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旧ソ連憲法評注(連載第32回)

2015-01-08 | 〆旧ソ連憲法評注

第七編 裁判、仲裁および検察

 本編は、表題のとおり、広義の司法に関する規定が収められている。ソヴィエト制の下では、司法権も究極的には人民代議員ソヴィエトに属する。

第二十章 裁判所および仲裁機関

第百五一条

1 裁判所における裁判は、裁判所だけが行なう。

2 ソ連における裁判所は、ソ連最高裁判所、地方、州及び市の各裁判所、自治州裁判所、自治管区裁判所、地区(市)人民裁判所ならびに軍の軍法会議である。

 司法権の根源がソヴィエトにあるとはいえ、裁判の専門性や独立性からして、ソヴィエト自らが裁判機関となることはなく、裁判はブルジョワ憲法と同様、各級/種裁判所に委ねられた。

第百五十二条

1 ソ連におけるすべての裁判所は、裁判官および人民陪席判事の選挙の原則にもとづいて構成される。

2 地区(市)人民裁判所判事は、普通、平等、直接選挙権にもとづき、秘密投票により、地区(市)の市民によって、五年の任期で選挙される。地区(市)人民裁判所の人民陪席判事は、勤務場所または居住地ごとの市民の集会において、公開投票により、二年半の任期で選挙される。

3 上級裁判所は、対応する人民代議員ソヴィエトにより、五年の任期で選挙される。

4 軍法会議の裁判官は、ソ連最高会議幹部会により、五年の任期で選挙され、その人民陪席判事は、軍勤務員集会において、二年半の任期で選挙される。

5 裁判官および人民陪席判事は、選挙人または自分を選挙した機関にたいして責任をおい、報告義務をもち、法律の定める手続きにより、これらによってリコールされる。

 ソヴィエトの全裁判官は、選挙により選出され、かつリコールの対象にもなるという形で、ブルジョワ憲法よりも司法の民主化が徹底されていた。中でも、一般市民の中から選出される人民陪席判事の制度は、一種の参審制ではあるが、素人を正規の裁判官として扱うより民主的な制度であった。
 とはいえ、ここでも共産党支配が前提であるため、実際に選挙される裁判官は党員ないし党が公認する人物に限られており、「民主司法」も建前にすぎなかった。

第百五十三条

1 ソ連最高裁判所は、ソ連の最高裁判機関であり、ソ連の裁判所の裁判活動の監督を行ない、法律の定める範囲内において、連邦構成共和国の裁判所の裁判活動の監督を行なう。

2 ソ連最高裁判所は、ソ連最高会議により選挙される長官、副長官、所員および人民陪席判事により構成される。連邦構成共和国最高裁判所長官の職にある者は、ソ連最高裁判所の構成員となる。

3 ソ連最高裁判所の組織および活動手続きは、ソ連最高裁判所法が定める。

 本条は最高裁判所の任務・組織について定めている。人民陪席判事が最高裁にも参加するのが特色である。また構成共和国最高裁判所長官がソ連最高裁判事を兼職することで、ソ連最高裁の判決に構成共和国司法府の意向も反映されるように配慮されていた。
 しかしソ連最高裁は司法行政に限らず、全土の裁判所の裁判活動の監督権を掌握していたため、最高裁を介して共産党の方針が下級審裁判にも反映され、党が司法まで支配できる仕掛けとなっていた。


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