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旧ソ連憲法評注(連載第24回)

2014-11-14 | 〆旧ソ連憲法評注

第百十三条

1 ソ連最高会議にたいする法律案発議権は、次の者がもつ。連邦会議、民族会議、ソ連最高会議幹部会、ソ連大臣会議、自分の国家権力の最高機関により代表される各連邦構成共和国、ソ連最高会議の委員会、その各院常任委員会、ソ連最高会議代議員、ソ連最高裁判所およびソ連検事総長。

2 社会団体も、その全連邦的機関をとおして、法律案発議権をもつ。

 本条から先の四か条は、立法機関としてのソヴィエトにおける法律案をはじめとする議案の成立までのプロセスに関する規定である。本条は、法律案発議権者を列挙したもので、これによると、法律案発議権は最高裁判所や検事総長といった司法官のほか、社会団体など広範囲に与えられていることが特徴であった。これが有効に機能していれば、一般に発議権者が議員や政府に限定されるブルジョワ議会制よりも民主的であったが、ここでも事実上発議権は共産党に集中していた。

第百十四条

1 ソ連最高会議の審議に付された法律案およびその他の問題は、両院により、各院ごとの会議または合同会議で審議される。必要とされる場合、法律案または当該の問題は事前または補足の審議のため、一つまたは数個の委員会の審議に付することができる。

2 ソ連の法律は、ソ連最高会議の両院において、それぞれの院の代議員総数の過半数の賛成によって可決されたとき、採択されたものとみなされる。ソ連最高会議の決定およびその他の規則は、ソ連最高会議の代議員総数の過半数によって採択される。

3 法律案および国家生活のその他の特に重要な問題は、ソ連最高会議もしくはソ連最高会議幹部会の発議または連邦構成共和国の提案にもとづき、ソ連最高会議またはソ連最高会議幹部会の決定により、全人民的討議に付することができる

 本条は法律案等の審議と票決に関する準則である。両院での審議・採択が要求されるのは、二院制の定石どおりである。第三項で、法律案やその他の重要問題については例外的に全人民的討議に付する可能性が認められていたのは民主的であったが、実際上、活用されていなかった。

第百十五条

連邦会議と民族会議の意見が一致しないとき、問題は対等の原則にもとづいて両院によりつくられる協議会での解決に移され、その後で連邦会議と民族会議により両者の合同会議において、あらためて審議される。この場合においても合意がえられないとき、問題は、ソ連最高会議の次の会期の審議に付され、またはソ連最高会議により、全人民投票(レファレンダム)に付される。

 両院で異なる議決がなされた場合の処理は、原則として両院協議会での協議による点は日本国憲法と類似するが、ソ連の両院制は対等型であるため、協議不調の場合、いずれかの院の議決が優先するのではなく、次期会期に持ち越すか、人民投票に付するかされた。実際上最高会議はソ連共産党の決定事項を常に追認していたため、両院で議決が食い違う事態はまず生じなかったようである。

第百十六条

ソ連の法律およびソ連最高会議の決定その他の規則は、ソ連最高会議幹部会の議長と書記の署名により、各連邦構成共和国の言語で公布される

 法律等の公布に関する要件を定めた規定である。ソ連は会議体共和制で、末期の憲法改正によって創設されるまで大統領に相当する元首職が存在しなかったため、ソ連最高会議幹部会議長が元首相当職とされ、その署名が公布の条件であった。公布が各構成共和国の言語で対照公布されるのは、多民族連邦国家の特性に配慮したものである。


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