、その場で承知してくれた。
間もなく私は土方をやめて、隣の家に竹細工を習いに通うようになった。
仕事場は広いので、私がいても邪魔にならない。
親方が作っているのは石箕、背負い篭、米上げ笊など、
農家で使われるものだ。
竹細工の修行は竹の割り方、つまり編む材料を作ることが中心だ。
丸のままの二間ほどの長さの竹を四つ割りにし、
さらに細かく割り、次に皮から身をへぐ。
さらにそれを細かく割り、また身をへぐ。
そんな過程を通じて、同じ厚さ、同じ幅のひごを沢山作るのだ。
二ヶ月ほど通ううちに、親方の作る石箕や背負い篭をある程度作れるようになった。
すると「これからお前は別なものを作れ、もっと細かい仕事があるから、
自分でそれを作って行け」と言われた。
実は親方自身竹細工の仕事が無いときには土方をやっていた。
大して需要がないのに作り手が二人では共倒れになる。
しかし私は愕然とした。
京都にいたこともあるが、竹細工に全く関心が無かったから
何も見ていないのだ。
ここで独立したとしても何を作ればいいか分らない。
親方も別な竹細工の世界があることは知っていても、
実際に作ったことは無いのだ。
そこで何か本でもないかと本屋を探し、出雲市の本屋ですごい本を見つけた。
佐藤庄五郎著「図説竹工芸」である。
今に至るまで、この本以上に詳しい竹細工の本は、見たことが無い。
竹を割ったりへいだりする技術はある程度身に付いた。
編むこと、これは見本がなければとても身に付かない。
この本には様々の籠の作り方が、縁飾りの籐の使い方、
竹の染め方にいたるまで、写真と詳しい図によって示されている。
この本によって、私の進む道が少し開けてきたのである。
続く