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ザ・コミュニスト

連載論文&時評ブログ 

持続可能的計画経済論[統合新版](連載最終回)

2025-03-11 | 〆持続可能的計画経済論[統合新版]

第4部 持続可能的計画経済への移行過程

 

第18章 経済移行計画Ⅲ:完成期

 経済移行計画の最終段階は、完成期である。これは持続可能的計画経済のシステムが確立された段階を意味するが、問題は何をもって完成したとみなすかである。
 理論上の完成期とはすでに示してきたような諸制度がすべて出そろい、第二次以降の各次経済計画が円滑に策定・実行されていく段階であるが、より総括的に、システムが確立されたと言い得る最低必要条件を示すと、次のようになる。


(イ)世界経済計画の確立
 そもそも持続可能的計画経済における「持続可能」とは精確には「地球環境の生態学的な持続可能性」を意味しているから、持続可能的計画経済の完成型は世界共同体経済計画機関を軸とする全世界レベルでの経済計画システムである。
 そのため、国際連合に代わる新たな民際統治機構となる世界共同体(世共)の創設及びその専門機関としての世共経済計画機関の設立が完成の前提条件となる。そのうえで、世共経済計画機関が策定する世界経済計画に基づく各領域圏ベースの各次経済計画が策定・運用されるようになって初めて完成型となる。

(ロ)純粋自発労働制の確立
 持続可能的計画経済の本旨は貨幣経済によらない生産と労働にあるから、無償の純粋自発労働制が確立される必要がある。これは貨幣制度が廃止される初動期間から開始されることであるが、完全に定着、確立されるまでには一時代の時間を要するであろう。
 その過程で、市場経済下では賃金制に支えられて初めて成り立っていたいくつかの職種がある種の淘汰を受け、消滅する可能性がある。その補充として、適性に基づく職業配分制の導入、ロボットやAIによる自動化の推進、それらが困難な場合は当該職種を当面暫定的に市民全員の義務労働とするなどの対策が必要になる。

(ハ)無償供給制の確立
 賃金労働が廃され、労働と生活が分離される持続可能的計画経済下で日常生活を支える物資及びサービスの無償供給制が確立される必要がある。これも初動期間から運用が開始されていくが、初動では物資不足や流通不全などの欠陥が若干発現する可能性はある。完成期には、そうした欠陥の修正が施され、無償供給制が円滑なシステムとして運用される状態が確立されていなければならない。
 それまでは無償供給制の外部で行われる物々交換による自由供給慣習で補充される可能性があるが、持続可能的計画経済はこうした慣習を違法な「闇経済」とはみなさず、完成期においても合法的な自由交換経済として並行的な存続が認められる。

 

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持続可能的計画経済論[統合新版](連載第84回)

2025-03-10 | 〆持続可能的計画経済論[統合新版]

第4部 持続可能的計画経済への移行過程

 

第17章 経済移行計画Ⅱ:初動期間

(4)経済計画会議及び各種企業体の設立
 経済移行計画の初動期間には、初めの一歩となる第一次3か年計画を策定・施行するうえで不可欠な制度である経済計画会議の創設及び経済計画の主体となる企業体(計画企業体)の設立がなされる。
 これは、経過期間において設立されていたそれぞれの準備組織が正式の組織として立ち上げられることを意味している。計画企業体としては、経済計画の主体でもある各種の生産事業機構や消費事業組合が正式に発足する。
 同時に、計画対象外の自由生産を担う生産事業法人や生産協同組合、協同労働グループといった新しい自由生産企業体の設立も、初動期間に集中的に行われる。
 その点、資本主義経済体制下では多くの民営企業体が株式会社形態を取っているところ、貨幣経済の廃止を前提とする持続可能的計画経済体制下ではそもそも株式による資金調達という営為がなくなるので、株式会社や株式市場の存在余地はない。そこで、株式会社(その他の営利企業形態も同様)は上掲三種の企業形態のいずれかに一斉転換されることになる。
 もっとも、まだ貨幣経済が残存している経過期間にあっては株式会社形態も存置されているが、各企業の判断による経過期間中の企業形態の変更も可能となるよう経過措置法を用意することが望ましい。

