ザ・コミュニスト

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続・国家承認という選択肢

2015-02-01 | 時評

イスラームの聖典『コーラン』には、「これ、汝ら、信徒の者、正々堂々とアッラーの前に立ち、正義の証人たれ。(自分の敵とする)人々を憎むあまりに正義の道を踏みはずしてはならぬ。常に公正であれ。」(井筒俊彦訳)という一句がある。

どうも、イスラーム国は自分の敵とする人々を憎むあまりに正義の道を踏みはずしているように見える。イスラーム主義を標榜するのなら、アッラーの教えどおりに、憎悪が正義を押しのけないように願いたいものである。

前回、残る人質の後藤氏の安否が不明な段階で、イスラーム国承認という逆説的な選択肢を推奨したが、この考えは後藤氏殺害という最悪の結果となった今も、根本的に変わらない。否、むしろよりいっそう強く打ち出したいくらいである。

イスラーム国は後藤氏殺害の声明の中で、「おまえ(安倍首相)の国民を場所を問わずに殺りくするだろう。日本にとっての悪夢が始まるのだ。」(共同通信訳)と不気味な予告をしている。

この文言を文字どおりに取るなら、今後はイスラーム国の支配地域の外でも、日本国民を殺戮するということになるので、日本国内を含むすべての場所で日本人を標的としたテロを起こすという予告である。

実際、米国情報企業の調査によると、すでに15か国の29組織がイスラーム国に忠誠・支持を誓っているとされ、少なくともこれらの諸国の領域内で、イスラーム国が協力組織を使ったテロを起こすことは可能な体制にある。

今回の事態を機に、日本政府が「テロに屈しない」の合言葉で「有志連合」への協力にいっそう傾斜するなら、日本人標的テロは現実のものとなるだろう。その時に真っ先に犠牲になるのは、最高度の警備下にある首相や閣僚たちではなく、警備ゼロ・丸腰の一般国民なのである。

※早速、この予言は的中した。3月18日、マグレブの観光地チュニジアの首都チュニスで、日本人3人を含む多数の外国人観光客が死亡する銃撃テロ事件が発生した。イスラーム国が犯行声明を出している。実際の関与の真偽は不明だが、少なくとも呼応テロの可能性は高い。

それを考えれば、これを機に「有志連合」を離れ、イスラーム国を国家承認するという選択肢の合理性は高まるとさえ言える。ただし、国家承認といっても正面から承認するのではなく、水面下でイスラーム国との外交交渉ルートを作るというより現実的な方法があり、当面はそれが限界でもあろう。

いずれにせよ、前回も述べたように、空爆作戦は根本的な解決にならない。空爆・掃討作戦で弱体化したアルカーイダからイスラーム国が分派的に現れたように、仮にイスラーム国が空爆で弱体化しても、そこから新たな分派集団が生じることは確実である。

その意味で、「イスラーム国」という名称は、現在それを名乗っている集団だけの固有名詞ではなく、将来の同種集団を含めた一般名詞ととらえる必要がある。

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