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中国憲法評解(連載第5回)

2015-02-19 | 〆中国憲法評解

第一九条

1 国家は、社会主義の教育事業を振興して、全国人民の科学・文化水準を高める。

2 国家は、各種の学校を開設して、初等義務教育を普及させ、中等教育、職業教育及び高等教育を発展させ、かつ、就学前の教育を発展させる。

3 国家は、各種の教育施設を拡充して、識字率を高め、労働者、農民、国家公務員その他の勤労者に、政治、文化、科学、技術及び業務についての教育を行い、自学自習して有用な人材になることを奨励する。

4 国家は、集団経済組織、国の企業及び事業組織並びにその他社会の諸組織が、法律の定めるところにより、各種の教育事業に取り組むことを奨励する。

5 国家は、全国に通用する共通語を普及させる。

 本条から第二六条までは、主として国家の社会事業に関する役割が列挙されている。国家社会主義体制では、国家が教育文化や公衆衛生などの諸事業を幅広く主導的に展開することが特色であり、これも旧ソ連憲法からの影響と考えられる。
 その筆頭の本条が教育事業で始まっていることは、巨大な農村人口を抱え、啓発教育に重点を置く中国的な特色である。第四条は集団経済組織や企業が直営する学校制度という労働と教育の結合を象徴する政策の根拠であったが、社会主義市場経済の現在では逆に、大学が企業を設立する形態(校弁企業)が発展している。

第二〇条

国家は、自然科学及び社会科学を発展させ、科学知識及び技術知識を普及させ、科学研究の成果並びに技術の発明及び創造を奨励する。

 前条の教育事業と並んで、国家が科学振興事業にも主導的な役割を負うことを定めている。具体的には、国立研究機構としての中国科学院及び社会科学院として制度化されている。

第二一条

1 国家は、医療衛生事業を振興して、現代医薬と我が国の伝統医薬を発展させ、農村の集団経済組織、国家の企業及び事業組織並びに町内組織による各種医療衛生施設の開設を奨励及び支持し、大衆的な衛生活動を繰り広げて、人民の健康を保護する。

2 国家は、体育事業を振興して、大衆的な体育活動を繰り広げ、人民の体位を向上させる。

 教育・科学振興事業に関する前二条に対し、本条は国家の医療衛生・体育振興事業に関する役割を定めている。体育事業に関しては長く国家体育委員会が指導機関であったが、1998年以降は国家体育総局に改組された。

第二二条

1 国家は、人民に奉仕し、社会主義に奉仕する文学・芸術事業、新聞・ラジオ・テレビ事業、出版・発行事業、図書館・博物館・文化館及びその他の文化事業を振興して、大衆的文化活動を繰り広げる。

2 国家は、名勝・旧跡、貴重な文化財その他重要な歴史的文化遺産を保護する。

 本条は、メディアを含む文化事業に関する国家の役割を定めている。第一項で「人民に奉仕し、社会主義に奉仕する」という限定句が付せられているのは、反対解釈として、「人民に敵対し、社会主義に敵対する」文化活動は抑圧されることを示唆している。ひいては、検閲制度の根拠ともなるだろう。

第二三条

国家は社会主義に奉仕する各種専門分野の人材を育成して、知識分子の隊列を拡大し、条件を整備して、社会主義現代化建設における彼らの役割を十分に発揮させる。

 本条は前条に関連し、「社会主義に奉仕する」知識人の育成を定めた規定である。ここでも、反対解釈として、「社会主義に敵対する」知識分子は抑圧されることになる。

第二四条

1 国家は、理想教育、道徳教育、文化教育及び規律・法制教育の普及を通じて、都市と農村とを問わず諸分野の大衆の間で各種の守則と公約を制定し、実施することにより、社会主義精神文明の建設を強化する。

2 国家は祖国を愛し、人民を愛し、労働を愛し、科学を愛し、社会主義を愛するという社会の公徳を提唱し、人民の間で愛国主義、集団主義、国際主義及び共産主義の教育を進め、弁証法的唯物論及び史的唯物論の教育を行い、資本主義、封建主義その他の腐敗した思想に反対する。

 本条は、前条よりも一般的な思想教育の根拠となる規定である。とりわけ、第二項では「資本主義、封建主義その他の腐敗した思想に反対する。」と宣言されており、思想統制の根拠ともなる規定である。

第二五条

国家は、計画出産を推進して、人口の増加を経済及び社会の発展計画に適応させる

 産児統制を国家の役割として明記する本条は、大人口を抱え、人口調節が国の存亡に関わる中国ならではの規定である。いわゆる「一人っ子政策」の根拠となる。

第二六条

1 国家は、生活環境及び生態環境を保護し、及びこれを改善し、汚染その他の公害を防止する。

2 国家は、植樹・造林を組織及び奨励し、樹木・森林を保護する。

 本条は環境保護に関する国家の役割を規定している。しかし、環境的持続可能性の原則については言及がない。第二項で特に植林・造林が明記されているのは、砂漠化の進行防止が重要な環境課題となっていることを反映するものであろう。

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