ザ・コミュニスト

連載論文&時評ブログ 

旧ソ連憲法評注(連載第23回)

2014-11-13 | 〆ソヴィエト憲法評注

第五編 ソ連の国家権力および行政の最高諸機関

 ソヴィエト制度全般の概要を規定する前編を受け、本編はソ連邦レベルのソヴィエト及びその管轄下にある連邦行政について規定している。ソ連では古典的な三権分立によらず、人民権力機関であるソヴィエトを軸とした国家構制であったので、本編はブルジョワ憲法であれば立法と行政に当たる部分を一本にまとめて規定している。

第十五章 ソ連最高会議

 本章は、国会に相当するソ連最高会議の任務や構成について定めた章である。

第百八条

1 ソ連の国家権力の最高機関は、ソ連最高会議である。

2 ソ連最高会議は、この憲法によりソヴィエト連邦の管轄に属するすべての問題を解決する権限をもつ。

3 ソ連憲法の採択および改正、新共和国のソ連への加入、新しい自治共和国および自治州の設置の承認、ソ連の経済的、社会的発展国家計画、ソ連国家予算およびそれらの執行報告の承認ならびにソ連最高会議にたいし報告義務をもつソヴィエト連邦の機関の設置は、ソ連最高会議だけが行なう。

4 ソ連の法律は、ソ連最高会議によって、またはソ連最高会議の決定により実施される全人民投票(レファレンダム)によって、採択される。

 ソ連最高会議は、ソヴィエト体系のうち連邦レベルの国会に当たるソ連の最高権力機関であった。日本国憲法にも国会を最高機関と規定する類似の規定があるが、この規定は通説では政治的美称にすぎないとされるのに対し、ソ連最高会議は本来第二項にあるように、「ソヴィエト連邦の管轄に属するすべての問題を解決する権限をもつ」最高機関であったが、実際のところはソ連共産党中央委員会が実質的な最高機関であったため、結果として美称にとどまっていたとも言える。

第百九条

1 ソ連最高会議は、連邦会議および民族会議の両院により構成される。

2 ソ連最高会議の両院は平等の権利をもつ。

 ソ連最高会議は連邦型二院制を採用していたが、両院に上下の優劣関係はなく、対等型二院制であった。

第百十条

1 連邦会議および民族会議は、同数の代議員により構成される。

2 連邦会議は、同数の人口をもつ選挙区ごとに選挙される。

3 民族会議は、次の基準で選挙される。各連邦構成共和国からは三十二名ずつの代議員、各自治共和国からは十一名ずつの代議員、各自治州からは五名ずつの代議員および各自治管区からは一名ずつの代議員。

4 連邦会議および民族会議は、それぞれの選出する資格審査委員会の提案にもとづいて、代議員の資格を承認する決定を採択し、選挙にかんする法令の違反があるときは、個々の代議員の選挙の無効認定の決定を採択する。

 最高会議両院は定数も同数という完全対等型であったが、代議員の選挙方法は連邦会議がブルジョワ議会の下院のように選挙区制を採用し、民族会議は連邦構成共和国をはじめとする連邦構成主体ごとに選出される連邦参議院としての性格を持っていた。

第百十一条

1 ソ連最高会議の各院は、それぞれの院の議長および四名の副議長を選出する。

2 連邦会議および民族会議の議長は、それぞれの院の会議を指導し、院内の業務を処理する。

3 ソ連最高会議の両院合同会議の議長には、連邦会議議長と民族会議議長が交代で就任する。

 最高会議両院は各々議長人事権を持っていた。これは、前条第四項の資格争訟裁判権と並び、各院の自律権の表れである。

第百十二条

1 ソ連最高会議の会期は、一年に二回招集される。

2 臨時会期は、ソ連最高会議幹部会の発議、連邦構成共和国の提案または一つの院の代議員の三分の一以上の提案にもとづいて、ソ連最高会議幹部会により招集される。

3 ソ連最高会議の会期は、各院の会議、両院合同会議ならびにこれらの会議のあいだにひらかれる各院常任委員会およびソ連最高会議の委員会の会議からなる。会期の開会および閉会は、各院の会議または両院合同会議で行なわれる。

 最高会議の会期に関する規定である。常会は一年に二回、臨時会は第二項の条件の下に随時開催された。


コメント    この記事についてブログを書く
« 究極の壁―国境 | トップ | 旧ソ連憲法評注(連載第24回) »

コメントを投稿