(5)第一次3か年計画の始動
 経済移行計画における初動期間の最終段階は、第一次3か年計画の始動である。これはまさに持続可能的計画経済における初めの一歩であり、その成否が計画経済全般の成否を分けることになる重要な第一歩である。
 ただし、先述したように、初動段階では貨幣による対外貿易が残存していることが想定されるため、第一次3か年計画にはそうした貿易計画も盛り込まれる点で、経済移行計画が終了する完成期における経済計画とは異なる特質がある。
 その意味で、第一次3か年計画はまだ経過期間の要素を残した過渡的な内容となり、海外情勢によっては、第二次以降の後続3か年計画でもなお貿易計画が残存する可能性もあるであろう。
 いずれにせよ、第一次3か年計画は初動期間の集大成であるとともに、持続可能的経済計画の完成期へ向けた推進力となる起点でもあり、同時に後続経済計画の先例ともなるため、慎重かつ精緻に策定する必要がある。

 

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持続可能的計画経済論[統合新版](連載第83回)

2025-03-08 | 〆持続可能的計画経済論[統合新版]

第4部 持続可能的計画経済への移行過程

 

第17章 経済移行計画Ⅱ:初動期間

(3)貨幣制度廃止②:一元的貿易機構と外貨決済店舗
 前回も記したように、貨幣制度廃止は条約に基づき一斉に実施するほうが徹底し、混乱も最小限に抑制できるが、実際上はそうした一斉実施が困難だとすれば、貨幣制度廃止が世界に波及するには時間差が避けられない。
 そうした場合、まだ貨幣制度を廃止していない外国との間の貿易関係に支障が出る。このことは、とりわけ輸入依存率が高い領域圏にとっては大きな問題となる。ただ、こうした個別的な通貨制度廃止の場合にあって廃止されるのは自(国)通貨であり、外貨は廃止されない。
 そこで、貨幣制度廃止を担う中央銀行は貿易決済に必要な外貨準備を保有したうえ、当面継続される対外貿易に投入できるようにする必要がある。その場合、輸出入に関わる貿易会社を統合し、あるいはより緩やかに合同したうえで、一元的な貿易窓口となる暫定的な貿易機構を設け、対外貿易を継続することになる。
 なお、本来の「貿易」には当たらないが、個人が海外から物品を外貨で購入する場合も、この一元的貿易機関が仲介する仕組みを備えることが考えられてもよいであろう。
 この件とは別に、貨幣制度の廃止がタイムラグを伴う場合に発生し得る現実的な問題として、まだ貨幣制度が廃止されていない海外から無償で物品を取得しようとする外国人のツアー客が殺到しかねないということがある。 
 このような海外からの「爆買いツアー」現象は市場経済下にあっても見られ、需給関係を攪乱する要因となっているが、貨幣制度が廃止されて物品が無償供給されるようになれば、情報を聞きつけた海外からのツアー客が押し寄せることは充分に予測できる。
 これにより初動期間の計画経済が攪乱される事態を防止するためには、さしあたり永住者や所定期間の長期滞在者は別として、一時滞在外国人に対しては原則として無償供給を禁じたうえ、一部の外貨決済店舗でのみ物品の購買を認める特例をもって統制的に対応することになるだろう。
 こうして、貨幣経済が廃止された初動期間にあっても、貿易の継続と合わせて、対外的な関係ではなお貨幣交換を伴う商品形態が一部残存することになるので、この期間は持続可能的計画経済の完成にはいまだ至らない。

 

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持続可能的計画経済論[統合新版](連載第82回)

2025-03-07 | 〆持続可能的計画経済論[統合新版]

第4部 持続可能的計画経済への移行過程

 

第17章 経済移行計画Ⅱ:初動期間

(1)初動期間の概要
 前章で見た経済移行計画の実施プロセスにおける経過期間を過ぎると初動期間に入るが、初動期間はまさに持続可能的計画経済の開始段階に当たる。ここでの中心的なイベント(出来事)は第一次経済3か年計画の始動である。
 その前提として、持続可能的経済計画の核心でもある貨幣制度の廃止も大きなイベントであり、結局、貨幣制度の廃止及び第一次3か年計画の始動の二つが初動期間における二大イベントとなる。
 初動期間は周到に計画された経過期間における種々の準備行為に基づいて展開されるため、相当量の複雑な移行作業を要する経過期間に比べて単純であり、如上二大イベントに集約され、初動に伴う混乱も最小限度に抑えられる。


