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スウェーデン憲法読解(連載第14回)

2015-02-12 | 〆スウェーデン憲法読解

第五章 国家元首

 スウェーデンは立憲君主制を維持しており、国王または女王が国家元首として憲法上明確に位置づけられている一方で、日本の天皇の国事行為のように元首の権限の内容が明確には定められていない。日本国憲法の場合は、天皇を国家元首として明記しない一方で、国の象徴としての形式的な権限を明確に定めている。この相違は、近世以降、王室が民主化に一役買ってきた歴史を持つがゆえに尊重されるスウェーデンと、皇室が民主主義の外で伝統的権威の所在として崇拝される日本の歴史的な相違を反映していると考えられる。

第一条

第一章第五条の規定により、王位継承法の規定に従い、スウェーデン王位を継承する者が国の元首となる。

第二条

スウェーデン市民で、かつ、一八歳に達している者のみが国家元首として職務を遂行することができる。国家元首は、同時に大臣であってはならず、議長又は議員としての職務を遂行してはならない。

 国家元首も議員と同じく、18歳を最低年齢としている。従って、18歳未満の国王又は女王は国家元首とはなれない。君主と国家元首の職務は区別されていることになる。さらに、国家元首は政府や議会のメンバーを兼職できず、政治的権能を持たない。

第三条

1 国家元首は、総理大臣により国の状況について報告を受けなければならない。必要な場合には、政府は、国家元首の主宰の下、閣議を開く。

2 国家元首が外国に旅行する前に、総理大臣と協議しなければならない。

 国家元首は政治的権能を持たないが、単なる象徴でもなく、国の状況報告を受け、必要な場合には閣議を主宰するなど、スウェーデン立憲君主制は日本の象徴天皇制ほどに政治的無権能化されていないことがわかる。

第四条

国家元首である国王又は女王がその職務を遂行するのに支障がある場合には、支障がない王室の構成員が有効な王位継承順位に従い、臨時の摂政として、国家元首の任務を遂行するためにその任に就く。

第五条

1 王室が断絶した場合には、議会は、当面の間国家元首の任務を遂行しなければならない摂政を選挙する。議会は、同時に副摂政を選挙する。

2 国家元首である国王又は女王が死亡した場合又は退位した場合で、王位継承者がまだ一八歳に達していないときも同様とする。

第六条

国家元首である国王又は女王が連続して六か月の間、その任務を遂行しなかった場合又は遂行できなかった場合には、政府は、議会に報告しなければならない。議会は、国王又は女王が退位したものとみなすべきか否かを議決する。

第七条

1 第四条又は第五条の規定に従えば、いかなる者も権限をもって職務を遂行することができない場合には、議会は、政府による指名の後、ある者を臨時の摂政として職務を遂行するよう、選挙することができる。

2 権限を有する他のいかなる者も職務を遂行することができない場合には、議長又は議長に支障があるときは副議長が、政府による指名の後、臨時の摂政として職務を遂行する。

 第四条から第七条までは、摂政に関する詳細な規定が続く。王室断絶の場合まで想定した周到な規定は、近世に至り現ベルナドッテ朝に定まるまで王朝交替が頻繁だった歴史を反映しているものと思われる。同時に、共和制の歴史がないため、立憲君主制維持を憲法的な既定路線としていることをも示唆している。

第八条

国家元首である国王又は女王を、その行為を理由として訴追することはできない。摂政を、その国家元首としての行為を理由として、訴追することはできない。

 国家元首及び摂政の訴追免責特権である。第一章第二条第一項が謳う公権力行使の平等性に対する例外である。ただし、摂政については国家元首としての行為以外の行為を理由としてなら、訴追できる。

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