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旧ソ連憲法評注(連載第21回)

2014-10-31 | 〆旧ソ連憲法評注

第十三章 選挙制度

 ソヴィエトは、選挙制によっていた。本章ではソヴィエト選挙に関する通則がまとめられている。

第九十五条

すべての人民代議員ソヴィエトの代議員の選挙は、普通、平等および直接選挙権にもとづき、秘密投票により行なわれる。

 民主的な選挙原則である普通・平等・直接・秘密の四原則が定められている。

第九十六条

1 代議員の選挙は普通選挙である。すなわち十八才以上のすべてのソ連市民は、選挙権および被選挙権をもつ。ただし法律の定め手続きにより精神病者と認められた者をのぞく。

2 ソ連最高会議代議員には、二十一歳以上のソ連市民が選挙される。

 普通選挙制の原則を具体化する規定であるが、第一項但し書きで、単に精神病者というだけで公民権を否定しているのは、大きな問題であった。これは精神病者に対する差別であると同時に、反体制者を「精神病者」と診断して、本条に基づき公民権を剥奪するという医療的な装いをまとった政治的抑圧が常態化していたからである。

第九十七条

代議員の選挙は平等選挙である。すなわちそれぞれの選挙人が一票をもち、すべての選挙人は平等な基礎で選挙に参加する。

 平等選挙原則の鉄則である一人一票制を定めている。これは、定数不均衡是正の根拠ともなる先進的な規定であった。

第九十八条

代議員の選挙は直接選挙である。すなわち代議員は、市民により直接に選挙される。

 直接選挙原則の具体化であるが、内容は乏しい。

第九十九条

代議員選挙の投票は秘密投票である。選挙人の意思表示にたいする支配は許されない。

 第二文は自由投票原則の具体化であるが、次条で共産党とその傘下団体が候補者指名権を掌握する仕組みであったため、ソヴィエト選挙の実態は所属団体ごとの動員選挙であり、本条は形骸化されていた。

第百条

1 代議員候補者を指名する権利は、ソヴィエト連邦共産党、労働組合および全連邦レーニン共産主義青年同盟の諸組織、協同組合その他の社会団体、労働集団ならびに部隊ごとの軍勤務員集会がもつ。

2 ソ連市民および社会団体は、代議員候補者の政治的、実務的および個人的素質の自由で全面的な討議ならびに集会、出版物、テレビジョンおよびラジオによる選挙運動の権利を保障される。

3 人民代議員ソヴィエトの選挙の実施にともなう費用は、国家が負担する。

 第三項で選挙公営制を採りつつ、第一項で代議員候補者の指名権を共産党及びその傘下団体に掌握させるのは、まさしく共産党支配体制の表れであった。このことにより、ソヴィエト選挙は出来レースとなり、候補者間の実質的な競争性は存在しなかった。第二項で保障される選挙運動の自由も、党主導の「やらせ」の域を出ないものであった。

第百一条

1 人民代議員ソヴィエトの代議員の選挙は、選挙区単位で行なわれる。

2 ソ連市民は、原則として三つ以上の人民代議員ソヴィエトに選挙されない。

3 人民代議員ソヴィエトの選挙の実施手続きは、ソヴィエト連邦、連邦構成共和国および自治共和国の法律が定める。

 前条で、代議員候補者指名は共産党とその傘下団体が行なうため、ソヴィエトは実態として一種の職能代表制でありながら、選挙自体はブルジョワ議会制と同様の選挙区制を採っていた。そのため、選挙過程の形骸化はいっそう助長されたであろう。
 第二項は、反対解釈すれば、二つ以内のソヴィエト代議員を兼務できるということを意味する。これは第八十九条で示されていたとおり、ソヴィエトは連邦から町村まで統一的な体系を成す制度であったため、ブルジョワ議会制のような国会・地方議会議員の兼職禁止の制約は原則としてなかったが、負担過多を避けるため、兼務を二つ以内に制限したものである。

第百二条

1 選挙人は、その代議員に訓令をあたえる。

2 当該人民代議員ソヴィエトは、選挙人の訓令を審理し、経済的、社会的発展計画の作成および予算の編成のとき、これらを考慮し、訓令の遂行を組織し、その実現にかんする情報を市民にあたえる。

 議員が選挙人に拘束されない自由委任制を採るブルジョワ議会制とは異なり、ソヴィエト制は命令委任制を採っていた。これは、先に見たように、ソヴィエト制が実態として職能代表制であったことに相応している。後に見るように、訓令違反の代議員はリコールすることもできた。


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