(2)貨幣制度廃止①:金融清算法人と金融清算本部
 初動期間におけるイベントの中でも重大なものは、貨幣制度の廃止である。ここで言う貨幣とは国家が発行する通貨を指す。よって、正確には通貨制度の廃止である。後に改めて言及するように、私的団体が発行する私的通貨はここでの廃止対象に含まない。
 通貨制度及び通貨による交換経済の廃止はほとんど文明史的な転換を意味するため、経過期間においては経済混乱を避けるためにもなお存置されているが、初動期間においてはその全廃が目指される。
 その点、全世界に及んでいる通貨制度を混乱なく全廃するには、条約に基づき全世界一斉に実施することが最も望ましく簡明でありながら、その実現は最も困難であるというもどかしさがある。
 おそらく、ほぼ全世界に持続可能的計画経済モデルが行き渡った段階で、通貨廃止条約もしくは条約に準じた民際協定が締結されることになるものと考えられるが、ここでは個別的な領域圏ごとの法令に基づいて通貨制度廃止を行うというより複雑なケースを想定する。
 領域圏の通貨制度廃止法令は公布即施行され、それに基づき既存通貨は将来に向けて失効する(遡及しない)。ただし、外貨は別であり、外貨については当該外貨を発行する外国政府(または領域圏)が通貨制度を廃止するまでは有効である。
 通貨制度の廃止とは既存の金融システムの全面的な清算作業であるから、そうした作業の主導機としては中央銀行がふさわしい。中央銀行は近代的な貨幣経済にあっては通貨制度の番人であり、それゆえに通貨制度の清算人ともなり得るからである。
 具体的には、法令に基づき市中銀行及びその他全種別の金融機関の清算法人を立ち上げたうえで、それらを中央銀行内に設置された金融清算本部に包括的に接収し、全金融口座を整理する。
 これらの清算口座内の預金はすべて中央銀行の管理下で封鎖・無効化されるが、上述したとおり、領域圏ごとに通貨制度を廃止する場合、いまだ通貨制度を維持する諸国の外国人(法人を含む)名義の口座については預金者による引き出し・返還の手続きを進める必要がある。
 中央銀行は通貨制度廃止の全プロセスを見届けたうえ、最終的に自らも清算・廃止されることになるが、金融清算本部は分離され単立機関となった後、通貨制度廃止後の残務処理機関としてしばらく存置される。
 なお、金融機関に預金されていないいわゆるタンス預金のような手元貨幣も通貨廃止法令に基づき失効するため、改めて供出を求めたり、押収したりする必要はなく、現在における古銭と同様に古物化し、所持者の私的所有に帰することになる。

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持続可能的計画経済論[統合新版](連載第81回)

2025-03-05 | 〆持続可能的計画経済論[統合新版]

第4部 持続可能的計画経済への移行過程

 

第16章 経済移行計画Ⅰ:経過期間

(8)製薬事業機構等の設立準備
 薬剤は最広義の意味における食品に分類できるが、一般の食品とは目的・性質が大きく異なるため、通常の消費財に係る消費計画とも、また基幹的な産業分野の生産計画Aや農林水産分野の生産計画Bとも区別された製薬固有の生産計画Cに基づいて生産される。
 その点、薬剤は原則として世界のすべての個人の生命・健康を保持するべく普遍的に供給されるべき性質を持つことから、基軸的な薬剤については世界共通計画のもとに製造・供給されることが本則である(拙稿)。
 そのうえで、各領域圏ごとの生産計画は、製薬企業体を統合した製薬事業機構が自主的に立案し、施行することになる。経過期間においては、製薬事業機構の設立準備として、個別の製薬企業の統合化が目指される。
 とはいえ、既存の製薬企業すべてを統合化する必要はなく、医師の処方箋医薬品となる代表的な疾患の治療薬やワクチンなどの基本薬剤及び少数の難病治療薬としての特殊薬剤の製造を担う企業の統合をもって足りる。
 しかも、既存企業の全社的な統合である必要もなく、一部部署を分社化したうえでの統合であっても差し支えない。統合されない残部署、処方箋医薬品の製造に関わらない製薬企業はそのまま自由生産企業として存続する。
 ちなみに、製薬事業は薬剤の有効性及び安全性の事前・事後の審査を行う独立かつ中立の薬剤規制監督制度の存在と不可分であるから、製薬事業機構とは完全に別立てとなる規制監督機関の設立準備も並行して実施される。
 この機関は企業体ではなく、基本的に行政機関の性格を持つが、事前的な有効性・安全性審査機関と事後的な安全性審査機関とを分立するべきである。
 そのうち、後者の事後的な安全性審査機関は患者からの具体的な薬害の訴えを審理し、被害者の救済や関係者の処分も行う護民司法的な機能を備えた機関とするため、医学者・薬学者のみならず、薬事法に精通した法律家も参与する機関となる。

 

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持続可能的計画経済論[統合新版](連載第80回)

2025-03-04 | 〆持続可能的計画経済論[統合新版]

第4部 持続可能的計画経済への移行過程

 

