ザ・コミュニスト

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リベラリストとの対話―「自由な共産主義」をめぐって―(14)

2015-02-22 | 〆リベラリストとの対話

12:環境計画経済について⑤

リベラリスト:あなたの環境計画経済論でかねてより気になっていたことは、流通の問題が見えないことです。あなたは資本主義の優位性を消費の豊かさに見ているようですが、私見では生産者と消費者(原料や資材の消費者も含む)とをつなぐ流通ネットワークの構築こそが、資本主義市場経済の最大の強みだと考えています。逆に計画経済は流通が苦手分野であり、そのために物流が停滞しがちなのです。

コミュニスト:痛いところを突かれました。たしかに、流通について『共産論』はあまり明確に論じていません。しかし流通を軽視しているのではなく、流通のシステムは資本主義市場経済ほど発達しなくとも、十分に物流を確保できると考えるからです。

リベラリスト:どういうことでしょう。まさか荷馬車を復活させようというのでは・・・。

コミュニスト:西部劇とは違います。本来、計画経済はさほど流通を必要としないのです。特に食糧に代表される日用品は地産地消を原則としますから、長距離輸送は必要としません。消費事業組合直営の輸送サービスでまかなえると思います。

リベラリスト:あなたの提案では計画対象企業は環境負荷的な分野に限定し、その余は自由生産に委ねるのでしたね。そうした自由生産分野の物品の流通はどうなりますかね。

コミュニスト:おそらく郵便事業と後で述べる運輸事業機構の個別サービスでカバーできると思います。ちなみに貨幣経済は廃止されることが前提ですから、料金を気にかける必要はありません。

リベラリスト:それはよいとして、原料や資材といった生産者が必要とする物財については、大型の長距離輸送が必要ですが、これはどうしますか。

コミュニスト:そうした調達物流に関しては、運輸事業機構のような大規模な企業体が必要となります。これについては、『共産論』でも計画対象企業とし、「二酸化炭素の排出量の増加傾向が目立つ運輸部門は、少なくとも陸上貨物輸送についてはトラック輸送と鉄道輸送を単一の事業機構に統合化したうえ、長距離トラック輸送の制限と鉄道輸送の復権とを計画的に実行する必要がある。」とも指摘しているところです。

リベラリスト:国際間、いや、国家も廃止するというあなたの用語では“民際”間の物流は?

コミュニスト:商業貿易は廃されるということを前提に、不足産品の補充的な海外調達の問題になりますが、それには航空輸送が引き続き活用されるでしょう。同時に、周辺からの調達ならより環境的に持続可能な海上輸送の復権もあると思います。

リベラリスト:相当煩雑になりそうで、いわゆるロジスティクスの低下は避けられないのではないでしょうか。

コミュニスト:一見複雑ですが、むしろシステムとしては市場経済的ロジスティクスよりはるかに単純です。市場経済では無数の企業が複雑に入り組み、かえって物流を煩雑で非効率にしているため、ロジスティクスを研究しなければならないのです。

リベラリスト:経験論的に言えば、現実の資本主義的物流は実際ひどく入り組んでいるわりには、日々滞ることなく、なかなかスムーズに動いていますよね。なぜなのかを一度研究してみることをお勧めしますよ。「神の手」を感じられるかもしれません。

※本記事は、架空の対談によって構成されています。

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「軍部」復活元年か

2015-02-22 | 時評

政府が自衛隊発足以来の原則であった「文官統制」を廃止して、制服自衛官幹部が直接に防衛大臣を補佐する体制に転換する防衛省設置法改正法案を3月国会に上程する方針を固めたという。

文官統制は、自衛隊を指揮する内閣総理大臣や防衛大臣に文民を当てるだけでなく、その下のレベルでも防衛大臣への進言などの補佐権限は防衛省の文民官僚の任務とし、文民が武官を統制する仕組み(文民統制)の一部を成してきた。

旧憲法下の軍部は統帥権独立の原則に基づき、文民政府から独立した部門を構成したため、戦前にはクーデターで軍事政権を樹立するまでもなく、文民政府を操縦する形で軍部支配を実現することができた。このことが軍部独走の一因ともなったという反省から、戦後自衛隊では文民大臣が文官を介して武官を指揮するという二重の文民統制が構築されてきたのであった。

それを撤廃すれば、大臣が文民であっても、幕僚長ら制服自衛官の意向が文官を介さず直に大臣に反映されることで、文民統制は大きく揺らぐことになる。

その大臣にしても、退職自衛官は「文民」とみなせるとの形式解釈に基づき、自衛官出身者が防衛大臣に就任する前例はすでに存在しているので、自衛官出身の防衛大臣、さらには現時点では前例のない自衛官出身の内閣総理大臣の時に文官統制が存在しなければもはや文民統制はないも同然である。

ところが、制服自衛官たちは文官統制では「背広組が制服組より上位になる」―それがまさに文民統制の本旨なのだが―として敵視し、その撤廃を宿願としてきた。今回の改正法案もOB政治家らを通じた10年来の「運動」の成果である。すでに自衛隊は議会政治を通じて政治的な力を備えているのだ。

併せて自衛隊の部隊運用(作戦遂行)を制服組主体とする「一体的運用」も導入することで、制服組は文民統制を骨抜きにして大きな自立性を獲得し、事実上の「軍部」としての政治的な発言力も持つに至るだろう。並行して進められている広範囲にわたる集団的自衛権の具体化が実現すれば、「軍部」独走の再現も現実のものとなる。

自民党改憲案には国防軍の保持という明白な再軍備宣言が書き込まれていることからして、今般改正法が今年度中に可決成立すれば、後から振り返って2015年は「軍部」復活元年として記憶されることになるかもしれない。

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