第16章 経済移行計画Ⅰ:経過期間

(7)農林水産業の統合準備
 持続可能的計画経済にあっては、食糧生産に関わる農林水産業は基幹産業分野の生産計画Aとは区別された生産計画Bとして別立てとなるが、計画の立案と実施は農林畜産事業機構または水産事業機構といった統合企業体自身によって行われる点は生産計画Aと同様である。
 経過期間においては、そうした生産計画Bの計画主体となる統合企業体の設立に向けた準備過程が遂行される。中でも、農林畜産分野は土地制度とも密接な関連を有するので、前回見た土地所有権制度の廃止過程とも重なる。
 すなわち、農林畜産業の生産要素となる農地や林野、牧草地もすべて所有権観念から解放され、無主物として公的な管理下に置かれることが前提である。その点でも、しばしば社会主義的な「農地改革」政策として実行される農地の接収と分配とは全く異なるプロセスとなることに留意される必要がある。
 そのうえで、経過期間開始時に農林畜産業がいかなる経営形態を採っているかにより、準備過程の様相も異なる。自営的家族経営形態が主流を占めている場合は、統合企業体の設立はゼロからのスタートとなるため、各経営家族への告知と試行を通じた慎重な過程となる。
 自営的家族経営形態を前提としながら、協同組合組織が定着している場合は、それらの協同組合組織を合同して統合企業体を結成することは比較的容易である。その場合、協同組合の中央組織が核となる。
 いずれの場合も、旧来の農林畜産業者は将来の農林畜産事業機構の現地管理者または農林畜産労働者に対する業務指導員として包摂されることになるため、そうした地位の変更に伴う研修も必要となる。
 一方、経過期間開始時に未だ半封建的な大土地所有制が存残している場合、土地所有権を喪失した旧地主のうち、不在寄生地主ではなく、自ら現地で農林畜産経営に従事していた者は、農林畜産事業機構の現地管理者として再雇用される余地がある。
 以上の基本的なプロセスは水産分野にもほぼ妥当するが、水産分野で土地に相当する水域は元来、個人的所有権の対象ではないため、農林畜産分野のような所有権廃止と関連した準備は要しない。
 ただし、経過期間開始時に漁船所有者による網元制度のような半封建的な漁業経営形態が依然として残存している場合は、そうした旧制の解体プロセスが先行し、然る後に統合企業体の設立過程に入ることになろう。

 

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持続可能的計画経済論[統合新版](連載第79回)

2025-03-03 | 〆持続可能的計画経済論[統合新版]

第4部 持続可能的計画経済への移行過程

 

第16章 経済移行計画Ⅰ:経過期間

(6)土地所有制度廃止準備
 移行期における貨幣制度廃止準備と並ぶ関門は、土地所有制度の廃止準備である。すなわち、土地を何者にも属さない無主物として管理するシステムへの移行である。
 ここで留意すべきは、このプロセスは従来しばしば社会主義的土地政策として諸国で施行されることもあった土地の国有化とは全く異なるということである。土地の国有化は、土地の所有権主体を私人から国に移転させるのみで、土地所有という観念をなお残している。
 しかし、ここで言う土地所有制度廃止とは、そもそも土地を「所有」という観念から解放し、野生の動植物と同様に所有権主体を有しない自然物とすることを意味している。言わば、地球そのものを観念上、元の自然状態に戻すことである。
 従って、土地の個別的な接収のように有償ではなく無償の法的措置となるが、国その他の公共団体が私有地を強制的に無償で接収する社会主義政策とも異なり、単に法的観念のうえで土地所有権を消滅させるものである。
 もっとも、このことは土地を原始的な無管理状態で放置することを意味しないから、各領域圏ごとに土地を公的に管理するシステムを構築しなければならない。そうしたシステム構築の準備は移行期に開始される。
 その第一段階は、土地所有権消滅法の制定である。これは土地所有制度廃止の法的根拠となる法律である。ただし、混乱を避けるため、土地所有権の消滅は遡及的でも即時的でもなく、将来の期日を定めた将来効とする。
 第二段階は、将来の土地管理機関の前身となる組織の設立である。土地管理機関は無主物化された土地の公私の利用や処分全般に関する事務を所掌する公的機関であるが、その前身組織としては現行の土地登記機関(登記所)を統合して設立することが簡便である。
 登記所は土地所有制度を前提に私有地の現況を公示する登記の事務を所掌する機関であり、現状では登記の形式的な事務のみを扱うが、錯綜した土地の所有に係る情報を包括的に把握している公的機関であるから、これを移行的に土地管理機関に再編することは合理的と考えられる。
 なお、将来の土地管理機関は土地の侵奪や押領などを取り締まる警察機能を備えるので、その前身組織にも法執行部署を設置し、不動産事犯の取締り態勢を準備する。

 

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持続可能的計画経済論[統合新版](連載第78回)

2025-03-02 | 〆持続可能的計画経済論[統合新版]

第4部 持続可能的計画経済への移行過程

 

第16章 経済移行計画Ⅰ:経過期間

(5)貨幣経済廃止準備 
 移行期にはまだ連鎖的な貨幣交換で成り立つ資本主義は完全には廃されず、その相当部分が残されたままである(残存資本主義)。しかし、この時期からほとんどの人にとって未知の新経済システムに適応するための試行を展開することは、円滑な移行を達成するうえで不可欠である。 
 こうした貨幣経済廃止準備は移行過程における最大の眼目であるとともに、最大の難関でもある。これに失敗した場合は、経済の混乱と物資不足、飢餓さえも発生し得るので、最も慎重な熟慮のもとに遂行する必要がある。
 貨幣経済廃止の到達点は通貨制度の全廃にほかならないが、これは経過期間を過ぎた初動期間の達成課題となる。その手前の経過期間では通貨制度は残存したまま、デノミネーションのようなショック措置も行うことなく、試行的な準備措置が採られる。
 経過期間における準備措置としては、経済計画会議準備組織も、経過期間を通じて貨幣交換によらない経済計画の策定について予行演習を行うが、これはもとより計画経済の対象範囲に含まれる基幹的生産活動における机上演習である。
 それに対して、市民の日々の暮らしに直結する消費財の貨幣交換によらない無償供給に関する予行演習は、消費事業組合準備組織を通じて行われる。こちらは机上演習ではなく、主に食糧を中心とした日常必需品及び一部の雑貨的有益品の取得数量規制付きでの無償供給を実際に試行するものである。
 いかなる品目で試行するかは政策的な問題となる。こうした部分的な物資の無償供給は戦時/災害時の配給制に似ているが、配給制のような時限的な臨時措置ではなく、来る貨幣経済廃止に向けた準備措置であるから、経過期間の進行に合わせて、対象品目は次第に拡大していく。
 なお、電力やガスのような基本的光熱サービスの供給事業はエネルギー産業分野として経済計画会議準備組織の所掌事業に含まれるが、将来の計画経済においても必須のサービスであるから、消費財の無償供給と合わせ、経過期間の段階から基本的光熱サービスの無償供給試行も開始することは有益である。

 

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持続可能的経済計画論[統合新版](連載第77回)

2025-03-01 | 〆持続可能的計画経済論[統合新版]

第4部 持続可能的計画経済への移行過程

 

第16章 経済移行計画Ⅰ:経過期間

(4)消費事業組合準備組織の設立
 持続可能的経済計画の二本目の柱として、広域的な地方圏単位での消費計画がある。これは持続的計画経済システムが完成された段階では、地方圏ごとに組織された日常消費財の供給にかかる協同組合組織である消費事業組合自身が策定する地方的な経済計画となる。
 経過期間においては、こうした消費事業組合の前身組織となる包括事業体が設立される。この事業体は基幹産業分野における包括企業体と類似した構制を持つが、将来の消費事業組合は同時に経済計画機関でもあるため、消費事業組合の前身事業体は計画機関を見据えた準備組織でもある。
 すなわち、将来の消費事業組合は貨幣経済によらない計画的な無償供給システムの中核を担う組織ともなるので、経過期間における消費事業組合準備組織はそうした無償供給システムの構築に向けた準備と予行という重要な任務を担う。
 こうした消費事業組合準備組織は発達した資本主義経済体制下でもしばしば商業的な小売流通資本と併存している生活協同組合組織に類似しており、既存の生協組織を再編することによって設立することも可能であろう。
 生協組織が存在しない場合、または存在する場合でも、現代の資本主義体制下で小売流通の中核を担うスーパーマーケットやコンビニエンスストアといった小売流通資本の統合が図られる必要がある。その統合過程は、基幹産業分野における包括企業体のそれに準じて考えることができる。
 ただし、併存する営利的な小売資本と生協組織という法的性質が相容れない事業組織を統合する場合は法的に困難な点もあるが、消費事業組合準備組織としての包括事業体は営利/非営利の対立を止揚した特殊な移行事業体として統合される。
 なお、準備組織は将来の広域的な地方圏単位で設立される消費事業組合の前身組織となるものであるので、広域圏ごとに分立する必要があるが、広域圏の区割りが未定の段階では、区割りを先送りして、さしあたり全土的な組織として暫定的に発足させてもよいであろう。

 

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